東方有栖(アリス)伝   作:店頭価格

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99・祭りの後の騒がしさ(結)

 ぐだぐだになったとはいえ、決着は決着。

 戦いが終わった以上長居は無用と、私はバレないようにこっそりとロボから降りていた。

 頭部だけとなった鋼鉄魔王ロボは転送魔法で自宅の地下へと帰し、何食わぬ顔でレミリアたちとの合流を果たす。

 

「カッパアァアァァァアアァァッ!」

「ひゅいぃぃぃっ!」

 

 祭りの再開に合わせ、自分の屋台であるクレープ屋に戻ろうとしたところで遠くから二つの叫びが聞こえて来る。

 一人目が天子、二人目はにとりだ。

 ガンダ〇ファイトに出場しそうなボロボロのパイロットスーツを着込み、長髪が見事なアフロヘアとなったファンキーな天子が、涙目で逃げるにとりを追い掛け回している。

 持ち主である天人の心象を反映しているのか、本来は美しい緋色の刀身を揺らめかせる想念の刃が、割とどす黒く変色しているように見えるのは気のせいだと思いたい。

 

「コロスコロスコロスコロス、ブッコロース!」

「あわわわわわわっ!」

 

 逃げ惑うにとりは、私の存在を確認すると一目散にこちらへと駆け込んで来る。

 正直巻き込まないで欲しいのだが、このままでは本当に友人である河童少女がなます切りにされる可能性もあるので、仕方なく付き合ってあげる。

 

「アリスバリアー!」

 

 私の後ろへと隠れたにとりが、こちらを押し出しながらやけくそ気味に叫ぶ。

 

 そのバリア、装甲が紙だから実質無価値だよ?

 そんな装備で大丈夫か。

 大丈夫じゃない、問題だ。

 

「キッシャアァァァァァァッ!」

 

 最早怒りで言語さえ忘れた天人の刃が、全力で振り被られる。

 しかし、その凶刃が私たちに届く事はない。

 私の近くには、私などよりも余程頼りになる最高の友人たちが居るからだ。

 

 神槍 『スピア・ザ・グングニル』――

 禁忌 『レーヴァテイン』――

 

 レミリアの魔槍。

 フランの炎剣。

 

 吸血鬼の膂力で投擲された必殺の双撃が、私の背後からすり抜け天人へ叩き付けられる。

 幾ら天子が頑丈とはいえ、同列の強者である彼女たちからの攻撃をまともに食らえば無事では済まないはずだ。

 

「おいたが過ぎるな。下女は下女らしく、引き際を弁えるが良い」

 

 日傘を持つ瀟洒なメイドを侍らせ、魔力の残滓が残る片手を眼前に持ち上げながら、レミリアが口角を釣り上げている。

 

「そうよそうよ。負けたんだから、早く帰れば良いのに」

 

 こちらは小悪魔に日傘を持たせ、ぷりぷりと可愛らしく頬を膨らませているフラン。

 

 しかしだ。二人とも、ちょっと待って欲しい。

 今の攻撃、めっちゃ私の間近く通ってったんだけど。

 天子の気迫にビビッてよけようとしてたら、普通に直撃してたよね。私に。

 

 勝負が終わった後の方が命の危険がマッハとは、流石は残酷な幻想郷である。

 

「他人の喧嘩に横槍入れてんじゃないわよ――ぶっ殺すわよ」

 

 咄嗟に片方だけを緋想の剣で受けたのか、血塗れの左腕をだらりと下げた天子が吸血鬼の姉妹を睨む。

 必殺の意思が込められた大妖怪の一撃でさえ、傷止まり。

 改めて、この規格外の鉄筋娘を相手に生身で戦ったあの天界での勝負が、どれほど綱渡りであったかを実感する。

 

「勘違いするなよ、不良天人。裁くのは我々であって、貴様ではない」

 

 見えぬ圧さえ伴う天人の戦意を、レミリアは堂々とした態度で受け止める。

 

「お祭りを滅茶苦茶にしようとして、その上アリスお姉ちゃんにまで手を出そうなんて――貴女、壊しちゃうわよ?」

 

 フランは戦意に勝る敵意を返し、今にも襲い掛かりそうな勢いで背中の羽が揺らぐほどの妖気を噴出させる。

 

 ごめん。凄く真面目な雰囲気の中で申し訳ないけど、天子の格好とアフロヘアがシュール過ぎて場違い感が半端ない。

 さっきから、「絶対に笑ってはいけない非想天則」ってワードが私の頭の中で踊ってるんだけど。

 

「双方、そこまでだ!」

「ちょいとごめんよー」

 

 天人と吸血鬼姉妹の死闘が始まる直前で、仲裁の為か守矢の二柱が両者の間に出現する。

 

「レミリア。ここは、祭りの主催者である我々に免じて引いて欲しい」

「断る。貴様らの提案を受け入れる理由がない」

「折角アリスのお陰で、これ以上ないほどに丸く収まりそうなんだからさー。天人をぶちのめすのは別に良いけど、せめて祭りと関係ないくらい遠くでやってくんない?」

「ならば対価を示せ。アリスを襲った狼藉者を前にしながら、アリスの友人である私たちが牙を引くに足るその対価を」

 

 乱戦も辞さぬと主張する態度で、レミリアは神奈子や諏訪子に説得に応じようとしない。

 

「こっちを無視して、勝手に話を進めてんじゃないわよ。吸血鬼だろうが神だろうが、全員まとめて相手にしてやるわ」

「ややこしくなるから、お前は黙ろうねー」

 

 全方位に喧嘩を売る強気な天子は、諏訪子が適当な態度で片手を振ってあしらっている。

 確かに、諏訪子の言う通り折角バトル展開が終わって一段落付いたのに、また周囲が危険になるほどの争いが起こるのはいただけない。

 レミリアたちに引く気がないのであれば、天子を引かせるしかない。

 

「天子」

「お前も黙っていろ」

「お姉ちゃんも黙ってて」

 

 お、おう?

 今、確か私の話してるんだよね?

 

 争いの火種になりつつある天子の名前を呼んだ瞬間、吸血鬼姉妹からお叱りを受けてしまった。

 なんだか良く解らないが、私が思っている以上に周囲がヒートアップしているらしい。

 とはいえ、私がやる事は変わらない。

 

「天子」

「……何よ」

「楽しかった?」

 

 レミリアやフランからの文句を無視して、小首を傾げながら天子へとそう問い掛ける。

 命を懸ける殺し合いでも、誇りを懸ける弾幕ごっこでもない。

 それでも、今の戦いが互いの意地と意思をぶつけ合った真剣勝負であった事は、疑いようもない。

 

 私は、貴女やにとりと遊べて楽しかったよ。

 貴女はどうかな、天子ちゃん。

 

「……次は、殺すわ」

「そう。()があるのなら、今回はこれでおしまいね」

 

 天子が剣を降ろした事で、危険な雰囲気が霧散していく。

 しかし、納得がいかない姉吸血鬼が私を半眼で睨んで来る。

 

「おい」

「終わりよ、終わり。もし続けるのなら、私を理由にしないで」

「貴様……っ」

 

 私が争いを止めようとしているのは、何も天子が愛しの原作キャラであるというだけではない。

 先ほどの攻防からも解る通り、レミリアもフランも、規格外の実力者であるという点で天子と一致している。

 そして、今の雰囲気で弾幕ごっこの勝負をしようなどという、平和的な争いにはならないだろう。

 大切な友人たちが、私を理由に殺し合う。そんな恐ろし過ぎる展開を、止めない方がどうかしている。

 しかし、そんな私の心配をツンデレミリアに素直に伝えてしまうと、「私が負けるとでも思っているのか」的な大層面倒臭い方向へ話が進んで行くのは確定的に明らかだ。

 よって、私は最悪の殺し合いが始まらないよう強引に話をぶった切り、引き下がってくれるよう願いながら態度だけは泰然と構えて殺気立つ吸血姫を見下ろす。

 

「阿呆が、安い女を演じるつもりか。そんな命知らずな綱渡りを、意地と矜持だけで一体何時まで続けられると思っている」

「無論――死ぬまで」

 

 どやぁ。

 圧倒的どやぁ。

 

 レミリアの苦言に、髪を掻き上げながら悪即斬な警官の名台詞で応え、視線を合わせ続ける事しばし。

 長い沈黙の後、大きく舌打ちをした吸血鬼の姉が踵を返す。

 

「興が冷めた。帰るぞ」

「「はっ」」

「えー」

「アリス、対価は貴様が払え。私たちの出店の片付けだ」

「えぇ、やっておくわ」

 

 忠実な部下たちと不満気な妹を連れて、紅魔の主が帰路に就く。

 

「レミリア、ありがとう」

「はぁ~……礼を言うくらいなら、いい加減身の程を弁えるか自愛を覚えろ。この人形馬鹿が」

 

 怒り半分、呆れ半分といったところか。盛大に溜息を吐いた後で片手を振り、悪態と共に去って行くレミリア。

 吸血鬼の王たちが紅魔館へと帰った後、神奈子が腕を組んでこちらを見る。

 

「少々意外だな。付き合いの長い吸血鬼連中よりも、敵対する天人を選ぶとは」

「別に、誰も選んではいないわよ。私はただ、当たり前の事を当たり前だと伝えただけ」

「それであの我儘吸血鬼が引いてくれるんだから、やっぱりアリスはアリスだよねー」

 

 おう、諏訪子さんや。

 どういう意味じゃい。

 

「てな訳で、天人も河童も命拾いしたね――って、河童は何時の間にか逃げてるし」

 

 振り返ってみれば、諏訪子の言う通り私を盾にしていたにとりの姿が消えている。

 (したた)かなものだ。大方レミリアたちが現れた辺りで、十八番の光学迷彩(ステルス)でも使って逃げおおせたのだろう。

 

「天人の処遇は任せる。ないとは思うが、人間の犠牲者は出すなよ」

「出しても良いけど、証拠は残さないでねー」

 

 割と不穏な事を言いながら、神奈子と諏訪子も姿を消す。

 残されたのは、ボロボロの天子と無傷の私。

 流石に、これからもう一度勝負を仕掛けて来るほどの気力はないようだが、このまま帰すだけでは味気ない。

 とはいえ、再開されたお祭りに誘うにしても今のアフロヘアーと大破状態のパイロットスーツ姿のままでは、少々絵面的に問題だろう。

 

「着替えは?」

「……あの馬鹿河童に預けてた」

「それじゃあ、今すぐの回収は無理ね」

「……」

 

 何時もの服はにとりに預けていたらしく、天子はばつが悪そうに唇を尖らせてそっぽを向く。

 今から逃げたにとりを探すのは、かなり骨が折れるだろう。

 その上、何気に入手困難であろう天界の衣服という貴重な素材を前にして、あのメンドクサイエンティストがどれだけ我慢出来るかも疑問だ。

 見つけた頃には、糸一本に至るまで全てが分解されていても不思議はない。

 

「仕方がないわね」

 

 仕方がないと言いつつ、恩を売る気満々だ。

 着せ替えに加え、髪漉きまで自然な流れで行える絶好の機会を逃す私ではない。

 トランク型の衣装箱を召喚魔法で呼び寄せ、手早く中身を物色する。

 

 採寸出来ないし、ある程度体型を気にせず着こなせる浴衣が無難かな。

 生地の色は天人らしく空色にして、帯はさわやかさ重視で明るめの橙とかで。

 

 内心鼻歌混じりでうきうきと天子の着替えを用意しつつ、人形たちに大きな布を持たせて即席の更衣室を作り出す。

 

「はい、これ。着替えはそこね」

「……」

 

 流石に、半壊したぴっちりタイツという格好のままで居るのは恥ずかしかったのか、こちらを睨みながら差し出した浴衣と帯を奪うようにひったくる天子。

 半球状に形成した更衣室で彼女が着替えている間に、こちらも動く。

 人形を操作して、祭りの休憩所から椅子を一脚だけ拝借すると共に、衣装箱の裏側に備え付けてある化粧道具一式を準備する。

 

「着替えたわ――って、何よそれ」

「座って」

 

 更衣室から出て来た天子の疑問には答えず、椅子へと促す。

 櫛と鋏を両手に持ち、数々の化粧道具を腰のベルトに装着した私の格好を見て、意図が理解出来ないはずがない。

 

「……」

 

 反発するかとも思ったが、天子は少しだけ無言で思考を巡らせた後で大人しく私に背を向け椅子へと座ってくれた。

 浴衣が汚れないよう首に巻く形で白地の前掛けを装着させ、複数の人形で化粧を施しながら私自身は櫛と鋏で天子の髪を整えていく。

 鋏には、こっそり切れ味の増加と精神を切る効果を付与する「魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)」を掛けてあるので、もしも彼女の髪が天人の肉体並みに頑丈だったとしても問題はない。

 

「綺麗な髪ね。ずっと触っていたいくらいよ」

「気色悪いわね、変態」

 

 退屈だろうと話題を振れば、間髪入れずに罵倒が返って来る。

 本気で嫌がっている感じはしないので、単に私との距離感を掴みかねているのだろう。

 

 はぁっ、はぁっ……もっと、もっとだ天子っ。

 養豚場の豚を見る目でお願いします!

 

 お馬鹿な脳内思考は横に置くとして、この程度の拒絶で私が挫けるはずもない。

 

「天界は、今も退屈?」

「えぇ。退屈よ、変態」

「余り我儘を言って、衣玖を困らせては駄目よ?」

「うるさい。余計なお世話よ、変態」

 

 語り掛ければ応えてくれるが、やはり出会いが出会いだっただけに警戒心を解くのは容易ではないようだ。

 まぁ、別に急ぐ理由もない。こうして普通に会話出来るようになったのだから、これから仲良くなれば良いだけの話だ。

 変態変態と罵られながら、それほど時間を掛けずに天子の身だしなみを整え終える。

 

 むふー。やっぱり素材が良いと、化粧映えも素晴らしいね。

 倍率ドン、更に倍! って感じ。

 

 天真爛漫な天子に、あえて長袖の浴衣を着せる事で清楚さを押し出してみたが、どうやら私の試みは間違っていなかったようだ。

 最後に、後頭部でお団子の形でまとめた髪へと桃の意匠を付けたかんざしを挿して、準備完了だ。

 

「はい、出来たわ。どうかしら?」

「……誰これ?」

「比那名居天子。貴女自身よ」

「……」

 

 手鏡を渡して感想を聞いてみると、割と面白い反応が返って来た。

 どうやら、自分の美を磨く方面には今まで頓着していなかったらしい。

 もったいない事だ。

 

「さぁ、それじゃあ行きましょうか」

「行くって、何処によ」

「決まっているでしょう。貴女が壊そうとした地上のお祭りを冷やかしに、よ」

「……」

「地に足を付けるのも、たまには悪くないはずよ」

 

 力を得て、地位を得て、天界へ渡り、関わりを絶った。

 この娘はきっと、目を逸らしているだけなのだ。

 地上で暮らす、人間の営みから。

 かつて己の居た、不便で煩雑な流転の輪の存在から。

 言葉を交わし、意思を通わせ、ほんの少しでも人里との交流をさせておけば、少なくとも天変地異による地上の破壊などは控えてくれるようになるだろう。

 そんな思惑を胸に、ひとまず自分の屋台の再開とレミリアたちの屋台の撤去をする為に、会場の一角へと向かう私と天子。

 

「あーっ、アリスお姉ちゃんだー!」

「さっきのおっきなお人形、凄かったねー!」

 

 お祭りを楽しむ浴衣姿の子供たちが、私たちを取り囲み思い思いに声を掛けて来る。

 

「ふわー、きれー。お姉さんは、アリスお姉ちゃんのお友だち?」

「何処から来たのー?」

「え、ぁ、わ、私は……」

 

 まさか、馬鹿正直に「アリスを潰すついでに、この祭りを無茶苦茶にしようとロボットの中に居ました」なんて、言えるはずもない。

 純粋無垢な子供たちの質問に、天子は虚を突かれたのか結局何も答えられずに口をつぐむ。

 

「アリスお姉ちゃん! 俺、さっきの勝負が人形劇で見たい!」

「わー! 私も私もー!」

「僕も見たい!」

「面白そうね。考えておくわ」

 

 一人一人の頭を撫で、満足して離れて行く子たちを見送る。

 子供の次は大人だ。屋台を再開した人たちが、飛び切りの笑顔で商品を渡して来る。

 

「お、アリスさんじゃないか! 何時ものお礼に、貰ってってよ!」

「あ、何抜け駆けしようとしてんだこらっ。うちのも美味しいから、熱い内に食べてみて!」

「食い物ばっかじゃ困るだろ、馬鹿! てな訳で、うちの自家製林檎ジュースも持って行きな!」

 

 あれよあれよと、私と天子の両手に沢山の屋台料理が増えていく。

 抱えられない分は上海と蓬莱に持たせ、まずは薄く焼いた生地にソースを付けて割り箸に巻いた、はしまきという料理を二人で食べる。

 

「美味しい?」

「不味いわ。不味過ぎて、吐き気がしそう」

 

 もやし、ネギ、紅生姜。生地に混ぜられた具の量も種類も少なく、お世辞にも上等な料理ではない。

 風味もへったくれもないソースの味で塗り潰された、陳腐な屋台料理。

 これが、祭りの中という雑踏と雰囲気によって魅惑の美味へと変化する。

 

「噛み締めなさい、天子。それが、()()()の味よ」

 

 天子。

 それが、貴女が潰そうとしたものの味だ。

 それが、貴女が台無しにしようとしたものの味なんだよ。

 

 強ければ、何をしても許される。

 それは幻想郷において、自然で、不変で、絶対の真理だ。

 だが、それだけで終わらせてしまうのは、どうしようもなく()()()()

 私は、そう思わずにはいられないのだ。

 人外だって、変化する。良きにしろ、悪きにしろ。

 地上の営みを思い出した天人が、これからどういった変化をするのかは解らない。

 それでも、私はこの娘がより良い幸福を目指せるよう願い、こうしてお節介を焼き続けるだけだ。

 人間も、妖怪も、天人も関係ない。

 私は、この世界を愛する者の一人として、これからも皆の幸せを望み続ける。

 

「ほんと、不味過ぎ……」

 

 天子の口から、繰り返しそんな言葉がこぼれていく。

 孤高の天人を気取る少女がどんな表情をしているか、私は気付かない振りをした。

 

 

 

 

 

 

 お祭りの会場から少し離れた、平野の一角。

 白熱した弾幕ごっこの結果として、早苗と鈴仙はダブルノックアウト状態で気絶していた。

 

「ほいっと」

 

 そんな二人を起こす為、諏訪子がそれぞれの頭上に手の平大の水球を落とす。

 因みに、倒れ方は鈴仙がうつ伏せ、早苗が仰向けである。

 

「ぐっ!?」

「ごぶぁっ!?」

 

 後頭部に当たっただけで済んだ鈴仙とは違い、鼻や口に大量の水が侵入した早苗の被害は甚大だった。

 

「ごほっ! ごほっ! ず、ずわ゛ござま?」

 

 窒息という命の危機を感じてか、即座に起き上がる早苗。

 

「う……く……っ」

 

 鈴仙は、ずぶ濡れになった長髪から沢山の雫を滴らせながら頭を振っている。

 

「はいはい、お遊び(レクリエーション)は終わりだよ。お祭りが再開されたから、早苗はそっちに行っておくれ」

「すびびっ! お任せ下さい! 諏訪子様!」

 

 盛大に音を立てて鼻水をすすり、早苗は元気に敬礼してから祭りの会場へと駆け去って行く。

 

「……」

 

 早苗に続きゆっくりと起き上がった鈴仙は、自身の長髪からぽたぽたとこぼれる雫が地面へと落ちていくさまを眺め続ける。

 

「ん? どうしかしたかい?」

「……与えられた任務を、失敗しました」

「まぁ、そうだろうね」

 

 鈴仙の目的は、非想天則を破壊し輝夜の安全を確保する事だった。

 そして、早苗に邪魔されたとはいえ彼女は永琳から与えられた命令を完遂する事が出来なかった。

 任務失敗。確定したその事実は、決して揺るがない。

 

「私は、姫様を危険に晒し続けてしまった。お遊戯勝負に付き合う義理なんて、何処にもなかった」

 

 ゆるゆると首を振り、心の底から理解出来ないと慟哭にも似た振るえる声で玉兎が語る。

 

「役立たずは捨てられる……」

 

 月の頭脳と月下の麗姫。仕える者たちの優秀な駒であり続けようとしている鈴仙にとって、任務の妨害者に手心を加えたに等しい現状が受け入れ難いのだろう。

 視線を下げたまま、両の手の平をぼんやりと眺める少女の瞳に映るのは、狂気ではなく不安と恐怖だ。

 

「価値がなければ殺される……」

 

 弾幕ごっこ用ではない、相応の威力を込めた弾丸で四肢を撃ち抜けば、それで終わっていたはずだ。

 いっそ、早苗を完全に無視して非想天則を破壊すれば、それで輝夜への危険は排除出来ていたはずだ。

 なのに、鈴仙はその最善の一手を打てないまま無意味な戦闘を長引かせ、あまつさえ引き分けた挙句気絶するという失態を犯してしまった。

 

「なのに、何故……何故、私は……」

「あー。悩んだフリしてるとこ悪いんだけど、もう自分で結論出てるよね?」

「……」

 

 問い掛けの体を取ってはいるが、諏訪子の言葉には確信が込められている。

 そして、その推測は正しい。

 

「早苗との弾幕ごっこは、楽しかったかい?」

「はい、いいえ、はい……はいっ」

 

 力なく首を振る鈴仙の表情は、今にも崩れてしまうそうなほどの酷いものだ。

 戦士として、兵士として、決して受け入れてはならない熱が、少女の胸を焦がし苛める。

 

「でもっ、でもっ、早苗との勝負を楽しむなんて! 私にそんな事、許されるはずなんてないのにっ!」

「おいおい。滅私を拗らせるにしても、限度ってもんがあるだろうに」

 

 外の世界で、他者との隔絶に晒され続けた風祝(かぜはふり)

 月の世界で、個の意思を磨り潰し続けた玉兎。

 ()()()()()()()()()()()()。そんな歪な世界で生きて来たのだから、歪まない方がどうかしている。

 そういう点では、早苗と鈴仙の性質は近いのだろう。

 

「ったく。能力は捻くれてる癖に、馬鹿みたいに性根が真っすぐ。そんなんだから歪んじまうのさ」

「それでもっ、私があのお二方に示せる価値は、()()くらいしか――っ」

「そもそも、その前提がずれてんのさ。あの二人は、一度でもお前さんに価値を示せと言ったかい?」

「そ、れは……」

「お前さんも、内心じゃあとっくの昔に解ってるはずだ。価値があろうとなかろうと、あの二人がお前さんを認める日は永遠に来ないってね」

「……っ」

 

 輝夜も、永琳も、鈴仙に求めるものは何もない。

 何故なら、二人は永遠で、鈴仙は有限だから。

 拾われて、生かされた――二人と鈴仙の関係は、ただそれだけでしかない。

 どれだけ鈴仙が価値を示そうとしても、永遠を生きる二人にとっては所詮瞬きの間での出来事でしかないのだ。

 

「下手な考え休むに似たりだ。悩むなとは言わないが、程度を考えなきゃ」

「ならば私は、一体どうすれば……っ」

 

 もがき続ける玉兎の瞳に、光はない。

 少女は、ただ生きる為に生きて来た。

 生き残る為に価値を示し続けて来た鈴仙にとって、平和で安穏な日々は背後から迫るような不安と焦燥を彼女に与えていた。

 長い平穏の中で己の価値を示せなくなっていく変化に戸惑う迷子の少女は、軋み声を上げる心臓(こころ)の位置に右手を添え、今にも泣き出しそうな声で救いの糸を求める。

 

「好きに生き、満足して死ね」

 

 神の視点から語る諏訪子の助言は、簡潔にして困難を極める道への道標だった。

 

「好きに生きて、満足して死ぬ……」

「わたしは、早苗にそう望んでる。お前さんの飼い主たちも、きっとそれを望んでるはずさ」

 

 過去に不幸を背負う者など、幻想郷でなくとも吐いて捨てるほど居るだろう。

 諏訪子とて、神としての栄華極めた果ての零落を経て幻想郷へと辿り着いたのだ。

 過去を忘れる必要はない。しかし、終わった過去に縛られ続ける必要もない。

 

「鈴仙さーん!」

「妖夢……」

 

 鈴仙が駆け寄って来る妖夢に気付いた時、諏訪子の姿はその場から消失していた。

 恐らく、相方の神が居る祭壇へと戻ったのだろう。

 

「わ、びしょ濡れじゃないですかっ。風邪を引かない内に、これで髪を拭いて下さい」

「……」

「鈴仙さん? わぷっ」

 

 差し出される手ぬぐいを無視し、鈴仙は妖夢へと両腕を伸ばし縋るように抱き寄せた。

 長身の友人から抱き締められ、妖夢の顔が相手の胸へと埋まる。

 濡れた髪と衣服を濡らす水が、剣術少女の髪や衣服へと移っていく。

 

「……えいっ」

 

 突然の出来事に驚いた妖夢だったが、小刻みに震える鈴仙から何かを感じ取ったのか、掛け声と共に自身の両腕を相手の腰へと回し抱きしめ返す。

 

「鈴仙さん。私は、ちゃんと此処に居ますよ」

「うん」

「貴女も、ちゃんとここに居ます」

「うん」

「貴女も、私も。きっとずっと、こうした不安を抱えて生きていくしかないのです」

「うん」

 

 濡れて冷えた鈴仙の体温が、妖夢の体温によって熱を取り戻していく。

 半人前の少女が語るように、きっと彼女たちの不安や焦燥がなくなる事はないのだろう。

 

「それでも、私は此処に居ます。貴女も、此処に居ます。こうして、手を伸ばせば触れられる場所に生きています」

「うん」

「あの月夜で語った私の決意に、一切の揺らぎはありません」

「うん」

 

 だが、それでも、少女たちは今日を生き、明日もまた生き続けていくしかないのだ。

 

「私が貴女を救います。どれだけ時間が掛かろうと。必ず、貴女を救います」

「うん……う゛ん゛……」

 

 過去を背負い、今を受け止め、未来へと歩いていく。二本の足で、時に俯き、時に振り返りながら。

 大粒の涙を流して縋る鈴仙が落ち着くまで、妖夢はただ心を込めて心弱き少女を抱き締め続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 一足早く祭りの会場を後にしたにとりは、妖怪の山にある自分の研究所(ラボ)にて満面の笑みで今回の戦利品を眺めていた。

 

「んっふっふ~」

 

 それは、外の世界で過去の遺物(幻想)となりつつある、大型のフロッピーディスクだった。

 似せてあるのは形だけだ。中身は完全に別物であり、保存出来るデータの容量は外の世界で販売されているものを遥かに超える。

 この薄っぺらな外部記憶装置が、今回の変事で暴れ回った非想天則の頭脳に相当する部品なのだ。

 大事なのは、外観ではなく中身。鋼鉄の身体は、所詮この頭脳と操縦者である天子が動かしていた仮の肉体に過ぎない。

 肉体が何度壊れようと、頭脳さえ残っていれば何度でもやり直せる。むしろ、データの蓄積により前回よりも優れた性能を実現出来るだろう。

 しかも、あの戦いの最後で非想天則は明らかにプログラムに存在しない挙動を行った。

 生みの親の意思を超え、電子の赤子が己の意思で動き出したのだ。

 しかし、その奇跡が宿る機械の脳が生きられた時間は、それほど長くはなかった。

 

「ん?」

 

 研究所(ラボ)の隔壁が開き、誰かが室内へと入って来る。

 隠された扉の位置を知る者は、それなりに限られる。

 現れたのは、非想天則の作成にて動力面の貢献者である地獄鴉。霊烏路空。

 酔っぱらってでもいるのか、俯き気味な少女の足取りはかなり危うい千鳥足だ。

 

「おいお空。大丈夫か? なんか変なもんでも――」

『娘は寝ておる』

「ひゅいっ!?」

 

 地の底から響くような、重々しい低音が研究所(ラボ)の内部を反響する。

 お空の声ではない。しかし、此処にはにとりとお空以外の誰も居ないはずだ。

 

「だ、だだだ、誰だっ!?」

『くくっ。散々我の力を好き勝手に利用しておいて、その問いは余りに愚鈍というもの』

「……お前、八咫烏か!」

 

 気付いたところで、もう全てが手遅れだ。

 赤々と輝くお空の胸元に込められた宝玉に呼応し、にとりの手にあったフロッピーディスクが音を立てて赤熱し融解を開始する。

 

「ぎゃぁっ! あ、あぁあぁぁああぁぁぁっ!?」

 

 慌ててディスクを投げ捨てたにとりだったが、消し炭へと変わる我が子の末期に両目をあらん限りに見開き絶叫を上げた。

 

「なんて事すんだ! このクソ野郎!」

『それはこちらの台詞だな』

「どぅわっ!」

 

 制御棒から放たれる一閃が、横薙ぎに振るわれる。

 鉄を切り、鋼を溶かす凶悪な熱線だ。慌てて屈んでいなければ、にとりは即死していただろう。

 

『この小娘に宿るものが我であるのと同様、その一端から生まれ落ちた神気もまた我である』

「く……っ」

 

 非想天則は、無から個を確立させた訳ではなかった。

 機体の全身を巡っていた神気。つまりは八咫烏という神の意思に感化され、分霊の分霊として目覚めたにすぎないのだ。

 

『貴様のがらくたが、神を宿した。そこまではまだ許そう』

 

 とはいえ、それもまた個である事に変わりはない。

 

『だがな、我が身を尊ぶ事なくあまつさえもてあそぶと言うのであれば、相応の罰をくれてやらねばならん』

 

 しかし、極小とはいえ神の意思を妖怪が自由にして良いはずもない。

 人の形には神が宿る。神の火を入れた人型であるのならば、なおさらに。

 秋の神が予見していたように、神の力を炉心に込めた時点でこの()()はすでに確定していた。

 

「――っ」

 

 天罰(てんばつ)覿面(てきめん)。お空の全身が発光し、神の威光が全方位へと照射される。

 無数の光線は壁に衝突する都度に反射し、研究所(ラボ)の内部に作られたあらゆる物体を余す事なく蹂躙していく。

 しばらく後、現れたのは何一つ無事なものなど存在しない、全てが焼き尽くされた焼却跡だった。

 

「ぁ……か……っ」

『殺しはせぬ。その愚かさが、再び我の怒りに触れぬ事を願っておこう』

 

 半身が炭化した河童を放置し、上方の岩壁を立ち昇る熱波によって融解させた焔の神が、眠り続ける少女を操り研究所(ラボ)より消える。

 残された廃墟の中で、重症のにとりは身動き一つ取る事が出来ない。

 

「――行った?」

「行ったっぽいね」

「念の為、後三秒待とう。一、二、三っ」

 

 そんな中、近くで様子を見守っていた他の河童たちが、八咫烏が去った事を慎重に確認してからにとりの研究所(ラボ)へと一斉に雪崩れ込んだ。

 

「にとりー! にとり、無事かー!」

「居たー! めっちゃ焦げてるー!」

「急いで冷水で冷やせ! それと、用意してた傷薬を持って来い! 一番良いやつ! 下手すりゃ死ぬぞ!」

 

 邪魔な瓦礫を蹴り飛ばし、大慌てで半死半生の同胞を介抱しだす少女たち。

 

「持って来たよー!」

「そのままぶっ掛けろ!」

「はいよー!」

 

 大きな瓶に入った黄緑色の傷薬が、重傷のにとりへ一息でぶち撒けられた。

 流石に月の薬師ほどとは言わないが、河童は薬学にも深い造詣を持つ種族だ。

 両手の指を数え終える頃には、黒々と爛れた火傷だらけの皮膚の下から新しい皮膚が顔を覗かせ始める。

 

「にとりー、大丈夫ー?」

「……あぁ、なんとかねー」

 

 辛うじて会話が出来る程度まで回復したにとりを、河童の少女たちが不安そうに覗き込んでいる。

 

「データの拡散は?」

「ばっちり」

 

 にとりの質問に、彼女よりも背の高いグラマラスな河童がにんまりと笑って右手の人差し指と親指で輪を作った。

 種族全体が高水準の技術者である河童は、余り技術の独占に拘らない。

 むしろ、同じ河童同士であれば積極的に情報を交換しお互いの技術を伝え合う。

 

「妖怪の山に住む河童には全員に送っといたから、根絶やしにされない限りどうとでもなるわ」

 

 彼女たちが最も恐れるのは、そうして積み上げた知識や技術が失われてしまう事だ。

 それを防ぐ為ならば、時に己の命すら懸けてのける。

 下手人であるにとりは生還。データは丸々残ったままで、しかも周知を終えて散逸の心配すらなくなった。

 神様相手に仕掛けた賭けは、河童に軍配が上がったのだ。

 

「それにしても、神様ってやっぱり馬鹿ばっかりよねぇ。何時だって、壊して脅せばどうにかなるって上から目線で粋がってんだから」

「ちょ、ちょっと。聞かれたら、戻って来るかもよ」

「大丈夫よ」

 

 気弱そうなもう一人の小柄な河童が迂闊な発言をいさめるが、赤毛の河童は薄く張り付いた笑みを続けるだけで反省した様子もない。

 作って、作って、作り続けて。

 完璧など存在しない。

 完成などあり得はしない。

 それでも、彼女たちは完璧な完成を求めて作り続ける。

 河童という一つの種族全てが、何処まで行こうと辿り着けないと知りながら北斗の彼方を目指し続ける。

 より上へ、より高みへ。

 技術に果てなど存在しない。

 探求に終わりなどあり得ない。

 

「間欠泉センターの地熱に、核融合炉の技術。それに、非想天則で取った天人のモーショントレースデータ。ふふっ、しばらくは開発ラッシュが続きそうね」

「そう言ってくれるなら、身体を張ったかいがあったよ」

 

 己が身で神秘を肯定しながら、それでも高みから見下ろす神を否定せんと挑み続ける英知の集団。

 かつて、石を積み上げる事で洪水という天災へ挑んだ者たちが居た。

 かつて、雷という光の天意を調べ尽くし夜の闇へ挑んだ者たちが居た。

 

「とりあえず、一番の功労者の研究所(ラボ)を直すとこから始めよっか」

「「「おー」」」

「にとりはしばらく動けないだろうから、天狗の治療院に運んどきな」

「うぅ、助かるよ……」

 

 神々のみが成し得る奇跡を、努力と技術の結晶にて再現し、対抗する。

 神々を討ち落とすのに、刀も矢も必要ない。

 彼女たちが持つ神殺しの武器は、錆びついたスパナとドライバー。そして、決して終わる事のない不屈の闘志だ。

 でうす(機械)えくす(仕掛けの)まきな()

 神を殺す神を生み出す日を夢見て、彼女たちの挑戦は続いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 追記。

 お祭りの際に子供たちから望まれた通り、人里でヒソウテンソクVS鋼鉄魔王ロボの対戦を人形劇で披露した。

 お祭りの会場で直に見た人たちも、用事や仕事などで来なかった人たちにも、それなりに好評を得られたと思う。

 その結果――

 

「ふはははー! この非想天則様が、人里を滅茶苦茶にしてやるぜー! 守矢神社を信仰しない奴は消毒だー!」

「待てい!」

「ぬぬぬっ、何奴!?」

「がーはっはっはっはっ! 人里に仇なす悪党め、鋼鉄魔王様が相手だー!」

 

 子供たちの間で、ロボごっこが滅茶苦茶流行った。

 後、ヒソウテンソクと鋼鉄魔王ロボの玩具も流行った。

 玩具の出所は、霧雨商店。

 他も似たような商品を売り出してはいるが、里一番の大商店が売り出す品の方が遥かに高いクオリティを実現している。

 その種は、この私。

 あの後、二つのロボが流行になるといち早く察知した霧雨の大旦那が、阿求経由で直々に私へ技術提供の依頼をして来たのだ。

 ゼロが沢山付いた余りに高額な依頼料を聞いて度肝を抜かれつつ、私は自分の持つ魔法を抜きにした木製人形の作成技術の一部を霧雨商店のお抱え職人たちに伝授したという訳だ。

 私自身が作る人形を他人に売る気はないが、私の技術で他人が作った人形にまでケチを付けるつもりはない。

 因みに、この事はつなぎ役だった阿求を含め霧雨商店の中でも極一部の者しか知らされていない。

 別にやましい所がある訳ではないのだが、口さがない連中や霧雨商店の対立者、更には烏天狗にあえて餌を与えてあげる理由もない。

 大旦那の魔法嫌いは有名なので、その点も情報を隠蔽するのに丁度良い。

 霧雨商店は儲かり、子供たちは玩具を楽しみ、私は聖輦船異変で背負った霖之助からの借金を返済する。実に素晴らしいサイクルである。

 なお、守矢神社に対する支持率低下については考慮しないものとする。

 

 天子とにとりのせいで、守矢への熱い風評被害が!

 風評、被害……? うん、別にそれほど間違ってなかったわ。

 

 大金を受け取った古道具屋の店主は、霧雨商店への援助金としてほぼ全額を手放したらしいが、それも関係者しか知らない内緒話だ。

 それからしばらくの間、私はナズーリンから何故か複雑な表情で睨まれるようになるのだが、原因にとんと覚えがないので首を傾げるばかりである。

 その後、人里の子供たちが行う決闘ごっこにモリヤナンジャーを名乗る謎の風祝(かぜはふり)が参加し始め新たな騒動へと発展していくのだが、それはまた別のお話。

 


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