ジャック×赤ずきん   作:サイエンティスト

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 ジャック×赤ずきんの三章です。二章の時点で某赤髪ツンデレツインテロリ姉様より関係が進んでいる気がしないでもない。
 初っ端から衝撃の展開がありますがお気になさらず。






3章:新たな問題
両想いの朝


「ん、ぅ……」

 

 朝、ジャックは穏やかな眠りからぼんやりと目を覚ました。

 ハルが部屋の扉を直してくれたため、ジャックが眠っていたのは自分の部屋だ。今までは赤ずきんの部屋に泊まらせてもらいベッドを隣り合わせて寝ていたので、目を覚ますと恋人の可愛らしい寝顔か可愛らしい微笑みのどちらかが広がっている素晴らしい朝を迎えられていた。

 しかし自分の部屋に戻った今、目の前には赤ずきんの姿は無い。ジャックはそれをとても寂しく感じた。何故ならジャックも赤ずきんのことが好きで、本当の恋人同士になったのだから。大好きな恋人の姿が無ければ誰だって寂しく感じて胸が痛むはず。

 

(……あれ、何だろう? 何か背中が凄く温かいし、柔らかい何かが触れてるような……?)

 

 ただジャックは寂しさを感じても胸は痛まなかった。何故か背中がとても暖かくて、その熱に心を癒されているように感じたのだ。その包み込むような温もりの如き暖かさに。

 不思議に思って寝返りを打ち、背後を確認すると――

 

「……えっ?」

 

 ――そこには正に大好きな恋人、赤ずきんの姿があった。可愛らしい寝顔で規則正しい寝息を立て、ぐっすりと眠っている赤ずきんの姿が。

 実は意外と寂しがり屋で甘えん坊な所がある赤ずきんだ。ジャックが自分の部屋に戻ってしまうことが寂しいと言っていたし、ベッドに潜り込んできたとしても何ら不思議ではない。

 だからジャックもそのことにはさほど驚きを覚えなかった。呆けた声を出してしまったのはもっと別の理由からだ。その理由が真実なのかを確かめるため、半ば無意識に赤ずきんの身体を覆うシーツを捲り――

 

(赤ずきんさん何も着てない! 服どころか被り物――じゃなくて被り物どころか服すら着てないよ!?)

 

 ――即刻シーツを首元まで引き上げ、見えたものを全て頭の片隅に追いやった。

 そう、ジャックが驚いたのはこれが原因。隣に眠る赤ずきんが衣服を何も身に着けていないように見えたのだ。まあ見えたというか、つい確認してしまいそれは純然たる事実だと判明してしまったわけなのだが。

 

(ど、どうして裸の赤ずきんさんが僕のベッドに!? ていうかどうして被り物すら無いの!? それで大丈夫なの、赤ずきんさん!?)

 

 混乱と疑問に支配されながらベッドを抜け出た所、隣のベッドに赤ずきんが身につけていたと思しき衣類が積まれているのを発見した。それも丁寧に折りたたまれ、一番上にナイトキャップを置いた状態で。

 ここから導き出される推論は二つ。一つ目は赤ずきんは自分で衣服を脱ぎ去り、自らの意思でベッドに入ってきたということ。

 ただしこちらは可能性が極めて薄い。そもそもそんなことをする意味が何も無いのだ。寝る時やジャックの背中を流そうとお風呂場に突入してきた時も、形は違えど被り物をしっかり用意していた赤ずきんだ。被り物が無いと不安になってしまうのだし、すでにジャックと赤ずきんは本物の恋人、不安に耐えてまで被り物を脱ぎ去る理由などどこにもない。

 つまり可能性が極めて高いのは二つ目の推論。すなわち――

 

(ぼ、僕、もしかして……赤ずきんさんと、そういうことをしちゃったってこと……?)

 

 ――ジャックと赤ずきんの間で、赤ずきんが服を脱ぐ必要がありそうなとても大人なやりとりがあったかもしれないということ。

 確かにもうジャックと赤ずきんは両想いの恋人同士。ならばその手の行為をしても何ら不思議ではないだろう。だが実際に本物の恋人同士になったのはつい昨日の出来事。それにジャックにはそういうことをした記憶は全く無いし、赤ずきんと違ってしっかり衣服も着込んでいる。ならば一体何故こんなことになっているのか。

 

「よ、よし、一旦落ち着こう。落ち着いて昨日何があったかを順番に思い出すんだ、僕……」

 

 さっぱり訳が分からないジャックは軽く深呼吸を繰り返し、まずは順を追って昨日の出来事を思い出すことにした。

 幸せそうに眠る可愛らしい恋人に対し、できればまだ目を覚まさないで欲しいと切実に願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、皆集まったね。それじゃあこれから晩御飯なんだけど、その前にあたしとジャックから話しておきたいことがあるんだ。とっても大切な話だから皆真面目に聞きなよ?」

 

 夕食の席、集った血式少女達全員の前で赤ずきんがそう切り出す。

 赤ずきんと本当の恋人になりキスも済ませたジャックが次に行いたかったのは、他の皆に自分たちの関係を伝えること。元々皆に秘密にしていたのはジャック自身の気持ちが分からなかったことに原因があるため、両想いとなった今では隠す意味はどこにも無い。なので改めて皆に話したいと頼んだ所、赤ずきんは快くどころかむしろ嬉しそうに頷いてくれたのだ。

 

「何よ赤姉、突然改まって。あ、もしかして赤姉が部屋の扉をぶっ壊した話?」

「そんな話で改まる必要があるんですか~? 別段驚くに値しないことだと思いますけど~」

「いえ、私は驚くべきことだというか、もっと違う反応をすべきだと思うのだけれど……」

 

 騒ぐほどの話ではないという感じの親指姫とかぐや姫に対し、反応に困っているのはアリス。

 昼間にジャックとのキスを邪魔された怒りからハルに向かってベッドを投げつけた赤ずきんであるが、結果はもちろん悲惨なものであった。すんでの所で扉を閉めて逃げていたハルには怪我こそなかったものの、代わりにベッドも扉も大破して使い物にならなくなってしまったのだ。ジャックの部屋の扉が直った矢先にこれである。

 

「うーん……関係ないってわけじゃないんだけど、ちょっとその話とは違うかな?」

 

 しかしその話題に関しては今触れることではないし、すでにジャックと赤ずきんの間では解決策も決めてある。まあ嬉しいような苦しいようなかなり複雑な解決策ではあるのだが。

 

「では何の話だと言うのだ? 何でも良いからワレは早く食事をしたいじょ! ……ぞ!」

「ラプンツェルもおなかへったー! はやくたべたーい!」

 

 焦れたように続きを促すのはハーメルン。ただし真面目な話だと前置きしたからか、それとも誰もまだ食事には手をつけていないせいか、無視して食事を始める気は無いらしい。それはラプンツェルも同様だ。

 

「……どっちから言おうか、赤ずきんさん?」

「そうだね。本当はジャックから言って欲しい気持ちもあるんだけど、今回はあたしが言うよ。何だかんだで先に惚れたのはあたしだしね?」

「ああ、その話なのね。なるほど」

 

 赤ずきんの意味ありげな言葉に皆が首を傾げる中、グレーテルだけが全てを理解した表情で頷く。というかグレーテルは赤ずきんにジャックを落すための相談を受けていたらしいので、実際全てを理解しているのだろう。

 

「先に惚れた、とは一体どういう意味ですの? 赤ずきんさん……あなた、まさか……!?」

 

 その言葉から結論に至ったらしく、驚愕に息を呑むシンデレラが赤ずきんへと目を向ける。ほぼ同時に皆も同じ結論に至ったらしく、同様の瞳で赤ずきんを見ていた。まあ若干二名ほどは皆につられただけで分かっていない感じだったが。

 皆の視線を一身に受けた赤ずきんは一つ得意げに笑うと――

 

「うわっ!?」

「そうだよ、シンデレラ! 実はあたしとジャックは付き合い始めたんだ! そういうわけだから皆、あたしの男にちょっかい出さないようにね?」

 

 ――ジャックの肩をグッと引き寄せ、恥ずかしげも無くはっきりと言い放った。これには身体を引き寄せられたジャックも、そしてそれを眺めていた他の皆も驚愕に瞳を見開いていた。最初から交際の事実を知っているグレーテル以外は。

 

「そ、そうなんですか!? おめでとうございます、赤姉様! ジャックさん!」

「ん……おめでと……!」

「あははっ! おめでとー!」

 

 しかしそんな驚きを一瞬で済ませたのがおよそ三名。白雪姫に眠り姫、そしてラプンツェルだ。尤もラプンツェルに関しては発言の意味が分かっていなかったらしく、皆と違ってそもそも驚きを示していなかったのだが。

 

「ありがとね、白雪、ネム、ラプ。やっぱあんたたちは素直に祝福してくれると思ったよ。まあラプは良く分かってないんだろうけどね?」

「じゃ、ジャック、少し良いかしら? 付き合い始めたというのは、その……具体的にはどんな意味なのかしら?」

 

 三人に続くのはアリス。だが他の三人とは明らかに反応が異なっていた。何やらどことなく不安そうな顔をして、付き合うという言葉の意味をジャックへ尋ねてくる。

 どうしてそんな顔をしているのかちょっと気にかかるが、ジャックにできるのは正直に話すことだけだ。何故なら自分たちのことをアリスにも祝福してもらいたいから。

 

「それはもちろん交際を始めたって意味だよ。僕と赤ずきんさんが恋人同士としてね?」

「こ、交際、ですって……!?」

「ど、どうしたお嬢!? お嬢! しっかりするのだ、お嬢!」

 

 酷く衝撃を受けたような顔で固まってしまうアリス、そしてそんなアリスをがくがく揺さぶるハーメルン。この反応からするとどうやらアリスはあまりにも突然のことに理解が追いつかないらしい。

 

「えっ? ほ、本当にジャックさんは赤ずきんさんとお付き合いを始めましたの?」

「うん、本当だよ。まあ、正直僕なんかじゃ全然赤ずきんさんには釣り合わないけど……」

「釣り合いなんかどうでも良いよ。あたしたちがちゃんと想いあってればそれで十分だからね」

「赤ずきんさん……」

 

 事実とはいえ多少卑屈な答えをシンデレラに返したところ、他ならぬ恋人である赤ずきんが慰めてくれた。釣り合いなんてどうでも良い、自分たちがしっかり想いあっていれば関係ない。そう解釈できる優しい言葉を。

 確かにジャックと赤ずきんはしっかり両想いになったし、皆も反対こそしていない。全てを知っているグレーテルがただただ薄い笑みを浮かべて無言でいるのが気になるといえば気になるが、恐らくは興味深いものとしてじっくり観察しているだけのはず。

 だから何も問題は無い。ジャックはそう考えてほっと一息ついた。

 

「いやいや、ありえないでしょ。あの赤姉がジャックなんかと? あははっ! ちょっと二人とも、寝ぼけるにはまだ早いわよ?」

「なかなか面白い冗談でしたが荒唐無稽すぎて驚きは薄いです~。もう少し真実味のある冗談を考えてから出直してきてください~」

 

 しかし若干二名、反対するどころか全く信じていない者たちがいた。ジャックと赤ずきんが交際しているのは事実なのに、他愛の無い冗談として笑い飛ばすくらいに信じていない。まあ頼りになる皆のお姉さんである赤ずきんの相手が真逆とも言えるジャックでは当たり前かもしれないが。

 

(親指姫とかぐや姫は全然信じてくれないなぁ……まあ気持ちは分からないでもないけ――ど!?)

 

 どうやって信じてもらおうか考えようとしたその瞬間、ジャックは赤ずきんに身体を引き寄せられて思考を中断させられた。驚きに目を丸くしてしまうのも束の間、今度は顔の向きを無理やり変えさせられ――

 

「――っ!?」

 

 ――唇を同士を重ねるキスをされた。皆が見ている前だというにも関わらず、見間違いなどできないほどはっきりがっつり。赤ずきんの唇の柔らかさと微かな温もりが感じ取れるくらいに。

 これには周囲の血式少女達のほぼ全員が驚愕の声を零していた。まあ一番驚いたのはキスされたジャック当人なのだが。

 

「ふぁ……あ、赤ずきんさん、いくら何でも今のは……」

「し、仕方ないじゃん。これくらいしてみせないと信じてもらえないみたいだしさ……」

 

 こんなに大胆な真似をしてきたというのに、当の本人はキスを終えた途端に頬を染めて恥らいを露にしている。男らしさを覚えて憧れてしまうくらいカッコ良いのに、本当はこんなに可愛くて女の子らしいなんて相変わらず反則である。

 

(こんなに素敵な子が僕の恋人なんだ……やっぱり、僕って幸せ者だなぁ……)

 

 そんな素敵な恋人の可愛らしさに堪らなく愛しさが沸いてきて、恥じらいも忘れて笑みを浮かべてしまう。

 目の前にいるのはジャックの笑顔が見たくてあまり似合わない回りくどいことをしていた赤ずきん。故に当然のことながら向こうも恥じらいを忘れたように、にっこりと嬉しそうに笑ってくれた。

 

「どうかな、親指? かぐや? これでも信じられないっていうならもう一回やってみせたって構わないよ?」

 

 そして信じなかった二人へとしたり顔を向ける。

 目の前でキスなどされたせいか、二人はもちろんのこと祝福してくれた白雪姫たちさえも頬を染めて目を丸くしていた。ちなみに一番衝撃を受けていたらしいのはアリスで、今や完璧に凍り付いている。

 

「……赤姉、マジなの?」

「大マジだよ。だからあんたたちにも祝福してもらえると嬉しいんだけどな、あたしとジャックのこと」

 

 たっぷり数秒は間を置き、神妙な面持ちで尋ねてくる親指姫にそう答えを返す赤ずきん。しかもまたしてもジャックの肩に腕を回しながらだ。

 目の前にこれ以上無いほどはっきりと証拠を突きつけられたのだから、親指姫だってきっと信じてくれるはず。ジャックはそう思っていたのだが――

 

「いやいや、ありえないでしょ!? あの赤姉が!? ジャックなんかと!? ちょっと赤姉、正気なの!?」

 

 ――どうやら納得がいかなかったらしい。親指姫は信じられないといった表情で席を立ち、赤ずきんの正気を疑いつつジャックを貶める台詞を口にする。

 

「親指、確かにジャックは細くて体力も無くてしょっちゅう倒れる情けない奴だけど、それでもあたしの大切な恋人なんだ。あんまり酷いこと言うと怒るよ?」

(うん。酷いこと言ってるのは赤ずきんさんだと思う……)

 

 あまりフォローになっていないフォローに、ジャックは心の中でツッコミを入れる。実際に口に出来なかったのは何一つ間違っていない紛うことなき事実だからだ。また口にしたのが自分とは正反対に強くて体力もある赤ずきんだからこそ余計に。

 

「わらわとしては相手にジャックを選んだことより、赤ずきんが色恋沙汰に目覚めたことの方が衝撃です~。まさかたかだか七日間ジャックと共に部屋で過ごした程度でこんな事態に陥ってしまうとは、正直なところ夢にも思いませんでした~」

「え? あー、いや、それは……」

 

 かぐや姫の言葉に赤ずきんが少々困った顔をして視線を泳がせる。

 たぶんその理由は自分たちの恋愛があの七日の中で始まったことだと思われているからだろう。実際の所はその前から赤ずきんがジャックに片想いをしていたわけだが、それを言うと余計に場が混乱しそうだし、何より赤ずきんから告白したのだということが分かってしまう。

 ただし、ついさっき赤ずきんが先に惚れたのは自分だと口にした以上、大多数の少女達はどちらが告白したかもすでに分かっているはず。恐らく親指姫とかぐや姫が信じてくれないのはそれが原因に違いない。

 ジャックは皆の前で保ちたい面子や姿はさほど持たないが、赤ずきんの方は頼りになる皆のお姉さんとして振舞いたがっている。そのイメージをできる限り壊したくは無いはずだ。ならばジャックがやるべきことは一つしかない。

 

「それは違うよ、かぐや姫。赤ずきんさんは僕の気持ちに応えてくれただけなんだ。さっき赤ずきんさんが言った先に惚れたっていうのも僕を気遣っての言葉で、本当に先に好きになって告白したのは僕の方だからね?」

「え? じゃ、ジャック?」

 

 皆のお姉さんのイメージをあまり変えないよう、自分が先に告白して赤ずきんは応えてくれただけということにしておく。まあ先にではないが一応告白をしたのは事実だし、それほど大きな嘘はついていない。

 もちろん事実の改変に赤ずきんがきょとんとしていたので、話を合わせるように視線を向けてお願いしておくことも忘れない。

 

「まあ! 本当はジャックさんから告白いたしましたのね!?」

「おー……ジャック、大胆……!」

「なるほど。ジャックから、ね……ふふっ」

 

 赤ずきんからの告白よりは信じやすいのか、誰も疑いを見せず感嘆の声を零す。まあ全てを知っているらしいグレーテルだけは意味深な笑いを零していたのだが。

 

「あー、なるほどジャックからか。なら納得できなくもないわね。どうせ断るのも可哀想だから仕方なくオーケーしてあげたとかそういうわけでしょ? 赤姉は優しいし」

「なるほど、そういう事情でしたか~。まあ赤ずきんが恋愛に目覚めるなど、わらわが働き者になるくらいありえない事態ですからね~」

「えーと……ま、まあ、そんなとこだよ! 凄い真剣だったし断るのも可哀想だからさ、仕方なくオッケーしてあげたってとこかな?」

 

 親指姫もかぐや姫もこれには納得を示してくれたため、赤ずきんもしっかり話を合わせてくれた。これで頼りになる皆のお姉さんとしての面目は守れたわけである。まあちょっと不本意そうな顔をしているのが少し気にかかるが。

 

「あ、あの、ちょっと良いですか? 今仕方なくオーケーしたと言いましたけど、赤姉様はジャックさんのことをどう想っているんですか?」

「え? あー、それは……」

 

 しかしそんな白雪姫の質問に皆のお姉さんの視線は頼り無さげに泳ぎ、何故か今まで凍り付いていたアリスも復活して極めて真剣な面持ちへと表情を変える。

 頼り無さげな視線は助けを求めるようにこちらへ向けられたものの、こればかりはジャックにはどうしようもない。なのでジャックがしたのは子犬のような可愛らしい目に微笑ましさを覚え、思わず微笑みを零すことだけだった。なお、助けてもらえないと分かったらしく赤ずきんは一瞬不満げに眉を寄せていた。

 

「ま、まあ、何とも想ってないならオッケーしたりしないよ。ジャックのことは、その……嫌いじゃないしね?」

 

 それでも話を合わせることは忘れず、あくまでも嫌いじゃない程度に想いを口にする赤ずきん。実際の所はジャックのことが大好きで自分から告白してきたのだが、その事実を知るのは自分たちとグレーテルのみ。故に誰も赤ずきんの言葉を疑う様子は見せなかった。

 

「おやぁ……これは脈がありそうですね、ジャック~? 頑張ればそなたでも赤ずきんをものにできるかもしれませんよ~?」

 

 ただし疑う様子は見せなかったものの、代わりに妙なニヤニヤ笑いを向けてくるかぐや姫。

 からかわれていることは表情を見れば分かるし、何より実際にはすでにものにしていると言っても過言ではない。なのでジャックはからかわれても別段動揺を覚えたりはしなかった。

 

「そうだね。じゃあもしそうなったら君は働き者になってくれるのかな?」

「そうですね~。もし本当に告白したのが赤ずきんからだったなら、それもやぶさかではありませんでしたよ~?」

(どうしよう、今凄く真実を言いたい……!)

 

 余裕綽々のかぐや姫の姿に、猛烈に真実を話してやりたくなってくるジャック。

 赤ずきんのお姉さんとしてのイメージを守るために真実は伏せることにしたものの、かぐや姫が働き者になるのなら今すぐにでも話してやりたい気分であった。まあ本当に働き者になるとは思えないので何とか我慢はできたのだが。

 

「んー……まあ、赤姉がちゃんと考えた上で付き合ってるってんなら私はとやかく言わないわ。何だかんだでジャックなら信用はできそうだしね」

「ありがとね、親指。皆もあたしたちのこと認めてくれたってことで良いかな?」

「ん……ん……!」

「はい! 赤姉様とジャックさんならお似合いだと思います!」

「ええ、もちろんですわ。お二人が決めたことなら、私たちが口を挟めることではありませんもの」

「ふふっ。私にとっては今更言うまでも無いことね」

「うむ! 何だが良く分からんが貴様らのことを認めてやろうではにゃいか! ……ないか!」

「うん! ラプンツェルもよくわかんないけどいいよー! それよりもおなかへったー!」

 

 いまいち信じていなかった二人も加え、皆がジャックと赤ずきんの関係を認め祝福してくれる。まあ若干名状況を良く理解していない少女たちもいたが、その辺りは追々で構わないだろう。

 

「ありがと、皆。あとラプはもうちょっとだけ我慢してくれるかな? まだ一人だけ教えてもらってないからさ」

 

 今にもよだれを垂らさんばかりの表情で夕食を眺めるラプンツェルから視線を外し、赤ずきんが見やったのはアリス。皆が頷き笑う中、一人だけ真剣な面持ちで黙し答えを口にしていなかったのだ。

 

「……ジャック。その、一つだけ聞いても良いかしら?」

「うん、良いよ。何が聞きたいの、アリス?」

 

 答えが気になってジャックも視線を向けたところ、変わらぬ真剣な面持ちがこちらに向けられる。

 ニヤニヤ笑ってからかいそうなかぐや姫あたりならともかく、聞きたがっているのは真面目なアリスだ。表情を見ればふざけているわけではないのは手に取るように分かったので、ジャックも躊躇い無く頷いた。

 

「ジャックは、その……本気で赤ずきんさんのことが好きで、交際をしているのかしら?」

 

 すると投げかけられたのはそんな質問。

 アリス自身はかなり真面目に聞いているようなのだが、何故かこの質問に大多数の少女たちは瞳を輝かせてジャックに視線を向けてきた。瞳が輝いていないのはまだ良く状況を理解していないラプンツェルとハーメルン、そしてニヤニヤ笑っているかぐや姫と親指姫くらいだ。

 

(これ、たぶん僕が何て答えるか期待してるんだろうなぁ……皆の期待に沿えるかどうかは分からないけど、正直に言うしかないよね?)

 

 何となく視線を隣に向けると、そこには頬を赤くしてちらちらとこちらを見やる赤ずきんの姿。皆の手前一見興味無さそうに振舞っているものの、その瞳は誰よりも期待に輝いていた。

 皆の前で自分の気持ちを打ち明けるのはなかなか気恥ずかしさを感じるものの、恋人のこんなに可愛らしい様子を目にしてしまえば何ら難しいことではなかった。

 

「うん、本気だよ。僕は赤ずきんさんのことが大好きだから、誰よりも近くでその力になって支えてあげたいんだ。まあ、僕にできることなんてもの凄く限られてるんだけどね?」

 

 ジャックがそう答えたところ、期待通りの答えだったのか血式少女たちは花のような笑顔を浮かべてくれる。

 もちろんそれは隣に座る恋人も同じ。見ればさも嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、今にも抱きつきたそうにうずうずしていた。まあ皆の前なので何とかその気持ちは抑え込んでいるようだが。

 

「そう……ジャックがそう決めたのなら、私も特に反対はしないわ。おめでとうジャック、赤ずきんさん」

「うん。ありがとう、アリス」

 

 にっこりと微笑み、皆と同じように祝福してくれるアリス。

 しかし何故だろうか。笑ってはいるが他の皆とは異なり、ジャックにはどこか寂しそうな笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうっ。皆僕たちのこと認めてくれて良かったぁ……」

 

 皆に自分たちの関係を打ち明け、見事認めてもらえた後。そのまま皆で普通に夕食を摂ったジャックは赤ずきんと共に部屋へと戻っていた。

 ちなみにここでいう部屋とは扉が直ったジャックの部屋のこと。赤ずきんの部屋は昼間の不幸な事故により扉が破壊されてしまったため、風通しが良くなりすぎて落ち着けなくなってしまったのだ。

 もちろん大好きな恋人をそんな部屋で過ごさせる気は毛頭無いので、扉が直るまで部屋に泊めてあげることは話し合った上で決まっていた。第一つい少し前まで同じように泊めて貰っていたのだから当たり前といえば当たり前だ。また一緒に同じ部屋で暮らせるためか、赤ずきんが嬉しそうにしていたのは言うまでもない。

 

「そうだね。何かいまいち信じてなかった奴らもいたけど、一発見せ付けてやったらもの凄い驚いてたしね。いやぁ、あの時のかぐやと親指の顔は傑作だったなぁ!」

「僕だって凄く驚いたよ。まさか皆の前でいきなりキスしてくるなんて……」

 

 赤ずきんは満面の笑みを浮かべているものの、ジャックは思い出しただけで顔が火照ってきてしまう。別にあれ自体が初めてのキスではなかったものの、皆の前でキスしたのは間違いなく初めてのことなのだから。

 

「あれは信じてもらうためだから仕方ないって言ったじゃん。ま、まあ……ジャックがあたしの恋人だってことをしっかり見せ付けて、他の子に取られないようにしておきたかったってのもあるにはあるんだけどさ……」

 

 笑みを浮かべていた赤ずきんだが、僅かに独占欲の滲んだ本音を吐露するにあたりぽっと頬を染めていた。おまけに恥ずかしそうに視線を逸らすという可愛らしい素振りつき。凄まじいまでの破壊力である。

 

(何であんなに大胆で積極的なのにこんなに可愛いんだろう。本当に赤ずきんさんは卑怯なくらい魅力的だなぁ……)

 

 そんな恥らう卑怯な魅力を持つ恋人の姿を眺め、微笑ましさと幸福感についつい頬を緩めてしまう。

 同じ部屋で一週間共に過ごした結果、今では完璧にその可愛らしさに魅了されてしまったわけである。

 

「あ、そうだ。ジャック、そういえばどうして告白があんたからってことにしたの? 本当はあたしからなのに」

「ああ、それは赤ずきんさんのためだよ。頼りになる皆のお姉さんが僕なんかに告白したなんて話すのは、お姉さん的にはちょっと良くないことだろうからね?」

 

 恥らう最中に思い出したように尋ねてくる赤ずきんへ、ジャックは迷い無く答える。

 真実を話しても皆がお姉さんとしての赤ずきんに幻滅しないことは分かっているものの、多少は何か思うことがあるかもしれない。だからこそジャックはそのお姉さんとしてのイメージを変えてしまわないよう、偽りの馴れ初めを口にしたのだ。

 その方が赤ずきんも喜んでくれると思っていたのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。極めて複雑そうな面持ちを浮かべていた。

 

「いや、あたしは別にそこまでは気にしないけどさ……」

「でも僕が本当のことを言ったとしても、他の皆はともかくきっと親指姫とかぐや姫は信じてくれなかったと思うよ。だから今はそういうことにしておくのが良いんじゃないかな?」

「うーん……何かいまいち納得いかないよ。本当は先に好きになったのも告白したのもあたしなのにさ……」

「まあまあ。皆の素敵なお姉さんでいるためにそれくらいは我慢しようね、赤ずきん? ほら、おいで?」

 

 不満そうな赤ずきんの姿を目にして、ジャックが取った行動。それはベッドに腰かけ、両腕を広げて甘えん坊な恋人を招くこと。

 赤ずきんは頼りになる皆のお姉さんだが、その中身はとても甘えん坊な可愛らしい女の子。この一週間で身を以ってそれを理解したからこそ、ジャックはそれを利用して我慢させるという手を思いついたのである。

 そしてその作戦通り、甘えん坊な恋人は抵抗するように躊躇いを見せながらも数秒もかからずに腕の中へと身を寄せてきた。

 

「ううっ……お姉さんなのに何でか丸め込まれてるよ、あたし……そしてそれが分かってるのに甘えちゃうあたしがいる……」

 

 悔しそうに呟きながらもジャックの胸に顔を埋め、背中に手を回してぎゅっと抱きついてくる赤ずきん。その可愛らしさにジャックは思わず微笑みを浮かべてしまう。

 

(本当に可愛いなぁ、赤ずきんさんは。お姉さんなのに子供みたいに甘えん坊で)

 

 今までは仮の恋人だったので多少は遠慮していたものの、本物の恋人となった今は何も遠慮することなどない。それに本物の恋人同士になった時に赤ずきんは言っていたのだ。キスしたいなら好きなだけキスさせてあげる、と。それなら躊躇う理由はどこにもない。

 

「んっ――」

 

 胸にべったりと頬を寄せていた赤ずきんの顔を上げさせ、ジャックはその唇を奪う。溢れる愛しさから、そして皆の前でいきなりキスしてきた仕返しも兼ねて。

 唇に伝わる瑞々しい感触に徐々に鼓動が高鳴っていくのを感じつつ、数秒ほどしてから口付けを終える。すると目の前には赤ずきんの幸せそうにはにかむ表情が広がっていたため、ジャックも同様の心地で微笑みを浮かべた。

 

「……ジャックがすっごい嬉しそうに笑ってる……いつもはあたしも嬉しくなるけど、今は何かちょっとムカつくなぁ……」

(あ、またちょっと不機嫌そうになった)

 

 ただ口車に乗せられ弄ばれている形だったせいか、赤ずきんは思い出したように頬を膨らませて腕の中から見上げてくる。

 しかし甘えながらも子供っぽくご機嫌斜めな表情をする姿がとても可愛らしく、余計にジャックの頬の緩みは深くなってしまう。それがまた気に入らないのか更に頬を膨らませる姿は、最早頼りになる皆のお姉さんとは思えないほど幼かった。

 

(こんな姿を見せてくれるのも僕のことが大好きだからなんだよね。照れるけどやっぱり嬉しいなぁ……)

 

 自分にだけ見せてくれる本当の姿に微笑ましさを覚え、思わず笑ってしまうジャック。今笑うと赤ずきんの怒りを逆撫ですると分かってはいたものの、卑怯なくらい可愛らしい恋人が腕の中にいるのだ。我慢することなどできるわけがなかった。

 

「……そうだ! ジャック、せっかく皆にあたしたちのこと認めてもらえたんだ。だから今度はお父さんにも報告に行こうよ!」

「えっ!? お、お父さんって、もしかして博士のこと!?」

 

 一瞬むっとした表情を見せた赤ずきんだが、次の瞬間恐るべき提案を笑顔で口にしてきた。育ての親とはいえ恋人の父親への挨拶という一世一代の覚悟を必要とするイベントを、笑顔というにはちょっと含みがありすぎる表情で。

 

「他にどのお父さんがいるってのさ。ほら、善は急げだ! 早速報告に行くよ!」

「ま、待って!? 幾ら何でもお父さんに挨拶は気が早すぎるっていうか!? 僕の心の準備もできていないっていうか!?」

「大丈夫大丈夫! お父さんだってジャックのことは認めてくれるよ。何せあたしが惚れた男だからね。さ、行くよ!」

「うわっ!? そ、そんな引っ張らないでよ、赤ずきんさん!」

 

 先ほどまでの仕返しのためか、それとも父親に交際を祝福してもらいたいのか、いてもたってもいられないという様子の赤ずきんに手を引かれ無理やり部屋から連れ出されてしまう。

 どうやらもう覚悟を決めるしかないらしい。どのみち遊びで赤ずきんと付き合っているわけではないのだから、遅かれ早かれその父親である博士への挨拶は避けて通れない道だ。

 

(で、でも、まさか本当の恋人になったその日に挨拶に行くなんて思わなかったなぁ……)

 

 しかしどうしても考えてしまうのはそのこと。両想いになったその日に父親へ挨拶しに行かなければならないことや、本当の恋人になる前に一週間も同じ部屋で暮らしたこと。そして告白される前にキスされてしまったこと。順番がおかしかったり明らかに早すぎたり、色々と変な所がある自分たちの関係について。

 今はまだ大丈夫だが、これ以上その調子が続くといずれ取り返しのつかない事態になるかもしれない。ジャックはこの時、漠然とそんな不安を感じていた。

 

 

 





 目が覚めたら隣に裸の恋人が。果たしてジャックは赤ずきんと致したのか、致していないのか。真相は後々。
 皆に関係を打ち明けたりからかわれたりするシーンは好きですが、他に想いを寄せていた子がその中にいる時はちょっと微妙な気分になりますね……ハーレムの方ではちゃんとイチャイチャさせるから許してください、幼馴染さん……。


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