東方有栖(アリス)伝   作:店頭価格

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57・いざ、NEXT STAGEへ(結ノ三)

 紅い霧が幻想郷の全土をおおうという未曾有の異変から幾らかの日が経ち、天狗の号外によって紅魔館の知名度は人妖を問わず一気に高まった。

 号外は、博麗の巫女の活躍を中心として紅魔館の面々や新しい掟であるスペルカード・ルールについての記事となっており、一緒に異変を解決したはずなのにぞんざいな扱いを受けた魔理沙が、記事を丸めてその場で地団太を踏んだほど良く出来た内容だった。

 そんな世間からの注目外となってしまった普通の魔法使いは、門番との弾幕勝負に辛くも勝利し侵入者(客人)として堂々と紅魔館の屋敷内へと乗り込んでいた。

 あの時半壊してしまった屋敷は、妖精と魔女の尽力により外見だけはなんとか元の姿へと復元されている。

 だが、それも実は仮初の張りぼて状態であり、今は妖精の弾幕であろうと容易く壊れてしまう程度の強度しかない事を、侵入者である少女は知らない。

 

「――ててて、結構危なかったな……」

 

 痛みで顔を歪めながら、魔理沙は掠った弾幕によって出来た右腕の擦過傷を舌で舐める。

 目的は、地下の大図書館。数多くの魔道書が眠る夢のような書庫に、魔法使いである彼女が誘惑されるのは必然だった。

 

「んしょ、んしょ――わきゃー!」

「あっははは! びしょびしょー!」

「あははっ! モップ掛けやり直すの、これで何回目だっけ?」

「しーらないっ!」

 

 モップ掛けの途中で傍に置いてあったバケツに転び、辺りを水浸しにする妖精メイドを同僚達が見て大笑いする。

 そんな、仕事をしているのか遊んでいるのかいまいち良く解らないお子様メイドたちの隣を通り過ぎ、長く複雑な廊下を記憶の通りに進む魔理沙はほどなく地下への通路を発見する。

 最初に訪れた時に感じた禍々しさは薄れているとはいえ、自分よりも格上の魔女が居座る本拠地を訪ねるには少々の覚悟が必要だ。

 

「……」

 

 魔理沙は無言のまましばし階下を見つめ、意を決して地下へと続く階段へ一歩を踏み出していく。

 階段を下りた先で、魔力を帯びた扉がものを言わぬ重厚な威風を持って変わらず魔理沙を出迎えた。

 改めて意識を集中してみれば、そこに込められているのは頭が痛くなりそうなほど複雑怪奇に組み上げられた、一級品の上をいく術式だ。

 今の魔理沙では、その全容を読み解く事すら困難な魔法陣を描いたのだろうこの図書館の主へと、彼女の心の奥からふつふつと憧れにも似た戦意が込み上げて来る。

 

 発動出来る効果は七つ――いや、全部で九つか。他人でも扱えるように工程を簡略化しておいて、身内以外が操作すれば即座にしっぺ返しが起きるようしっかりと鍵も掛けてやがる。

 まったく、こんなに沢山乗り越える壁があるなんて、私はとんでもない幸せ者だぜ。

 

 弾幕勝負の腕前は元より、魔法使いとしての技量もまだまだ先を目指せる喜びを噛み締めながら、普通の魔法使いが図書館の門を開く。

 

「――おやおやぁ、魔理沙さんではありませんかぁ。ようこそいらっしゃいましたー」

「何? また来たの?」

 

 入り口の開けた場所を真っ直ぐ進めば、傷を癒し黒服に黒のロングスカート姿となった小悪魔が笑顔で出迎え、机に魔道書を置き延々と読書に耽っていたパチュリーが至極面倒そうに視線を向けて来る。

 

「あ、魔理沙さんこんにちは」

「大妖精?」

 

 そして、その場にはもう一人場にそぐわないだろう客人が、魔理沙よりも先に図書館へと訪れていた。

 

「お前、大丈夫なのかよ。この前こそ、そこの魔女の命令で小悪魔に襲われたばかりじゃないか」

「あ、はい……その事で、パチュリーさんとまたお話しがしたくて……」

「おいおい……」

「うふふ、ご心配なく。一度は敗北した身ですので、()()こちらから手を出す事はいたしませんよ」

 

 口元に手を置き意地の悪い笑みでクスクスと声を漏らす小悪魔へ、魔理沙はまるで信用出来ないと冷めた半眼を向ける。

 

「パチュリーさんっ。先日お願いした通り、雇っている妖精たちを解放して下さいっ」

「そうは言われましても……パチュリー様から進言していただき、お嬢様から直々に自主退職者は自由に名乗り出て良いむねが通達されたではありませんか」

 

 大妖精を無視する主人に代わり、小悪魔が客人の相手をうけたまわる事にしたらしい。

 ニヤつく笑みで嘘はなくとも真実もない言葉を語り、矮小なる悪意は妖精の純真を嬉々として舌の上で転がり回す。

 

「そんなの、ズルイです。力と知恵を身に付けたあの子たちが、今の生活を続ける為に辞めようとしないって解ってて……」

「貴女自身から妖精たちを説得する事も、特に禁じてはいませんよ。全員がこの館を辞めたくなるよう、頑張って下さいね」

 

 並の妖精よりも遥かに優れた頭脳を持つ大妖精だが、例え格下であっても甘言を得手とする悪魔の末席が相手では口論で勝てる道理はない。

 

「うぅ……」

「んふふ」

 

 何度訪れて説得しようが、こうして言い負かされてその悪感情を美味しくいただかれ続けるだけだ。

 それでも、大妖精は説得を諦めない。何度でも、何度でも、彼女はここで小悪魔を相手に自然の有り方を説き続けるだろう。

 こんな悪い方面で、妖精特有の無鉄砲さを発揮しなくても良いだろうに。

 

「はぁっ……危なくなったら、ちゃんと助けを呼べよ」

「あ、はい。ありがとうございます、魔理沙さん」

 

 どこまでも純粋な妖精には何を言っても無駄だと判断した魔理沙は、気を配りつつも本来の目的であるパチュリーの隣へと歩いていく。

 

「……なんだありゃ?」

 

 唐突に、魔理沙が呆けた声を上げるのも無理はないだろう。

 本棚で隠れていた箇所に目をやれば、異変の時には見掛けなかった奇妙なものが設置されているのだ。

 

「やはり学がないのね。あれはね、主に雨や風、日光等を防ぐ為に張る設備で、テントって言うのよ」

「知ってるよ! バカにすんな! なんであんなもんが、地下の図書館に建ってんだって聞いてるんだよ!」

 

 すぐにその瞳を本へと戻した紫の魔女が、心の底から呆れを込めて懇切丁寧に図書館に建てられた大きな緑色の天幕の用途を説明すれば、額に青筋を立てた金髪の少女が即座に吠えた。

 

「なんでも何も、誰かがあの中で過ごす為に建てたに決まっているじゃない」

 

 「なんでそんな事も解らないんだ」、と言外に告げながら、パチュリーは魔理沙の質問に答えを返す。

 

「誰かって、お前か?」

「なんでそうなるのよ。私は、今ここに居るでしょう」

「? じゃあ誰だ?」

「アリスよ。この前神社で酒盛りをした時に、挨拶くらいは交わしたでしょう?」

「あぁ、アイツか……」

 

 謝罪を含め、これより幻想郷という屋根を借りる店子の挨拶として紅魔館の面々が訪れた博麗神社で、ささやかな宴会が開かれたのは数日前。

 レミリア一味と博麗の巫女、そして普通の魔法使いだけで行われるかと思われたその宴には、意外な事にそれ以外の面子も集まって来ていた。

 魔理沙と共に魔女を退治した、二人の妖精。霊夢と共に紅魔館へ訪れた、宵闇の妖怪。

 その他には、取材と称して参加した自称清く正しい烏天狗や、何故か当たり前のようにその場に居た太陽の畑に住む花妖怪と、その花妖怪と共に神社へと訪れた人形のような整った容姿をした、金髪の少女も神社の宴へと参加していた。

 魔理沙の記憶では、左右に青と赤の服を着た人形を飛ばす人形遣いの少女は、名乗りだけを済ますと誰とも杯を交わさずにそのまま幽香の後ろへと隠れてしまい、一体なんの為に来たのだとその不思議な行動が印象に残っている程度の相手だ。

 

「何してるんだ?」

「さぁ?」

「「さぁ」って……」

「急に訪ねて来て「しばらくやっかいになりたい」と言うから、好きにさせているわ。染色と織物関係の書物をテントの中に持ち込んでいたから、誰かの服でも作っているのではないかしら」

「ふぅん」

 

 感情の欠落した表情に冷たさを感じたあの人形遣いは、恐らくパチュリーや魔理沙と同じ魔法使い。それも、図書館の主が追い払わずに利用を認めるほどの実力者だという事。

 

「忠告しておくわ。彼女と何かで勝負をするのは、止めておきなさい」

 

 挑戦者として強者への闘争心を宿し始めた魔理沙へと、パチュリーが魔道書から視線を外さないまま言葉を送る。

 

「どうしてだよ」

「今の貴女にはお勧めしないし、きっと後悔する事になるわよ」

「へぇ。アリスって奴は、お前がそこまで言うほどの魔法使いなのかよ」

 

 実際、異変の際この場所で魔理沙がパチュリーに勝利出来たのは、幸運以外の何ものでもない。

 今のままで千回勝負を行ったとしても、恐らく普通の魔法使いが七曜の魔女に勝利する確率は一割にすら満たないだろう。

 そんな遥か上で見下ろす魔女が、警戒と興味を示す同業者。

 

「えぇ、だからやめておきなさい」

 

 パチュリーの忠告は、魔理沙の耳には入っていなかった。聞こえてはいるのだが、彼女は先達のありがたい薫陶(くんとう)を大人しく聞き入れようなどとはまったく考えていない。

 

「忠告はしたわよ」

「へいへい」

 

 気のない返事で、魔理沙はその場だけの了承を示す。

 だが、今この瞬間普通の魔法使いの中で、アリス・マーガトロイドという存在は超えるべき壁の一つとして認識されていた。

 あの人形遣いが紅魔館で寝泊り出来るほどに仲の良い間柄なのであれば、魔理沙が彼女と出会う機会は幾らでも訪れる。

 次に訪れるだろうその機会に、魔理沙はアリスへと挑むだろう。頂きは未だ遠く、乗り越えるべき困難は幾らあっても足りはしない。

 魔理沙は人間で、だからこそ人外たちに対し強烈な光を放ち続ける。望むものだけを見据え続ける、幼く真っ直ぐな未熟者。

 故に、彼女は気付かない。

 

「これで二人だけでじゃれあってくれれば、私の苦労も少しは減ってくれるかしらね」

 

 たった一度の勝負だけで、人間の魔法使いの性格をある程度把握した図書館の魔女が、何を思ってその忠告を発しているのかを。

 

「あの、小悪魔さん。パチュリーさんは、アリスさんや魔理沙さんが嫌いなんですか?」

「逆ですよ、逆。気に入っているから、お二人にちょっかいを掛けて引っ掻き回そうとしているのです。アリスさんに教えて頂きましたが、ああいった性格を外の世界では――うおわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「うわぁっ!?」

 

 異変の終わり頃より、段々と口の過ぎるようになったお喋りな従者の頭上へと、いい加減我慢の限界が来たのかお仕置きとして主人である魔女が「発火」の魔法を落とす。

 

「こ、小悪魔さん!? 頭が、頭から火が……っ! チルノちゃん! チルノちゃーん!」

「チルノが居るのか! どこだ!」

「えと、多分湖で遊んでます!」

「駄目じゃねぇか!」

「騒がしいわねぇ……」

 

 騒ぎを大きくした原因でありながら、パチュリーは止まらぬ騒動に深々とため息を吐き出した。

 結局、静かに読書に勤しみたい日陰の魔女の願いは聞き入れられる事はなく、客人二人に召使い一人の茶番劇は延々と続いていく。

 派手な音や大声の繰り返される最中であっても、外の出来事に無関心を貫きテントから出て来なかったアリスの集中力は、どうやら日陰の魔女に勝る数少ない要素であるらしかった。

 

 

 

 

 

 

 ピクニックー、ピクニックー♪ 今日は楽しいピクニックー♪

 

 時間帯は夜も深夜の丑三つ時なのだが、夜行性の吸血鬼として考えるならば行動するのに丁度良い時間帯だろう。

 宴会でチルノをバカにされ、皆を見返すべく大図書館にて服飾作製を開始した私だったのだが、フランとの約束を思い出し息抜きも含めてこうして彼女に付き合っている次第だ。

 決して、作業に行き詰って現実逃避をしているわけではない。断じてない。

 

 うぅ……私が勝手に始めた事だし、パッちゃんに頼るのも違う気がするんだよねぇ。

 でも、このままだとチルノの名誉を取り戻せないし――むむむ、どうしたもんか。

 

 締め切りに追われる作家のような心境を振り払い、改めて紅魔館に近い霧の湖のほとりを確認する。

 長く伸びた雑草を避けて何枚かのシートを広げる事でスペースを確保し、その上に大きな三つのバスケットが置かれていた。香霖堂で購入した、アップルティー入りの魔法瓶もばっちりだ。

 

「わぁっ! わぁっ! 早く早くー!」

 

 「明り(ライティング)」により幾つかの光源を放った湖面の近くで、昼よりもやや冷える気温の空をフランが顔中で喜びを表しながら飛び回る。

 

「駄目ねぇ、あんなにみっともなくはしゃいじゃって。淑女たるもの、もっと振る舞いに見る者を意識した優雅さを求めないと」

「そう思うのであれば、自分の背中の羽をどうにかしなさい。さっきからパタパタ鬱陶しいわ」

 

 妹の歓喜に呼応しているのか、レミリアもまた不承不承参加させられたパチュリーに突っ込みを入れられるほど心の内を隠せていない。

 

「美鈴、紅い布が巻いてあるバスケットがお嬢様とフラン様の分よ。青がアリス、白地が私、間違えないでね」

「はい、大丈夫です」

「小悪魔、貴女はまだ働いては駄目よ。パチュリー様に付いていなさい」

「過保護ですねぇ。腕の接合も終わりましたし、それくらい手伝わせてくれても――解りました、解りましたから、無言で睨まないで下さいよぉ」

 

 吸血鬼の食べる料理には、人間が食材として使用されている。

 紫の用意した外の世界の罪人らしいが、それでも間違って私やパチュリーや咲夜が口にするわけにはいかないので、その辺りを配慮してバスケットの取っ手に色の付いた布を巻き判別し易いようにしたのだ。

 

「あら、もう始めているのかしら?」

「おー、良い匂いなのだー」

「ふふんっ。約束通り来てあげたわよ!」

「皆さん、こんばんはぁ」

 

 私の出した光源を目印にしたのか、お願いしていた時間通りに幽香、ルーミア、チルノ、大妖精の四人が湖を越えて現れる。

 

「アリスー」

「はいはい」

「ぁ……むーっ!」

 

 私の胸に飛び込んで来たルーミアを受け止め、可愛い彼女の頭を撫でてあげていると、くるくると空を舞っていたフランが膨れ面になって私の隣へと着地する。

 

「離れてよっ。アリスお姉ちゃんは、フランのだよっ」

 

 これは珍しい。

 私の左腕を抱いてルーミアを威嚇するフランは、確かに時々回りの迷惑を顧みない我侭を言う。だが、それでも自分の能力を恐れてか誰かと進んで争おうとはしない臆病な面を持っている。

 そんな彼女が明確な敵意と向けてでも排除しようとするとは、ルーミアとフランの間で私の知らない出会いでもあったのだろうか。

 

「アリスは皆のアリスなのだー。独り占めはずるいのだー」

「知らない知らないっ。他の皆は許してあげるけど、貴女はダメなのっ」

 

 両手に花とはこの事ですなぁ。むほほっ。

 幸せだぁ、幸玉が一杯だぁ。

 でもね、出来ればね、二人とももうちょっと手加減をして欲しいかなぁ。

 具体的にはね――ミシッて、ミシミシッて、貴女の掴んでる腕が鳴ってるのよ、フラン!

 もげるもげる! 左腕もげる!

 そして、ルーミア! 貴女の足元でウゾウゾなってるソレって、捕食用の「闇」だよね!?

 待って待って! 死ぬから! この至近距離でそんな凶悪なもの噴出されたら、右腕どころか半身持って行かれて死ぬからぁ!

 や、やめ――ギャアァァァァァァァァァ!

 

「ほら、二人とも止めなさい。アリスが困っているじゃない」

 

 「裂けるアリス」という不吉なフレーズが頭をよぎっていた私の身体を、意外な人物が横手から引き抜き救済の手を差し伸べてくれる。

 

 ゆ、幽香りん。

 女神や、女神がおる……っ。

 

「うー……」

「むー……」

 

 流石の二人も、幽香の圧倒的な武力を感じ取ってか彼女から私を再度奪い返そうとはしない。

 

「ありがとう、幽香」

「わざわざこの私が参加してあげたのよ。おバカな事やっていないで、早く始めるわよ」

 

 助けた理由が純粋な善意からか、単純に早く始めたかったかは微妙だが、どちらにせよ助かったのでお礼を言っておく。

 

「それで、音頭は誰が取るの?」

「私よ」

 

 幽香の問いに対し、胸を張って即座に応えるレミリア。

 

「今宵集った者たちと、我が盟友たちよ――」

 

 全員の手に飲み物が行き渡ったのを確認し、彼女はそんな皆の前で赤ワインの入ったグラスを片手に演説を開始しようとする。

 

「アリスお姉ちゃん! これ、とっても可愛い!」

「それは、タコさんウィンナーね」

「はぁ……わざわざ外に出てまで食事をしようだなんて、時間と労力の無駄でしかないわね」

「まぁまぁ、そう不貞腐れないで下さいパチュリー様。はい、アリスさん作のサンドイッチですよー」

「美鈴、酌をなさい」

「酌であれば、従者である私がうけたまわりますわ」

「良いんですよ、咲夜さん。幽香さんは、私をご所望です。咲夜さんも、今は皆さんとピクニックを楽しんで下さい」

「あーむ……んふー」

「負けないわよ、ルーミア! あたいが全部食べちゃうもんね!」

「チ、チルノちゃん。急いで食べると、喉に詰まって危ないよぉ」

「聞・き・な・さ・い・よ!」

 

 だが、周囲はすでにバスケットを開けて食事を始めており、大仰にグラスを持ち上げて見得を切った姿を無視されたレミリアは涙目で大声を上げる。

 

「ちょっと幽香! 貴女が最初に、誰が音頭を取るか聞いたんじゃない!」

「えぇ、確かに聞いたわ。でも、尋ねたからといって挨拶を聞くとは言っていないわよ」

 

 不満をあらわにして怒鳴る暴君へと、花妖怪は素知らぬ顔で言い返しグラスの白ワインを口に含む。

 

「おおう、お嬢様を相手になんという加虐心……噂に違わぬサディスティックな性格のようですねぇ。私も見習わなければ」

「止めてちょうだい、小悪魔。役に立たない妖精たちだけで、私の心労は一杯一杯よ」

 

 尊敬の念さえ浮かべて幽香を見る小悪魔の横で、咲夜が切実な想いを淡々と吐き出す。

 普段も騒がしい時のある紅魔館も、人数が集えばその騒がしさは更に倍だ。

 

「えぇいっ、こうなったら――アリス! 何か余興をなさい!」

 

 おぜうによる唐突な強権発動。

 どういうこっちゃい。

 

 どうやら幽香と口論を続けていたらしく、言い負かされた勢いがこちらにまで飛び火したらしい。先程よりも更に涙を増やし、真っ赤になった顔で私を全力で指差している。

 

「あら、楽しそうね。何を見せてくれるのかしら」

 

 レミリアと幽香の声に誘われ、気付けばその場の全員が私を見ていた。それも、中には本気で期待に満ちた目をしている娘も居る。

 

 余興かぁ。んー、急に言われてもなぁ――

 お、あるじゃん。丁度良いのが。

 

 いずれは、人里で許可を得てやらせて貰おうと思っている人形劇。

 その第一作品のお披露目だ。

 

「そうね――」

 

 パチュリーや小悪魔を相手に予行練習は何度も繰り返したが、本番としての公演はこれが初めてだ。

 皆の反応から、人里での受けも少しは予測出来るだろう。

 魔法陣から興行用に用意した大型のトランクを召喚し、中に入っている人形たちへと魔法の糸を繋いでいく。

 皆から少し離れた場所に立ち、正面の一角へと幻影の魔法にて劇の背景を出現させる。

 

「本日は、アリス・マーガトロイドの人形劇にお集まりいただき、ありがとうございます」

 

 そうして、芝居掛かった仕草でスカートを摘んで片足を引き、爪先で地面を叩く礼を一つ。

 楽器を持った上海や蓬莱たちと、劇の役者を務める様々な格好をした人形たちもまた、私のお辞儀に合わせて見物人たちへと一斉に頭を下げさせる。

 観客と私の真剣勝負。始まる前から瞳を輝かせるフランとチルノの期待に応えられるよう、全力でいかせて貰おう。

 

「演目「えんとつそうじとヘビ魔王」――」

 

 遅い春が、老桜の花と共に過ぎ去った後で。私もまた、レミリアたちと同じく幻想郷へと新しい一歩を踏み出す為に。

 また一つ、私が始まる――

 「死」はなくとも、「明日」のある私は――その一歩をまた一つ、前へと踏み出していくのだ。

 僅かでも、「アリス」へと届くよう――

 僅かでも、「私」をこの地へ残せるよう――

 そんな、矛盾を孕む二つの願いを込めて――

 幻想の園で出会う、皆の幸福を願いながら――

 この身に抱える沢山の偽りの中で、せめて精一杯の「生」を謳歌する為に――

 私は今日も、「アリス・マーガトロイド」を演じ続ける――

 

 

 

 

 

 

 楽しいピクニックが無事にお開きとなった、翌日の昼下がり。

 結界が解れ、周囲から知覚可能となった紅魔館には、現在アリスではない別の客人が訪れていた。

 侍従長である咲夜に導かれ、その客人は謁見の間の前へと立ち止まる。

 

「お嬢様。客人をお連れいたしました」

「通してちょうだい」

「かしこまりました」

 

 ノックの後、部屋の中から聞こえる声に従い咲夜が木造の扉を開く。

 

「やぁ、お久しぶりです。以前にお会いしたのは、貴女方が幻想郷に訪ねて来られた時の折衝以来でしょうか」

 

 玉座に座る紅の王女へと朗らかにも思える笑みを浮かべるのは、糸目に長い黒髪を後ろで一本にまとめる和服姿の青年だった。

 彼が大天狗という役職を持ち、山の組織の頂点に最も近い側近であるとは、言われた所ですぐには信じられるものではないだろう。

 

「これはこれは――誰かと思えば、妹の遊戯に付き合ってくれた時代遅れの種族じゃない。一体なんの御用事かしら?」

「ははは、参ったなぁ」

 

 レミリアの皮肉も、大天狗には然して通用してはいない。総じてプライドの高い種族であるはずだが、彼に限ってはそんな常識が通用しないらしく困り顔で頭を掻くだけだ。

 

「まずは感謝を。貴女方の起こした今回の異変で、停滞していた山の組織にも少しは良い風が吹いてくれたようでして。修験者としての修行や荒行ばかりに明け暮れていた者たちの中からも、外部へ興味を持つ者が現れてくれました」

 

 折り目正しく頭を下げた後、組織の近状を報告しつつレミリアたちの功績に謝辞を送る大天狗。

 

「それは重畳」

「つきましては、俺がそのお礼と報告を伝えに参りました」

「それで?」

「それだけです」

 

 見下ろすレミリアと笑顔を崩さない大天狗の間で、音を立てるようにして空気が軋む。

 大天狗の言葉には、それだけの意味が込められているからだ。

 

「組織の一員としてではなく、長である天魔とやらの代弁でもなく――ただ、貴様個人の礼を言う為だけに私の屋敷を訪れたと?」

「えぇ、それだけです」

 

 大天狗が口を開く度に、確実に周囲の気温が下がるような錯覚が起こる。それほどまでに、レミリアが放ち始めた気配はその怒気に反比例するような寒々しさだ。

 あれほどの規模での乱戦だったにも関わらず、山の組織はレミリアたちの攻勢を「取るに足らない出来事」として流すつもりなのだ。

 吸血鬼たちを完全なる格下として扱い、組織として議題に上げる必要も、相手にする必要すらもないただの小事として――

 

「くくく――っ。確かに、先に舐めた態度を取ったのはこちらだ。古臭い無駄な言葉を列記した、鬱陶しい小言くらいは大人しく聞いてやろうと思っていたんだがなぁ」

 

 レミリアの喉が鳴る。

 犬歯を剥き出しにして、彼女の表情が内なる熱を限界まで押さえ込んだ暴君としての凄惨な笑みへと変化する。

 見下しているのはお互い様だ。だが、だからといってここまで虚仮にされて引き下がる理由など存在しない。

 

「美鈴を見逃してくれた礼だ。()()()()()帰してやる」

 

 レミリアの右手から紅の光波は走った瞬間、大天狗もまた紅魔館の主へと向けて右腕を突き出した。

 主の危機を従者が見逃すはずもなく、咲夜は能力によって時間を停止させて接近し、大天狗の腕を切り落とすべく銀のナイフを無情に振り下ろす。

 刃の突き立つ寸前で時の歩みを戻し――しかし、その冷たい斬撃は青年に届かない。

 

「――くっ」

 

 音もなくまとわれた幾層にも重ねた風の防壁が、咲夜のナイフを寸前で受け止め阻む。

 

「松明丸」

「――はいはいっと」

 

 大天狗の呟きに合わせて咲夜の前へと炎で形成された怪鳥が出現し、吸血鬼の従者は追撃を仕掛けられるよう僅かだけ身を引く。

 

「下がらないと危ないぜ、嬢ちゃん」

「っ!?」

 

 しかし、彼女の手に持つナイフを溶かしながら一気に熱量を増大させた松明丸に、危険を感じた咲夜は更に床を蹴って大きく後退した。

 咲夜の判断は正しく、松明丸の放つ業火は先程まで彼女の立っていた場所を含めた一帯を空気諸共に一瞬で焼き尽くす。

 

「くぅっ!」

 

 咲夜が咄嗟に腕で顔をおおってしまうほどの焔が立ち昇り、人間がレミリアと大天狗の間に入る事を拒絶する。

 

「――軋れ、護法輪(ごほうりん)

 

 レミリアのみに視線を送る大天狗の手の平に生み出されたのは、雷撃をまとった車輪の法具。

 

「ぐぅっ」

 

 風を超える速度で撃ち出された修験者の装備は、咄嗟に左腕で防御したレミリアを弾き飛ばし玉座の椅子を破砕した後、その背後にあった石壁までもを粉砕し彼方へと消えていく。

 

「色々壊してしまって、申し訳ありません。それでは、俺はこれで失礼しますね」

 

 レミリアが立ち直るよりも早く、大天狗の姿は言葉だけを残して消え失せていた。

 姿を隠す隠行ではない。その証拠に、一拍を置いて外へと空いた壁へと向けて、レミリアの帽子を飛ばすほどの勢いで強風が吹き荒れていく。

 

「お嬢様! ――おのれっ」

「咲夜、追うな!」

「っ」

 

 大天狗が去った事で炎が収まり、主人に手傷を負わせた不埒者へと追討の意思を見せた咲夜へ、レミリアは素早く静止を掛けた。

 一瞬でこれほどの惨事を生み出した眷属の炎と、大天狗自身の一撃。そのどちらもが、相応に手加減されたしろものであった事をレミリアは察していた。

 咲夜が美鈴と共に追ったとしても、その御首を持ち帰れる可能性は限りなく低い。

 加減された大天狗の一撃は、それを確信させるだけの潜在的な彼の実力を静かに物語っていた。

 

「実力では負けていない、か。味な真似をしてくれるじゃない……っ」

 

 己が頂点だと疑わない組織同士の友好など、結べるはずもない。

 礼には礼を、牙には牙を――

 レミリアの力は、確かに強大だ。その才智と能力もまた、幻想郷にてパワーバランスの一角を背負うに相応しい存在でもある。

 だからこそ、紅魔館という組織はその他の組織と敵対している方が望ましいのだ。

 互いが睨みを利かせ合い、小競り合いを続ける事で確かな緊張感を保ち続ける。

 それは、闘争に快楽を求め、他者の絶望に悦楽を覚える化け物たちの確かな楽しみへとなっていく。

 

「精々偽りの栄華に縋っていると良いわ、小汚い死肉漁り共。いずれ、どちらが格上なのかお前たち全員を捻り潰して教えてあげる――っ」

 

 レミリアがそうして歯軋りをしている頃、逃走中の大天狗は血塗れの左腕を押さえながら空中を飛翔していた。

 

「いたたた……まさか、すれ違ったあの一瞬で爪を二回も打ち込まれるなんて……防御が遅れていたらと思うと、ぞっとするよ」

「平和ボケしてたのは、旦那も同じでしたねぇ」

「そうだね。完全に怒らせてしまったし、出来れば彼女との次回の折衝は全力で遠慮したいよ」

 

 肩に乗る松明丸に軽口を返し、自称若輩者の青年は首を振って苦笑する。

 人外の退屈を潰す刺激など、幾らあっても足りはしないのだ。

 表で、裏で、見下す者同士の戦争は続く。

 何時の日にか、己の組織がこの隠れ郷の頂点であると万人から認めさせる為に。無意味であり、そして何よりも価値のあるその称号を求めて。

 これもまた、幻想郷にとっては必要な営みの一つだった。

 

 

 

 

 

 

 ――紅魔館での騒がしい「紅霧異変」が終結し、今はその数日後といった辺りだろうか。

 明日に行われるという宴会を前に、地下の人形格納庫で人形の調整に一息を吐いた私は、そのまま細部の点検へと作業を移す。

 

「ふぅっ……こんなところかしら」

 

 レミリアたちから明日の宴会には是非来て欲しいって誘われてるし、フランと約束したピクニックも待ってる。

 うふふ、今から楽しみな行事が満載ですな。

 

 人間らしく暮らそうと三食と睡眠をきちんと取るようにしている私だが、ここ最近はどうしてもやらなければならない作業があり連日の徹夜を続けていたりする。

 水を引いた――といっても、それまでの工程が滅茶苦茶大変で大層パチュリーから怒られた――フランの地下室で回収した上海と蓬莱の修理はその日に済んだのだが、半壊状態のあるるかんたちの補修は当然相応の日数を必要とした。

 素材はなくならないとはいえ、それらを加工して部品を作り、更に完成した部品を繋げて人形を作製するのは私自身。この作業だけは、幻想郷縁起にて「アリス・マーガトロイド」の項に記載されていた通り他の人形たちには一切手伝いを頼んだ事はない。

 原作を意識した単なる意地ではなく、この子たちを確かな愛情を込めて作りたいという理由のある意地である。

 全体の修理自体がようやく終わり、これからあるるかんたちの最終調整を行おうというところだ。

 人形たちの身体に繋がる糸を指に掛け、軽く操作して違和感や部品同士の齟齬が起きていないかを確認していく。

 

 ん、んー――うん、問題はないみたいだね。

 色々無茶させてごめんね。ありがとう。

 

「――ありがとう」

 

 私と人形しか居ない薄暗い地下で、私はあるるかんの頬を撫でながら心からの感謝を送る。

 当然、意思のないこの子たちからの返答はない。

 そこで思い出されるのは、運命を読んだレミリアの予言だった。

 

 七つと千の夜を超え、真夜中のサーカスが貴女に結末を届けるだろう。

 恐れてはいけない。目を逸らせば、幸福の小箱は貴女の手の平から滑り落ちてしまうのだから――

 

 予言を語ったレミリアでさえ知らないだろう、特徴的な単語。

 この幻想郷で、知る者の方が少ないだろうその単語に込められた意味が理解出来ない私ではない。

 あるるかんやオリンピアなどの懸糸傀儡(けんしくぐつ)を置いてある事からも解る通り、この一帯はかの作品に登場した人形たちを可能な限り再現した――そんな私の子供たちを安置する区画だ。

 プルチネルラ、グリモルディ、ムジンニィ、スピネッティーナ、ジャック・オー・ランターン――

 そして――敵側である、「真夜中のサーカス」の人形たちも、また――

 

 動くのか、私の生み出したこの子たちが――

 私に、結末を届ける為に――

 私に、最期(終わり)を届けてくれる為に――

 

 光が薄く、影の多い人形格納庫の奥でもの言わぬ沢山の人形たちが、私に糸を繋げて貰えるその時を頭を垂れて待ち続けている。

 

「――私が作った貴方たちに殺されるのなら、それも悪くないのかもしれないわね」

 

 それが何時になるのかは解らない。

 だが、レミリアの予言はきっと当たるだろう。

 彼女は続けてこうも言った――私の願いは、きっと叶うと――

 私の願いは――この胸の奥に潜むほの暗い願いは――この子たちが叶えてくれるかもしれない。

 

 なーんてね。

 ま、その時私は結局抵抗しちゃうんだろうし、暗い話はポイだポイッ。

 

 今の私には、己の生死を苦悩する事さえ許されてはいない。

 どれだけの絶望であろうと、どれだけの渇望であろうと――小波は、所詮小波で終わるだけ。なんとも虚しいものだ。

 浮かんだ思考をざっくりと切り捨て、調整を済ませ格納庫を後にした私は上海と蓬莱を連れて地上の自室まで移動する。

 小さな本棚と作業用の机、それに一人用のベッドだけが置かれた女の子としては随分と洒落っ気のない室内。そこに、今日は新たな小物が加わる事になる。

 移動の途中で一階から持って来たのは、先日また香霖堂にて購入した小さな写真立てだ。白縁の簡素な作りが気に入り、思わず衝動買いをしてしまった一品。

 入っているのは、紅魔館を写した一枚の写真だ。

 異変が終了した際、霊夢と魔理沙が帰った後で私はレミリアたちを撮らせて欲しいと屋敷の前で被写体になって貰ったのだ。

 

 いやー、まさかパチュリーが昔レミリアたちの我侭を聞いて、彼女たちが鏡に映るよう「影」を付けてたなんてねぇ。レミリアとフランしか吸血鬼に出会った事ないから、影なんてあるのが普通だと思ってたよ。

 肉体改造とか、そういう域を普通に超えてるよね。七曜の魔女さん、マジパネェっす。

 

 そのお陰というか、問題なく彼女たちの写真を撮る事が出来たわけだ。山の組織に現像を依頼してくれた霖之助にも、深く感謝しなければならない。

 最初の数枚は、フィルムを確認する際に開けたので案の定焼けてしまっていたが、その後の写真はちゃんと現像を果たしていた。

 もしかすると、本来ならば不可能だった現像を天狗なり河童なりの技術で可能にしたのかもしれない。

 

 中央で両手を腰に添え、全力でふんぞり返るレミリア――

 そんな尊大な姉に抱き付き、満面の笑みを浮かべるフラン――

 フランの右隣で腕を組んで身体を逸らし、視線だけを億劫そうにこちらへと向けるパチュリー――

 レミリアの左隣で、両手を前で組み背筋を伸ばした姿勢で穏やかに笑う咲夜――

 咲夜の隣に立ち、両手を後ろに回してニコニコと人好きの笑みを浮かべる美鈴――

 片腕を吊った状態にも関わらず、パチュリーの隣で完璧な笑顔を披露する小悪魔――

 その他、そんな彼女たちの上や横などで自分の場所を確保しようと奮闘する沢山の妖精メイドたち――

 

 半壊し、左右に大穴の開いた紅魔館を背に紅魔館の全員が写された、思い出の一枚。少しだけピントがずれているのは、ご愛嬌だ。

 きっとこれから、こんな写真がどんどん増えていくのだろう。アルバムなんて、幾つあっても足りないほどに。

 

 楽しみだなぁ。

 今までは脳内に記憶するしかなかったけど、これからは映像としてしっかり残しておけるようになるんだ。これまで以上に、作る衣装には気合を入れてかないとね!

 撮るぜぇ、ガンガン撮るぜぇ。

 

 とはいえ、それも私が本格的に動き出す「春雪異変」が終わった後だ。

 紅魔館の皆だけではなく、私は幻想郷の少女たちを撮っていきたい。

 

 あぁ、そうだね。いきたい――行きたいよ――生きていたい。

 許されるなら、私は「アリス」として生きたいんだ。

 でも、もしも居るのなら――私は、「アリス」にこの身体を返したいとも思ってる。

 そして――

 

 ――私の中には、大きな矛盾がある。

 楽しくて、生きたくて、死にたくて、朽ち果てたい――

 終わりたくないのに、生きていたいのに――ほんの少しだけ、人間への憧れの中に「死」という夢を抱いてしまっている。

 矛盾したまま、葛藤の出来ない私は生を続けていくのだ。それこそ、寿命の訪れないまま永遠に等しく。

 現金なもので、終わりがあると解れば頑張れる事もある。

 永遠の重さも、軽くなる。

 そんな私の終焉を、私の作った人形たちが果たしてくれるのならばこれほど嬉しい事はない。

 それでもきっと、私はその運命に抵抗してしまうのだ。生きたいと、死にたくないと。

 度し難い――だが、これもまた私の中に微かに残る「人間らしさ」なのかもしれない。

 いずれ、逃れられぬ運命が私を捉える。

 だが、やはり私は何も知らない愚か者だった。

 後に、私はレミリアの告げてくれた予言の本当の意味を知り、目を逸らしたくなるほどの絶望の先で「幸福の小箱」を手にする事となる――

 それは、「私」と「アリス」に一つの結末が訪れる、ずっとずっと先のお話――

 




伏線なんて無い。良いね?

さて、次はいよいよ過去異変編の最後となる幕間ですね。
魔理沙! 次はおめぇの出番だ!

長かった……すっごい長かった……

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