同じ夢を見る。魔剣に頼ることなく...それ以前に俺が悪魔として君臨することもなく、ブランやロムラム、黒と白、ネプテューヌ、ノワール、ユニ、ベール...みんなが生きている世界。
夢だとわかっている。理想だとわかっている。現実とは乖離している。あぁそうさ。俺が全部、全部壊したんだ。今更こんな夢を見たところで...慰めにもならない。苦しいだけだ。
「失楽園...か。」
「うーわ現代ではそこそこ意味が違って聞こえるし変わった意味の場合新婚の人が言うようなものではないよ絶対、えー君ほんとそーいうところだよ?」
「うっ...事故だろ...」
「...まぁね。それにしても、えー君が涙なんて珍しいね。夢でも見てた?」
「あぁ...多分、いい夢だ。」
「そっか。」
プラネタワーの一室で俺は朝の目覚めを迎えた。いつものように茜がいる。
「俺には、茜がいる...」
「...?えー君どーしたの?そんな当たり前の事言ってさ。」
茜は当たり前と言った。あぁ、そうだな。だけど...その「当たり前」は...
「...考えちゃうか。そーだよね。えー君はそーいう人だもん。...そう。貴方は多くの当たり前を奪って壊してきた。それでも自分の当たり前は護りぬいた。...虫のいい自分が許せない?幸せになろうとしてる自分が許せない?...いいんだよ、それで。それでいいの。だって...えー君がまだ人間であることの証明だもん。」
「証明...」
茜は俺を抱きしめて言葉を続ける。
「けど、どこまでもえー君は人間だからこそ...ずっとそんなことを考えている。考え続けている。...それでいいんじゃないかな。」
「苦しみ続けるのもまた、罰か。」
「罰って言っちゃうか。ほんと、えー君らしいや。さ、起きてご飯食べて...今日もいっぱいモンスター退治だよ...だからえー君は、待っててね。」
「あぁ、わかった。」
女神がネプギアだけとなってから一ヶ月。各国における女神の加護は消失し、モンスターの襲撃が後を絶たない。不幸中の幸いか、ネプギアは機械に精通しているため対モンスター用障壁を開発、旧ラステイション、ルウィー、リーンボックスに配備された。もっとも、配備されても設備の防衛はしなければならないため、昼夜問わずひっきりなしに設備周辺では戦闘が繰り広げられている。
「危険種辺りを専門的に狩る手練れが足りていないと言ったところだな、現場の現状は...ギア、やっぱり現地だけじゃ足りない。危険種とまともに渡り合える手練れを組織的に運用しないとこの先...外からの崩壊を防ぎきることは難しい。」
「外から...?含みのある言い方ですね。」
「内側...要は他国の職員だった人間が何かやらかす可能性はある。なんなら、犯罪組織の残党も息を潜めているかもしれない。それに...奴らは真っ直ぐ設備に向かってくる。...ルウィーでは顕著に。となるとそこに一連のごたごたの親玉がいる可能性がある。」
資料に目を通しながら、俺は戦闘の意思を伝える。旅から帰ってきて以降、俺は一歩も外には出ていない。出ることが許されていない。
「それでも、あなたを外には出しません。死人を出すつもりですよね。」
「あぁそうさ。戦いたくはないが...せっかく手に入れた仮初の平和だ、壊されるなんてもってのほかだ。だから俺がやる。」
「......」
ネプギアは引き出しを開け、あるボタンに手をかける。
「首輪の起動ボタンです。忘れてないですよね?私があなたを危険だと感じたら押すと...」
「...指をくわえて見ていろと。」
「影さん。あなたはもう、一人じゃないんですよね?」
「......」
「私に押させないでください。例えあなたの懸念が当たっていたとしても、これ以上あなたを戦わせることはしません。」
「...だったら俺は何のために生きている。」
「目的に縛られてきたからこそ出る言葉、ですね。茜さんに言われました。あなたがそう聞いてくるなら、こう答えればいいって。」
「...茜が?相変わらずお見通しか。」
「みたいですね。しばらくは茜さんのために生きていてください。それが茜さんの答えです。...影さんが思っているより、茜さんはなんでもやっていますよ。」
「なるほど、な...わかったよギア。まだ大人しくしておくさ。」
「願わくは...もう、影さんが戦わなくていいように...ずっと大人しくしてくれるような...そんな世界であり続けたいと、思っています。」
「そうかい。...じゃあ、そうしてくれ。女神様。」
それから十数年後のある冬の日。ゲイムギョウ界は変わり映えも何もない中で平穏と停滞が続いており、徐々に徐々に衰退の足音が近づいていた。
「...寒いな...また降ってきたよ、ブラン。きっと積もるだろう。雪だるまでも作ろうか...なぁ、夕。」
凍月影の見た目は全く変わることなく、十年前と何ら変わりはない。かれこれもう十年、一歩もプラネタワーの外には出ていないのだ。そしてその影が振り返った先にいるのはオレンジ色に光輝く髪と月に照らされた夜空のように透き通った青い目をしている少女。
「ボク、もうそんな歳じゃないよ。」
夕と呼ばれた少女は影の隣に座り、外を見る。
「そうかい。...なぁ夕。夢は、持っているか。」
「夢?...考えたこともなかったかな。何になりたいのか、何者でありたいのか...なんてさ。」
「大仰だな。」
「ボクが誰の娘か忘れたの?」
「まさか。...俺はさ、夕。正義の味方ではないにしろ...敵を好き放題討っていた時期があった。」
「またその話?お母さんと含めてそれ聞くの20回は超えてるんだけど。」
「...そうだったか?老けたのかもな...まぁいい。」
「いやよくないよ...結局お父さんは護りたかったものは護れなかった、お母さんとネプギアさんを除いて、でしょ。」
「そうだ。...今でもあの子たちは夢に見る。ずっと後悔し続けている。あれ以外に方法はなかったのかとね。まぁ、ないんだけどさ。...けどそれ以前の行動を変えていたら...とか思うと、可能性は消えてないんだ。」
「...何が言いたいの?」
「...そうだな。夕。これから先もし困難に当たったら...悔いのないようにすることだ。」
「後悔っていうものは後からでも湧いてくるって昔言ってたのにそれも言うんだ。難しい注文だ。」
「わかっているさ。まぁ絶対後悔しないなんてことはないだろう。でもだからこそだ。特に、取り返しのつかないことをする前には、な。」
「...わかった。」
「そうか、安心したよ。」
いつの間にか雪は止んでいた。雲の裂け目から西日が差しこんでくる。綺麗な夕焼け、黄昏時。一人の青年の冒険譚は今ここで続きを娘に引き継ぐように終止符が打たれた。
「これから先は隠居生活だ。」
「もう隠居みたいなもんでしょ。」
再編世界の特異点『完』
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あとがきは活動報告にそのうち書きます。
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