ジャック×赤ずきん   作:サイエンティスト

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 ジャックと赤姉のカップリング、4-3。
 ジャックがおやすみ中に何があったかのお話と、+アルファのお話。実はジャックがヘッドホンを携帯していなかったら書けなかったお話だったりします。



寝ている間に……

 

「ジャックー! ジャック、いるなら返事しなよー!」

 

 もうすぐお昼、というにはまだ早い微妙な時間。赤ずきんは黎明の居住区を恋人の姿を探して歩いていた。

 

「ジャックの奴、恋人のあたしを放ってどこ行ったのかな。もう朝からずっと見てないよ……」

 

 朝食の席では何だかグレーテルと仲が良さそうにしていてちょっとムッときたので、その後にたっぷり甘えさせてもらった。しかし、そこからジャックの姿は一度も見ていないのだ。

 いつもはどこかに行くならちゃんと行き先を教えてくれたものの、今回は何故か教えてくれなかった。そんなわけでちょっぴり不安になって探している赤ずきんである。

 

「販売所にもいなかったし、部屋にもいないし……あ、もしかして屋上にいるかも?」

 

 何故か高い所を好む血式リビドーを持つジャックのことだ。これだけ探し回って見つからないなら、そういった場所にいる可能性が高い。そんなわけで赤ずきんはジャックの姿を探して、屋上へと足を向けた。

 屋上には基本的に人はいないはずなので、もしもジャックがいたならきっと二人きりになれることだろう。それならまたべたべたと甘えるのも良いかもしれない。大好きなジャックに好きなだけ甘えられる幸せと、笑顔で受け入れて可愛がってくれるジャックの愛情を思い浮かべて、赤ずきんは思わず顔を綻ばせてしまう。

 

(本当にあたしはジャックに夢中だなぁ。もうジャックがいなかったらいつも通り皆のお姉さんができる気がしないよ……)

 

 今までは誰かに甘えなくとも、皆のお姉さんとして振舞うことができていた。しかしここまで深くジャックに依存してしまっている今では、もうジャック無しでは皆のお姉さんにはなれないだろう。そこを考えると赤ずきんは昔よりも弱くなってしまったのかもしれない。

 

(これはもうジャックを逃がしちゃいけないね! 責任取って、ずーっと一緒にいてもらうんだ!)

 

 とはいえ不満や後悔は一切無い。あるのは絶対にジャックを逃がさないという、強い意志と愛情だけだ。尤もその方法については自分では思い浮かばないので、そのうちまたグレーテルの力を借りるべきだろう。

 そんなことを考えつつ、赤ずきんは屋上に上がった。少し周りを見回してみるも、残念ながらそれだけではジャックの姿は確認できなかった。元から屋上にはいなかったのか、あるいは物陰にいて見えないだけか。とりあえず物陰も確認してみることにして、一つ一つ覗いて確認していく。

 

「あ、いたいた。ジャック、こんな所で横になって何を――」

 

 そして物陰の一つを覗き込んだ所、探していた恋人が見つかった。だがその状況が少々特殊で、赤ずきんはそのまま言葉に詰まってしまった。

 横になっていることは別に問題ない。もしかしたら屋上で昼寝でもしていたのかもしれないし、そこは別におかしくないのだ。問題は横になっているジャックの頭を、自らの膝に乗せ優しげな笑みを浮かべて見下ろしている少女がいたことで――

 

「……何やってんの、アリス?」

「えっ!? あ、赤ずきんさん!?」

 

 自分に声をかけられるまで赤ずきんの存在に気が付かなかったのか、アリスは飛び上がりそうなくらいに驚きを露にしていた。次いで今の反応でジャックが目を覚ましていないかを確かめると、非常に申し訳無さそうな顔をしてこちらへ視線を向けてくる。

 

「えっと、これはその……ジャックとお話をしていたのだけれど、その途中で突然ジャックが眠って私によりかかってきたものだから……」

「あー、まあ何となく流れは分かったよ……」

 

 ジャックが隣で眠ってしまえば、間違いなくアリスならそのまま放っておきはしないだろう。毛布を持ってきてかけてあげるなり、今回のように枕になってあげるなりするはずだ。まあこれが眠り姫あたりならそのまま一緒に眠ってしまうに違いない。

 

「でも話の途中で突然寝ちゃうなんて、ジャックの奴そんなに疲れてたのかな?」

「そ、そうね。確かに何だか疲れている様子だったわ……えっと、その……場所を、譲った方が良いかしら?」

「ん? んー……いや、良いよ。もしかしたら起こしちゃうかもしれないしね。せっかく気持ち良さそうに眠ってるんだから、邪魔しちゃジャックが可哀想だよ」

「そ、そう……」

 

 少し迷ったがそう答え、赤ずきんはアリスの隣に腰を降ろす。

 確かに大好きなジャックが自分以外の女の子の太股を枕に眠っている状況はあまり面白く無いが、その安眠を妨げてまで怒ることではない。第一意識してやったことではないようなので、赤ずきんとしては別に目くじらを立てるほどのことではなかった。

 

「あははっ、本当に気持ち良さそうに眠ってるなぁ。ジャックの奴、アリスの膝枕がお気に入りみたいだね?」

「……赤ずきんさんは、随分余裕があるのね。私なら、自分の恋人が自分以外の女性に膝枕をされている現場を目撃したら、きっとそんな風には笑っていられないわ」

「アリスは結構ヤキモチ焼くタイプだから仕方ないよ。ま、あたしは皆のお姉さんだからね。余裕があるのは当然だよ」

 

 尊敬にも似た感情を向けてくるアリスに、大人の余裕を見せつける赤ずきん。

 実際の所、こんな風に余裕があるのは恋人であるジャックと触れ合っているのがその幼馴染であるアリスだからだ。ジャックとアリスは仲の良い幼馴染であり、それはジャックが赤ずきんと恋仲になった今も変わっていない。だからこそこの程度の触れ合いなら許容できるというわけだ。尤もこれがアリス以外の女の子だった場合、赤ずきんも余裕を保てたかどうかは分からないが。

 

「そう。さすがは赤ずきんさんね……ところで、前から一つ気になっていたことがあるのだけれど、聞いても良いかしら?」

「ん? いいけど、どうしたの?」

 

 答える前に、眠るジャックの耳に優しくヘッドホンを装着させるアリス。果たしてこれはジャックを起こさないためのものか、それともジャックには聞かれたくない類の話をするためのものか。

 慈愛に満ちた瞳で数瞬ジャックを見つめた後、アリスは極めて真剣な面持ちで赤ずきんを見つめてきた。

 

「失礼な質問なのは承知の上だけれど……赤ずきんさんは、本当にジャックのことが好きなの? ジャックとの普段の様子を見ている限りだと、どうも真剣な気持ちが感じられないのよ。まるで恋人というより、仲の良い姉弟のような関係に見えてしまうくらいに」

「いや、あたしはもちろんジャックのことが好きだよ。でもそっか、あんたにはそんな風に見えるんだね……」

 

 どうやらジャックには聞かれたくない類の話だったらしい。仲の良い幼馴染としては、あまり本気に見えない赤ずきんと交際しているジャックのことが心配なのだろう。

 

(別にそういう風に見られたって構わないけど、アリスが言ってるのはあたしが真剣にジャックのことを想ってるように見えないってことかな? そりゃあ皆の前だから抑えてるし、そう見えないかもしれないけどさ……)

 

 実際はもちろん真剣にジャックのことを想っている。そもそも告白したのだって赤ずきんの方からなのだ。

 ただ赤ずきんが変わらず皆のお姉さんでいられるよう、他ならぬジャック自身が協力してくれているために本気で想っているようには見えないのだろう。何と言ってもジャックは告白したのは自分の方、ということにしてしまったのだから。

 

(あたしが本気だってことを知ってもらうには、全部話さないとダメなんだよね……あたしが、ジャックと二人きりだとどんな風になるかも含めて……)

 

 赤ずきんの気持ちを知ってもらうには、当然全て話すしかない。告白がどちらからだったかに加えて、普段二人きりだとどんな風に過ごしているのかも。

 無論そんなことを話せば、赤ずきんのお姉さんとしてのイメージは微塵に砕け散ることだろう。さすがに可愛い妹たちに対してそんなことを話すのは恥ずかしいし、正直ちょっと怖い。

 

(皆には話せないことだけど……アリスなら、良いかな?)

 

 しかし目の前にいるのは、下手をすると自分よりもしっかり者なジャックの幼馴染だ。それにジャック以外で唯一自分の弱い所を見せた人物でもある。

 良い意味であまり妹とは思えない相手、それもジャックのことを心配してこんな話をしてきている相手。ならば赤ずきんも正直に答えるのが誠意というものだろう。

  

「……よし、分かった! あんたには全部話すよ、アリス。ただし、他の皆には話しちゃダメだからね?」

「えっ? 話すって、一体何を話すというの?」

「そりゃあもちろんジャックとあたしのことだよ。実は――」

 

 きょとんとするアリスに対して、赤ずきんは全てを語った。全てというのはもちろん、赤ずきんがジャックに想いを抱くようになった理由から始まり、二人きりだとどんな風に過ごしているかというところまでだ。

 当然告白したのがどちらかということも訂正しておいたが、最近ジャックのベッドに裸でお邪魔していることだけは口にしなかった。あれはちょっと自分でもどうかと思う行動であり、そしてそう思っていながらもやってしまう恥ずかしい行動だからだ。血式リビドーを抱える血式少女のアリスなら分かってくれるかもしれないが、さすがにちょっと恥ずかしい。

 

「――そういうわけで、あたしは真剣にジャックのことが好きだから安心しなよ。ていうかもう、ジャックがいないとダメになりそうなんだよね……」

 

 真実を洗いざらい語り、どこか晴れ晴れとした気持ちで呟く赤ずきん。元々あまり賢くも無ければ器用でもない赤ずきんにとって、隠し事とは酷く難しい行為なのだ。打ち明けられたおかげで非常にすっきりとした心地である。

 

「………………」

 

 ただし、打ち明けられた方は未だ真実を飲み込めていないらしい。開いた口が塞がらないという表情で、無言のまま固まっていた。

 

「……やっぱり、あんたも信じてない? あたしなんかがそんな風になるなんて」

「い、いえ、そういうわけではないのだけれど……ちょっと意外だったせいで、いまいち現実味が沸かなくて……」

「まあそうだよね。ジャックも未だに信じられないとか言うし……」

 

 アリスの反応もそれなりに失礼な反応だと思うが、甘えられる本人であるジャック自身でさえこんな反応なのだから仕方ない。むしろその現場を見ていないアリスの方が信じられないのは当たり前だろう。

 

「どうしても信じられないなら、後でジャックに聞いてみなよ。あたしが話して良いって言ったって伝えれば、本当のことを話してくれるからさ」

「……そこまで言うということは本当のことなのね。まさか赤ずきんさんが子供のようにジャックに甘えていたなんて考えもしなかったわ」

「あははっ。あたしもそんな風になるとは思ってなかったよ。ジャックには女をダメにする素質があるね?」

「ふふっ。その通りかもしれないわね?」

 

 二人で軽く笑いあい、眠りこけているジャックを見つめる。すでに完璧にダメにされた赤ずきんはともかく、長らく共に過ごしていたアリスも思い当たる節はあるのかもしれない。

 

「とにかく、赤ずきんさんの気持ちは良く分かったわ。あなたならきっと、ジャックを幸せにしてくれるということも」

「今のところ、幸せにしてもらってるのはあたしの方なんだけどね。まあ、ジャックのためなら何でもする覚悟はあるよ。あたしにできることなら、何でもね?」

「ふふっ。さすがは赤ずきんさんね、頼もしいわ……ジャックのこと、よろしくお願い」

「任せなって! あんたの幼馴染は、あたしが全力で幸せにしてあげるよ!」

 

 真面目な顔で、そしてどことなく寂しげな顔で願ってきたアリスに対し、赤ずきんは力強く頷いた。

 もしも赤ずきんがジャックと恋人にならなかったら、ジャックとくっついていた可能性が一番高いのはきっとアリスなのだ。横から奪うような形になってしまった以上、赤ずきんにできることはたった一つ。全力でジャックを幸せにしてやること。それだけがアリスの気持ちにも報いる方法なのだから。

 

「ええ、任せたわ――あっ、でもそれはそれとして一つ良いかしら?」

「ん? どうしたの?」

 

 安堵に溢れる微笑みを浮かべ頷くアリスだったが、唐突にその頬に朱色が差す。どう見てもそれは恥ずかしがっているような反応である。一体何を言いたいのだろうか。

 

「その……二人はお互いに愛し合っているから、私が口を挟むべきではないと思うのだけれど……ジャックがここまで疲れて部屋に戻るのを躊躇うようになるほど大人な触れ合いをするのは、さすがに控えた方が良いと思うの……」

「え? 大人な触れ合いって?」

 

 全く身に覚えが無いために聞き返すと、アリスの頬の赤みはますます深くなる。

 少なくとも赤ずきんはジャックが疲れるような触れ合いをした覚えは無いし、甘えたりキスしたりがそこまで大人な触れ合いとは思えなかった。

 

「その、それは……男女の触れ合いというか、性的な行為というか……」

「え……えぇっ!? い、いや、あたしたちはまだそういうことはしてないよ!?」

 

 そこまで言われて、さすがに赤ずきんもアリスの言っていることを理解した。理解したので、全力で否定した。

 赤ずきんとジャックはまだその手のことは一切していない。ジャックからそういう行為を求められたことはまだ一度も無いし、赤ずきんとしては好きなだけ甘えさせてくれるだけでも十分すぎるほどなのだ。精々がちょっと深めのキス程度止まりの関係である。

 

「そ、そうだったの? ごめんなさい、赤ずきんさんの話とジャックの様子から、てっきり頻繁にそういうことをしているものだと思ってしまって……」

 

 勘違いをしてしまったせいか、一段とアリスの頬は赤くなる。自分の頬の色はさすがに分からないが顔の火照りを感じているあたり、きっと赤ずきんも頬を染めているに違いない。

 

「あたしの話はともかく、ジャックの様子って……そういえば、ジャックはどんな様子だったのさ?」

「そうね。何だか酷く疲れているように見えたわ。理由は話してくれなかったけど、何かとても困ったことがあるようなことも言っていたわ」

「困ったことかぁ……あ、ひょっとしてあれが原因かな?」

 

 ジャックが最近困っていることと言えば、赤ずきんが思い当たるのはたった一つだけだ。それは先ほどの話の中で意図的に伏せて語らなかったこと。要するにジャックのベッドに裸でお邪魔させてもらっていることだ。

 できれば話したくないことだが、ここまで来たらアリスも知らないままでは納得しないだろう。やむを得ず、赤ずきんは全てを打ち明けることにした。もちろん変な目で見られないよう、新しい血式リビドーであることは念押しをして。

 

「何か知っているの、赤ずきんさん?」

「いや、知っているっていうか……もしかしたら、あたしが原因かもしれないんだよね。実は――」

 

 そうして再び、赤ずきんは語った。

 ジャックのベッドに忍び込んだら何故か妙に落ち着かなかった所から始まり、どうすればその問題が解決したのかというところまで。もちろん、その後に毎晩のようにベッドに忍び込んでいることも含めてだ。

 これで最早アリスに隠し事は何もない。肩の荷が下りたような気分になり、幾分すっきりする赤ずきんであった。まあ話の内容が内容なので若干の羞恥は覚えていたが。

 

「――そういうわけで、ここ最近は毎晩ジャックのベッドにお邪魔させてもらってるんだ。最初は恥ずかしくてちょっと抵抗があったけど、凄く安心して眠れるから今じゃ癖になっちゃってるよ」

「そ、そう……」

「ん? どうかしたの、アリス?」

 

 話し終わってみれば、アリスはどこか淡白な反応を返してきた。よく見れば表情もどこか感情が抜け落ちているというか、微妙に呆れているようにも見える。話の最初の方は顔を赤くしていたというのに、一体どういう心境の変化だろうか。

 

「あ、いえ、その……ジャックは、寝ている赤ずきんさんに何もしていないのよね?」

「うん、そうみたいだよ。たまにあたしが寝てる間に何かしたか聞いたりしてるけど、怪しい反応を見せたことは一度も無いしね」

「そう…………」

「さっきからどうしたのさ、アリス? 何か呆れて物も言えないみたいな顔してるけど?」

「……ごめんなさい。正直なところ、呆れて物も言えないというのが正に本音なの」

「うわっ。結構酷いこと言うね、あんた……」

 

 まさかの答えを返してくるアリスに、さしもの赤ずきんも若干傷ついてしまう。危惧していた通り、どうやらジャックを誘惑しているエッチな子だと思われたらしい。別に赤ずきんはそんなことを考えてベッドにお邪魔しているわけではないというのに。

 

「酷いのはあなたの方よ。赤ずきんさん、ジャックだって男性なのよ? ジャックにとって一番魅力的な女性である恋人の赤ずきんさんが、毎晩裸でベッドに入ってくるなんて……きっと拷問に近い所業だと思うわ」

「えっ? でもジャックの奴、あたしが色仕掛けしても全然堪えてなかったよ?」

 

 しかしアリスの口振りから察するに、どうも呆れているのは別の理由らしい。言わんとしていることは分かるが、赤ずきんとしてはあまり納得できない指摘であった。何故ならジャックは以前赤ずきんが頑張って似合わない色仕掛けをしていた時、全く堪えた様子を見せていなかったのだから。

 

「それはたぶん方法が間違っていたか、ジャックが我慢していただけだと思うわ。欲望のままに行動して、赤ずきんさんを傷つけないように」

「うーん……どっちかっていうとあたしが間違ってただけだと思うけどなぁ……」

 

 実際間違っていたのはジャックの口からも聞いたことだし、何より本当に我慢しているだけだとしたら寝ている間に赤ずきんが何もされていないのは絶対におかしい。一応ジャックは赤ずきんの身体に魅力を感じているという事実を口にしたことはあるが、本当に魅力を感じているなら寝ている間に触ったり眺めたりするくらいのことはしているはずだ。

 しかしたまに寝ている間に何かしていないか尋ねてみても、一切おかしな反応を見せたことはない。ジャックの性格からするとそんなことをしてしまえば間違いなく態度や反応に出そうなので、赤ずきんが気が付いていないだけということはなさそうなのだが。

 

「どちらにせよ、ジャックが我慢しているのは確かだと思うわ。お昼寝の場所にこんな所を選んで、恋人以外の女性に寄りかかって眠ってしまうほど寝不足に悩まされているんだもの」

「じゃあ……あたしはどうすれば良いのかな? もう、ジャックのベッドに入らない方が良いのかな……?」

「赤ずきんさん、そこまで悲しい顔をしなくても……」

 

 なるべく抑えてみたものの、隠せない悲しみが顔に出ていたらしい。

 実際もしもジャックと同じベッドで眠ることができなくなったら、赤ずきんは安眠できる自信が無かった。というか最早一人で眠れるかどうかも怪しいところである。ジャックに抱きついて一緒に眠るのは、それだけ幸せで安らげる時間なのだから。

 

「別にそれを止めろとは言わないけれど、ジャックの気持ちも考えてあげて欲しいの。万が一ジャックが、その……欲望に突き動かされることがあっても、拒まず受け入れてあげるのが良いと思うわ」

「うーん、正直ジャックがあたしの身体で理性を失う場面が想像できないんだよね……」

 

 ちょっと顔を赤くしてそんなアドバイスをしてくるアリス。しかし赤ずきんとしてはジャックが理性を捨てて欲望のままに襲い掛かってくる所など全く想像できなかったため、さほど羞恥は沸いてこなかった。

 もちろんジャックだって男の子だということは理解しているのだが、相手は毎晩のように一緒にお風呂に入っても、裸でベッドに入っても、襲うどころか身体を触ることすらしてこなかったジャックである。むしろちゃんと性欲があるのか疑いたくなるレベルだ。

 

「……でもまあ、別に拒否はしないよ。ジャックの気持ちに応えられるなら、そんなに嬉しいことは無いからね」

 

 とはいえもしもジャックがその手の行為を求めてきたなら、赤ずきんは応えてあげるつもりだ。ジャックの気持ちに応えられる嬉しさは元より、きっとジャックに幸せにしてもらっている分のお返しもできるだろうから。

 二人きりの時はジャックに甘えてばかりだし、誰かがいる時はお姉さんらしく振る舞い恋人らしいことをあまりしてあげられていないのだ。一応はお互いに想いあっているのだし、こんなお返しの方法もありのはず。

 

「ふふっ。赤ずきんさん、本当にジャックのことが好きなのね」

「もちろん! ジャックを笑顔にするためなら、あたしは何だってやれるよ!」

 

 自信満々に言い放ってから、ふと目の前の少女もジャックのためなら何でもやりそうだと気が付く。

 しかしその想いなら赤ずきんだって負けはしない。尤もジャックの幸せのためにジャックを譲ることが出来るかどうかということは、骨抜きにされてしまった今はさすがに自信がなかったが。

 

「……あっ。でもさ、一つだけ聞いても良いかな?」

「ええ、何かしら?」

「もちろんジャックを拒否したりはしないけどさ……やっぱりそういうのって、痛いのかな……?」

「その……私に聞かれても、答えに困るのだけれど……」

 

 そこだけちょっと心配だったのでそれを尋ねてみるも、さすがにアリスにも分からないようだ。まあ痛くてもそこは我慢するしかないだろう。ジャックともっと深い関係になれるのなら必要な代償とも言えるのだから。

 なので赤ずきんは唯一の心配事を抱えながらも、ジャックが目を覚ます前にこの場を後にした。当のジャックはヘッドホンのおかげか全く話の内容が聞こえなかったらしく、ぐっすりと気持ち良さそうに熟睡したままであった。

 

(それにしてもジャックの奴、気持ち良さそうに眠ってたなぁ……ううっ、あたしお姉さんなのに何かむかむかしてくるよ……)

 

 それ自体は別に問題ないのだが、アリスの膝枕で気持ち良さそうに眠っていることにちょっぴりむっと来てしまう赤ずきんだった。どうやら赤ずきんは自分で思っているよりもヤキモチ焼きだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャックぅー!」

 

 その日の夜、二人きりの部屋の中で赤ずきんはいつも通りジャックに飛びついた。

 赤ずきん自身が甘えん坊なところもあるとはいえ、皆の前ではお姉さんとして振舞うのでその分心のままにジャックと触れ合いたい衝動が溜まっていってしまうのだ。なのでこうして定期的に発散しているわけである。

 

「わっ!? もうっ、どうしたの赤ずきん? さっきも甘えてきたのにまだ足りないの?」

 

 しかしほんの十分くらい前にもこうして甘えたばかりなので、ジャックもちょっとだけ呆れ気味だ。まあそれでもしっかり赤ずきんの身体を受け止めて優しく頭を撫でてくれているあたり、やはりジャックはジャックというべきか。

 

「いやー、足りないってわけじゃないんだけどさ、お風呂上りに甘えるとジャックがちょっと嫌がるからね。だからその分、今甘えておこうかなって」

「ま、まあ、お風呂上りはさすがにね……」

 

 赤ずきんの指摘に対して、頬を染めて言葉を濁すジャック。どこからどう見ても恥ずかしがっている感じの反応だ。

 

(もしかしてジャックの奴、本当にあたしの身体で興奮してるのかな? だとしたらその反応も納得なんだけど……)

 

 しかし水着ありとはいえこれまで一緒にお風呂に入っても何もしてこなかったし、今は裸でジャックのベッドにお邪魔しているというのにやはり何もされていない。ここまで来ると本人が何を言おうと、どうにもジャックが赤ずきんの身体に興奮を催しているとは思えなかったのだ。一応赤ずきんとしては自分の身体にだけは女の子としての自信があるのだが。

 

「……赤ずきんさん、実はちょっと大事な話があるんだ」

「おっと、大事な話って?」

 

 赤ずきんが甘えているにも関わらずジャックが呼び捨てを止めた為、真面目な話だと察して一旦抱きつくのをやめる。密着状態から離れて顔を合わせてみれば、予想していた通りジャックは真剣な面持ちをしていた。

 

「実は二つあるんだけど……ショックかもしれない方と、かなりショックかもしれない方、どっちから先に聞きたい?」

「怖い言い方するね、あんた……じゃあ、ショックかもしれない方で」

「うん、分かった。実は今日の昼頃のことなんだけど……僕、実は屋上で昼寝しようとしてたんだ」

(あ、これひょっとしてアリスに膝枕されてたことかな? 黙ってれば良いのにわざわざ話すなんて、ジャックは本当に正直だなぁ……)

 

 真面目な顔で、そしてどこか申し訳無さそうに語るジャックには悪いが、赤ずきんはどうしても微笑みを抑えられなかった。あんな浮気でも何でもないことを気に病んだ様子でわざわざ語るとは、本当にジャックは誠実で素直な奴である。

 確かに本人に体力や力は無いが、そこを除けば赤ずきんの恋人は非の打ち所の無い良い男なのだ。嬉しさと幸せに笑みを浮かべてしまうのも仕方が無かった。

 

「だけどそこにアリスが――って、何でニヤニヤしてるの?」

「いや、別に。ジャックのこと見てると何か笑顔になっちゃうんだよね」

「そ、そうなんだ……えっと、続けるね? そこにアリスが来て、しばらくお喋りしてたんだけど……僕、眠気に耐えられずに途中でそのまま寝ちゃったんだ。それで、気が付いたらアリスに膝枕されてて……」

 

 やはりその話だったらしく、申し訳無さそうに語っていくジャック。

 というかジャックはこの程度のことで赤ずきんがショックを受けるとでも思っているのだろうか。仮にこれがアリス以外の血式少女だったとしても、多少思うことはあってもショックというほどではない。まあ血式少女以外の女の子だったならさすがにショックを覚えたかもしれないが。

 

「へー、そうなんだ。アリスの膝枕は気持ちよかった?」

「えっ? そ、それは、まあ……って、赤ずきんさん、感想はそれだけ?」

「んー、これが親指とかネムとかなら思うところはあるけど、仮にもあんたの幼馴染のアリスだからね。それくらいじゃ浮気とか思ったりしないから安心しなよ、ジャック」

「そ、そっか。良かった――って、うわっ!?」

 

 まあショックではないにしてもちょっとだけ思うところはある。なので赤ずきんはほっとした様子のジャックの身体を引き倒すと、強制的に自らの膝を枕にさせた。

 

「でも、アリスの膝枕が気持ちよかったっていうのにはちょっと思うところがあるかな? ジャック、あたしの膝枕とどっちが気持ち良い?」

「えっと、その……あ、赤ずきんさん、です……」

「よし! 良い子だね、ジャック!」

 

 顔を赤くして目を逸らしつつ答えるジャックに、にっこりと笑いかける赤ずきん。何だか無理やり言わせたような気もするが、実際赤ずきんの太股の方がアリスの太股よりも気持ち良いはずだ。たぶん。

 

「あははっ、ありがとう……それで、次の話なんだけど――」

「おっと。ダメだよ、ジャック。まだあたしの膝枕で横になってないと」

 

 話の続きをするために身体を起こそうとしたジャックを制し、再び横にならせる。これだけやるとさすがにヤキモチを焼いていることがバレるかもしれないと思ったのも束の間、ジャックは仰向けの状態で珍しそうな表情をしていた。これはきっとバレたに違いない。

 

「……赤ずきんさん、本当はヤキモチ焼いてる?」

「まあ、ちょっとはね。ジャックがあたし以外の女の子の膝で気持ち良さそうに眠ってたって考えると、ちょっと胸がムカムカするよ」

「そうなんだ。ヤキモチを焼く赤ずきんさんも可愛いなぁ……」

 

 やはりバレたようなので隠さず語ると、ジャックは微笑ましいものを見るような笑みを浮かべていた。その笑みの可愛らしさはかなり男っぽくないものの、赤ずきんとしてはこれが大好きな笑顔なのだ。

 

「今回は仕方ないことだけど、あんまりお姉さんにヤキモチ焼かせると酷いからね。ジャック?」

「うん、肝に銘じておくよ。それで赤ずきんさん、本当にこのまま話を続けて良いの? 次はかなりショックかもしれない方だよ?」

「大丈夫大丈夫! ジャックが大袈裟に言ってるだけってことはさっきので分かったからね。気にしないで話しなよ?」

 

 少しショックかもしれない話が、赤ずきんがほんのちょっぴりヤキモチを焼く程度の話だったのだ。それなら大した話でないのは容易に予想がつく。だから赤ずきんはこのまま話をされても問題はないと思っていた。

 

「大丈夫かなぁ……じゃあ言うけど――赤ずきんさん、もう今夜からは僕のベッドに入ってくるのは禁止だからね?」

「……えっ」

 

 しかし今度は見事に予想を裏切られる。突きつけられた言葉はかなりショックなどという生易しいものではなかった。それこそしばらく思考が停止してしまうくらいには衝撃的であった。

 

「えっと……そんな世界の終わりみたいな顔されると、僕も困るんだけど……」

「あ、いや、その……よ、よし! ジャック、一旦座って話しあおっか!」

「もうっ、だから言ったのに……」

 

 これは膝枕しながらまったり話せるような内容ではないため、意識が戻った赤ずきんはジャックを膝から起こして向かい合う形に座り直す。本当はもっとくっついていたいが、今はそれよりも重要な話をしなければならない。

 

「えっと……さっき、ジャックは何て言ったんだっけ?」

 

 もしかしたら聞き間違いかもしれないので、まずは内容を聞き返す所から。

 赤ずきんにとってジャックと一緒に眠る時間はこれ以上無いほどの安らぎを得られる幸せな時間だ。それが無くなってしまうことなど絶対に信じたくない。

 

「もう今夜からは僕のベッドに入ってくるのは禁止、だよ」

「それってつまり……逆にジャックがあたしのベッドに入ってきてくれるってこと!?」

「凄く前向きに捉えたね、赤ずきんさん……」

 

 その言葉が表す意味を口にしたところ、どこか呆れたような顔をするジャック。どうやらジャックの方からベッドに入ってきてくれるわけではないらしい。となると必然的に赤ずきんが最も怖れている事態になるわけで――

 

「それも違うよ。今夜からはお互いに自分のベッドで寝ようってことだよ」

 

 最悪の予想が的中し、ジャックは非常に残酷な言葉をかけてきた。無論眩暈がするほどショックな現実をそのまま受け入れることなどできるわけがなかった。

 

「な、何でさ!? あっ、もしかしてあたし寝相が悪かったかな!? じゃあそれを直したら一緒に寝ても良いよね!?」

「寝相も関係ないよ。理由は、その……えっと……」

 

 必死に抗議して何とかまた一緒に寝てくれるようお願いしてみるが、ジャックは頷かないし駄目な理由も口にしてくれない。一応口にしようとはしているものの、言いにくそうに視線を彷徨わせるばかり。

 その様子から赤ずきんは理由を察すると共に、確かな怯えを抱いた。

 

「……あ、あたしのこと……嫌いに、なったとか……?」

「そ、そんなわけないよ! それだけは絶対に無いよ!」

 

 ぽつりと呟くように尋ねた所、力強い否定が返って来る。表情も先ほどまでの戸惑いや困惑に満ちたものではなく、真剣極まりないもので。どうやら赤ずきんのことを嫌いになったわけではないようだ。それが分かってひとまずは安堵する赤ずきんであった。

 

「じゃ、じゃあ、どうして?」

「それは、その……」

 

 再度尋ねると、やはり言い辛そうな顔をするジャック。良く見れば頬が朱色に染まっているし、どことなく恥ずかしそうにしている様子だ。

 しかしこれでは埒があかないと感じたのか、やがて決意を瞳に滲ませると真っ直ぐに赤ずきんを見つめてきた。頬は変わらず赤いままで。

 

「あのね、赤ずきんさん。僕だって男なんだ。だから好きな女の子が裸で隣に寝てるなんて状況、ずっとは我慢できないんだよ。赤ずきんさんはその、凄くスタイルも良いし……」

「えっ? が、我慢って?」

 

 予想外の言葉をかけられ、目を丸くしながらも尋ねる赤ずきん。確かにスタイルには、というかスタイルくらいにしか女の子としての自信はさほど無い。とはいえ魅力的だと口にしながらも一切行動を起こさなかったジャックのせいで、最近はその自信もなくなってきていたのだが。

 

「もうはっきり言っちゃうけど、正直興奮を抑えるのも限界なんだ。だから、もしまたベッドに入ってきたら、その時は……」

「そ、その時は……?」

 

 思わずジャックの言葉を反芻する赤ずきん。不思議なことにこの時胸の中には一緒にベッドで眠れない寂しさよりも、ジャックが今から口にする事実への期待が満ちていた。

 

「……もう、我慢しない。遠慮なく、赤ずきんさんを襲っちゃうからね」

「お、襲うって……そういう、意味だよね……?」

 

 真面目な顔で言い切り問いに頷くジャックに対して、赤ずきんは自らの顔が熱をもって行くのを感じた。

 もちろん内容に対して感じた羞恥心のせいであるが、実際は結構喜びが大きかった。何せジャックが間違いなく赤ずきんの身体に魅力を覚えていることが、これではっきりと証明されたのだから。しかも襲い掛かりたいほどに魅力的である、と。

 

「言っておくけど、もう服を着てても関係ないからね? それと、同じ理由で僕が入ってる時にお風呂に入ってくるのも禁止だよ。もしそんなことをしたら……分かるよね?」

「う、うん……」

 

 真面目な顔で、しかし頬を赤く染めながら注意してくるジャック。何だかんだでやっぱり恥ずかしい話題らしい。まあ赤ずきんも多少は恥ずかしいので気持ちは分かるが。

 

「ごめんね、赤ずきんさん。僕だって我慢していたんだけど、もう限界なんだ。これ以上されたらきっと、寝込みを襲っちゃいそうだから……」

 

 酷く切実な顔をするジャックに、改めて赤ずきんはその苦痛を思い浮かべる。きっと赤ずきんにとっては穏やかで幸せな時間であっても、ジャックにとっては真逆であっただろう。触れられる距離にいるのに触れられないなど、甘えるのを禁止されるくらいに辛そうだ。

 

「じゃ、ジャックは悪くないよ。むしろあたしが魅力的っていうジャックの言葉を軽く見てたあたしのせいだね。本当にごめん、ジャック……」

「分かってくれたなら良いんだよ。それじゃあ、これからは気をつけてね?」

「うん。たっぷり気を付けるからもう安心しなよ、ジャック?」

 

 赤ずきんの答えに対して、心からほっとした様子を見せるジャック。恐らく本当に我慢の限界だったのだろう。むしろ良く今まで耐えてきたものだ。

 もしも立場が逆だったなら赤ずきんは耐えられる自信が無かった。それほどまでの我慢を強いてきたのだ。だから、その苦労は報われてしかるべきだろう。

 

(大丈夫だよ、ジャック。もう我慢なんてしなくて良くなるからね!)

 

 なので赤ずきんは決心した。今夜も変わらずジャックのベッドにお邪魔しよう、と。

 その結果ジャックに食べられてしまうことになろうとも問題など全く無いし、むしろ望む所なのだから。

 

「じゃあ僕は久しぶりに一人でお風呂に入ってくるね? 間違っても入ってきちゃ駄目だよ?」

「あははっ。入らないから安心しなって、ジャック?」

 

 今夜だけはとはあえて言わず、どこか軽い足取りでお風呂に向かうジャックを見送る赤ずきん。たぶん久しぶりに一人で入浴できるから気持ちが楽なのだろう。

 

「……よし、行動開始だね!」

 

 ジャックの姿を見送ってから、赤ずきんは行動を開始する。大人な行為の経験はほぼゼロだし、残念ながら圧倒的に知識も足りていない。それではきっとジャックに満足してもらうことはできないだろう。

 なので様々な知識を授けてもらうため、すぐさま協力者であるグレーテルの元へ駆けていく赤ずきんであった。以前聞かずに後悔したことがあったため、今回はどんなに生々しい話でも耳を傾けることを固く心に決めて。

 

 

 

 




 次回、最終話。
 余談ですが親指姫の話の方でアリスが若干冷たく当たっているのは、親指姫がアリスとタイマンで腹を割った話をしていないからだったりします。本人がそれを意識しているかどうかは別として。
 次回で終わりだけど、一応初夜くらいは投稿したいなぁ……できたらもう少し他にも……

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