草食系貧血男子×脳筋お姉さん、と書きましたが赤姉はそんなに脳筋ではないと思う今日この頃。
時期は親指姫の時と同じく余章あたりで、まずはくっつくところからです。でも赤姉はツンデレじゃないのでわりとすぐにイチャイチャさせられそう。濃度がどうなるかは別として。
失せ物探し
ジェイル脱獄のためにダンジョンの探索に赴き、日々メルヒェンと戦い核の破壊を目指す血式少女隊。メルヒェンを単騎で相手取れる身体能力に加え、魔法のような不思議な能力を持つ特殊な存在である血式少女たちはジェイル脱獄の切り札と言える存在だ。
しかし血式少女たちは強いショックや過度なストレスによって穢れが溜まり、その状態でメルヒェンの血を浴びたが最後、理性を失い破壊と殺戮の欲求のみに死ぬまで支配されるブラッドスケルターモードへと変貌してしまう。今まではそれを防ぐ手立てがなかったため、黎明は血式少女という武器を持ちながらもジェイル脱獄のための積極的な行動を起せなかった。
だが今は穢れを浄化し、ブラッドスケルター化から血式少女を引き戻すことができる存在が現れたため、黎明の活動は積極的になった。その存在こそがジャックの血液だ。そしてジャックの役目も正にそれ。メアリガンを用いて自らの血液を血式少女に浴びせ穢れを浄化し、ブラッドスケルター化を解除すること。
それはジャックにしかできない大切な役目だが、文字通り自らの身体を削って行う負担のかかる行為。
(少しはマシになったけど、やっぱりまだちょっと身体がだるいな。血を使いすぎたのかも……)
都合上、今のように体調を崩してベッドに横になることもしばしば。
とはいえ今回は探索が終わって気が緩んだ瞬間にその場で昏倒したりはしなかったし、しっかり自分の足で部屋に戻ってベッドに倒れこむこともできたのだから上々だ。一時間ほど仮眠を取って休んだので部屋で安静にしていれば平気のはず。
「ジャック、今いるー……?」
(あれ、赤ずきんさんの声だ。でも、どうしたんだろう? 何か元気無さそう……)
仕方なくもう少し仮眠を取ろうと考えたちょうどその時、部屋の扉が遠慮がちにノックされる。
声の主は恐らく赤ずきん。しかしその割には明らかに声音に覇気が無く、いつもの快活さが微塵も感じられなかった。
「どうしたの、赤ずきんさん? って、あれ……?」
仮眠は取り止めにして疑問に思いつつ扉を開けて迎えると、やはりそこには若干沈んだ表情の赤ずきんが立っている。
ただジャックはそこで新たな疑問を抱くことになった。赤ずきんの装いが普段とは少々異なったから。今現在の赤ずきんの装いは長い赤のタイが目を引く黎明の白い制服に、動きやすそうな太股剥き出しの黒のホットパンツ。そして膝下まである黒字に赤いストラップの編み上げブーツ。
ここまでは普段と同じだが一つ決定的なものが欠けていて、代わりに別のものが追加されていた。追加されているのはつばに対して山の部分が若干膨らんでいるピンク色の帽子。そして欠けているのは赤ずきんのトレードマークとも言える、赤いファーで彩られたフード付きの黒いコートだ。
「赤ずきんさん、いつも着てるフードはどうしたの?」
「それが……無くなっちゃったんだ。あたしがシャワー浴びてる間ベッドの上に置いておいたんだけど、気付いたら無くなってて……」
やはりフードが無いせいで答える声にも表情にも快活さは無い。
赤ずきんにとってフードはただのオシャレや趣味では無く、血式少女特有の拘りである血式リビドーに関係するものだ。シンデレラが一種異様とまで呼べるほどガラスの靴のイヤリングに執着していたのと同じく、赤ずきんの場合はフードが無いと気分が落ち着かず不安になってしまうらしい。
「ああ、だから代わりに帽子を被ってるんだね。部屋の中はちゃんと探してみたの?」
「うん……隅から隅まで探してみたけど見つからなかったんだ。タンスとかベッドとか机とか部屋中引っくり返してみたんだけどね……」
(引っくり返した、っていうのは比喩かな? それとも……)
まさかベッドとかタンスとかを文字通り物理的に引っくり返したのではなかろうかと戦慄してしまうジャック。普通の女の子ならともかく赤ずきんならそれくらい余裕でできそうなので判断に困る。部屋の中にバーベルが飾ってあるのを見た時の衝撃は忘れない。
何にせよ部屋の中にコートは見当たらなかったようだ。だから赤ずきんは途方に暮れた表情をしているに違いない。ジャックの下を訪ねて来たのは探すのを手伝って欲しいからだろう。あるいは――
「――も、もしかして僕を疑ってる? 僕じゃないよ! そりゃあこの区画に住んでる男は僕だけだから疑われるのも仕方ないかもしれないし、帰って来てからずっと一人で部屋にいたからアリバイも無いけどとにかく僕じゃないよ!」
――コートを持ち去った犯人と思っているか、だ。
色々自分で怪しい点をまくし立てた気がするがとにかくジャックはやっていない。そもそも女の子の部屋に勝手に入って衣類を盗んでいくほど落ちぶれた覚えは無かった。というか外道に堕ちてまで盗むのがただのコートとはいかがなものか。どうせやるならジャックだってもっとマシなものを盗む。あくまでも仮定の話だが。
「い、いや、あたしは別にあんたを疑ってるわけじゃないよ。ただ、どこを探したら良いか分かんなくてさ……迷惑じゃなかったら一緒に探してくれないかなって……」
「あ、ああ、うん。そうだよね……」
迫力に気圧されたのか若干びくびくしつつ協力を求めてくる赤ずきん。そんな珍しい様子にジャックはちょっとした胸の高鳴りを覚えてしまった。
(や、やっぱり赤ずきんさん、フードが無いといつもより可愛い気がする……)
フードが無いせいでいつもより弱気になっているためか、その不安気な表情と様子が妙に庇護欲を煽ってくる。いつもは元気はつらつな皆の頼れるお姉さんな赤ずきんが、今は引っ込み思案でおどおどしている弱々しい女の子に見えるほどだ。
赤ずきんにはいつも世話になりっぱなしなのだからこういう時くらいは力になってあげたいし、力になりたい。例え貧血気味でちょっと体調が思わしくなくてもだ。
「うん、良いよ。フードは赤ずきんさんにとって大切なものだもんね。僕も探すの手伝うよ」
「ありがとう、ジャック。助かるよ……」
申し出に対し、赤ずきんは嬉しそうにお礼を口にする。僅かに頬を染めて微笑むという非常に女の子らしい表情だったのでまたしてもジャックはドキドキしてしまった。
「お、お礼なんていいよ。僕は戦いの役には立てないからこういう時くらいはしっかり役に立ちたいんだ」
「何言ってんのさ。確かにあんたが望む形じゃなかっただろうけど、あんたはしっかり戦いの役に立ってるよ。あんたのおかげで皆穢れを気にせず戦えるし、あたしだって被弾上等の覚悟で突撃できるしね?」
「うーん……突撃の仕方は、もうちょっと考えた方が良いんじゃないかな……?」
「それくらいあんたは役に立ってるってことだよ。だからそんなこと気にせず元気出しなって」
(もしかして今の、元気付けられたのかな? 元気が無いのは自分の方なのに……)
胸の高鳴りを誤魔化すための台詞だったというのに、赤ずきんはジャックを慰めて笑いかけてくれた。フードを身に着けていない事実に在り処が分からない事実も相まり、胸の中は不安でいっぱいのはずなのに他人を気遣う。さすがは強くて優しい思いやりのある皆のお姉さん、そしてジャックの憧れの赤ずきんだ。
「……うん、そうだね。じゃあそろそろ赤ずきんさんのフードを探しに行こうか。赤ずきんさん、フードを失くした時の状況をもっと細かく教えてくれないかな?」
まずはフードが無くなった状況をもう一度細部まで聞き出し始めたものの、不謹慎なことに心は途轍もない嬉しさに弾んでいた。
しかしそれも仕方ない。何故なら頼りがいの無いひ弱な男であるジャックにだって、今ならその強さと優しさに憧れている赤ずきんの力になれるのだから。
その事実がとても嬉しくて、ジャックは体調の悪ささえ吹き飛びそうなほどに気分が高揚するのを感じていた。
赤ずきんから詳しい話を聞いた結果、ジャックは三つの可能性を思いついた。それらに共通する事象はどの場合も誰かが持ち去ったという点。
小物ならともかく無くなったのはだいぶかさばる衣類、それも赤いファーで非常に目立つ黒のコートだ。部屋の中は赤ずきんが文字通り引っくり返して何度も探したらしいので、見つけられなかったならそれはもう部屋の中には無いということ。コートがひとりでに歩いて勝手にどこかへ行くなどという異常事態はさすがに色々と異常なジェイルの中でもありえないので、そう考えるのは極めて自然なことである。
「シンデレラ、ちょっと良いかな?」
そのため、まずは最も高い可能性を当たることにした。それは持ち去った人物がシンデレラ、という可能性だ。
「あら、ジャックさんに……赤ずきんさん? そんなに縮こまってどうしましたの?」
部屋の扉をノックして呼びかけると、しばらくしてシンデレラが顔を出す。そしてジャックの斜め後ろで不安気にしている赤ずきんを見て目を丸くする。
一応代わりに帽子を被ってはいるものの、さほど不安は拭えていないらしい。やはり一番お気に入りのフードの行方が分からないというのが辛いのだろう。
「それが……あたしのフードが無くなっちゃったんだよ……」
「まあ、それは大変ですわ! 一体何がありましたの!?」
それだけの説明でもシンデレラは目を見開いて驚愕を露にする。
赤ずきんにとってフードがとても大切なものであることは周知の事実だ。そしてそれが無いとどんな影響が表れてしまうのかも同様なのだから、この反応も当然といえば当然だ。
「赤ずきんさん、シャワーを浴びている時にベッドの上にコートを置いておいたんだって。それで着替えて出てきたら無くなってたらしいんだ。僕は探すのを手伝ってるところだよ」
「そうなんですの……それで、何故私の所へ? ま、まさか私を疑っていますの!? 私は何もしていませんわよ!」
(あ、何か僕と同じ反応……)
疑われたせいか酷く傷ついた表情で訴えてくる。この反応だけで白なのは疑われたと最初に思ったジャック自身が一番良く分かっているものの、赤ずきんの手前一応聞いておくことにした。
「疑ってるって言えば疑ってるけど悪い意味じゃないよ。シンデレラなら好意で洗濯したり繕ったりしそうだから、もしかしたらって思って来てみただけなんだ。それに今の君の反応で違うってことは分かったしね?」
「ああ、そういうことでしたのね……」
疑った理由を説明すると途端に胸を撫で下ろし安堵するシンデレラ。
最も高い可能性。それはシンデレラが厚意でコートを洗濯に出した、ということ。当然ながら嫌がらせの類を疑ったわけではない。元々かなりの綺麗好きだし掃除にも拘りがあるタイプなのでもしかしたらと思ったのだが、どうやら今回は外れだったらしい。
そして安堵の様子を見せたのも束の間、今度はご機嫌斜めな細めた瞳でこちらを睨んできた。
「けれどちょっと心外ですわ。ジャックさん、まさか私を人の部屋に勝手に侵入してまで洗濯ものを集めたりする女と思っていまして?」
「ご、ごめん……でもシンデレラって凄く綺麗好きだから、もしも目の前に汚れた服とかがあったら我慢できなさそうだなって思って」
「あ、あたしのフードは汚くなんかないよっ!」
「別にそういう意味で言ったんじゃないってば、赤ずきんさん」
単なる例えだったというのに後ろから必死な声音で否定されるので思わず苦笑してしまう。やはりフードが無いせいで覇気が無いと言うかいまいち怖くない。シンデレラも同じ気持ちなのかジャックと同じく苦笑していた。
「確かにそれはちょっと我慢なりませんけれど、さすがに無断で持ち去ったりはしませんわ。やるならせめて書置きの一つくらいは残しますもの」
「やっぱりそうだよね。疑ってごめん、シンデレラ」
悪事を働いたと疑ったわけではないものの、疑ったことそのものは事実だ。なのでジャックは軽く頭を下げて謝罪しておいた。それに対してシンデレラはすでに気分を害した様子も無く、むしろ嬉しそうに笑っていた。
「分かって頂けたのなら嬉しいですわ。それでジャックさん、赤ずきんさん。探し物の手が足りていないのなら私もお手伝いしますわよ?」
「ええっと……大丈夫だよ。ジャックにはまだ心当たりがあるみたいだしね。ただ、いよいよダメだったらあんたの手も借りたいな」
(あれ? 赤ずきんさん、手伝ってもらわないんだ)
探し手は多い方が良いと思うのだが、意外にも赤ずきんはやんわり断る。
ジャックが口にしたコートの在り処はあくまでも可能性であり、百パーセント存在すると断定しているわけでもなければ単なる推測でしかない。にも関わらず手伝いはジャックだけで良いとはそんなにも信頼してくれているのだろうか。これはその信頼に応えるためにも絶対にコートを見つけなければ。
「分かりましたわ。でしたら見つからなかった時は声をかけてくださいな。その時はこの私がぱぱっと見つけてさし上げますわ!」
「ありがとう、シンデレラ。それじゃあ僕たちはもう行くね」
寄せられる信頼に対して喜びを覚える反面、その信頼に応えられるか微かな不安を抱きつつ、ジャックはシンデレラの部屋を後にした。二番目にフードを持ち去った可能性の高い人物がいるであろう場所を目指し、当然ながら斜め後ろに不安げな赤ずきんを引き連れて。
「あれ? 赤ずきんさん……?」
その最中、服の裾をぎゅっと引っ張られて足を止められる。振り向いたジャックが目にしたのは、やはり不安気に怯える赤ずきんの弱々しい姿であった。
「ジャック……あたしのフード、見つかるよね……?」
「もちろん見つかるよ。でも赤ずきんさん、そんなに不安だったらどうしてシンデレラにも手伝いを頼まなかったの?」
「だ、だってさ、あたしは皆のお姉さんだよ? フードを無くしたくらいでこんなに弱くなって情けなくなるあたし、なるべく見せたくないんだ……」
(ああ、だからシンデレラの手伝いは断ったんだ……)
どうやらジャックを信頼しているから手伝いは足りている、というわけでは無かったらしい。
信頼への重責が軽くなった反面、心なしかがっかりしてしまうジャックであった。それと勝手に勘違いして思い上がってしまったことも恥ずかしい。
「……あれ、ちょっと待って? それなら僕にはそういう姿を見せても良いってこと?」
しかしそこで不意に覚えた疑問があった。皆のお姉さんなのに弱く情けなくなった自分を見せたくないというのなら、そもそも何故ジャックに手伝いを求めにきたのだろうか。
その疑問をぶつけたところ、可愛らしいことに赤ずきんの頬は朱色に染まっていく。
「そ、それは……まあ、ジャックになら良いかなって……」
「え……ど、どうして僕になら良いの?」
その可愛らしさと思わせぶりな発言にまたしてもドキリとする。本当にフードの無い赤ずきんは女の子らしくて困ってしまう。
「だって、あんたは前にもあたしのこんな姿を見たことがあるからね。その時がっかりなんてしない、むしろ逆だって言ってくれたし……」
赤ずきんが口にしているのは以前あった出来事について。
実はジャックは以前もフードが無くて気持ちが沈んでいる赤ずきんの姿を見かけ、何とか元気付けようと話をしたことがある。今回とは異なりフードを失くしたのではなく、破れてしまったフードをハルに繕ってもらっていただけだったのだが、その時でさえもかなり不安そうにしていた。だから元気付けるためにジャックはずっと傍にいて話をしたのだ。
今回赤ずきんがジャックに手伝いを頼みに来たのはその時のことがあるからなのだろう。ジャックなら今の自分にもがっかりしないと分かっているから。
(別に誰もがっかりなんてしないと思うんだけど、やっぱりお姉さんとしての矜持があるのかな?)
皆の頼りになるお姉さんである以上、弱い所は見せられないと考えているのかもしれない。いわゆるプライドが許さないというやつか。ジャックとしては完璧すぎて欠点が無くとっつき難いよりも、弱みがある方がむしろ好感が持てる話なのだが。
「あ。そういえばジャック、結局逆ってどういう意味なのさ。何かあたし、あの時ははぐらかされて答えを聞かせてもらってない気がするよ?」
「ええっ!? そ、そうだったかな……?」
惚けてみるジャックだが実際答えていなかったし、誤魔化したのも事実だ。
まさかフードが無くて不安で弱っているというのに、そんな姿を指して女の子らしくて可愛らしいと言えるわけも無い。今の弱った赤ずきんになら言っても大丈夫かもしれないが、フードを取り戻したら途端に張り倒されそうな気がしなくもない。
「そうだよ。せっかくだから今教えなよ、ジャック。何でむしろ逆なのさ?」
「それは、その……そ、そんなことより、早く赤ずきんさんのフードを探そう! こっちだよ、赤ずきんさん!」
なので今回もジャックは誤魔化しに走り、なおかつ追求を逃れるために物理的に走り出した。
「ああっ!? ちょ、ちょっと待ってよジャック! あたしを置いていかないでよー!」
すると背後から赤ずきんのものとは到底思えない、胸が痛くなるほど寂しさに満ちた声が追いすがってくる。
言っては悪いがやはりフードの無い赤ずきんはとても可愛らしかった。普段が元気いっぱいでとても頼りがいのあるお姉さんなだけに、今の弱々しい様子はギャップの激しさに当てられて余計に可愛く思えてしまう。
「う、ぐっ!? あ、赤ずきんさん……首、絞まってる……!」
とはいえ弱々しく見えても身体能力は健在らしい。
あっさり追いつかれたジャックは襟首を後ろから掴まれ、悪意の無い首絞めに悶えるのだった。
誤魔化しの逃走を試みたばかりか、直後に余裕で捕獲されてしまった情けないジャック。
また同じ詰問をされるかと内心冷や冷やしていたのだが、意外にもそれ以降赤ずきんは同じ話題を口にしてこなかった。たぶん口にしたらまたジャックが逃げ出してしまうとでも思っているのだろう。どうせ逃げ出しても一秒かそこらで捕まえられるというのにもう話題にしないのは、恐らく一瞬とはいえ置き去りにされて心細い思いをしたからに違いない。
(赤ずきんさんの手、暖かくて気持ち良いな……)
その証拠に、捕獲された直後からジャックの左手は赤ずきんの右手でぎゅっと握りしめられていた。
ただ逃走を防ぐために繋げられただけならともかく、恥ずかしそうに赤くなりつつ寂しさ全開の表情でやられたのだから反則だ。そんな顔で手を繋がれたら文句など言えるわけも無い。
(でも、力入ってて凄く痛い……!)
言えないので、ジャックは頑張って堪えつつ次なる目的地へと向かっていた。赤ずきんの柔らかい手の感触は天国と言っても差し支えないのに、込められている力の方はどう考えても地獄である。不安な気持ちのせいで力の加減が上手く出来ていないらしい。
「ここだよ、赤ずきんさん。シンデレラの次にあり得そうなのはやっぱりここの人しかいないよ」
「ここって……ハルさんのとこ?」
辿りついたのは鍛冶場を髣髴とさせる様相の血式兵器製造所。赤ずきんが呟いた通り、ハルのところである。ここがジャックが思いついた中で二番目に可能性の高いコートの在り処だ。
「ハルさんいるかな? ハルさーん!」
「あっ、ジャックさんに姉御! 師匠に何か用……っすか?」
場所の都合上むわっと熱気のこもる中を歩くと、ちょうど手伝いに来ていたらしいくららが駆け寄ってきた。
しかし若干遠めの距離で唐突に立ち止まり、言葉を切って不思議そうに首を傾げる。その探るような視線はちょうどジャックと赤ずきんの間、やや下よりに向けられていて――
「わ、わあっ!? ち、違うよ、あたしたちは別にそういうのじゃ……!」
――繋いでいる手を見ていることに気付いた赤ずきんがすぐさま手を離し、何も聞かれていないのに慌てて否定する。恥ずかしがる様子がやはりとても女の子らしくて可愛らしい。もっとも言ったら後で張り倒されるかもしれないので口には出せないが。
(そういうのって、やっぱりそういう意味だよね……)
一応ジャックにもうっすらとだが赤ずきんの考えていることは分かっていた。
手を繋いでいる男女に対して思うことといえば、友情を除けば愛情くらい。自分とジャックが付き合っていると勘違いされそうになって慌てているのだろう。それならこの慌てぶりにも納得である。
「なーんだ、違うんすか……あれ? そういえば姉御のフードが無いっすね」
とはいえ勘違いするほどのことでもないのかくららは極めて軽いノリで流すと、次はやはりそこを気にしていた。まあ赤ずきんといえばフードというイメージがあるのだから、それが無くなっていれば気になるのは当然のことだ。
「うん。実はそのことでハルさんに話があるんだ。今いるかな?」
「いるっすよ。いつも通り奥でサボってる真っ最中っす! おーい、師匠ー!」
声を大にして言って良いことなのかはともかく、眩しい笑顔でそんな事実をのたまい奥の部屋へ駆けて行くくらら。しばらくすると紫煙燻らすタバコを咥え、面倒くさそうに頭を掻きながらハルが姿を現した。とはいえあくまでも面倒くさそうに見えるだけで、実際にはとても優しい人だということをジャックは知っている。ここへ来たのもある意味その優しさに賭けたからだ。
「どうしたジャック、赤ずきん――って、お前フードどうした?」
「実はそれについて話があるんです。赤ずきんさん、部屋に置いておいたコートが気付いたら無くなったみたいで……ハルさん、もしかして赤ずきんさんのフードを持って行ったりしてませんか?」
開口一番の台詞と心底驚いた様子ですでに白なのは分かったが、赤ずきんも同様に思ったとは限らない。なのでシンデレラの時と同じくとりあえず質問を投げかけてみた。
「ああ? 何で俺がそいつのフードを持ってくんだ?」
「そうっすよ、ジャックさん! そりゃ師匠はこんな遊び人みたいな風貌してるのは確かだから怪しく思うのも仕方ないっすけど、実際に何かやらかしたことは無い至って普通の無害なオヤジっすよ! 甲斐甲斐しくここに通っても何もされてない自分がその証拠っす!」
「……くらら、明日からもう来なくて良いぞ」
「ちょっ!? 何でなんすか、師匠!? 自分は師匠の擁護をしただけっすよ!?」
(擁護、かなぁ? 今の……)
一応悪気は無いことはくららの真摯な表情で分かったものの、内容は遊び人やオヤジ呼ばわりで酷いものだ。しかし瞳は鋭く態度もちょっとぶっらきらぼうで見た目は怖いタイプなのは否定できない。
「ま、こいつの発言とこいつ自身は置いといてだ……ジャック、お前まさか俺がそいつのコートを盗んだとでも思ってんのか? ははっ、意外と良い度胸してんな?」
因縁つけるような台詞だが声音に怒りは含まれておらず、むしろ口元は面白さにニヤついている。別にハルもジャックがその手の理由で疑っているとは本気で思っていないのだろう。実際その予想は正しい。
「まさか。僕はただ、ハルさんならこっそり持ち出して繕った後、気付かれない内に戻したりしそうだなぁって思っただけですよ」
なので正直な考えを口にする。これが可能性その二、こっそり繕うためにハルが厚意でコートを持ち去った、ということ。
ただし可能性その二ではあっても実はかなり望み薄だと最初から分かっていた。以前もそうだったが赤ずきんはフードが破れたりほつれたりしてしまった場合はハルに修繕を頼むのだ。つまり待っていれば持ってくるので、わざわざこっそり部屋に入って持ち出したりする必要は無い。
とはいえ万に一つの可能性があるため一応ここへきたのだが、やはり今回も外れのようだ。
「っ……!」
(あれ? 何かハルさん、様子がおかしい……)
――と思っていたのだが、ジャックの考えを聞いたハルの様子が何やらおかしくなる。若干頬が染まっている上、照れ隠しの如く視線を逸らされてしまう。これはもしや当たりではないだろうか。
「あははっ。ジャック、あんたなかなか冴えてるね。実際ハルさんはそれやったことあるんだよ。ま、あたしが子供の頃の話だけどさ」
「……ほっとけ!」
(あ、そっちの当たりだったんだ。ていうかハルさん、本当にやってたんだ……)
何やら期待とは違う当たりが出てしまった。まさか本当にそんな甲斐甲斐しいことをやっていた過去があるとは。
本人は過去を穿り返されて赤くなってふてくされているものの、そのおかげか不安気だった赤ずきんの表情には懐かしむような笑みが広がっていた。
「師匠、そんなおかんみたいなことしてたんすか……やっぱり顔に似合わず優しいっすね!」
「う、うるせえ! とにかく俺は赤ずきんのコートは知らねぇし興味もねぇ。それが分かったんなら仕事の邪魔だから全員さっさと帰れ!」
「盛大にサボってた人が何ぬかしてんすか! 都合が悪くなると仕事を言い訳にするなんて最低の大人っすよ! 大体師匠は――」
そうして赤くなったハルとくららの言い合いがジャックたちそっちのけで始まる。
その様子は傍から見ると仲の良い親子の口喧嘩に見える光景だ。ただこの場合は素直でない父親とそれに手を焼く娘、という状況か。いずれにせよジャックたちはお邪魔のようだ。
「ハルさんも違うみたいだね、ジャック……」
「そうだね。とりあえず邪魔にならないようにもう行こうか。それじゃあハルさん、失礼します。あと疑ってすみません」
「ああ、まあとっととフード見つけてそいつをいつも通りのじゃじゃ馬に戻しちまえ。そんな大人しいとこっちの調子が狂っちまう」
「じゃ、じゃじゃ馬って何さ!?」
赤くなって怒りを表わす赤ずきんだが、やはり普段より大人しめであることはジャックから見ても否めなかった。
とはいえ別に調子が狂ったりはしないし、むしろ可愛らしくてドキドキする。ただジャックにとって赤ずきんは強くてカッコイイ女の子というイメージが強いため、いつも通りに戻すこと自体は賛成だ。何より可愛らしくてもずっと不安を感じさせているのは忍びない。
なのでジャックはフード捜索を再開するため、再び赤ずきんと共に歩き出した。もちろんまたしても手を握られてしまったが、それについては少なくとも嫌ではないので問題なしである。
「うーん、ハルさんのところにも無かったか……」
「ジャック、次は誰の所ならありそう……?」
一旦居住スペースの方に戻る傍ら、当てが二つも外れたせいか更に不安気になってしまった赤ずきんが尋ねてくる。
実の所、具体的な場所や人の当ては先ほど全て無くなってしまったのだ。となるとすべきことは一旦現場に戻って調べてみるか、あるいは――
「――赤ずきんさん、もし良かったら僕にも赤ずきんさんの部屋を探させてもらえないかな?」
そこまで考え、ジャックは現場に戻ることを提案した。赤ずきんがすでに何度も探していることは知っているが、フードに執着して探すあまりに何か見落としが無いとも限らないからだ。
「良いけど……あたしが何度も探したし、そのせいで今散らかってるよ……?」
「そんなの平気だよ。それに、もしかしたら自分で探したら見えてくるものがあるかもしれないんだ。だから一旦赤ずきんさんの部屋に行こう?」
「……うん、ジャックがそう言うなら行こっか」
優しく笑いかけたところ、赤ずきんは小さく頷いて微笑み返してくれる。笑ってくれたのはジャックが自分のために精一杯頑張ってくれていると思ったからか、それともジャックを信じているからか、あるいはその両方か。
しかしいずれにせよジャックの想いとすべきことは変わらない。
(僕だって赤ずきんさんの力になれるってところ、見せてあげなくちゃ! こういう時くらいは僕だって頼りになるんだってところを!)
普段はともかく、フードを失くして不安がっている時くらいならジャックだって赤ずきんの力になれるということ。普段は頼りなくとも、こんな時くらいは頼りになるのだということ。自分の力でフードを見つけ、それを証明するのだ。
そのためにジャックはいっそう頑張ることを心に決め、赤ずきんの手を引いて歩くのだった。尤も握られている手は変わらず痛いし、休息が足りなかったのか体調も徐々に悪化しつつあり、どちらかといえば満身創痍の状態で先行きは不安であったが。
赤ずきんと仲良く手を繋ぎ、二人で仲良くコートを探すジャック(骨折間近+貧血)。
ちなみにジャック×親指姫が妄想段階だった時は話の導入を他のキャラで妄想したりもしましたが、赤姉の場合はあまり捗りませんでした。あっちにも書きましたがいざとなればジャック抱えて走れそうですし……。
でも裸でジャック(ケダモノ)と抱き合う展開ならたぶん一番捗るキャラだと思います。原作の原作的な意味で。