実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜   作:ピクト人

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 我等三人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い。
 同年同月同日に生まれる事を得ずとも、願わくは同年同月同日に死せん事を。

──『桃園の誓い』より一部抜粋



 我ら五人、生まれ変わりし日、時は違えども転生者の契りを結びしからは、心を同じくして支え合い。
 生死が道を分かつその時まで、いつまでも下らない話で笑い合えることを願う──

──『ファミレスの誓い』より一部抜粋




転生野郎Aチーム続編~絶対コスプレしない少女VS絶対コスプレさせるマダオ二人~

「あの時ッ! ファミレスで誓い合った約束はどうしたぁ──! 支え合うんじゃなかったのかぁ──!」

 

『それはそれ! これはこれ! この奇跡みたいな第二の人生、とことんまで楽しみまくろうとも誓っただろおおぉぉぉん!?』

 

『働く時も、遊ぶ時も、そしてバカをやる時も常に全力であれ。それが転生野郎Aチームの鉄則であり、ヘルシング探偵事務所の社訓だった筈だ!』

 

「そんな鉄則も社訓も聞いたことないわよ!」

 

 第三次試験開始から約一時間が経過。カオルは未だ最初の部屋で足踏みしており、スピーカー越しにエミヤとアーカードと言い争いを続けていた。

 一方、カオルがこれでもかと取り乱しているお陰か幾分冷静である一方通行(アクセラレータ)は、言い合う三人を余所に宝箱の中身を物色していた。

 

「……うわぁ、チャイナ服とかプラグスーツみたいなのもある。前世は引き籠もってばかりだったから、何だかんだでコスプレ衣装を生で見るのって初めてだなぁ……」

 

「! そうだ、これアナタが着なさいよ! どっちが被写体になるかの指定はされなかったし!」

 

「え"」

 

『あッ! ずっけぇぞカオル!』

 

 唐突にカオルが矛先を変え、まさか自分が標的になると思っていなかった一方通行(アクセラレータ)はギョッと目を剥いた。

 確かに試験官は「被写体とカメコに分かれて撮影会をしろ」と言っただけで、どちらが被写体でどちらがカメコになるのかまでは言及しなかった。ならば一方通行(アクセラレータ)が被写体となっても何も問題なない。用意された衣装が全て女性物であることに目を瞑ればだが。

 

『これ以上男の娘を増やしてどうする! レイヤーさんは基本的に女性だろうが常識的に考えて!』

 

「駄目ですぅ──! 知ったこっちゃありませぇ──ん! 具体的な指定をしなかったそっちの落ち度! オラッ、コスプレしろ一方通行(アクセラレータ)ァ──!」

 

「ちょ、無理無理無理! コスプレなんてやったことないし……!」

 

「お前がレイヤーになるんだよ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『君たち五人は、ここからゴールまでの道程を多数決で乗り越えなければならない』

 

 

 第一関門、最初の部屋を出る扉を開けるか否か。

 

 第二関門、丁字路を右に行くか左に進むか。

 

 そして第三の試練──

 

 

『説明しよう。諸君の前にいるのは、このトリックタワーに幽閉されている囚人たちだ。同時に、彼らは審査委員会から正式に任命を受けた雇われ試験官でもある。諸君にはこれから、ここで彼ら五人と戦って貰う。

 勝負は一対一、戦い方は自由、引き分けはなし。相手に負けを認めさせたら勝ちとする』

 

「順番は自由に決めてもらって結構。諸君らは多数決……つまり三勝以上すればここを通過できる。ルールは極めて単純だ」

 

 

 トンパという邪魔者がいないお陰でスルスルと進んできたゴンたち一行の前に立ちはだかったのは、重罪判決を受け死ぬまでトリックタワーに囚われることを定められた者たちだった。

 彼らは一時間受験生を足止めするごとに一年刑期が短くなる契約を結んでいる。故に時間稼ぎも彼ら囚人たちの狙いとなろう。事はそう単純な実力勝負ではない。

 

 72時間という時間制限のある受験生と、出来る限り勝負を長引かせたい囚人。時間の駆け引きも重要となるだろう、とクラピカは呟いた。

 

「さあ、こちらの一番手はオレだ! そちらも選ばれよ!」

 

 囚人側の先鋒はベンドット。懲役199年の判決を受ける強盗殺人犯である。筋骨隆々の体躯を惜しげもなく晒し、大きな傷痕が走る禿頭(とくとう)を光らせ不敵な笑みが浮かべる。

 滲み出る強者の気配から、そのガタイが伊達ではないことは容易に察せられる。相当腕に自信があるのだろう。悠々と対岸の受験生を眺める表情には余裕が感じられた。

 

「どうする? 戦い方が自由ってことは、裏を返せば何でもアリってことだぜ」

 

「何を仕掛けてくるか分からねぇってことか……」

 

「相手の出方が計れない分、初戦はリスクが大きいな」

 

 気楽な様子で誰が先鋒を務めるのか尋ねるキルアとは対照的に、レオリオとクラピカは険しい顔で囚人側を睨んでいる。

 この試験が単純な実力勝負では片付かないことが判明した以上、どうしても慎重にならざるを得ず、だが時間制限という枷が慎重に偏り過ぎるのを許さない。二律背反が彼らの心に焦りを生んだ。

 

「ここは私が──」

 

「はいはーい! 一番槍はボク! ボクがやる!」

 

 クラピカが立候補しようとした時、横合いから上がった元気な名乗りがそれを遮った。

 ピョンピョンと飛び跳ね自己主張するその声の主は、やはりと言うべきかアストルフォだった。原作において初戦を担ったトンパの代わりに自分が……などという深い考えはない。単純に名誉ある一番槍をやりたかっただけである。

 

 所詮は偽物であるが、それでもその身は聖騎士。名誉ある闘いを重んじ、華々しき勝利を望む。そして栄光に彩られた騎士の戦場において最も危険であり、同時に最も輝けるのが一番槍である。

 要するに目立ちたい。すっごく目立ちたい。そんな一心でアストルフォは一番手に名乗りを上げたのだった。

 

「な、バッカお前……相手は重罪を犯した凶悪犯だぞ! 街のチンピラとはワケが違うんだ!」

 

 レオリオが厳しい声を上げるが、然もあらん。傍目から見てもアストルフォとベンドットの体格差は一目瞭然である。精々150センチ程度しかないアストルフォに比べ、ベンドットの身長は優に190は超えよう。

 素手同士の戦いにおいて体重(ウェイト)が占める割合の大きさは言うまでもない。デカい方が有利。そんなものはプロの格闘家から場末のチンピラまで等しく知っていることだ。ましてや一方は如何にも少女然とした風体のアストルフォである。外観から推察できる体重、筋量……とてもではないが相手になるとは思えない。一応は帯剣しているようだが、圧倒的な体格差を前にそんなものは何の慰めにもなるまい。

 

「大丈夫大丈夫、これでも腕には自信があるんだ! まま、ここは一つボクに任せてみてよ!」

 

「けどよぉ……」

 

 ニコッと愛らしい笑顔を向けられ、剣幕を立てていたレオリオの語調が尻窄みになっていく。キルアとクラピカは分かりやすく鼻の下を伸ばすレオリオに白い目を向けた。

 

「ハハハッ! お嬢ちゃんがオレの相手かい? これはもしかすると、生きている内にこの塔を出られるかもなぁ」

 

 背後の囚人仲間から羨むような視線を浴びつつ、ベンドットは真ん中のリングに向かって歩き出そうとする。

 受験生と囚人、それぞれの陣地から迫り出した橋が中央のリングへと伸びる。人一人分程度の幅しかないその通路へと足を掛けようとした、まさにその瞬間だった。

 

「お待ちなさい」

 

 背後から伸びた手がベンドットの肩を掴む。その手の主は万力のような力で押さえ、進もうとする彼を引き戻した。

 

「な……あ、あんたは……!?」

 

「見た目に騙されてはいけないわ。あの子は五人の受験生の中でもトップクラスの実力の持ち主……ベンドットちゃんには荷が重いわよ?」

 

 柔らかな声音とは相反する剛力で陣地へと引き戻されたベンドットはしかし、その声の主に逆らう様子は見られない。畏怖するように身体を震わせ、名残惜しそうにしながらも素直に引き下がった。

 

「あ、姐さんがそう言うなら……」

 

「いい子ね……それに試験官からも言われてるのよ。あの子が出てきたときは私がリングに上がるようにってね」

 

 嫣然と微笑んだ声の主はベンドットの頬に口付けを落とし、優美な足取りで通路を進みリングに上がった。既にリングで待っていたアストルフォへと流し目を送り、その身を覆う外套の裾に手を掛ける。

 

 

「さあ……お喜びなさい? この星で最も美しい白鳥が来てあげたわ!」

 

 

 バッ! と勢いよく身を隠していた外套が剥ぎ取られる。その下から現れた姿を目にし、アストルフォたち五人は例外なく驚愕に目を見開いた。

 

 

 

 その人物は──筋肉(マッスル)だった。

 

 

 

 身長はベンドットを上回り二メートルを超える。だが身長以上に、その体躯を覆う筋骨が超越的だった。

 胸が人の頭を二つ並べたよりも大きい。腕は女性の胴体などより余程太い。腹など筋量が凄すぎてまるでオフロードタイヤ。黒々と艶光る皮膚はまるで金属のような光沢を放ち、隆々とうねる筋肉を彩っている。

 そして、そんな極大の筋骨よりもなお印象的なのがその貌である。一言で言い表すならばケバかった。艶々と濡れ光る金髪は「あなたヴェートーベン? モーツァルト? ああ、バッハね!」と言いたくなるようなキツいカールが巻かれ、加えて大量のリボンで飾られている。大きく円らな瞳を縁取る睫毛は異様なほど長く、瞬きの度にバシバシと音を立てる。更に厚ぼったい唇にはこれでもかと真紅の口紅(グロス)が塗りたくられており、もはやグロスではなくグロテスクと化していた。

 

「な、な、な、なんじゃあの化け物はァ──!?」

 

「何と醜い……」

 

「視覚の暴力かよ」

 

「うわぁ」

 

 上から順にレオリオ、クラピカ、キルア、ゴンの感想である。基本的に外見で人を判断することのないゴンがドン引きしていることからも、その容姿に内包される異様さは明白である。

 

「うわきっも」

 

「あっら失礼しちゃうわ! 分かった、アナタ私の美貌に嫉妬してるのね!?」

 

 アストルフォの率直な感想を華麗に跳ね返したその(オス)は、クネクネと()()を作りながら自らの肉体を誇示する。普通にポージングを取るのならばボディビル的な肉体美を表現できただろうが、無理に女性的な姿勢を作ろうとする所為で大変醜いことになっていた。

 

『どうやら説明が必要なようだな。彼……失敬、彼女の名はキャサリン(自称)。諸君らはこれ程のインパクトがありながら見覚えがないことに疑問を覚えたことだろうが、無理もない。実は彼女は犯罪者ではない』

 

 唐突にスピーカーからアーカードの解説が流れ出す。リング上でポージングをするキャサリン(自称)を見ることに苦痛を覚えた五人は、解説に集中することで目の前の劇物から目を逸らそうとする。

 

『彼女は筋金入りの男色家且つ性豪で……え、男色だと語弊がある? あー……異性愛好家且つ性豪であり、合法的(?)に好みの男とヤりまくるためにここトリックタワーに住み着いているのだ』

 

「一般男子を無理矢理襲うのは許されないけど……犯罪者男子なら成敗も兼ねて一石二鳥! 誰も文句を言わないし実にグッドだわ!」

 

 グッドではない。だがそのビジュアルの暴力から誰もが相手にするのを嫌がり、結果的に対処が先送りにされているというのが実情である。ハンター協会仕事しろ。

 

「ぷりぷ○プリズナーかな?」

 

「ぷり……? そこはかとなく親近感を覚える響きだけど、私の名はキャサリン! この星で最も美しい白鳥よッ!」

 

「うん、お願いだからその見た目でボクの親友の口上を真似しないでくれないかな」

 

 ぶぁさっ! と白鳥が翼を広げるように両腕を振り上げるキャサリン(自称)。身動ぎの度に過剰に盛られた白粉が辺りに飛び散り、それを目の前で見せつけられたアストルフォは静かに血管を浮き上がらせた。

 

『さあ、(これ以上時間を掛けると頭がおかしくなりそうだから)試練を開始しよう。キャサリン(自称)、勝負方法の提案を』

 

「はぁい♥ 私が提案するのは……ずばり、デスマッチよッ!」

 

「デスマッチだと……!?」

 

 ビシィッ! とアストルフォを指差し高らかに宣言するキャサリン(自称)。その目には旺盛な戦意と……激しい敵愾心が滲んでいた。

 

「一目見た瞬間から気に入らなかったのよ……アナタは私には及ばないまでも、世界でも指折りの可愛さを持っている! 私 に は 及 ば な い ま で も ッ !」

 

『それはない』

 

 アストルフォを除く四人から即座に否定が上がるも、それを華麗にスルーしたキャサリン(自称)は再び白鳥を真似たポージングを取り──全身からオーラを立ち昇らせた。

 

「……ナルホドね。念能力者(ボクら)の対策はしっかりあるってことか」

 

「見たところアナタも使()()()んでしょう? 証明してあげるわ……私が可愛さにおいても地上最強であることをねッ!!」

 

 オーラを纏うことで全身の筋肉が更なるパンプアップを起こし、ただでさえ巨大な身体がより大きく隆起する。オーラ量を見る限りそこまで優秀な念能力者というわけではないようだが、そもそもの基礎(ベース)となる肉体能力が抜きん出ているのは明らか。総合的な実力は中堅レベルの強化系念能力者に匹敵、あるいは凌駕するだろう。

 

「逃げろアストルフォ! そいつ、ふざけた見た目だがヤベェ奴だ!」

 

 オーラが顕在したことでキルアもその変化を察したのか、顔色を変えてアストルフォに逃げるよう呼び掛ける。

 

「あの嬢ちゃん、終わったな」

 

「ああ。あの化けも……姐さんは腕力のみでこのトリックタワーを私物化する程の実力者。ちょっと腕に自信のある程度の奴では絶対に勝てん」

 

「経験者は語るってか、ジョネス?」

 

「……やめろ、やめてくれ。オレに過去を思い出させるな」

 

 キャサリン(自称)が本気になったことで、早くも囚人側には戦勝ムードが流れている。

 然もあらん。念能力者である彼(彼女?)にとっては多少人並み外れた握力がある人間程度、何ということもない。オーラを操る術を持つ者ならば、岩石程度誰でも容易く粉砕できるのだから。

 

「フフーン、エミヤも随分と簡単な試験を用意してくれたもんだね」

 

「?」

 

 だが、アストルフォの表情はあくまで余裕げだった。

 対抗するようにオーラが立ち昇り、アストルフォの身体を覆う。そのオーラ量は明確にキャサリン(自称)を凌駕している。

 

 ビュオッ! と疾風が駆け抜けキャサリン(自称)の髪を激しく揺らす。その風がアストルフォが振り抜いた拳の圧によって引き起こされたものと気付くのに数秒を要した。

 握り締められた華奢な拳が軋みを上げる。まるで拳から陽炎が昇っているかのように周囲の景色が揺らめいていた。

 

 常軌を逸した筋肉と風体の巨漢、何するものぞ。邪悪なりし巨人カリゴランテと比すれば、赤子と何が変わろうものか。

 

「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我はシャルルマーニュ十二勇士が一人にしてヘルシングが一番槍、アストルフォ!」

 

 力比べは望むところ。彼こそ個性的な転生者が集うヘルシング探偵事務所一の狂人であり、アーカードを除けば一番の腕力を誇る強化系念能力者である。

 

 

「さあ、いざ尋常に……勝負!!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「このっ、反射を解け卑怯者! もやし! セロリー!」

 

「ぼ、僕は屈しないぞ……!」

 

『諦めろカオル! コスプレの華と言えばやはり女性レイヤーさん! コミケなどのイベントには欠かせぬ神聖な存在! 大丈夫、やってみれば案外楽しいかもしれないじゃないか!』

 

「せからしか!? 何が悲しくてこんな所で一人寂しくコスプレなんぞせにゃならんのじゃ! ワシはそんな羞恥プレイ絶対に御免どす!」

 

『落ち着け、方言がこんがらがって面白いことになってるぞ! 大丈夫、対魔○コスはないから!』

 

「とうとう馬脚を露わしたわね! それはテメェの趣味(性癖)だろうがァ──!」

 

『違う! 対○忍()好きなんじゃない! ○魔忍()好きなだけだ!』

 

「同じだろうが!」

 

『違うのだ!』

 

 未だに最初の部屋でギャンギャンと言い合うカオルとエミヤ。そして一方通行(アクセラレータ)は反射で全身を覆い徹底抗戦の構えでいる。

 果たして、根負けするのはカオルか一方通行(アクセラレータ)か! そもそも72時間以内に部屋を出られるのか!?

 

 次回、『カオル、コスプレデビュー!』乞うご期待ッ!

 




キャサリン(自称)
……当小説のみに登場するオリキャラ。転生者ではない。某S級ヒーローのパチモノに見えてよりタチの悪い変態。本名不明。
その筋力は圧倒的であり、素の腕力ならばウボォーギンをも上回る。が、残念ながら(?)念能力者としての才には恵まれなかった。
囚人たちからの呼び名は「姐さん」、「地上最強の生物(ナマモノ)」。ハンター協会からは「繋がれざる者(アンチェイン)」と呼ばれ恐れられている。

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