実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜 作:ピクト人
カオル……一人称は私。本編で主人公やってたし、数少ない女性キャラなので今更言うまでもないかもしれませんが、念のため。
アーカード……一人称は私。一人称はカオルと同じだが明確に男口調であり、四人の中で最も精神的に成熟しているため比較的落ち着いた口調で話す。
エミヤ……一人称はオレ。格好つけるときは私。ノリの良い(というかウェーイ系の)兄ちゃんみたいな口調で話す。どうでもいいがH×Hのキャラの一人称オレ率はずば抜けてる。
アストルフォ……一人称はボク。だいたい大元のキャラと変わらず、元気一杯な話し方をする。「!」多めと覚えて頂ければ。
『オレの中のボブがヒップホップで食っていけと囁いている……どうも、三次試験担当のエミヤです』
悪夢は、終わらない。
三次試験の会場となるトリックタワーに到着した彼らを出迎えたのは、塔の屋上に設えられた巨大なディスプレイと──画面に映し出されるガングロ贋作野郎の姿だった。
「あ、ああ……ああああああああぁぁぁ……!?」
「い、いやだ……唐辛子はもういやだあああああ!!」
「ここは地獄かな☠︎」
二次試験でトラウマをこさえた者たちの悲鳴が響き渡る。
この場に集う二十四人。無事で済んだ者などただの一人もおらず、誰もが例外なく大なり小なりダメージを引き摺っていた。
具体的には、全員が尻からカプサイシンをひり出した後遺症でへっぴり腰となっている。例外は薬物耐性のあるギタラクル(イルミ)とキルア、そして例外枠のカオルとアストルフォぐらいのものである。そんな彼らもノーダメージとはいかなかったようで、キルアの顔は青褪め、ギタラクルは静かに足を震わせ、カオルは頭を抱えて蹲ってしまった。
「ちょっとー! 二回連続で出てくるなんてズルくない!? 少しは自重してよね!」
受験生の中で最も軽傷で済んだアストルフォがプンスカと不満を露わにする。
確かにアストルフォの主張にも一理ある。ハンター試験が複数のハンターによって行われるのは、何も試験官側の負担軽減だけが目的ではない。試験の評価が試験官たるハンターの裁量に任せられる以上、全ての試験を一人のハンターが担当してしまっては評価傾向が偏ってしまう恐れがある。これでは公平性に問題が出てしまうだろう。
「しかし、過去には試験官を引き受けてくれるハンターが中々集まらなくて一人二人で行った年もありましたし」
『ビーンズ氏の言う通りだ。なに、あの二次試験を切り抜けた諸君ならば、どのような試験がどのようなハンターによって行われたとて乗り越えられるものと信じているとも』
ビーンズの言葉に便乗したのはアーカードだった。彼は画面の中でエミヤの後ろに佇んでおり、二人してニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「ネテロ会長! こんな横暴が許されると言うのですか!?」
「面白いからオッケー(´⊙౪⊙`)ʃ」
「What the FU○K!!!」
カオルが半ギレで訴えかけるも、ビーンズの隣に立つネテロはエミヤと同種の笑みを浮かべるだけだった。思わずカオルの口から淑女にあるまじき暴言が迸る。ガワだけは美少女なカオルをチラチラと盗み見ていた数人の男どもがぎょっと目を剥いた。
『さて、会長の許可も下りたことだしルールの説明をしよう。安心しな、もう唐辛子は出ねぇから。
と言ってもさほど複雑なルールはない。試験内容は単純明快、このトリックタワーを下り地上まで到達するだけだ』
そう言ってエミヤは三次試験について語り始める。意外なことにその内容は原作と変わらず、制限時間の72時間以内に最下層まで下りるというものだった。
「どう思う……?」
「トリックタワーそのものは元からあった施設っぽいし、原作とそんなに大きな違いはないと思うけど……」
「でもエミヤだしなー」
「それな」
ひそひそと言葉を交わし合うカオルとアストルフォ、
「あの野郎、ぜったい原作に関われる興奮で調子乗ってやがるわ」
「まあボクも向こう側の立場だったら同じことしただろうし、気持ちは分からなくもないんだけどねー」
「……実際問題、タワーそのものはともかく内部のギミックはハンター試験用に追加されたものだと思う。原作で見たあれこれは明らかに試験で運用すること前提の仕掛けだったし……」
「つまり、エミヤが手掛けたギミックは確実に存在するってことね。悪夢だわ……」
しかしこの試験はその性質上、試験官の側から受験生が通るルートを指定することはできない。
一見すると一面真っ平らな石畳でしかないトリックタワーの屋上だが、実はこの石畳には回転扉の仕掛けが施されており、それを潜ることで最下層へと通じるルートに入ることができるのだ。当然ながらルートは複数存在し、その全てに違った仕掛けが待ち受けている。
一つとして同じルートはなく、一つとして同じ仕掛けはない。一人で挑むのか、複数で挑むことになるのかもルートに入ってみなければ分からない。最もランダム性が高いのがこのトリックタワーを用いた三次試験であった。
何が言いたいのかというと、要するにエミヤがカオルたち三人に苦難の道を選ばせたいのならば「全てのルートに高難度の仕掛けを施す」か、「一部のみを高難度に設定しそのルートに三人が突入する確率に賭ける」かの二択を迫られるということだ。
「……全てが高難度である可能性は……?」
「それはないと思うわ。私たちが苦戦するような仕掛けなんて、それこそ合格者がヒソカとイルミぐらいになっちゃうだろうし。流石のエミヤもゴンたちを落とすような真似はしないと思うけど……」
「
「……いや、流石に旦那が止めるでしょう……止めるわよね?」
エミヤとアストルフォが揃うと他三人総出で止めない限りどこまでもノンストップでネタに走るが、エミヤかアストルフォ単体ならば(当社比)そこまで酷いことにはならない。特に今エミヤの傍らには
「お~い! アストルフォ! アクセラレータ! カオルー!」
あれこれと思い悩んでいると、三人に向かってゴンから声が掛かる。見ればゴンの周りにはキルア、クラピカ、レオリオと主人公組が勢揃いしていた。
察した三人は無言で顔を見合わせ、「まあ呼ばれたのに無視するのもあれだし」と各々に言い聞かせゴンたちの下に向かった。
「はーい、呼ばれて飛び出てボク参上! どったの?」
「見て見て! 隠し扉を見付けたんだ!」
そう言ってゴンが石畳の一つを指で押す。するとその石畳は僅かに沈み込んだ。
「どうやら、石畳が回転することで下に降りられる仕組みになっているらしい」
「へぇ、そういうことだったのね(すっとぼけ)。それで、どうして私たちを?」
面識はあまりないだろうに親切にもギミックの解説をしてくれたクラピカに頷きを返しつつ、カオルはわざわざ自分たちを呼んだ理由を問う。
とは言え、概ね理由には察しが付く。「せっかくだから一緒に入ろう。どれが罠でも恨みっこなし」というお誘いである。ここにはゴンが示した石畳以外にも複数の回転扉が密集して配置されているのだ。
案の定そのような内容を告げられた三人はアイコンタクトを交わす。要するに誰がゴンたちと同じルートに進むか、ということだ。
原作において四人はバラバラの回転扉から侵入するも、結局同じ部屋に落ち行動を共にすることになる。だが彼らが落ちたルートは五人での攻略を前提としており、後からやってきた“新人潰し”のトンパが四人組に加わることになるのだ。
だがここにトンパはいない。
繰り返す、既にトンパはいない。彼は二次試験を越えられなかったのだ。
ついでに言うとアモリ三兄弟もいない。草。
更に言うと四次試験でゴンを追い詰めたゲレタもいなかった。ワロス。
そういう訳で、三人の内誰かが余った枠に潜り込みゴンたちと同じルートを進めるのだ。
そのメリットは計り知れない。最も大きな理由は既知のルートである、ということだろう。あくまでエミヤが余計な手を加えていないという前提だが──既にどんな仕掛けがあるか分かっていることの有利は言うまでもない。あまりこういうことを言うのは憚られるが、主人公補正的なものにも期待したいところだ。
だが枠は一つのみ。そしてカオルたちは三人いる。となればやるべき事は一つである。
『オーラジャンケン!』
説明しよう。
オーラジャンケンとは、オーラを操作し拳の形に固め、それを使ってジャンケンをすることである。これならば非念能力者であるゴンたちに気付かれず勝負をつけることができるだろう。
(最初はグー!)
(ジャンケン……)
(ほいっ)
結果、カオルがチョキ、アストルフォと
(私の勝ちwww 何で負けたかwwww 明日までに考えといて下さいwwwwww)
(ぬぁーっ! 負けたぁぁぁ!)
(あああぁぁぁ……)
「?」
声には出さずドヤ顔を浮かべるカオルと消沈するアストルフォと
ともあれ決着は決着。先に配置についた四人の位置からトンパが潜ったであろう回転扉を割り出し、カオルは意気揚々とその上に立った。次いでアストルフォがやや残念そうに別の石畳に立ち、待ち受ける仕掛けを思い不安に曇る
「一、二の三で全員一緒に行こうぜ」
「皆とは一旦ここでお別れだね」
「地上で再び会おう!」
「じゃあ行くぜ! 一、二の……」
『三!』
四人の掛け声に合わせ、カオルたちも体重を加え、回転扉の仕掛けを作動させる。ガタン、と音を立てて石畳が回転し、カオルは穴を通って真っ直ぐに部屋へ向けて落下した。
(ふふふ……二人には悪いけど、この試験は貰ったわ。さっきは色々と嫌な可能性について考えてたけど、普通に考えて念能力者に突破不可能な罠なんてあるわけないじゃない。それにゴンたちがライセンスを取得できないと物語の進行に支障が出るし、流石のエミヤだって加減はするハズ。そうに決まってるわ)
この戦い、我々の勝利だ──そうほくそ笑みながら穴を抜け、今まさに部屋に突入しようとした……まさにその瞬間。
ガコンッ。
「ぷぇ」
突如横合いから迫り出してきた石柱がカオルを弾き飛ばし、何故か開いていた横穴へとホールインワン。その横穴の中はスロープのようになっており、放り込まれたカオルは成す術なくゴロゴロと転がった。
やがてスロープが途切れると同時にカオルの身体は十メートル四方程度の小部屋へと放り出され、先に部屋に降り立っていた
「ビビンバッ」
「え……カオル……?」
べしゃーっと押し潰されたスライムのような挙動で床に伸びるカオル。てっきりゴンたちと同じルートに入ったものと思っていた少女の出現に
『はい、二名様ごあんなーい』
『イエーイ』
ドンドンパフパフと安っぽい太鼓と
『ルートは完全ランダムだから大丈夫、とでも思ったかぶぁあああああか! 貴様ら二人はどう足掻いてもその部屋に落ちるよう細工をしておいたのサァ──!!』
『済まないねカオル君www だがこれも公平を期すためさwww 念能力者と非念能力者に課される試練が同レベルとか不公平だろうwww』
「…………ッ!!! …………ッッ!!!!!」
「ああ……カオルが床に伸びたまま携帯のバイブレーションみたいに震えてる……」
ぷーくすくすねえ今どんな気持ちねえどんな気持ちNDKNDKと騒ぎ立てる大人二人の声がスピーカーを通して降り注ぎ、遂にカオルの堪忍袋は限界を迎える。ガバッと身を起こした彼女は怪鳥のような奇声を上げて飛び上がり、今もこの部屋の様子をモニターしているであろう天井付近の監視カメラに飛びついた。
「手前ェらの血は何色だあああああああああ!!!!!」
「ああ……カオルが女の子がしてはいけない顔を……」
顔面崩壊太郎と化したカオルがカメラに向かってがなり立てるが、それが逆効果であることは言うまでもない。更に勢いを増したエミヤの笑い声がスピーカーから流れ出る。
どうでもいいがこの男、元となったキャラクターの面影が皆無である。エミヤ(本物)も草葉の陰で泣いているだろう。
「というか何で二人……アストルフォは……?」
『彼はカオル君の代わりにゴン君御一行に加わったよ』
『だってアイツをおちょくっても大した反応出ないもんな。幸運ステA+だし』
『素知らぬ顔で罠をスルーする様子が目に浮かぶよ』
「ああ……」
何となくそんな情景が想像できてしまった
それに冷静になって考えてみれば、アストルフォはトンパの代役として主人公組四人の輪に加わるのに最適な人選である。既に三人と面識のあるゴンとキルアはともかく、ほぼ初対面に等しいレオリオとクラピカとも彼ならば容易に打ち解けるだろう。Aチームきってのムードメイカーであるアストルフォは、人間関係における潤滑油としてはまさに理想的な性格をしていた。
それに戦力としても申し分ない。英霊として人間を超えた力を身に宿すアストルフォは、現時点においてキルアなど歯牙にもかけない程の実力を持っている。そこに念能力者としての技能が加わるのだから、多少エミヤが手を加えた程度の仕掛けならば力尽くで打ち破れる。万が一にもゴンたちを不合格にするわけにはいかない以上、三人の中から誰か一人をつけるのは必要な保険と言えるだろう。依怙贔屓とか言ってはいけない。
尤も、それで割を食う羽目になった二人にとっては到底納得できることではないが。早くも壁から迫り出してきた物を見て
現れたのはわざとらしい程に豪奢な設えの宝箱だった。宝石が散りばめられた蓋の表面にはデカデカと「
「カオル……」
「ふしゃーっ」
猫のように威嚇するカオルからそっと目を逸らし、
ギ、ギギ……と軋んだ音を立てて宝箱の蓋が開かれる。中からガスが噴き出ることもミミックが飛び出すこともなく、宝箱は至極あっさりとその中身を露わにした。
「……メイド服?」
中に入っていたのは丁寧に折り畳まれたメイド服……否、メイド服だけではない。一番上がメイド服だったというだけで、その下には幾つもの装束が折り重なっている。
そしてそのいずれもが女性用であり、更には機能性を無視した装飾が施されて──要するに完全無欠にコスプレ衣装だった。
「……カメラも入ってる」
『レッツ、撮影ターイム! これから二人には
『全ての衣装に袖を通し、フィルムに収めない限り次の部屋に続く扉は現れない。無論、壁を破壊することも厳禁だ。頑張ってくれたまえ!』
カオルの咆哮がトリックタワーを揺るがした。
ヒポグリフはタワー周辺の危険生物を戯れに蹂躙しながら一足先に地上へと飛んでいきました。