ジャック×赤ずきん   作:サイエンティスト

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 ジャックの回想の続き。残念ながら事の真相はまだ分かりません。単純に可愛い赤姉を書きたかっただけの回かもしれない……あと二章ではカットしてしまった部分の……。





七日目のお風呂

 

「ふうっ。それにしても、博士への挨拶は凄く緊張したなぁ……」

 

 恋人の父親とも言える人物である博士への挨拶を何とか無事に終えたジャックは、未だ緊張に凝り固まっている身体を湯船の中で暖めていた。

 幸運なことに交際しているという事実を伝えても博士はあまり動じず、それどころか微笑んで祝福してくれた。関係を認めてもらえてジャックとしても嬉しい限りなのだが、予想外にあっさり認めてもらえてむしろちょっと拍子抜けしたほどである。

 

(まあすんなり認めてもらえたのは嬉しいんだけど、何だか一瞬研究対象を見る目をしているように見えたんだよね……)

 

 代わりにそんな危ない目で見られていた気がするものの、まあ仕方ないといえば仕方ない。

 ジャックと赤ずきんはお互いただの人間ではなく、血式少女と血式少年のカップルである。元々数が少ない血式少女、そして現状ジャック一人しか確認されていない血式少年、恐らくはその間でできた初めてのカップルなのだ。博士のような知識欲が深いタイプにとっては魅力的な研究対象に映ってしまうのは仕方の無いことだろう。

 

「……まあ、変なことを考えるのはやめておこうかな。それよりは僕と赤ずきんさんの関係を認めてもらえたことを喜ばないと!」

 

 そういった目で見られるのはあまり良い気がしないものの、関係自体は認めてもらえたのだからこれ以上注文を付けるのは贅沢と言うものだ。それよりは赤ずきんと周知の恋仲になれた喜びを謳歌することの方が何倍も有意義である。

 なのでジャックはその喜びを口に出し、細かいことを全て頭の片隅に追いやった所――

 

「――そうそう! これで晴れてお父さんにも他の子にも公認なんだし、認めてもらえたことを喜ぼうよ!」

 

 ――お風呂場に突如として赤ずきんが姿を現した。明るい黄色のビキニに赤のパーカーを羽織り、魅力的なスタイルを曝け出した恋人が。

 

「……いらっしゃい、赤ずきんさん。今夜も背中を流しに来てくれたの?」

「もちろん。それにしても、突然あたしがお風呂場に入ってきてもジャックは意外と落ち着いてるね。もしかして結構慣れてきた?」

「まあ、一週間も同じ展開が続いていれば段々とね……」

 

 しかし恋人がお風呂に突入して来てもジャックは比較的冷静でいられた。

 今晩を抜きにしても六日間。毎晩お風呂場に同じ姿で突撃され、あまつさえ何かあるかと身構えても背中を流して頭を洗うだけしかしてこなかったのだ。さすがに六度もそれが繰り返されれば、幾ら女の子に免疫の無いジャックでも学習するし慣れて来る。

 まあ最初の頃よりは動じていないだけで、依然として赤ずきんの水着姿にはドキドキしているのだが。

 

「んー、何かちょっと悔しいなぁ。最初はあんなに赤くなって可愛い反応してくれたのにさ」

「僕は可愛いって言われても嬉しくないなぁ……それより赤ずきんさん、別にもう僕の背中を流しにきたりはしなくて良いんじゃないかな? 元々自分を好きになってもらおうと思ってやってたことなんだよね?」

「あ、あはは……バレバレ、だったかな?」

 

 何気なく尋ねてみた所、ぽっと頬を染めて乾いた笑いを零す赤ずきん。仮にも男が入浴中に水着姿とはいえ乱入してくる時点で、何らかの理由や目的があるのは明白だ。不器用ながらも色仕掛けを行っているということくらい誰だって気が付くだろう。

 

「まあ最初はそうだったけど、今は純粋に楽しいからやってるだけだよ。何だかんだでジャックも喜んでくれてるみたいだしね?」

(喜んでないわけじゃないけど、赤ずきんさんスタイル良いから変な気持ちになっちゃうんだよなぁ……何とかして止めさせられないかな?)

 

 水着姿の赤ずきんは見ているだけでもドキドキするし、できることなら今までと同じく背中を流してもらいたいと思っている。

 しかしそれは叶えてはいけない願いだ。今までは本物の恋人同士ではなかったのでジャックもそれなりに自制心が働いていたものの、今や本物の恋人同士。おまけに赤ずきんの妹的存在の他の血式少女達も認めてくれているし、父親代わりの博士も公認の関係である。これだけお膳立てが整った状態である以上、ジャックもその場に雰囲気や衝動に流されないという確信は持てなかったのだ。

 

「あ、そうだ。そういえば赤ずきんさん、初めてお風呂に入ってきた時言ってたよね? もし百パーセント自分のことを好きになってくれるなら、水着無しで入るのも考えるって」

「え? あ、あー、そういえばそんなこと言ったような……」

「僕はもう赤ずきんさんのことが大好きになっちゃったんだし、まだお風呂に入ってくるならその言葉が嘘じゃないって証明して欲しいな?」

 

 赤ずきんを傷つけたくはないので、ジャックは自分から止めさせる方向に話を持っていくことにした。幾ら何でも水着無しでは抵抗があるのは間違いないのだ。ならばそこを上手く利用して自分から諦めさせれば良い。

 尤も驚くほど大胆な赤ずきんのこと。ただの水着無し程度では本当に実行してしまう可能性もある。だからこそジャックは心を鬼にして、できる限り嫌らしく最低な感じで笑いかけた。水着なしで入ってきたらたっぷり眺めて辱めてやるぞ、という感じの思いが伝わるように。

 相変わらずどこか非道な真似に走るようになった気がしないでもないが、全ては赤ずきんのためである。

 

「そ、それって……水着を着てたら、一緒に入っちゃダメってこと?」

「そうだね。ダメとは言わないけど、その時は赤ずきんさんのこと嘘つきだって思っちゃうかなぁ?」

「うぅっ! ジャック、今夜は何か意地悪だ……!」

「あははっ。何のことかな?」

 

 恥じらいに染まった頬を悔しげに膨らませ、じっと睨みつけてくる赤ずきん。そんな様子で睨まれても可愛いだけで正直困るし、本当に意地悪な行為というのはこの場で理性を投げ捨て襲い掛かることを言う。

 なので抱きしめたくなる可愛さからあえて目を逸らし、ジャックは赤ずきんの反応を待った。

 

「わ、分かったよ、もう……ジャックの意地悪……」

 

 そのまま十秒ほど経過した頃だろうか。赤ずきんは踵を返し、そんな捨て台詞を残して脱衣所へと戻って行った。

 目を逸らしていたし目をやった時にはすでに後姿だったのでどんな表情をしていたのかは良く分からないが、きっと諦めたに違いない。なのでジャックはほっと一息つき、安心して湯船に首まで浸かるのだった。

 

(これでようやく安心してお風呂に入れるや。いくら赤ずきんさんでもあれだけ嫌らしく笑われた後に水着無しで入ってきたりはしないはずだしね)

 

 ここ六日間は入浴時に毎回赤ずきんが突入してきたため、一人でゆっくりと羽根を伸ばすことはできなかった。

 しかしこれで今夜からは一人でゆっくりと入浴できる。少なくとも恋人の水着姿にドキドキして、男として抑えがたい身体的反応を頼りないタオル一枚で必死に隠さなくて済む。一応気付かれてはいなかったようだが、実はあまりにも心臓に悪い状況がずっと続いていたのである。

 

(赤ずきんさんの水着姿が見れなくなるのは残念だけど、ケダモノ呼ばわりされて嫌われたくは無いしね。いつかまた見られるって信じて今は諦めよう。うん)

 

 赤ずきんに嫌われてしまうかもしれないことを考えれば、不埒な願いを我慢することくらいわけはない。

 それに今や自分たちは本物の恋人なのだから、赤ずきんもきっとまたその内水着姿を披露してくれる機会もあるだろう。あるいは水着姿よりももっと凄い姿まで。

 まあ何にせよそれはまだまだ先の話。順調に交際を続けて想いを深め合ってからのことに違いない。だから今は我慢するしかない、ジャックはそう思っていたのだが――

 

「――ジャック……こ、これなら、良いんだよね……?」

「……えっ?」

 

 ――捨て台詞を残して退散したはずの赤ずきんが、何故か再びお風呂場に姿を現した。しかも先ほどの水着姿とは異なり、身体にバスタオルを巻き頭の上にタオルを乗せた状態で。

 一瞬見間違いかと思ったものの何度見ても赤ずきんはそこに立っているし、真っ赤な顔でバスタオルの胸元や裾を気にして引っ張る姿はどう考えても下に何も身につけていない。

 どうやら赤ずきんがどれだけ本気で想いを寄せてきているのかを大幅に見誤っていたらしい。ジャックは自分の見積もりの甘さに後悔を覚えると共に、とても深く思われている事実に場違いにも喜びを覚えてしまうのだった。

 

「あ、あんまり見ないでよ、ジャック……恥ずかしいよ……」

「あっ……! ご、ごめん!」

 

 消え入りそうな声で恥らう赤ずきんに対し、先ほどからずっと眺めていたことに気付いて咄嗟に目を逸らす。

 しかし男とはかくも意志の弱い生き物。目を逸らしはしたがどうしても気になってしまい、今にも視線を向けてしまいそうなほどである。バスタオル越しとはいえそれほどまでに赤ずきんの艶姿は魅力的に映っていたのだ。

 

(ど、どうしよう……今更ダメなんて言ったら勇気を出して水着を脱いだ赤ずきんさんに失礼だし、かといって本当のことを言ったら怒られそうだし……)

 

 赤ずきんも恥じらいで参って混乱しているのか、風呂場に足を踏み入れたその場所に立ち尽くしているようだ。湯船に浸かっているジャックは問題ないものの、赤ずきんの方はこのまま放っておいたら風邪を引いてしまうだろう。

 追い返すも好きなようにさせるも、早い所決めた方が賢明に違いない。

 

「え、えっと、その……恥ずかしいなら、無理しない方が良いんじゃないかな?」

「……本当言うと、無理はそんなにしてないよ。ジャックがあたしのことを立派に女の子として見てくれてることが分かって凄く嬉しいし、もう色仕掛けとか余計なことは気にしないで一緒にお風呂に入れるしね?」

(……そんな嬉しそうな顔されたら追い出すことなんてできるわけないじゃないか! 赤ずきんさんって本当にあざといよ!)

 

 どうもジャックに魅力的な女の子として見られていることが嬉しいらしく、頬を染めながらも満更でも無さそうな表情をしている。本当は驚くほど甘えん坊な赤ずきんのことだ。きっと恋人と一緒にお風呂に入るのも楽しく思っているのではないだろうか。

 

「んー……このまま突っ立ってるのも寒いしさ、あたしも一緒に入って良いかな?」

「えっ、あ、うん……うん?」

 

 反射的に答えてしまい、一拍置いて自分が何に対して頷いたのか疑問を抱くジャック。

 しかしその答えを考える必要など無かった。何故なら赤ずきんは行動で示したから。つまりはジャックが浸かっている湯船の中に自分も入り込んできた。

 

「……っ!」

 

 バスタブの縁を乗り越えようと赤ずきんが僅かに足を上げれば、バスタオルの裾から覗く太股に視線が釘付けになる。そうして湯船に足先を入れてゆっくりと身体を沈めていくと、水を吸ったバスタオルが肌に張り付いていくのは当然のこと。徐々に赤ずきんの身体のラインが浮かび上がっていく様子に思わずごくりと息を呑む。

 おまけに完全に湯船に浸かってしまうと、バスタオルが豊かな胸の膨らみを強調するように張り付いている光景までも目に入ってしまう。見てはいけないと分かってはいたが、ジャックは抗えずにその一連の光景を食い入るように見つめていた。

 

「あ、あのさ、ジャック……そんなにじっくり見られると、さすがにあたしも恥ずかしいんだけど……」

「え……あっ!? ご、ごめん!」

 

 そんな光景を見つめるジャックの姿がよほど危なかったのだろうか。赤ずきんは浴槽の反対側で自らの身体を抱いて隠し、怯えたように縮こまっていた。咄嗟に浴槽の中で背を向けたものの、どう考えても今更である。

 

(分かってはいたけど、やっぱり赤ずきんさんは大人っぽい身体つきをしてるなぁ……)

 

 出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。トレーニングで鍛えているせいか余計にそれが際立っていて、これはもう少女というより女性の身体つきである。はっきり言って心臓と理性に悪いほど魅力的だった。ずっと眺めていたら確実に何か良からぬ行為を働いてしまいそうなくらいに。

 

「……でも、良かったよ。あんなにじっくり見入るってことは、やっぱりジャックはあたしのことを魅力的な女の子だって思ってくれてるんだよね?」

「あ、当たり前じゃないか。別にわざわざ聞かなくたってそんなことは分かるよね?」

「聞かないと分かんないよ。だってあたし、さっきのあんたの様子を見るまでずっと自信なくしてたんだからさ。ジャック、水着の時だと思ったより動揺してなかったし……」

「別に動揺してなかったわけじゃないよ。ただちょっと思ったのと違ったっていうか、期待と違ったっていうか……」

 

 背後から赤ずきんの視線を感じながら、ジャックは背を向けたまま言葉を交していく。

 あれは間違いなくジャックを落すための色仕掛けだった。だからこそジャックも変な方向に期待を抱いてしまい、結果的にはそれが裏切られる形になったわけである。もちろん水着姿も魅力的ではあったが、いかんせんジャックは邪な期待を抱いてしまったので肩透かしを食らった気分は否めなかった。それが六日も続けばなおさらだ。

 

「期待って……ジャックはどんなの期待してたの? 水着で背中を流すだけじゃ色仕掛けっぽく無かったかな?」

「そ、それは、えっと……」

 

 問われるも素直に答えて良いものか悩んでしまうジャック。

 素直に答えれば微妙に軽蔑されそうな気がしないでもないが、さすがに嫌われたりすることはないだろう。自分から色仕掛けを行っていることを考えればそれは間違いない。

 

「む、胸を背中や腕に押し付けてきたりするとか、かな……?」

「……ジャックのケダモノ」

「うぅっ……」

 

 なので仕方なく素直に答えたところ、返ってきたのは非難するような小さな罵倒。否定したい所だったが赤ずきんの艶姿を目にして胸が高鳴っている現状では否定することはできなかった。

 

「でもそっか、あたしの色仕掛けは微妙に間違ってたんだね。なのに気付いたらジャックは落ちてたし、結局あたしの頑張りは何だったのかなぁ……」

「ま、まあ、頑張る赤ずきんさんも可愛かったから、別に無駄になったわけじゃないよ。でもやっぱり赤ずきんさんはいつも通りが一番だけどね?」

「いつも通りって言われても、それじゃあ全然ジャックを落せそうに無いと思うんだけどなぁ……ま、ジャックがそう言うならそれでいっか。ほらジャック、背中流してあげるから上がりなよ」

「う、うん……」

 

 いまいち納得していない感じに呟く赤ずきんに促され、ジャックは赤ずきんと共に湯船から上がる。

 もちろん六日間の経験からすでにタオルは腰に巻いた状態だ。とはいえ恥ずかしくないというわけではないので、背後から感じる赤ずきんの視線にはいまいち慣れないが。

 

「よーし、それじゃあ今日もたっぷり背中を流してあげるよ。でもまずは頭の方だけどね。ほら、まずはすすぐから目を瞑りな?」

 

 定位置に腰を降ろした途端、妙に楽しそうに言い放ちながらお湯を頭にかけてくる。その後はシャンプーをジャックの頭で泡立て、優しい手付きで髪を綺麗にしていく。

 その間ジャックは泡が入らないように目を瞑っていたのだが、ついつい気になって開けてしまう。正面には鏡が設置されているため、別に目を向けずとも背後の赤ずきんの様子を見ることができるのだ。

 幸いと言って良いのかジャック自身の身体や頭が視線を塞ぎ、濡れたバスタオルに包まれた赤ずきんの身体を拝むことは出来なかった。代わりに目にしたのは今にも鼻歌が聞こえてきそうなほど上機嫌な笑みである。

 

「いつも思うんだけど、僕の頭や背中を流してる時の赤ずきんさんって妙にご機嫌だよね? そんなに楽しいことなの?」

「そうだね。最初は結構恥ずかしさがあったんだけど、今じゃ楽しさの方が勝ってる感じかな。こうやってあんたの世話を焼いていると可愛い弟ができたみたいだしね?」

「か、可愛い……弟……」

 

 鏡写しにニッと笑いかけてくる赤ずきんだが、ジャックとしては微妙にショックな答えであった。以前までならまだしも恋人になった今も弟として見られていては、さすがに彼氏として自信が無くなってきてしまう。

 

「あっ、いや、別にジャックのことを可愛い弟みたいに思ってるわけじゃないよ? そりゃあ前まではちょっと思ってたけど、今は弟よりも一人の男だって思ってるし……弟よりも、彼氏でいて欲しいし……」

 

 しかしジャックがショックを受けていることを見抜いたらしく、すぐに訂正してくれる。それもぽっと頬を染めて実に女の子らしい恥じらいを見せながら。ジャック自身の身体が妨げになってバスタオル姿は見えないものの、その恥じらいの表情だけでも十分すぎるほどの破壊力だ。

 あまり眺めているとそれこそ博士に孫が出来たと報告しに行かなければならなくなることをやりかねないので、ジャックはもう盗み見るのを止めて素直に目蓋を閉じた。

 

「そうだね。弟に甘えるお姉さんなんて皆に示しがつかないもんね?」

「ひ、秘密だからね? あたしがあんたにもの凄く甘えてるってこと、バラしたら幾らジャックでも容赦しないよ?」

「大丈夫、バラしたりなんてしないよ。どうせ言ったって誰も信じてくれないだろうからね」

「それはそれで何か傷つくなぁ。あたしだって普通の女の子なのにさ……」

 

 皆に自分たちの関係を打ち明けた時のことを思い出しているのか、ぶつぶつと不満を零す赤ずきん。頭を洗う手つきも力が入って微妙に乱暴なものとなる。やはり自分が告白した側だということを信じてもらえなかったのは随分とショックだったらしい。

 

「あははっ。赤ずきんさん、普通の女の子は扉を一撃で蹴り壊したり、ベッドを放り投げたりなんてしないと思うよ?」

 

 そんな風に子供っぽく拗ねているのが可愛くて、ついついからかいの言葉を零してしまうジャック。

 恋人同士の触れ合いの一環程度の軽い冗談だったのだが、どうやら赤ずきんはお気に召さなかったらしい。

 

「……ジャックー? 世の中には言って良いことと悪いことがあるんだよー?」

「いたっ!? ご、ごめん、赤ずきんさん! いたたたっ!!」

 

 今まで髪を撫で洗っていた細い指先が、頭蓋に穴を開けようかというほどの力でぐりぐりと頭を苛んできた。驚いて反射的に目蓋を開けたところ、鏡に映っていたのは赤ずきんの爽やかな笑顔。ただし笑っていたのは口元だけで、瞳は全く笑っていない。

 仮にも相手は皆のお姉さんなのだから、冗談やからかいの内容には気をつけよう。背後の恐ろしい笑みを目にして、ジャックはそう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで終わり! さっぱりしたかな、ジャック?」

「うん。わざわざありがとう、赤ずきんさん」

 

 頭の次には背中を流してもらい、ここ六日間のお風呂と同じ終わりを迎えるジャック。背中を流してもらった後は特に何もなく、ジャックは浴室から出て赤ずきんがそのまま入浴する。それがここ六日間のお風呂での流れであった。

 なので今回もジャックはその流れ通り、浴室から出るつもりだったのだが――

 

「どういたしまして。それじゃあ今度はあたしの番だね?」

「……えっ?」

 

 ――どうやら本物の恋人となった以上、これまで通りでは終わらせてもらえないらしい。思わず後ろを振り返った所、あろうことか赤ずきんはこちらに背を向けて頭の上に乗せていたタオルを取っていた。

 

「えっと……もしかして今度は僕が赤ずきんさんの頭を洗って、背中を流さないといけないの?」

「そうだよ。もうあたしたちは本物の恋人同士なんだし、一週間ずっとあたしばっかりしてきたんだ。だから今日からはジャックにもやってもらうよ?」

(きょ、今日からは!? それじゃあ明日も明後日もやらないといけないってこと!?)

 

 百歩譲ってこちらからもするのは別に構わないが、赤ずきんの格好が問題である。何せ今は水着無しでバスタオル一枚という無防備極まる姿。明日からもこんな格好で一緒にお風呂、なんてことがずっと続いたらジャックは自分を抑えられるかどうかが果てしなく怪しかった。

 

「ほらほら、早く早く。早くしないとあたしもジャックも身体が冷えて風邪引いちゃうよ?」

 

 しかも当の本人はそんな危険など全く感じていないのか、むしろ楽しげに身体を揺らして待っている。おまけに声音もかなりご機嫌であり、まるでジャックに甘えている時のような子供っぽさが感じられた。

 恐らく赤ずきんはこれを恋人同士の触れ合い、そしてジャックへ甘える行為と考えているのだろう。だからこそさっきまで見せていた恥じらいの様子が見られず、肩越しに向けられる瞳が期待に輝いているに違いない。

 

「はあっ……しょうがないなぁ、赤ずきんは。それじゃあすすぐから目を閉じてね?」

「やったー! ありがとう、ジャック! 大好き!」

 

 そんな目で見られては今更拒否することもできず、諦めたジャックは一つ溜息を零してからお湯で頭をすすいであげた。そしてシャンプーを手の平に二度ほど吹きかけ、それを赤ずきんの髪を撫でるようにして泡立てていく。

 

「どうかな、赤ずきん? 痛かったりくすぐったかったりしない?」

「全然平気だよ、ジャック。むしろ気持ち良いからそのまま続けて欲しいな?」

 

 いまいち加減や勝手は分からないが、この一週間頭を洗ってもらった経験が功を奏したらしい。赤ずきんは心地良さを声音に滲ませながら、聞き様によってはちょっとドキっとする言葉を口にした。

 状況が状況なのでジャックも微妙にドキッとしたが、すぐに煩悩は振り払う。少なくとも赤ずきんは今の状況を子供のように楽しんでいるわけだし、そんな穢れた想いを抱いていいわけが無い。

 

「全く、赤ずきんは本当に甘えん坊だね? 何だか今までよりも更に子供っぽくなってる気がするよ?」

「そりゃあそうだよ。だってまだ本当の恋人同士じゃなかったし、あたしもそれなりに遠慮してたんだからね」

「えっ? 遠慮してあれなの?」

 

 赤ずきんのその言葉に戦慄と驚愕がない交ぜになった複雑な感情を抱くジャック。

 遠慮していたと本人は言っているが、キスなどは抜きにしても二人きりだとやたらにくっつきたがっていたし、寝る時はベッドを隣り合わせてほとんど一緒のベッドで寝ているような状態であった。あれで遠慮している状態だったなら果たしてこれからはどこまで大胆に迫って甘えてくるのだろうか。

 

「……もしかして、今夜は一緒のベッドで寝たいとか考えてないよね?」

「う……」

 

 一つ思いついた考えを口にした所、頭を洗っている手の平にぴくっと反応が伝わってきた。どうやら完全に図星のようだ。一体どこまで甘えん坊なのか。

 

「駄目、かな? ジャック……」

「さすがにそれは駄目だよ。僕たちはまだ付き合い始めたばかりだし、一緒のベッドで寝るのはまだ早すぎると思うんだ。というか今一緒にお風呂に入ってるのもたぶんアウトだと思うなぁ……」

「こ、これはジャックのせいだよ! ジャックが水着脱がないと一緒に入っちゃ駄目って言うからじゃんか!」

「そ、それは……ごめん……」

 

 実際今この状況を招いてしまったのは間違いなくジャックの落ち度である。下手なことを言わなければまだ赤ずきんは水着を着ていたはずなのだから、少なくとも今よりは幾分マシな状況だったに違いない。

 

「ほ、ほら、そんなことよりもう洗い終わりだよ? すすぐから目を閉じてね、赤ずきん?」

「んっ……」

 

 まさか出て行くことを期待して口にしただけとは言えないため、ジャックは早々に話を切り上げることにした。ついでにお湯で赤ずきんの髪から大量の泡を洗い流し、この時間も終わらせることにする。

 理性を働かせてしっかり我慢しているが、今赤ずきんはバスタオル一枚という非常に無防備な状況なのだ。あまり長い間この状況が続くとどうなってしまうか分からないし、ここらが潮時という所だろう。

 

「よし、これで終わりだね。それじゃあ僕はもうあがるから、赤ずきんさんはゆっくり暖まると良いよ」

 

 内心の不安はおくびにも出さず、赤ずきんにそう声をかける。できればもうちょっとだけ湯船で暖まりたいところだが、そうなるとまた赤ずきんと一緒に入浴することになりそうなので止めた方が懸命だった。

 

「……ジャック、背中はしてくれないの?」

「えっ!? 背中もなの!?」

「だ、だってあたしがやってあげたんだから、ジャックだってやってくれないと不公平だよ」

 

 しかし赤ずきんの方はまだ終わりとは認めてくれないらしく、どことなく寂しそうな瞳で肩越しに振り返ってきた。

 確かに言いたいことは分からないでもないし、赤ずきん本人はこの時間を心から楽しんでいるのだから続けて欲しいのも理解はできる。

 

「で、でも、その……赤ずきんさん、バスタオルがあるから……」

 

 とはいえ赤ずきんは身体にバスタオルを巻いた状態だ。そんな状態では背中を流すことは出来ないし、できる状態にしてもらうのもそれはそれで問題がある。

 なのでジャックは答えに迷い言葉に詰まってしまったのだが、どうやらそれが間違いだったらしい。

 

「あ、そ、そうだよね。じゃあ……これで、良いかな?」

「――っ!?」

 

 あろうことか自らバスタオルをはだけてしまう赤ずきん。

 はだけると言ってもこちらに背を向けて座っているので見えてはいけないものは見えなかったが、代わりに背中側は大胆に曝け出されていた。首元からお尻に至るまで白い肌が余す所無く、大人っぽいきゅっとくびれたウエストや柔らかそうなお尻の形もはっきり分かるほど。

 そんなもの凄い光景を目にして冷静でいられるわけがなく、ジャックは胸を高鳴らせながら食い入るように肌を見つめてしまった。恥ずかしそうに頬を染めて控えめな視線を向けてくる可愛らしさも、魅了されている原因の一つである。

 

「あ、あのさ……さっきも言ったけど、そんなじっくり見られるとさすがにあたしも恥ずかしいよ……」

「……はっ!? ご、ごめん赤ずきんさん! つい!」

「い、良いよ別に、そこまで気にしなくても。じっくり見られるのは恥ずかしいけど、ジャックになら、その――あっ、や、やっぱり何でもない……」

(ぼ、僕になら何!? 今何を言おうとしたの、赤ずきんさん!?)

 

 思わせぶりな所で言葉を切ってしまう赤ずきんに対し、微かな期待と大いなる戦慄に支配されるジャックの心。

 とはいえ赤ずきんの本心がどんなものであろうとも、勇気を出して肌を晒したことだけは確かだ。そんな勇気と覚悟と素晴らしいものを見せてもらっておいて、無視してお風呂から出て行くなど当然許されない行為である。

 そんなわけでジャックは高鳴る鼓動と興奮に支配されそうになりながらも、必死に理性を保って背中を流してあげるのだった。大人っぽいスタイルと反則的な可愛らしさを持っている癖に、正に子供のように甘えん坊な困った恋人の背中を。

 

 

 

 

 

 






 博士に挨拶のシーンはカット。あの人は絶対表向き祝福しながら裏では『血式少女と血式少年の間にできた子供はその特性を受け継いでいるのだろうか』とか色々考えているに違いない。
 2の特典のお風呂ポスターの赤姉を見る限り、かなりメリハリのあるボディで白雪姫とはまた違った方向で男受けが良さそうなんですよねぇ……ジャックは大丈夫かな……。



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