東方有栖(アリス)伝   作:店頭価格

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選択肢としては、メカボンビーRXとコイツの二択でした。


97・ヒソウテンソクVS〇〇〇〇魔王

 貴賓席として用意された簡易なやぐらの中で、そびえ立つ金色の機神を見上げながら二人の神がなんとも言えない表情をしている。

 

「ったく……アドバルーンを注文したのに、なんで巨大ロボが出来るかなぁ」

「河童の奔放さを知っていながら、途中経過の確認を怠った貴女の落ち度よ。諏訪子」

 

 本来、祭りを盛り上げる為の催しとしてにとりに作成を依頼していたのは、諏訪子の言う通り巨大な風船だったはずなのだ。

 人の形には、やがて意思と魂が宿る。木彫りであろうと、機械仕掛けであろうと、ぬいぐるみであろうと、一切の例外なく。

 幻想郷であれば、その摂理はより顕著に表れてしまうだろう。

 何処ぞの人形遣いでもあるまいし、意思の宿った御神体など処分に困るだけだ。

 故に、木彫りや金属の彫像より遥かに簡単に持ち運べる上に、行事が終われば折りたたみ人の形を崩す事の出来るアドバルーンに目を付けた。

 お手軽な広告塔が出来ると楽しみにしていたのだが、蓋を開けてみればご覧の有り様である。

 

「ちぇー……とはいえ、不味いね」

「あぁ、不味い」

 

 日の光を反射し見事な光沢を放つ機械の巨人を見据えながら、二人の表情は暗い。

 少し奇妙に聞こえるかもしれないが、守矢神社の運営についての決定権は、早苗にある。

 神奈子も諏訪子も意見や希望は言うが、それだけだ。

 森羅万象にさえ影響を及ぼし得る神という存在は、軽々しく動いてはならない。

 動くとしてもそれは最終局面であり、日々の雑事や(まつりごと)は信徒である風祝(かぜはふり)の意思に委ねられる。

 その風祝(かぜはふり)が神社にロボを置くと決めてしまった場合、二柱はそれを受け入れなければならなくなる。

 そもそも、外の世界に居た頃から早苗に甘い二人だ。少女が心から望んでいる事を、無理やり否定するなど出来るはずもない。

 とはいえ、神社の裏地に巨大ロボが置かれた自宅などに住みたくないというのも、二人の紛れもない本心だ。

 

『ざ、ざざ――あー、あー、聞こえてる?』

「お?」

「これは、確かアリスが半殺しにしたという天人の声か?」

『ねぇ、聞こえてるんでしょ!』

 

 受け入れれば自分たちが辛く、拒否すれば早苗が悲しむ。

 人に祈られる立場にある神は、一体何に祈れば良いのか。

 二つの間で板挟みに合い苦悩する乾神と坤神へと、唐突に救いが舞い降りる。

 

『さぁ、十分待ってあげた上にあんたの土俵に降りてあげたわ! リベンジよ、掛かって来なさい!』

「「いよぉし!」」

 

 二人にとっては理想的な展開となり、思わずガッツポーズを取る神奈子と諏訪子。

 これで、あのどう見てもロボットな御神体を破壊する大義名分が出来た。

 危険性を説いて壊してしまえば、神社に飾る事は出来なくなる。

 神の祈りは、天に通じたのだ。

 

「狙いはアリスか。さぁて、今回はどんな手が出て来るかな」

「予定していたものよりも楽しめそうね。アリスには悪いけれど、もしも被害が出た時は彼女に矢面に立って貰いましょう」

 

 祭りに参加した者たちが楽しむだけ、二柱の神への信仰となる。

 その点で言えば、即興で始まったこの余興はきっと観覧者たちを大いに楽しませるに違いない。

 杞憂は杞憂で終わってくれた。ならば後は、始まった余興を被害なく終息させるだけだ。

 何時でも介入出来るよう互いに神気を練り上げながら、二人はこれより始まる大戦への期待に胸を弾ませ口元を釣り上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 非想天則の機体内。

 操縦席に相当する場所は、天子一人が余裕で動き回れるほど広い半球体の空間が広がっている。

 天子は操縦服としてぴっちりと肌に張り付く黒を基調とした特殊なスーツを着込んでいる。また、スーツの関節や各部からは、金色の突起が伸びていた。

 ダイレクト・モーション・リンク・システム。

 パイロットは後ろ腰をアームで保持され直立し、球状コクピットがパイロットの動きをセンサーでリアルタイムでスキャンし、機体動作へ反映させる。

 与太話の一環としてアリスの口から語られた別世の知識の一つを、外の世界を凌駕する技術力を持つ河城にとりが現実にしてのけた代物だ。

 パイロットの動きがそのまま機体の動作に反映されるため、操縦には卓越した身体能力が必要となる。

 最強の天人である天子にしてみれば、付け焼刃で通常の操縦技術を身に着けるより遥かに簡単に鉄の巨人を動かす事が出来るだろう。

 

『機体の調子はどう? 何処かエラーが出てる箇所はあったりする?』

「問題ないわ。確認出来る項目は、全部良好よ」

 

 天子は空中に出現する機体のコンディションを示す画面を指で操作しながら、見たままの情報をにとりに答える。

 にとりは早苗に機体を乗っ取られたと説明したが、それは半分嘘だ。「乗っ取らせた」、という表現の方がより正確だろう。

 アリスとの真剣勝負を実現する為に、河童と天人は秘密裏に手を組んだのだ。

 

『何度か説明したけど、非想天則を動かせるのは一刻(約三十分)だ。それ以上は、ジェネレーターが稼働限界に達して何が起こるか解らなくなる』

「何度も聞いたけれど、ほんとにそれっぽっちの時間しか動かせないの? とんだ欠陥品ね」

『おまっ。切り離された八咫烏の神力を受け皿もなしに一刻も制御出来るってのが、どんだけ凄い事か解ってんの!?』

「知らないわよ」

 

 それがどれだけ優れた技術であろうと、天人には興味がなかった。

 欲しいのは、あの人形遣いを叩き潰せるだけの機能と性能だけだ。

 

「使い手の希望に添う事の出来ない道具なんて、ただのゴミじゃない」

『……っ。それじゃあ、一刻以内で負けないよう精々上手く操縦してみせろよっ』

「当たり前でしょう。今度は私が、あのがらくた女を完膚なきまでにぶっ潰してやるんだからっ」

 

 これから始まる雪辱戦を前に、少女の表情が獰猛な笑みに歪む。

 滾る戦意が、最早待つ時間も惜しいと内から破壊の衝動を促していた。

 

『後は全部お前次第だ。勝てよ』

「えぇ、言われるまでもないわ」

 

 こちらのカードは出揃った。

 あとは、相手のカードを待つだけだ。

 何もかもが間違っていようと、河童と天人の少女たちが前に進む為には、この戦いを避けて通る事は出来ない。

 左の手の平に、右の拳を打ち付ける天子。

 彼女の動きを読み取り、外側となる非想天則もまた金属の手を打ち合わせる。

 アリスはきっと、応えてくれる。

 根拠のない確信だ。だが、恐らくその予想は当たるだろう。

 互いに同じ目標を持ち、同じ相手へと挑む。

 二人の目標として、人形遣いがその願いに応じない訳がなかった。

 

 

 

 

 

 

 突如始まった巨大な機械人形の暴走に、祭りを楽しんでいた人間たちが騒然となっていた。

 そんな中、イベントの主催者である早苗が毅然と叫ぶ。

 

「貴女、天子さんですね!? 御神体に一番乗りなんて羨ましい事をして、早く降りて私と替わりなさい!」

『さぁ、早く出て来なさい! 出て来ないと、人里の民家残らず踏み潰すわよ!』

「ちょっ、人里を守る御神体でなんて事をしようとしているんですか! 止めなさい! 止めなさーい!」

『最初はこの辺りの屋台ね! 私は本気よ!』

「やーめーてー!」

 

 聞こえていないのか、そもそも聞く気がないのか。

 早苗の説得を無視し、非想天則が今にも前進しそうな勢いで姿勢を前へと傾ける。

 巨大な金属の塊が、人間と同じ動作で動く。

 それだけで、一般の人間や格の低い人外にとっては十分な脅威となるだろう。

 とはいえ、所詮は巨大なだけのでくの坊だ。

 それなり以上の実力を持つ者たちにしてみれば、ただの大き過ぎる的でしかない。

 人々が巨人に恐れおののく中、ブルーシートに陣取っていた紅魔館の面子と人形遣いは平静そのもので事態を見つめている。

 人々の混乱が続く中、アリスが無言で立ち上がった。

 そのまま巨人の元へと歩こうとする人形遣いを、紅魔の当主が呼び止める。

 

「何処へ行く? アリス。もしや、あの馬鹿共に付き合おうとでも?」

「えぇ。あの娘をあそこまで暴走させた責任は、私にあるわ」

「はっ、下らん」

 

 背中で語るアリスの覚悟を、レミリアは鼻で笑う。

 

「貴様に責任など、あるはずないだろう。鬱陶しい被害妄想も、いい加減聞き飽きたぞ」

 

 続いて示されるのは、嫌悪の感情だ。

 眉を歪め、口をへの字に曲げ、明らかに不機嫌になった紅の美姫が言葉を続ける。

 

「ならば、空が青いのも貴様のせいか? 今日が晴れなのも、紅魔館が紅いのも、最近フランがちょっとおませになったのも、全て貴様のせいだとでも言うのか」

「流石です。しれっと妹様の話題をぶっ込む辺り、シスコンの鑑ですね」

「小悪魔、うるさい」

「褒めましたのに」

 

 外野の野次で腰を折りながら、レミリアはアリスが背負おうとしているものを否定する。

 

「奴の罪は、奴が背負い償っていくものだ。その償いの機会すら奪うと言うのならば、それは優しさではない。傲慢だ」

「――それでも。それでもなのよ、レミリア」

 

 顔だけで振り返るアリスの表情は、相変わらずの鉄面皮だ。

 しかし、親しい者であれば解る程度に、彼女の眉は申し訳なさそうにほんの僅かだけ下がっている。

 

「それでも。私が応えてあげないと、きっとあの娘は泣いてしまうわ」

「……阿呆が」

「それに、お祭りは皆で楽しむべきだわ。私の中の「皆」には、もちろんあの娘たちも入っているの」

 

 そしてきっと、その「皆」の中に人形遣い自身は居ないのだ。

 

「勝手にしろ」

 

 レミリアが、苛立たし気に吐き捨てる。

 紅の暴君でさえ、この頑固者を揺るがせる事は出来ない。

 一体何が、アリスをそこまで追いつめているのか。

 一体誰が、アリスに背負い続ける事を強要しているのか。

 一体何故、アリスは己を責め続けるのか。

 歪な人形遣い持つ闇の深奥を知らないレミリアの言葉は、アリスに届かない。

 

「少しでも無様を晒せば、あのがらくたは私とフランが消し飛ばす。文句は聞かんぞ」

「頑張って! お姉ちゃん!」

「えぇ、ありがとう」

 

 不器用な声援と心からの応援を受け、アリスは遂に戦場へと歩き出す。

 

「来なさい――「碧の賢帝(シャルトス)」」

 

 上海の胸部が開き、虹色の魔石(ジェム)が弾き出される。放物線を描く鮮やかな石の軌跡は、やがて人形遣いの右手へと到達する。

 変化は一瞬だった。全身の発光の後、人形遣いは幻想郷という名の孤島を守護する抜剣者(セイバー)へと変貌を果たす。

 

「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 腰の下まで伸びた白色の長髪をたなびかせ、現れた魔剣から伸びた茨の円環が少女の背後にて一層強く輝きを放つ。

 こちらへ迫ろうとしている機械の巨人のはるか上空にて現れたのは、規格外なまでに巨大な召喚陣。

 

「おいで――」

 

 創造主(はは)の呼び声に応え、天に空いた穴より「それ」は舞い降りた。

 

『がははははははっ!』

 

 響き渡るだみ声に、誰もが現れた次なるロボットへと視線を移す。

 無数の古鉄の板を重ね合わせた、つぎはぎの逆三角ボディ。

 異様に大きな、髑髏を模した顔面が鎮座する頭部。

 

『このガミガ……じゃなくて、鋼鉄魔王様に歯向かうとは――あ、10000000000年早ーい!』

 

 黄金に輝く非想天則とは真逆の、如何にも悪役を思わせるもう一体の巨人。

 光を反射せぬほどに色あせた鈍色の機械が、傍若無人なる機械の神へと両腕を広げた。

 

 

 

 

 

 

 こんな事もあろうかと! こんな事もあろうかと!!

 丹精込めて作り上げた、我が渾身の一品!

 ご都合主義と笑わば笑え! しかし見よ、この燃える展開!

 ガミガミ魔王ロボ――改め、鋼鉄魔王ロボ、発・進!

 

 にとりからオーバーテクノロジー満載の工学技術を学んだ私が、取得した技能で遊ばない訳がない。

 魔法と錬金術により、巨大さに見合った部品は割と簡単に作り出す事が出来た為、予定よりもかなり早くロールアウトに至った巨大ロボだ。

 ファンタジー全開の作品の中で、世界観完全無視の巨大ロボを平気で生み出す自称魔王の変態技術。

 原作では、胴体が動かず終わった鋼鉄魔王ロボだが、この人形はちゃんと全身フル稼働が可能だ。

 因みに、ロボの声はその昔博麗神社に作られた温泉の覗き防止用トラップとして作り出した音声再生魔石(ジェム)を更に研究し、本来の搭乗者に近い声質を再現してみた。

 某電子の歌姫を参考にしたこの音声技術が完成した事で、私は「喋る人形」の作成が可能となった訳だ。

 

 ふふふ、自分で作った原作人形たちの声まで再現出来るって、とても素晴らしい事だとは思わんかね。

 しっかし、この巨大さを召喚するには自力が足りないから頼ったけど、やっぱり魔剣は一瞬使うだけでも凄い疲れるね。

 ふひー。

 

「ふぅー」

 

 迷彩魔法で隠れながら魔王ロボに乗り込んだ私は、頭部のコックピット内で疲労を滲ませる息を吐く。

 魔剣はすでに魔石(ジェム)の形へと戻っており、私の変化も終了している。

 魔法の増幅器(ブースター)として破格の性能を誇る半面、終了時の消耗が激し過ぎるのが魔剣の難点だ。

 戦いが始まる前から疲れていては、本末転倒である。

 

『逃げずに来たようね。でも、そんなオンボロで私に挑むつもりなの?』

『生意気な小娘だ。ナルシアちゃんを見習えってんだ』

 

 ヒソウテンソクから聞こえて来るのは天子の声だが、鋼鉄魔王ロボから流れるのは誰も知らないおっさんの声だ。

 

『誰よ。まぁ、良いわ。貴女がそれで良いって言うんなら、こっちも遠慮なくいくわよ!』

 

 先手必勝って?

 それはこっちの台詞だよ!

 

『鋼鉄ミサイル!』

 

 武装の名前を叫ぶのは、古き良き様式美である。

 魔王ロボがお辞儀をするように腰を折ると、背中に搭載したランドセルのような武装コンテナの上部が開き、十を超えるミサイルがヒソウテンソクへ襲い掛かる。

 ミサイルの軌道は、原作魔王の武装を参考にしたものだ。それぞれが大きく弧を描き、様々な角度から目標へと殺到していく。

 

『いだ! いだだだだだだっ! 何これ、滅茶苦茶痛いんだけど!』

『当たり前だろ。機体とパイロットのフィードバックは、双方向で行われてるんだ。機体が傷付けば、その痛みは搭乗者にも百パーセント反映される仕様だよ』

『何そのくそったれな設計!?』

 

 ヒソウテンソクから、天子とは別ににとりの声も聞こえて来る。どうやら一緒に乗っている訳ではなく、別の場所からロボを通して音声だけを送っているらしい。

 そして、今の会話で今回の事件の発端が天子の独断ではなく、二人が共謀して起こした作為的な騒動である事が判明した。

 

 変態に技術を与えた結果がこれだよ!

 にとり、グッジョブ。

 

 河童は、融通の利かない技術者だ。使用者の迷惑や不便などまったく考えないし、自分が望む機能は搭載するのが当たり前だと本気で思っている。

 故に、河童に機械の作成を依頼する時は機能の取捨選択を細かく指示した上で、余計な事をしないよう進捗状況の確認を繰り返す必要があるのだ。

 にとりたち河童の性格を理解しない天子は、きっと相方に足を引っ張っられたと思っている事だろう。

 

『今度はこっちの――んっ、このっ、んんっ』

 

 ミサイル攻撃を耐えきった黄金の機体が、反撃としてこちらに腕を伸ばす。

 しかし、故障でもしたのか拳を振っても腕を捻っても何かが起こる気配はない。

 

『あぁ、技名を言わないと武装は動かないよ』

『バカじゃないの!? バッカじゃないの!? またはアホかぁ!』

 

 にとりェ……

 ふっ、解ってるじゃねぇか。

 

 この辺りの様式美は、激怒する天子には一生解らないこだわりかもしれない。

 

『あぁもう! だったらこうよ!』

 

 痺れを切らせたのか、天人を乗せたヒソウテンソクが大股で突進し魔王ロボの顔面へと鋼鉄の拳を振り下ろす。

 

『ぐえぇぇっ!』

「くぅっ!」

 

 コックピットを揺らす、激しい振動。シートベルトで固定された私の身体が、大きく跳ねて元の位置へと戻る。

 流石は河童謹製のワンオフ品。ふざけた機能を抜きにすれば、機体の性能はこちらより格段に上だ。

 圧倒的なパワーで打ち抜かれ、私のロボは防御も虚しく地面へと倒れ伏す。

 しかし、レミリアの如く赤が大好きな大佐の言葉にもあるように、機体の性能の差が戦力の決定的な差ではない。

 

『どぉりゃあぁぁっ!』

『うぇあっ!?』

 

 立ち上がるのを待っていたヒソウテンソクの両足へと、倒れたままの魔王ロボが両手で地面を跳ね変則的なドロップキックを叩き込む。

 人体を数十倍に拡大した機械は、その超重量をたった二つの足で支えなければならない。

 その為、普通に人間へ行うより遥かに簡単に姿勢を崩す事が出来るのだ。

 天子の性格を鑑みるに、機体の操縦練習もそれほど長く行ってはいないのだろう。巨大な鉄の塊がぶつかった事により、数歩たたらを踏んでから仰向けに倒れ込むヒソウテンソク。

 たたみ掛けるように、魔王ロボの背から次なる武装が放たれる。

 

『行けい! ちびロボ!』

『『デフーッ!』』

 

 ぽろぽろと零れ落ちるように魔王ロボの背中から登場するのは、頭部が丸い円筒状の胴体と適当な手足を付けた明らかに手抜き感満載のちびロボたち。

 機体との縮尺の関係で「ちび」と名付けているが、その身長や体格は人間の大人と大差がない。

 喋って歌って恋もする、魔王の生み出す「デフロボ」たちだ。

 原作での彼らは、ある意味私の目指す自立人形の完成形と言えるかもしれない。

 

『いくデフよー!』

『魔王様バンザイデフー!』

 

 バズーカや光線銃、果ては小型戦車など好き勝手に武装したロボたちが、同じく好き勝手にヒソウテンソクへと攻撃を開始する。

 

『いだっ! いだだっ! うっとうしいのよ!』

『鋼鉄ミサイル!』

『いだだだだだだっ!』

 

 ゲリラ戦を仕掛けるデフロボたちを踏みつぶそうと足踏みを繰り返す隙だらけの敵へ、再度ミサイルの雨をプレゼントする。

 数と武装の有利を活かし、相手を翻弄しながら立ち回る。

 希望としては、天子が羞恥心を捨ててヒソウテンソクの武装を使い始めるまでに、可能な限り弱らせておきたい。

 恐らくそこが、この戦いの攻守が入れ替わるタイミングだからだ。

 もしも負けても、私の背後にはレミリアを含めた各勢力の列強たちが揃っているので、人間や人里への被害を心配する必要がないのは気楽で良い。

 巨大ロボ対巨大ロボでの戦闘など、この先二度と体験出来ない貴重な経験だろう。

 弾幕ごっこに近い、お互いが同じ目線に立つ美しさを競う為の決闘。

 機能美や造形美という機械人形の素晴らしさを観衆へと示す真剣勝負は、金属の肉体同士がぶつかり合う鈍く甲高い爆音を奏でながら更にその熱を加速させていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 広がった恐怖と混乱は、次第に興味と熱狂へと変化していく。

 絶対の安全が、約束されている訳ではない。だが、それ以上に二つの巨人が争う光景はそんな危険を忘れさせるほどに壮大だった。

 命蓮寺の出店した精進カレーに舌鼓を打っていた魔理沙は、騒動が始まった時点で人込みから抜け出していた。

 今は、空中で箒にまたがり戦場を俯瞰し、介入するか否かを検討している状況だ。

 魔理沙の居る空の一点へ、複数の少女が現れる。

 

「よぉ、坊主と兎。お前たちも高みから見物か?」

「えぇ、ここからの方が良く見えるだろうし」

「私は、姫様の安全確保の為よ」

 

 魔理沙の挨拶に、一輪と鈴仙がそれぞれ言葉を返す。

 二人の目的は、武力介入を視野に入れた戦況の把握だ。

 一帯が平野なので、最適な場所が空中しかなかったというのがこの場に所属の違う二人が現れた理由になる。

 

「人間たちの立ち直りが、随分早いわね。幻想郷って、こんな事が何時も起きているの?」

「これくらいは、茶飯事だぜ」

「物騒なものね」

 

 来訪して日の浅い一輪は、魔理沙の回答に殴り合う機械の巨人たちを見下ろしながら眉をひそめる。

 派手な娯楽に人気が出るのは理解出来る。だが、それが命の危険を伴うものであるのはいただけない、といったところか。

 

「紅い霧が郷中にぶち撒けられたり、夜で止まったりはしてないんだ。確かに派手だが、規模で言えば小さい方だぜ?」

「滅茶苦茶ね……」

 

 頭が痛いとばかりに、額へと手の平を添える新参の僧侶。彼女が幻想郷の恒例行事に慣れるのは、まだまだ先になるらしい。

 

「どうでも良いわ。あっちの金ぴかを壊して、任務完了よ」

 

 そして、鈴仙は躊躇いなく銃の形にした右手の人差し指で、標的に照準を付ける。

 全ては姫の為に。如何なる娯楽であろうと、輝夜にとって危険であれば排除する。

 そこに、周囲への配慮や遠慮を挟む余地はない。

 

「お待ちなさい!」

「ちっ」

 

 しかし、紅色の銃弾が撃ち出される前にその射線へと立ち塞がったのは、非想天則の本来の所有者である早苗だった。

 露骨に舌打ちする鈴仙を睨み、お祓い棒を突き付ける。

 

「巨大ロボットは全人類の夢です! そんなロボット同士の熱いバトルが繰り広げられている素敵空間(パラダイス)を邪魔するなんて、この早苗さんが許しません!」

「何時にも増して意味不明ね。貴女こそ、邪魔をするのなら容赦はしないわよ」

「このロマンの尊さが伝わらないとは……そんなだから、未だに妖夢さんと手すら繋げないんですよ!」

「い、今はそんな事関係ないでしょ!」

 

 早苗からの指摘を受け、あからさまに狼狽する鈴仙。

 緊迫した雰囲気が一瞬で霧散し、なんとも形容し難い微妙な空気が漂い始める。

 

「いーえ、関係あります! 女の子は、皆ロマンチストなんです! ロマンを解さない女子力の低い鈴仙さんに、妖夢さんがなびかないのは自明の理!」

「そんな嘘に騙されると……嘘よね? ほんとなの? 嘘でしょ? ねぇ?」

 

 恋は盲目とは、良く言ったものだ。途中で不安になったのか、鈴仙は隣に居る魔理沙や一輪へと顔を向け問い掛ける。

 戦闘直前にも関わらず隙を見せるなど、良いか悪いかはさて置き永夜異変の頃の彼女と比べれば考えられないほどの変化だろう。

 

「うーん、私もロマンは好きだしなー」

「いや、どう考えても妄言でしょ。一理もないわよ」

 

 適当な魔法使いと真面目な入道使いの回答は、真逆のものだった。

 判断を自己に委ねられた真面目な玉兎は、同じ性格の一輪の意見が正しいと判断を下す。

 

「あぁもう! 貴女と喋ると、調子が崩れるのよ! その口を開くな! さっさと落ちろ、民間人!」

「そんなあざと可愛い事を言われても、お断りです! 巨大ロボットに乗るまで、私は負けません!」

 

 互いに怒声を浴びせながら、同時に四枚のスペルカードが示される。

 

 幻波 『赤眼催眠《マインドブローイング》』――

 秘術 『グレイソーマタージ』――

 

 まずは牽制。二人の弾幕が派手に弾け、空中で幾つもの花火を散らせていく。

 突如として始まった二つ目の決闘に巻き込まれないよう、魔理沙と一輪はお祭りの会場から更に距離を開けた場所へと退避を終えていた。

 

「色々いきなり過ぎて、付いて行けないのだけれど……」

「言ったろ。これくらいは、茶飯事だぜ」

「そう……」

 

 許容量を超えたのか、遠くを見つめる一輪の表情は無我の境地にでも至りそうな勢いだ。

 「理解出来ない事は、気にしない」。とある古道具屋の店主が至った、幻想郷の真理の一つである。

 入道使いの少女が同じ結論へ到達するのは、或いは時間の問題なのかもしれない。

 


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