まるでこの世界の贅を全て集めたような城。通称……『雲を泳ぎし者たちの城』。その城の内部で一人の戦乙女が駆けるようにして歩んでいた。女の名前はヴァルキュリア。
その顔色には緊張の色が走っており、まるで何かを後悔しつつも苛立っている様子であった。
その場に誰もいなければ指の爪でも嚙み砕いたであろう。だが自らが歩くこの廊下は主と呼ぶ者により魔法的監視が常に行われているのだ。そのゆえ溜息の一つでもつこうものなら主からの叱責は勿論のこと、それ以上のことだってありえるほどだ。
ヴァルキュリアは廊下の果てに一つの大きな扉が見えた。その扉は開いておりその前に二人の門番が立っている。双子の門番であるフギンとムニンだ。それぞれカラスの模した鎧を着こんでおり、フギンは重装備にハルバード、ムニンは肌が見えるほどの軽装備に斧、それと腰に一本のダガーがぶら下がっている。
(私は主様に呼ばれた身………間違えてもここで殺される心配はないはず……だが…)
「主様にお目通りをお願いしたい」
「「………」」
ヴァルキュリア顔に緊張の色が現れる。二人がこちらに顔を向けるがカラスを模した兜からは表情は読み取れないこともそうだが、今の自分は主様にお目通りのために武器を所持していない。ゆえにこの二人が主様からの命令で"ヴァルキュリアを殺せ"と命じられていた場合、手も足も出せないまま殺されてしまうだろう。そのためヴァルキュリアは内心に現れた恐怖に抵抗するだけで精一杯であった。
「「主様!ヴァルキュリア・ムスペルヘイム様が参られました。いかがいたしましょうか?」」
廊下に沈黙が流れる。その瞬間、フギンとムニンの武器を持つ手に力が入るのをヴァルキュリアは見逃さなかった。
(……終わったな…)
「通せ」
扉の奥から聞こえたその声によって二人の武器を持つ手から力が抜けた。ヴァルキュリアは一先ず安心すると同時に「失礼します」とだけ告げて扉をくぐった。
◇ ◇
◇ ◇
大きな玉座。生命の樹を模したそれには九つの宝石が散りばめられており、そこに一人の男が座っていた。肘置きに左腕を使って頬杖をついている。その男は扉の入った所で
「ヴァルキュリアが一人、ヴァルキュリア・ムスペルヘイムがオーディン様に拝謁いたします」
「よくぞ来たヴァルキュリア。実はだが余も貴様を呼ぼうと思っていた」
頬杖をついていた男は顔色一つ変えずただ足を組んだ。だが今のヴァルキュリアにはその行動すら拒絶や侮蔑の類にしか見えなかった。
「それは……」
ヴァルキュリアは言い淀んだ。何故呼ばれたそうになったかは察しはついている。理由は間違いなく『あの一件』であり、そしてそのことは今からヴァルキュリアが報告しようとしたことでもあったのだ。
「理由は分かるな?近寄るといい」
「…はい。失礼します」
ヴァルキュリアがオーディンとの距離を少しだけ詰めるて膝を再び屈する。それと同時にパチンとオーディンが指を鳴らした。
その場に転移してきた他の八人の
九つの
それこそが…
アースガルズ、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ニダヴァール、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、二ヴルヘイム、ヘルヘイム。
そして今膝を屈しているムスペルヘイムである。
「すまないな。貴様たち。忙しい所…悪いがよろしく頼む」
「我ら、ヴァルキュリア一同、オーディン様の為ならばいつ、いかなる状況においても参ります」
最も姉であるヨトゥンヘイムの戦乙女が代表して声を出し膝を屈した。
「貴様たちの忠誠に感謝しよう」
「はっ。勿体なきお言葉でございます」
「さて……話を戻そうか。ムスペルヘイム・ヴァルキュリア。いや今は他の八人がいるためムスペルヘイムと呼ばせてもらうが構わないな?」
「……はい」
「余が貴様を呼ぼうとした理由、貴様が余を呼ぼうとした理由、この二つは同じだ。理由は分かるな?」
「…はい」
「そうか……。ならば貴様たち
「…戦死した戦士たちの中から"ワールド"に相応しい戦士を選出することです」
「そうだ。その選出した中から競い合わせ、殺し合わせる。残った優秀な戦士に"ワールド"の祝福を授け、そして余の尖兵とする」
「その通りでございます」
「どこがその通りだ?」
氷のような冷たい空気が場を支配した。その声は怒りよりも冷たく突き放すような印象すら受ける。
「貴様は確かに仕事を果たした。だが……」
「待ってください!あの一件は確かに私の担当する"ワールド"で起きたことです。しかしあれは奴の暴走であって、私が原因で起きたことではありません!」
「黙りなさい。愚妹、オーディン様の言葉を遮るなど言語道断。今すぐ首を刎ねられたいかしら?」
いつの間にかヴァルキュリアの首元にはハルバードの刃先が当てられていた。
「良い。ヨトゥンヘイムよ。余を思っての行動は嬉しいが今はよせ。話が先だ」
「はっ。申し訳ありませんでした」
「再び話が逸れたな。では今度は最後まで話すぞ。貴様が選出したワールドチャンピオン・ムスペルヘイムがボス化し、我らに対して許されざる行為を行った。余とその軍、それと下々の者たちの力を使うことでようやく消滅させることが出来た。だがそれで終わりではあるまい。この一件を起こした原因は間違いなく貴様だ。ヴァルキュリア・ムスペルヘイムよ。貴様が選出した戦士。アレは何だ?よもや余を害そうとでも思ったか?」
「……発言の許可を頂きたい」
「貴様に発言の許可は与えん」
「っ……」
「さて何故貴様はまだここにいる?」
「私を解任するおつもりですか?」
「分からないのか?」
オーディンのその言葉に他の八人の戦乙女たちの笑い声が聞こえる。それは間違いなく嘲笑の類であった。
「何で…姉上たちは笑っているのですか?」
「貴方、本気で分かっていないのかしら?……オーディン様はこう仰っているのよ。『既に解任した。その貴方が何故ここにいるのか?ここにいる資格や権利の無い貴方が何故、"まだここにいるのか"』そう問うているのが分からないのかしら?」
ヴァルキュリアは周囲に視線を向ける。身内であるはずの他の戦乙女たちですらヴァルキュリアに対し侮蔑の感情を向けている。
(何だ……何なんだこれは……こんなことが許されていいのか…)
「フギン!ムニン!」
「「はっ。何でしょうか?」」
「侵入者だ。捕らえて処刑せよ。二度と同じことが起きぬように…な」
その場にヴァルキュリアの味方はいなかった。
主と呼んで忠誠を誓っていたはずの男は冷徹な瞳を向け、それを守る双子の番人は武器を向け、身内であったはずの同じ戦乙女たちは侮蔑の感情を向け………
気が付くとヴァルキュリアは扉に向かって駆け出していた。
◇ ◇
◇ ◇
何も無い荒野。そこに一人の女が倒れていた。
戦乙女の証明であった羽飾りのついた兜は破壊され、
神の一族である証明の"神の羽"はもぎ取られ、
神に近い美貌とその肢体は多くの傷により失われていた。
逃走の果て、こうして荒野で横たわっていた。
だが何とか生き延びた。
「あぁぁぁぁぁ!クソ共がぁぁぁっ!」
何もない荒野で女は叫んだ。
「まだだ!まだ残っている!」
多くを失った。だが女にはただ一つだけ残されているものがった。
「知識…っだけは奪われなかった!失わなかった!ざまーみろ!」
あらゆる神話において、神が自分たちよりも下の存在にその知恵を授けたことは多々ある。
そしてここに新たな神話が生まれることになる。
「必ず貴様らに復讐してやる!一人残らず殺してみせる!」
そう……それこそが……
『ヴァルキュリアの失墜』である。
「……成程。今回の大型アップデートの内容はこんな感じなんですね」
「面白そうでしょう。モモンガさん」
「えぇ。この知識とか知恵って何なんでしょうね?」
「とあるサイトいわくパワードスーツとか銃火器、ガンナー系のクラスの追加とかそんな感じらしいですよ。詳しいことは分かりませんがね」
「へぇ。ウルベルトさん調べてくれたんですね。ありがとうございます」
「いえいえこれくらい。それよりも……これを機にあの野郎に一泡吹かせる装備とかクラスとか手に入れたいんですけど…時間大丈夫ですか?」
「えぇ。ぺロロンチーノさんも一緒に行きましょう」
「えぇ。行きましょう!」
「ありがとうございます。じゃあみんなで行きましょう!いざ!」
★★★
個人的に……
ユグドラシルの大型アップデート『ヴァルキュリアの失墜』ってこんなイメージです。
ヴァルキュリア(ワルキューレ)といえば神話や伝承から『エインヘリヤル』の話がまず出てきます。戦死(PK)した戦士をヴァルハラ(大会)に送る。
こう考えた場合、ワールドチャンピオンの大会というのは『エインヘリヤル』の中でも特に優秀な者という感じかな?というイメージです。
そしてヴァルキュリアの『失墜』ですが、
失墜とは……信用、権威を失うという意味があります。
なので何か大きなミスとか愚行でもしたのでは?と考えました。
となると原作内で描かれた内容から判断するとすれば
ワールドチャンピオン・ムスペルヘイムのボス化とその一連の出来事ぐらいしかないな。と思ったのでこれを書きました。
内容自体は前々から書きたかったのですが作者のやる気がかなり落ちていたので今日まで書けませんでした。
というよりこっちの作品を久しぶりに投稿しました!やったぜ!