交錯特異点/異邦人の観測者   作:白鷺 葵

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・ペルソナシリーズ×FGOのクロスオーバー
・予告風味
・続く予定は一切なし
・シリアス


真相観測:仮面の記録 親愛なる人類へ/試練を始めようか

 魔術師にとって、神秘の秘匿は重きを置くべき要素だ。神秘は「明らかにされていない」からこそ神秘足り得る。

 

 神代の魔術や魔術師が世界を回していた時代、魔術は世界を動かす大きな力だった。だが、時代が過ぎゆくにつれ、魔術と神秘は力を失っていく。

 現代では、魔術師は神秘の担い手としての力を失いつつあった。魔術は科学によって取って代わられ、いずれこの世界を動かす指針になるだろう。

 神秘は神秘としての価値を失い、魔術は神秘の凋落によって力を失い、やがて廃れて滅びていく。魔術師も、いずれは魔術と一緒に運命を共にする。

 

 

 ――果たして、そうだろうか?

 

 

 現代には、既に神秘は存在しない――そんなことを、誰が決めたのだろう?

 現代では、神秘に関する事象は意味をなさない――そんなことを、誰が証明したのだろう?

 周りの人間たちが言っているから? 大多数がそう主張するから? それが絶対的な真実であると、どこに記されているのか。

 

 

「キミたちは“人理を観測し、正しく記録する者”だ。観測者たるキミたちには、その謎を解き明かし、観測し、記録する義務がある」

 

 

 金色の目をした青年は、人の良い笑みを浮かべた。

 彼の言葉に呼応するように、施設中の計測器が唸りを上げて“特異点の出現”を告げる。

 

 

 ――指し示された場所は、日本。

 

 年代は2000年代が始まって十数年が経過した頃。

 つまりは、藤丸立香がカルデアに召集される1年前の時代だ。

 

 

「カルデアのマスター。キミはここに来る前に、変わったニュースを見聞きしたことはないかい?」

 

 

 青年は金色の目を細め、問いかけてきた。

 

 

「20XX年、日本中を騒がせた奴らがいただろう。名を“心の怪盗団『ザ・ファントム』”。腐った大人の欲望を奪い取り、『改心』させてきた謎の集団だ」

 

 

 最後の戦いを見ただろう、と、青年は笑う。当時の出来事を思い出せ、と、カルデアのマスターへ促した。

 

 暫し思案したマスターは思い出す。12月24日のクリスマス――赤い雨が降り、巨大な骨が天を覆った、悪夢のような光景を。あの日、見知らぬ怪盗団へエールを送ったときのことを。

 あの日、自分は怪盗団の存在を信じていた。世界が救われるようにと願った。今では喧騒や多忙の中ですっかり忘れ去ってしまっていたし、現在では半ば『夢を見ていたようなものだ』と考えている。

 

 

「――では、『あれが夢ではなかった』としたら?」

 

 

 青年の言葉に、マスターは思わず目を見張る。

 クリスマスに見た光景は、カルデアで初めて学んだ魔術云々以上にヤバイものだ。

 あんなものが『夢ではなかった』としたら――。

 

 マスターは吸い寄せられるように興味を持つ。

 青年はにっこりと笑って、星見台の者たちを誘う。

 

 

「あの日何があったのか、キミは正しく識るべきだ」

 

 

 観測者の義務である、と。

 人間の好奇心を煽るかの如く。

 

 

「『統制を望む神と、自由を求めて反逆した人類』の1年戦争遊戯(ゲーム)を」

 

 

 ――青年は、朗々とした口調で語り始めた。

 

 

***

 

 

 生徒に暴行を加えてのさばっていた、元オリンピック選手にして金メダル所持者のセクハラ教師。

 門下生の描いた絵を自分の作品だと偽り、盗作していた日本画家の権威。

 高校生の弱みに付け込み、借金でがんじがらめにして搾取し続けた渋谷のヤクザ。

 インターネットを根城にし、世界中で悪事を働いていたクラッカー集団。

 政治家になるという夢のため、社員共々会社ごと使い潰そうとしていたブラック企業の社長。

 欲望の成就のためだけに多くの命を喰らい、国までも喰らおうと画策した、総理大臣に一番近い男。

 

 腐った大人を悉く『改心』させた怪盗団。

 彼らの正体が、キミと同じ年代の少年少女だと知ったら、キミはどう思う?

 

 ――そして、彼らが最後に『改心』させた相手が、『本物の神』だったとしたら?

 

 神を倒した現代の人間。神秘を殺した少年少女。

 彼らの存在は、観測するに値しないか?

 するはずだ。そんな出来事、観測せずにはいられない。

 

 では、カルデアのマスター。その目で、すべてを記録せよ。

 

 

 

 

人理定礎:不明

 

<第1観測>

A.D.20XX 大衆欲望都市 メメントス

黒き衣の反逆者(トリックスター)

 

 

 

討伐対象:ヤルダバオト

クラス:ルーラー/人類悪(ビースト)-怠惰/静観

 

 

 

 “神が悪を成すならば、悪魔の王で成敗する”。

 

 なんて滑稽な始末だろう。なんて愉快な結末だろう!

 まさしく、ピカレスクロマンの完結を彩るに相応しい!!

 

 

*

 

 

 現代の少年少女による神秘の行使――その1つの形、『ペルソナ』。

 魔術の世界を知るキミが一体何を思ったのか、それはキミ以外分からないだろうね。

 

 カルデアのマスターよ。キミは『真実』についてどう思う? 魔術の世界に踏み込んで、大なり小なり、キミは魔術師たちの行動原理に触れたはずだ。様々な手段を講じて魔術の世界を覆い隠す彼らの姿に対し、一般人であるキミが何を考えたか、想像に難くはない。

 魔術師の行動原理に触れたキミならば、魔術の世界に足を踏み入れたキミならば――先の特異点で『神殺しを成した少年少女』が自らの偉業を秘匿するに至った経緯を目の当たりにしたキミならば、世間一般の言う『真実』が、いかに薄っぺらいものか分かるだろう。

 

 『真実』なんて、幾らでも嘘やまやかしで誤魔化せる。重すぎる『真実』を、人間が受け止められるはずがない。

 都合の悪い『真実』を直視できないし、誰かに見せるわけにもいかないからな。

 

 だから人間は、嘘をつく。

 だから人間は、『真実』を霧で覆い隠す。

 だから人間は、都合のいい『真実』しか見ない。

 

 世界は嘘で満ちている。世界は偽りで満ちている。そして人間は、その偽りを享受する。

 自ら目を曇らせて、自らが望むまやかしの中で生き続ける。

 

 なんて浅はか。なんて愚か。なんて滑稽。

 

 ――「そんなことはない」だって?

 

 ああ、ああ、ああ! そうでなくては!! カルデアのマスター。キミはあの観測で、『真実』を知りたいと思ったな!? 偽りに満ちた世界に別れを告げ、鋭利な真実へと手を伸ばすのか!

 触れれば幾千もの痛みに塗れ、鋭利な傷が刻まれて、真紅の血を汚らわしく撒き散らすことになっても、キミは『真実』を望むのか! ()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 いたのだよ、カルデアのマスター。

 キミのように、『真実』を求めて戦ったペルソナ使いたちが。

 そうしてキミもまた、『真実』を求めている!!

 

 ならば、その戦いの歴史を紐解いてみるとしよう。

 

 舞台は日本の田舎町。猟奇的殺人が流行る、霧に満ち溢れた地だ。

 では、カルデアのマスター。その目で、すべてを記録せよ。

 

 

 

 

 

人理定礎:不明

 

<第2観測>

A.D.2012 虚実霧世界 八十稲葉

幾万の真言

 

 

 

討伐対象:イザナミ

クラス:ルーラー/人類悪(ビースト)-虚偽/逃避

 

 

 

 都合のいい嘘に溺れることは、悪いことではない。それもまた、人間の弱さであり業である。

 だが、不思議なことに、「弱いままでいることはできない」と立ち上がる者がいることもまた事実。

 

 霧を見通す器具(メガネ)など本当は必要なかった。己の目で『真実』を見極めるのだという意志があれば、ただそれだけでよかったのだから。

 

 

*

 

 

 人は神を凌駕する――これまでの観測結果で、キミたちはそんな確証を持っているようだね。

 

 けれど、その認識は正しくない。世の中には()()()()()()()()()()が存在している。

 人間では変えられない――否、()()()()()()()()()()()()()、絶対的なモノだってあるのさ。

 

 例えばの話だ、カルデアのマスター。キミやキミの周りにいる人間は、いつか死を迎えるだろう? 老衰か、病気か、不慮の事故か、殺されるか――形はどうあれ、最後はみんな死ぬ。

 財力や権力を有する人間が死に抗おうと四苦八苦したが、結局、その定めから逃れることは不可能だった。英霊の歩んだ生涯を最後に閉じるものは、いつも『逃れられぬ死』だろう?

 抗えぬからこそ、いずれ辿り着く終わりだからこそ、時に人は『死』を意識するものさ。同時に、『死』を意識すると言うことは、『死』に興味を抱くことと同義だ。

 

 蛾が篝火の炎に近づくように、野生動物が迫る車を見て立ち止まるように、人が断崖絶壁に近寄るように。

 

 生きとし生けるものは、『死』に惹かれずにはいられない。興味を抱かずにはいられない。『死に触れ』たがらずにはいられない。

 しかし、忘れるな。『死』へ興味を持つことが、キミ自身――あるいは人類そのものが、滅びの道を辿る引き金になりかねないことを。

 

 ……だからといって、『死』は悲しいことではない。惨いことではない。それがなければ、人間の世界は循環しないのだ。

 そんな当たり前の摂理に喧嘩を売った馬鹿がいたようだが……まあ、それはどうでもいいことだな。話を戻そう。

 

 “限りある命を精一杯生きる”――それが、キミたちが選んだ選択だ。それを掲げ、キミたちは戦い続けている。数多の業と、生き汚さを世界に刻みつけながら。

 ……成程。私が何を言わんとしているのか察したのだな、カルデアのマスターよ。その通り、その通りだ。――嘗てキミたちと同じ選択をして、足掻き抜いた者がいたのさ。

 絶対的な『死の宣告者』に立ち向かい、己の命を賭してまで、『いのちの答え』を指示したペルソナ使いが! “限りある命を精一杯生きる”権利を守り抜いた者が!!

 

 不可避の命題の前で、人は様々な選択を迫られる。恐怖を押し殺してでも足掻く者、破滅へ向かって駆け出す者、何をすればいいのか分からず右往左往する者――どれも人間らしい反応だ。どれが正しくて、どれが間違っている訳ではない。極限状態で平静を保っていられる人間の方が珍しいくらいだ。

 そういう人間の方は、私は好きだ。だって面白いじゃないか。滅びを受け入れ死ぬ人間より、無様を晒しながら足掻き続ける人間の方が、ずっと見ていたいと思わないか? その目に映った現実を見たとき、一体どれ程――……ああ、すまない。熱を込め過ぎてしまったか。

 

 ならば、その戦いの歴史を紐解いてみるとしよう。

 

 誰も知覚できない影の時間を知覚し、自由に動ける少年少女がいた。

 これは、彼らが“限りある命を精一杯生きる”権利を手にするまでの旅路。

 

 では、カルデアのマスター。その目で、すべてを記録せよ。

 

 

 

 

 

人理定礎:不明

 

<第3観測>

A.D.2009 月光影時間島 巌戸台

救世主の愛した宇宙(ユニヴァース)

 

 

 

討伐対象:ニュクス

クラス:アルターエゴ/人類悪(ビースト)-死/摂理

 

 

 

 救世主は、月の塔で封印を守る。人がみだりに『死』へ触れてしまわないように。

 その答えは、この世界を愛したが故に。この答えは、宝物を守らんとした故に。

 

 愚かだろうと、無意味だろうと、きっと救世主にとっては「どうでもいい」ことなのだ。何故なら、答えを出した己自身が、一番満足しているのだから。

 

 

*

 

 

 さて、カルデアのマスターよ。

 キミは、何らかの事情によって隠蔽され続けた神秘を観測した。

 キミは、この世界に隠されていた『真実』を記録したのだ。

 

 現代でも巻き起こる神秘のぶつかり合いを、神話の如き戦いを、誰も知らない英雄を、キミは目撃し、観測し、余すところなく記録してみせた!

 素晴らしい。キミは素晴らしい人間だ。よくもまあ、足を止めずに歩き抜いたものだ。素直に賞賛するよ。

 

 

 

 ――ときに、カルデアのマスター。

 

 ペルソナ使いたちの戦いは、2009年以前から始まっていたと言ったらどうする?

 強大な神へと挑む少年少女の姿を、キミと同じような想いを背負って戦い抜いた歴戦の戦士の姿を、見てみたいとは思わないか?

 いいや、見るべきだ。観測し、記録するべきだ。星見台の観測者よ、キミたちにはその義務がある。

 

 ほら、見るがいい。キミたちを誘うかのごとく、戦いの舞台は特異点という形で出来上がったぞ!

 さあ早く、早く早く早く! 観測し、記録せよ。その事象を見届けよ。それこそが、キミたちの責務なのだから!!

 

 

 

 

 

人理定礎:不明

 

<第4観測>

A.D.1999 罪科蔓延都市 珠閒瑠

そうして世界は滅亡し(ほろび)ましたとさ

 

 

 

討伐対象:アドルフ・ヒトラー

クラス:アヴェンジャー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見ただろう、カルデアのマスター。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。1人の人間が犯した大罪によって。

 そうしてこの男は再び罪を犯し、世界は再び滅びへと動き始める。

 

 

 

 星見台よ。お前たちは『真実』を観測した。本来あるべき事象を観測し、記録した。

 これが何を意味しているか、お前たちは分かるか?

 

 お前たちは、()()()()()()()()()()()()()()()

 『観測してはいけない事象(もの)』を『観測』し、『記録してはいけない事象(こと)』を『記録』した。

 故に、滅びは固定される。世界の滅びが確約される。――すべては、この瞬間の為だったのだ!!

 

 

 おめでとう、カルデアの諸君! お前たちのせいで、世界が滅ぶ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ほう。成程な。いい目をしている。

 

 ――そうだ。私は、その目が見たかった。

 

 ――滅びの定めを突きつけられても尚、自己を確立せんとする眼差しが見たかった!

 

 

 今までの出来事は、私がお前たちに与えた試練に過ぎない。

 

 だが同時に、私はお前たちの心の闇そのものだ。この試練に挑んだ者が乗り越えることよりも、試練に対峙し戦い抜いた果ての破滅を好む。

 人間という種族が滅びぬ限り、私は何度でも復活する! 私の存在は、人類がこの惑星で栄華を極め続ける限り、決して殺すことはできないのだ!

 故にお前たちは、私と共存していく以外にない。因みに私は、人の保全や守護など一切興味はないのでな。ああいったのはフィレモンの専門特権だろう。

 

 

 ――さて。

 

 人の繁栄が保障され続ける限り、滅びることのない“人間の心の闇”。

 どうしようもない現実を、運命を前にして、立ち上がるつもりなのだな。

 

 ああそうだ。それでいいのだ。試練とは、そういうものなのだから。

 

 

 ――これでもかと言わんばかりの絶望を前にしても尚、抗うというのなら。

 

 ――無様を晒してでも、足掻き続けるというならば。

 

 ――「まだ終わっていない」と、「終わらせてなるものか」と立ち上がるならば!

 

 

 私は待っていよう。星見台の人間、カルデアのマスターよ!

 観測点で結んだ縁を手繰り寄せ、仮面の力を宿した神秘の行使者たちと共に、この絶望に対峙せよ!

 そうして味わうがいい。どうにもならない現実を、どうにもできない真実を、何も変えられぬ運命を!

 

 足掻いた果てに絶望し、死んでいくがよい。

 足掻いた末の破滅こそ、我が最大の愉悦である!!

 

 

 

 

 

人理定礎:不明

 

<第5観測>

時代不明 常闇悪神領域 モナドマンダラ

善神と悪神の狭間で

 

 

 

 

討伐対象:ニャルラトホテプ

クラス:アルターエゴ/人類悪(ビースト)-試練/負

 

 

 

 

 我が名はニャルラトホテプ。人間の普遍的無意識が持つ負の面から具現した、破滅を司る悪神。

 足掻き抜いた果ての滅びと破滅こそ、我が最大の愉悦なり。――さあ、その瞳を、絶望で彩ってくれ。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 光に縋り続ける者に、私の打倒は不可能だ。

 まやかしに逃げ続ける者に、私の打倒は不可能だ。

 

 

 問おう、カルデアのマスターよ。

 

 夢や希望、可能性や絆という輝かしいまやかしに傾倒することなく。

 『影との戦いは永遠に終わらない』という事実から、逃げることなく。

 

 過酷な現実や世界の無常さと真正面から向き合った上で、それでも尚、現実に立ち向かえるか?

 

 




カルデアの人たちに対して、ニャルラトホテプに「おめでとう! お前たちのせいで世界が滅ぶ!!」と言わせたかっただけのお話。
P3までとクロスオーバーした予告編なら他の方が書いていらっしゃいましたが、罪罰関連はノータッチだったなあと思った次第です。
悪神が『カルデア側にペルソナ側の戦いを観測させることで、罪世界と同じ試練を再現しようと思いついた』ことから始まった、という体。
リメイク前の罪のラスボスがヒトラーだったので、多分規約違反にはならないハズ。何かあったら、リメイク版のフューラーに変えます。

クラスは、別作品で読者様が仰っていた内容をベースにして決めました。ニュクスは生まれ方と影響関係を考えるとアルターエゴかなと思っています。
ニャルラトホテプはアヴェンジャーかルーラーかと思っていましたが、「普遍的無意識の負の権化=人間の負の面が集まったキメラ」という図式からアルターエゴに。
他にも何かいい案がございましたら、メッセージ欄に書き込んで頂ければ幸いです。

個人的には、フィレモンも人類悪の資質があると思うんですよね。ニャルラトホテプと共犯関係という意味で。

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