オーバーロード<落書き集>   作:四季 春夏

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最初のワールドチャンピオン

______ユグドラシルで最強のプレイヤーは誰か?

 

 

 大半のプレイヤーは……

 

 

______ワールドチャンピオン

 

 

 この特別なクラスを持つ者たちであると答えるだろう。

 

 

 

 

 九つのワールドというマップが存在し、各ワールドごとに一人のみこのクラスを取得できる。

 

 このクラスを取得するのに必要な条件はただ一つ。

 

 運営が九つのワールドでそれぞれ開催する公式武術大会で優勝すること。

 

 ただそれだけだ。

 

 

 

 

 それだけだと簡単に思える。

 

 しかしそんな生易しいことでこのクラスを取得できる訳がない。

 

 

 

 

 大会の時期が近づくと多くのプレイヤーが大きく動き出す。この時、主に二種類のプレイヤーのタイプに分けられる。

 

 自身のビルドを見直すタイプ。それと脅威になり得るプレイヤーをキルしょうとするタイプだ。

 

 前者のプレイヤーは、必然的にレベルアップのために効率の良い狩場がをする。中にはこれを独占しようとするギルドも現れるがそんなギルドは少数派であり、大半は順番待ちをする方が大多数だ。少数派との間では比較的戦闘は起こらない。これは大多数を敵に回すと自分たちがPKされる可能性が出てくる、または大会終了後の報復を恐れてだ。

 反対に問題になりやすいのは後者のプレイヤーだ。大会の告知が始まるのは大体一ヵ月前であり、この準備期間とも呼べる時期に、公式が開示しているギルドの順位を参考にPKするされるは当たり前。これは大会で強敵となりうるプレイヤーのレベルを下げておくことで自分たちが勝ち上がるための策の一つであった。一部のプレイヤーは運営に苦言を申し立てたが運営はこれに対して「世界の可能性は小さくない」と返信。運営すらこの事態を黙認していた。

 

 

 

 

 これはどんなゲームにも言えることかもしれないが、

 

 『最強』と呼ばれる称号に憧れている者は多く、ゆえに尊敬や畏怖を集める。

 

 

 

 

 『最強』を欲す者には色々なタイプの人間がいる。

 

 

 これはそんな彼らの戦いである。

 

 

 


 

 

 

 ここヨトゥンヘイムでも公式武術大会が開催されていた。

 

 

 開催された場所は巨大な樹木が生い茂っている場所、通称『巨人の森』。その中央に位置する場所で正方形で作られた特設リングがあり、その周囲には観客席が設けられている。、そこで応援として来たプレイヤーたちが賑わっていた。

 

 

 

「さぁさぁ決勝戦!【トップ】vs【ジークフリート】。もうすぐ試合開始だぁ!」

 

 

 

 観客席に座る三人のプレイヤーがいた。三人とも同じギルドに所属し、亜人種のプレイヤー【しーかー】、異形種の【ラビット・フット】、人間であり紅一点の【アウロラ・オーローラ】がいた。

 

 

「【ラビット・フット】さん、さっき賭けてましたよね?金貨何枚賭けてきたんですか?」

 

「思い切って三十億枚っすね」

 

 

「はっ!?うちの総資産じゃないですか!?金庫番の貴方が何やってるんですか!?」

 

「【しーかー】さん、人生は一度きりっすよ!思い切ろうよ!」

 

 

「いやいや……。また無一文とか勘弁して下さいよ。まぁ……一応聞きますがどちらに賭けたんですか」

 

「そんなの決まってるじゃないですか」

 

 そう言って【ラビット・フット】は【アウロラ】を指さした。それを見て【しーかー】はどちらに賭けたかを完全に確信した。それなら大丈夫か。と安心感を得たのであった。

 

 

 【アウロラ】はそんな二人のやり取りを聞いておらず、熱い視線をリングに向けていた。

 

 

(勝ってね……対馬(つしま)くん)

 

 

 


 

 

 

 試合開始から十五分……。

 

 二人のプレイヤーは5メートル程の距離を取って対峙していた。

 

 全身に騎士装備を纏い、右手に直剣を持ちながら左手であらゆるものを使って戦ってきた【トップ】。

 

 

 

「はぁ……はぁ」

 

 (ハッキリ言おう。今俺が戦ってるやつは強い……それも無茶苦茶に)

 

 

 目の前に立つプレイヤー。右手にハルバードを模したであろう手斧……(ショートハルバードとでも表現すべきもの)と左手にダガーを振り回すプレイヤー【ジークフリート】。その全身には革で出来ているであろう鎧を纏っている。その外見から軽装備で回避重視の戦士と判断する。

 

 

 (こっちのHPが3割を切った。事前に把握している情報通りなら、そろそろ相手のHPは2割は切った頃だとは思ううんだが……。もしかして全身神器級(ゴッズ)だとしてその性能はHP上昇などに当てているのか?)

 

 

ユグドラシルにて戦士職には魔法職とは異なり相手のHPやMPを探る術は基本的に無い。その代わり相手の武器とぶつかりあった瞬間だけ相手の情報が判明するスキルなどはある。ただしそれはぶつかりあった間のみであるため、一方の武器のダメージが大きければそれを判明するためにあえてする理由にはなりえない。そのため戦士職というのは基本的に相手のHPやMPといった情報が無いため常に緊張感を持って戦闘を強いられる形になる。

 

 

 

 だが彼が持つ斧の一撃はかなりダメージを受ける。ダガーの扱いも非常に上手く彼自身のプレイヤースキルが非常に高いことの証左でもあった。

 

 

 

(いや今は準備してきた戦い方をそのままやるだけだ。後はアドリブでやってみせる)

 

 

 

 

 右手に持つ直剣や左手に持つ小盾がとてつもなく重たく感じる。

 

(おかしいな。痛覚とかは無いはずなんだけどな……HPが3割切ったからか。武器防具の耐久値は問題ない。流石に神器級(ゴッズ)だな……。ギルドのみんなの為にも俺は勝つんだ!)

 

 

 

 ジークフリートが駆け出した。

 

 

(集中しろ!)

 

 

 

______集中だ!!

 

 振り上げた斧の一撃。頭上から大きく振りかぶる形での斬撃であった。

 

 

______ここだ!

 

 トップはそれを回避しようとジークフリートの左側に入ろうと飛び出す。

 

 

______<上位転避(グレーター・ローリング)

 

 スキルを発動し、前方にローリング。それをを終えると足腰に力を入れて即座に立ち上がり両手で直剣を構えた。ジークフリートの斧は地面にただ叩きつけられたのか、硬直していた。

 

 

______いや違う。叩きつけた音はしなかった。

 

 視界に入れてはいない時、まともに得られる情報は聴覚しかない。そしてそれが音を拾わなかったということは。

 

 

______つまりあの動作は寸止めだ!間違いなく次の攻撃が瞬時に来る。だが……分かっててもここは行くしかない!<致命の構え>

 

 ジークフリートの左肩を目掛けて直剣の刃先を突き出す。しかし想像以上にジークフリートの斧捌きは早く、右手だけで持って円を描くようにトップに目掛けて振り回す。

 

 

______読んでたぜ!<グレーター・パリィ>

 

 左手に持った小盾で斧の一撃をパリィする。斧を弾いたことで態勢を崩したジークフリートに隙が出来た。

 

 

 

______食らえやぁぁぁ!

 

 直剣が腹に到達する寸前にジークフリートが左足を上げた。腹を突き刺すと同時に左足で地面を蹴りつけた。

 

 瞬間、地面に衝撃が広がった。

 

 

 

______ここで攻撃!ダメージはそれなりに受けたが大丈夫だ。気絶(スタン)への耐性は完全耐性にしている。スタン対策は万全。ステータスも全体的に上昇させている。金属鎧は雷属性に弱い。弱点を補うのはプレイヤーの最低条件だ。だからこそ振動属性に関しては全く耐性を上げてはいない。ダメージがモロに入る。

 

 巨大な槍が視界の端に映るのを捉えた。

 

 

______っ、不味い!<クイックステップ>

 

 トップは瞬時に距離を取ることを選択。すぐさま後方へと距離を取った。ジークフリートのダガーが目の前に突き出される。

 

 

______さっき態勢が崩れた状態から出来る攻撃は……<紫電一閃>あたりか!。

 

 トップは左手の小盾を指を広げたことで地面に落とした。すぐさまベルトの挟んでいるそれを取り出した。アイスの棒のような---課金アイテム---を取り出して折った。すると自身の姿を隠せる程の巨大な盾が瞬時に現れる。

 

 自身の持った大盾に衝撃を受けた。やはり攻撃系スキルを使用されたようだ。衝撃が消えたことで攻撃を防ぎ切ったのを確認すると大盾を振り上げた。

 

 

 

「うらぁぁぁ!」

 

 トップはジークフリートの顔を目掛けて殴りつける。

 

 

______<シールドバッシュ>

 

 ジークフリートが吹き飛ばされリングに倒れた。その際に武器であるダガーを落とした。

 

 

 

______チャンスだ!ここで一気にHPを削る。

 

 トップは駆け寄りながら大盾を放り投げる。再び課金アイテムを使用。左手に大剣が握られた。右手の直剣を投げ捨て、大剣を両手でしっかりと握った。それを大きく振りかぶって……。

 

 

 

______<大切断>!

 

 

 

「っ……」

 まるで最後の抵抗かの様に斧を投げつけてきた。トップはそれを最低限の動きで回避、顔の横を斧が飛んでいく。

 

 そう言ってジークフリートは右手を掲げた。そのスキルの名前は知っている。斧を持つプレイヤーが持つスキル。自身の手元に武器を手繰り寄せるものだ。

 

 

(<トマホーク>か!)

 

______そのまま背後からの一撃(バックスタップ)か!だがこっちの方が早い。

 

 自身の背中に向かって急速に飛んでくるであろう斧を意識しながらもトップは大剣を振り下ろした。

 

 

 

 ガキン!

 

 

 

 それは金属音。武器同士が衝突した音以外ありえなかった。

 

 

「なっ!」

「……」

 

 だが実際はそんなことなく、ジークフリートの左手、そのガントレットで<パリィ>された。

 

 

(いや違う!これはパリィじゃない。胴体を避けてクリティカルの可能性を回避しただけだ。いやそれよりも……)

 

 トップが気になったのはジークフリートの右手であった。そこには何も掴まれていなかった。

 

(しまった!さっきの動きで勝手に斧を掴むと思ってしまった。そうなると…)

 

 

 

______不味い!

 

 トップはすぐさま相手の胴体に両足を乗せて蹴るようにしてバック転。戻ってきていた斧を回避することに成功する。

 

 

 

 焦りもあった。しかし同時に冷静でもあった。地上に足を着ける前に何とか直剣だけを取り出せたのだ。直剣を両手に持ってジークフリートに向かって走り出すために着地と同時に走る。

 

それと同時に後悔したのだ。

 

(あっ、俺負けたわ……)

 

 そこにジークフリートの姿が無かったからだ。視界に映っていないからだ。それはつまり……。

 

 

 

それに(・・・)気が付きすぐに振り返ったトップ。その頭に斧が振り下ろされた。

 

 

 


 

 

「俺が最初か……」

 

 そう言葉を漏らしたのはプレイヤーの【ジークフリート】だ。彼は決勝戦で勝ち、見事優勝を果たした。

 

 

 

「……優勝したが、何かあるのか?」

 

 そんな彼に二つのメッセージが送られてきた。画面を操作して確認する。

 

 

 

『おめでとうございます! 【ジークフリート】 様。

貴方はワールドチャンピオンになりました。

これによりレベルアップの際にこのクラスを選択できるようになります。

後で優勝賞品を選ぶことが出来ますので今しばらく会場にいてください』

 

 

 

「……成程。何を選ぶか決めとかないとな。もう一つは?」

 

『おめでとうございます! 【ジークフリート】 様。

貴方は条件:一番最初にワールドチャンピオンになる を達成しました。

これは運営からのクリア報酬です。

どうぞ受け取って、更なる高みを目指して下さい。

 

    OK                    』

 

 

 

 OKを押すとメッセージが新たに表示された。

 

『【ファウンダー】 が 【運営】 様から贈られました。』

 

 

 

(ファウンダー?……どういう意味だ?俺、英語得意じゃないんだけどな。後で『しーかー』さんに聞いてみるか。あの人ならすぐに分かるだろう)

 

 受け取るとメッセージ画面を閉じ、ファウンダーをイベントりから取り出す。そこにはローリエの葉で出来た冠を指輪の形状にしたものがあった。

 

 

 

(俺は戦士だから、マジックアイテムの確認は出来ないが……これって凄いアイテムなのか?かつてオリンピックとか呼ばれた大会とかの映像で見たことある植物っぽいが……)

 

 

 

「これも後で聞いてみるか……」

 

 彼は知らなかった。この時手に入れたアイテムが世界級アイテムだったことを……

 

 

 

 


 

 

 

 

【ファウンダー】

 

『世界級アイテム』の一つ。外装は指輪。

入手方法は一番最初にワールドチャンピオンになること。

 

 

『形状』

指輪。

月桂樹(ローリエ)の冠(オリンピックの表彰式などで出てくるアレ)を指輪の形状にしたもの。

 

『効果』

職業(クラス)によるペナルティを全て無効化する。

他にもステータスの大幅上昇などもある。

 

『裏話』

運営からは「更なる高みを目指してほしい」という願いがある。

この願いが原因で「運営狂っている」と言われるのだが……。

 

 

 

【ハンドレット・ガントレット】

 ジークフリートが優勝した際に選んだアイテム。

 ギルド武器に匹敵する程のデータが込められたガントレット。一応分類上は神器級という扱い。

腕装備は両腕でセットなため両腕部分存在する。

 この防具の凄い所は軽装備でありながら物理・魔法ダメージを大幅に軽減できる特徴を持っていることであり、装着者がその気になれば「盾」として使用できる点である。

軽装備で回避重視の戦士に「防御」という手段を与えるのである。色々やべーアイテム。

ただし範囲攻撃のようなものには無力なので、あくまで接近戦をメインで行う戦士用の装備である。

 

 

 

 


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