実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜 作:ピクト人
前回及び今回のお話において、あまりにバキ成分過多となってしまったことをここに謝罪致します。もう当分やりません。
お詫びにゼビル島を海に沈めます。
「人の成長は未熟な過去に打ち勝つこと……私は四年前アナタに敗北し、無様に逃走した。その屈辱を清算し、今こそ己の成長を証明するのだと……そう思っていたわ。ついさっきまではね」
鮮やかな蒼の瞳、薄桃色の唇、並びの良い真っ白い歯、白皙の柔らかな頬。濡れ羽色に艶光る黒髪は吹き抜ける風を受けて軽やかに踊り、噎せ返るような草木と土の匂いが立ち込める森の中にあって場違いな程の清涼感を漂わせている。外見だけなら良いところの令嬢のようだが、顔に表れる表情がその印象を覆していた。
鬼気迫る、とでも言えば良いのか。穏やかさからは懸け離れた少女の表情には溢れんばかりの戦意が漲っている。
──まるで牙を剥く獅子のようだ、とヒソカは思った。
これでお淑やかな表情や気品ある立ち振る舞いをしていれば紛うことなきお嬢様なのだが、獲物を前に舌なめずりをする猛獣のような雰囲気の所為で全てが台無しとなっている。オブラートに包んで言えば戦女神、身も蓋もない言い方をしてしまえば
「……その口振りからすると、今は違うみたいだね♣」
「ええ。最近自覚してきたのだけど、私って血の気が多いというか、敵と見ると過剰に攻撃する傾向にあると思うのよ。ついやり過ぎて殺してしまいそうになったり、とかね」
「うんうん、わかるよ♦ あるよね、欲求に逆らえずついヤり過ぎちゃうこと♠」
「要するにそれって自分を律し切れていないってことでしょう? 優雅じゃないと思うのよ。因果応報が世の理というのなら、私がアナタを殺そうとするのは道理が通らない。だってあの時の場は天空闘技場、殺しはご法度*1の比武の舞台。当然その時点のアナタに殺意と呼べるものはなかった。殺意なき敵に返すのが殺意であってはならないわ。だからアナタを殺しはしない。
──代わりに、これからアナタを死なない程度に痛めつけることにしたわ。残酷に冷酷に、そして容赦なく徹底的に、ね。実に
「そうだネ、実に
優雅とは、と二人の会話を見守るクラピカは束の間哲学的な問いに思いを馳せる。少なくとも彼の感覚からして、敵を死に瀕する一歩手前まで追いやることはエレガントでもないしスマートでもない。
「痛めつける……キミはそう言ったね♣ しかしボクらのような戦いの中に身を置く者を痛めつけるのは中々に至難の業だよ♦」
戦いとは痛みの連続だ。我が身の打倒を求める敵の五体は刃であり鈍器であり槍である。それら凶器が痛みを与えるため容赦なく襲い来る。戦いの中で敵から齎される痛みは実にシンプルである。
だが、戦いの中で感じる痛みは何も敵から与えられるものが全てではない。敵の攻撃を受け、躱し、防ぎ、掻い潜り、その先に自らの攻撃を打ち込む。結果として常に駆動し続ける身体は自ずと熱を持ち痛みを発する。常に酸素を求め、また全身に酸素を送り込む心肺は焼け付くように痛む。常に最適な踏み込み、有効な着地点を求める足首と膝の痛みは絶え間なく。
内と外より断続的に襲い来る、ありとあらゆる
「痛みこそが日常……痛むことがもはや安心♠ そんなボクを、君はどう痛めつけてくれると言うんだい?」
「ふふ、いつになく饒舌ね。もしかして怒ってる? 私が殺す気で来てくれないのがそんなに不満かしら? ……安心しなさい。すぐにそんなことを考えてる余裕なんてなくなるから」
ふ、とカオルの肩から力が抜ける。これまで何度も目の当たりにしてきた彼女お得意の脱力……かと思いきや、その脱力は肩から先に限定されているようだった。
肩肘は勿論、指先に至るまで一切の力みがない。風に煽られれば容易く流れるような見事な弛緩振り。もはや胴体に垂れ下がっていると言うべき理想的な腕の脱力を見せるカオルは、その状態のまま身体を沈み込ませた。
膝を抜き、
(いや……迎撃はマズい、かな?)
カオルが何を仕掛けようとしているのかは不明だが、最も可能性が高いのは先ほど見せた攻めの
ならば避ける。敵の手の内を探るという意味でも安牌だろう。ヒソカは未練なく攻撃本能を捨て去り、己の直感に逆らわず回避を選択した。
だが──
「え──」
跳躍して避けた筈のヒソカへとカオルの腕が容易く追いつく。彼女の姿は僅かに間合いの外にあるのに、腕だけが別個の生物であるかのように伸縮し、振るわれた繊手は後ろへ逃げるヒソカの身体を追い抜いた。
ヒソカが見た光景は錯覚ではない。幻術や手品の類ではなく、文字通りの意味でカオルの腕は本来の長さから1.5倍程度の長さまで伸びたのだ。流体で構成されるメルトリリスの肉体には骨も筋肉もなく、本人がその気になれば人の形に囚われることはない。これはその性質を利用したちょっとした応用である。
全身を変態させるほど大掛かりな流水変化は今のカオルにはやや難易度が高いが、少し腕を伸ばす程度ならば造作もない。所謂ズームパンチ*2というものをカオルはノーリスクで行うことができる。
斯くして想定していた間合いを越えて伸びた腕が鞭のように
直後にクラピカとレオリオの耳に届いたのは、鉄拳が肉を打つような硬質でくぐもった鈍い音ではなかった。もっと激しく鋭い、強いて形容するならば雷鳴のような衝撃。
その時ヒソカが受けた衝撃、過去に前例なし。数えるのも億劫になるほど潜り抜けてきた修羅場の数だけ磨かれ、練り上げられた肉体が獲得した痛みへの耐性。それはこの瞬間、完膚なきまでに裏切られた。
「~~~~ッッ!!?」
声にならぬ悲鳴を上げ、苦痛に顔を歪めたヒソカが地面をのたうち回る。
同時に激痛により弾ける思考の中、彼は悟った。これからカオルは“鞭打ちの刑”を実行しようとしているのだ、と。
皮膚の面積は成人の身体で二平方メートルほどと言われている。これは畳一畳分にも及ぶ広さだ。皮膚が人体で最大の器官と言われる所以である。
そして皮膚は内臓と同じく鍛えることができない部位でもある。何しろ厚さ数ミリもない皮が一枚張っているのみだ。人によって多少その厚みに差はあれど、概ねその脆弱性に違いはない。
即ち鍛え上げた筋骨隆々の成人男性も、運動経験のない淑やかな女子も、抓られる痛さと引っ叩かれる痛さは同じ。それ故古来より鞭打ちは拷問・刑罰の対象とされてきたのだ。ただ「痛みを与える」という一点において、鞭打ちほど効率の良い責め苦は存在しないと言えるだろう。
そんな脆弱極まる皮膚へと叩き込まれるは、人外の
「痛いでしょう? 苦しいでしょう? これも脱力の極意が可能とする技……人体の鞭化、即ち『
「ぐ、くうぅぅ……こ、れは……確かにキツイね……♥」
額を地面に擦り付けるように蹲るヒソカの背中には、くっきりとカオルの手の痕が刻み込まれていた。
肌を覆う衣服は破れ、肉を覆う皮膚は裂け、更には肉が弾け血が滲んでいる。鞭打とは言うが、要するにこれは強烈な平手打ちである。身体を覆うオーラの守りも、攻め手側のカオルのオーラが相殺してしまって何の意味も成していない。過去に鞭打ちを受けたことも、女性からビンタを貰ったこともないヒソカにとって、これは完全に未体験の苦痛だった。
「戦いの場に鞭を持ち出し、武器として扱う者ならば私も何人か目にしてきた……だが、よもや己の腕を鞭と化す者がいようとは」
「さっきのシャオリーってヤツよりはよっぽど分かりやすいぜ……ありゃあ痛い。殴られるのとは全く別の激痛だろうよ……」
ゆらり、と五体の先端から力を抜き去ったカオルが躙り寄る。彼女の接近を感知したヒソカは慌てて跳ね起き身構えるが、その姿をカオルは一笑に付した。
「無駄無駄。背で受けようが腹で受けようが、腕で守ろうが全くの無駄よ。鞭打が標的とするのは身体全体を覆う皮膚! どこで受けても痛みは一緒!
宣言するわ。これから私は鞭打しか使わない……鞭で打たれる痛みを以て、四年前の復讐としましょう!」
咄嗟に両腕で身体の前面をガードしたヒソカの左前腕へとカオルの鞭打が炸裂する。雷鳴が肌の上で弾け、頑強に鍛え上げられていた筈の腕の皮膚を血飛沫と共に捲り上げた。
「クァアッ!!」
二度目故か痛みに我を忘れてのたうち回るまでは至らず、苦鳴を漏らすに留めたヒソカはカオルの頭蓋をカチ割らんと反撃の踵を落とす。
だが無意味──本来ならば対処が困難とされる頭上からの攻撃にもカオルは対応する。
そして守りの
確かに人体は鍛錬により飛躍的に強くなる。だが幾ら皮膚の下に鋼のような筋肉を搭載しようと、肉を覆う肌の薄さ、そして皮膚に通う神経が受容する痛みは鍛え上げた剛体も女性の柔肌も同じ。等しく無差別だ。
故に鞭打は攻撃箇所を問わない。どこを打とうが全てが急所──急所たらしめてしまう程に、鞭が与える痛みというものは強烈なのだ。
「どんな気分かしら? 鍛えた肉体が通用しないのは──ねえ、どんな気分ッ!? 言ってご覧なさい! ほらァ!!」
血飛沫が弾ける。繊手が閃く度に皮膚が抉れ、常に余裕の表情を崩さなかったヒソカの顔を苦痛に歪ませる。
その様がカオルを昂らせる。怨敵がその澄まし顔を崩し痛みに呻く姿は、どうしようもなく彼女を興奮させた。
傍目から見て、その様子はとてもではないが正常なものとは思えなかった。白熱する思考はカオルから冷静さを奪い、狂的なまでの攻撃性を露わにする。だらしなく口元を緩ませる様は、まるで酒精に酔っているかのよう。そして、事実彼女は半ば正気を失っていた。
──加虐体質。戦闘において自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。プラススキルのように思われがちだが、これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほどに加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまうという。
バーサーカーの狂化スキルにも通ずるところのあるこの特殊スキルが、今カオルの思考能力を蝕んでいるものの正体であった。極度の興奮状態にある彼女はまるで人が変わったかのように高い残虐性を発揮し、執拗な鞭打でヒソカを打ち据える*3。
……誤解のないように言うと、普段のカオルはここまで激しやすい性格というわけではない。確かに生前と比較しその精神構造はより攻撃的なものへと変化したが、それとて『メルトリリス』ほど極端ではない。そこが徹頭徹尾非人間であったオリジナルとの違いであろう。
だが、そんなカオルをして唯一冷静でいられない相手がヒソカという男だった。彼こそがカオルに初めての敗北という拭い難い屈辱を刻み込んだ怨敵である。完璧主義且つ負けず嫌いという生来の性根がここにきて悪い方へと作用し、彼女にヒソカに対する強い執着を生み出したのだ。
(これは……チョットまずいな♣)
敵を痛めつけ、等しく敵に痛めつけられることを好むヒソカにしてもこの状況は参ったと言う他ない。自分が認めた相手が真実強敵であったことは思わず絶頂するほど喜ばしいが、こうも一方的では流石に宜しくない。
何より鞭打によって与えられる痛みが想像を絶していた。これ以上この激痛を受け続けることは、古くから鞭打ちの刑罰がそうであったように、ヒソカをして命に係わると認めざるを得ない苦痛であった。
然るに──この状況は
敵の強きにしろ弱きにしろ、加害が一方的である状況はヒソカが望む闘争の形ではなかった。ヒソカの攻撃はカオルに届かず、カオルの攻撃だけが一方的にヒソカに降り注ぐ。これではいけない。闘争を一つのコミュニケーションと定義する彼にとり、今のこの状況は「語らい」とは程遠かった。
別にカオルが悪いわけではない。悪いのは力及ばぬヒソカ自身。対等に戦える敵を望みながら、敵より劣ってしまった自分の怠慢だ。
だから、ここいらで
「ようやく掴めた♦」
直後、カオルの肌を雷鳴が叩いた。
第287期ハンター試験の最終幕において、唯一まともに戦っていた──他が酷すぎた──と言われるカオル=フジワラ氏とヒソカ=モロウ氏のこの一戦。この勝負の一部始終を目撃していたクラピカ氏は、この時の様子を後にこう語っている。
『あの勝負を私はこう評価する──達人と達人同士による武の競い合い、と』
『ヒソカとカオル、両者とも純粋な達人とは言い難い人物だろう。武術家や武道家、所謂武闘家というものに共通する“武への敬意”……とでも言うべき心の在り方が二人の内には存在しない。彼らにとり、武とはどこまでいってもただの技術であり、また戦いの一手段に過ぎないと言っていい』
『武闘家であることの基準……定義というものに心構え、心の在り様が重要であることに異を唱えるつもりはない。しかし心構えだけで手に入るほど強さというものは易くはない……武術、武道をより実践的な戦闘手段として見るのならば、彼らほどの武闘家がそういないのもまた事実。それだけ彼らの戦闘技術……武は高水準のものだった』
『カオルはともかく、ヒソカも武闘家と評するのは違和感があると? ……まあ、分からんでもない。仮にも歴とした理合の上に成り立つカオルの戦闘術と異なり、ヒソカの戦闘スタイルはその全てが我流のものだからな。だが我流とはいえ、その根底にあるのは合理性を突き詰めた先にある対人戦闘術だ。歴史の積み重ねこそないが、あれも立派な武であると言えるだろう』
『何故そう断言できるのか? 見てしまったからさ……そうだな、あれは都合六発目の鞭打がヒソカを打ち据えた直後のことだった。
脱力したのさ。……そうだ、脱力こそがカオルが操るシャオリーや鞭打の根底にある極意。それと全く同じことをヒソカはやってみせたのだ。その違いは一目瞭然だったとも』
『カオルは因縁の相手であるはずのヒソカを指して天才と呼んだそうだが、正しくその通り。ヒソカこそ戦いの申し子、紛れもない戦闘の天才だ。何せ、五体の鞭化などという離れ技を見ただけ、受けただけで再現してしまったのだから』
突如として肌を襲った鋭く激しい痛みに、カオルの頭は真っ白になった。攻撃一色に染まった思考に冷や水を浴びせ掛けられ、加虐体質により我を失っていたカオルはピタリと動作を停止させる。
その隙を見逃すヒソカではない。硬直したカオルの水月へと稲妻のような蹴りを叩き込み、互いの距離を引き離した。
「……!? ……!!?」
「おッ……お? おー……こんな感じ、かな♠」
五体に漲っていた余計な力みを抜き、とりわけ肩から先の腕は水のように弛緩させる。目を白黒させるカオルの視線の先で、ヒソカは手にした鞭打の技術を急速に自分のものとしていた。
なるほど、とヒソカは会心の笑みを浮かべる。重要なのはイメージ。液体の柔軟さを強くイメージして脱力し、腕から強張りを抜き去る。
「そして余計な力が抜けるにつれ、腕はより柔らかく、そして重くなる。これが鞭打か♥」
決して腕の力は使わず、腰を入れ身体ごと捻るように。遠心力を利用して腕を扱う……全く鞭と同じだ。ヒュン、とヒソカの腕が撓り、空気の壁を叩く鋭い音が虚空に響く。
信じられない、と目の前の光景をカオルは愕然とした思いで眺める。多くのアドバンテージを有していたカオルをして鞭打の習得には一年半を要し、
「天才め……ッ!」
苦々しく吐き捨てたカオルに、ヒソカはニンマリと得意げな笑みを返す。
だが鞭打とて性質は違えど打撃技の一種。先程は不覚を取ったが、
奇しくも鞭打の痛みによってカオルは冷静さを取り戻した。一度冷静に立ち返ったのならば、もはや彼女に尋常な攻撃は通用しないだろう。熱に浮かされていた瞳は瞬時に冷え切り、迫るヒソカの挙動を僅かたりとも見逃すまいと視線を凝らす。
肉迫したヒソカが繰り出したのは、意外にも何の変哲もない──込められた力と速さは並外れているが──右の上段突きだった。顔面目掛けて迫る岩のような拳を
だが、その反撃こそがヒソカの狙いだった。全身を弛緩させることで完成する守りの
故に、狙うは攻撃を命中させるまさにその一瞬。反撃として繰り出した鞭打がヒソカの身体を打つその一瞬を狙い澄まし、ヒソカも同じく鞭打を打ち返した。
果たしてその企みは成功した。カオルの鞭がヒソカの皮膚を打ち、ヒソカの鞭がカオルの肌を叩く。二つの衝撃音が響き渡った。
「痛ッ──!?」
「ぐぅッ……☠」
結果、鞭打同士のクロスカウンターという構図が出来上がる。肌を引っ叩かれる痛みを知る者ならば直視するのも憚られるような凄惨な相討ちの様相である。レオリオは堪らず目を背け、クラピカは息を呑んだ。
「何という男だ……なるほど受け身の状態ならば無敵の彼女も、攻撃行動に移行した瞬間にはその無敵も失われる。脱力は確かに威力を生むが、脱力したままでは攻撃もままならないからな。この僅かな攻防の間にそこまで見抜く観察眼、ほんの僅かな一瞬を逃さず攻撃を合わせるセンス、いずれも凄まじい」
「おい、これヤベェんじゃねえの……? ヒソカの攻撃が通るようになったってことは、カオルのヤツ負けちまうんじゃ……」
「……いや、そうでもない。確かにカオルの絶対的な有利は失われたが、よく思い出してみろ。攻めのシャオリーの打撃力には大木を倒壊させる威力があった。ヒソカの戦略において相討ちが前提にある以上、奴はカオルが攻めのシャオリーを使った場合にはこれを受けなければならなくなる」
「た、確かに……鞭打なら死ぬほど痛いで済むが、攻めのシャオリーなら本当に死んじまうもんな。ならカオルが有利なのは変わらないってことか!」
「その通りだ。依然として彼女の有利は覆らないだろう。だが……」
二人の視線の先で再び鞭が弾ける音が鳴り響く。
耳を劈く雷鳴の如き衝撃音が
「オイオイ、何でカオルは攻めのシャオリーを使わないんだ!? アレを使えば勝負はつくはずだろ!?」
「確かに攻めのシャオリーを使えば呆気なく勝負はつくかもしれない。だがカオルはつい先程こう宣言した。『お前を殺さない』、そして『鞭打しか使わない』と」
「いやいや……そんなのただの口約束っつうか、ただの方便だろ!? そんなもののために勝ちを捨てんのかよ!?」
「自分の言葉にどれだけ重きを置くかは人それぞれだよ、レオリオ。敗北を恐れて前言を撤回するのは彼女の矜持に反するのだろう。私から見たカオルという女性は誇り高く、そして完璧主義な人物だ。もはや余程のことがない限りヒソカに殺意を向けることはないだろう……自分で吐いた言葉通りにな」
完璧な勝利を望むカオルは、その過程で僅かにも瑕疵が存在することを許さない。ここで攻めの
では、そんなカオルの葛藤に付け込む形で勝負を継続しているヒソカは卑怯なのか? ──否、ヒソカは自分に出せる最善を尽くした結果としてこのような戦法を取っている。勝負の世界においては隙を見せた方が悪なのだから、不殺を宣言しておきながらヒソカを圧倒できていないカオルにこそこの状況を生み出した原因があると言うべきだろう。
吐いた唾は吞めぬと、自ら武器の一つを封じたカオル。その心理を読み切り、武器を抜かせぬままに戦いを成立させるヒソカ。共に正しく共に厳しい。両者の戦いは、いつしか消耗戦の様相を呈していた。
老若男女、そして攻撃箇所を問わず等しく同じ痛みを相手に与える技、鞭打。偽りなく、鞭打によって被る痛みの度合いはカオルとヒソカ共に同じである。
そう、確かに皮膚が受容する鞭の痛みは平等だ。だが
端的に言うと、ヒソカの方が痛みに対して我慢強い。自らの耐久性の低さを自覚し、極力被弾することを避けて戦ってきたカオルに対し、多くの修羅場を潜り抜け、時に自ら負傷することすらも許容してきたヒソカは単純に痛みというものに慣れている。その差は鞭の痛みという、殴られる痛みとはまるで別種の激痛に対しても同様だった。
鞭と化したカオルの繊手がヒソカを打ちのめし、同時に鞭と化したヒソカの足刀がカオルを叩きのめす。ノーガードでの鞭打の殴り合いを繰り返す内、早くもカオルは限界に達しようとしていた。
実際に受けたダメージの量を問われたなら、カオルは殆どダメージを負っていないと答えるだろう。元より完全流体の身体を持つカオルは打撃に一定の耐性があり、鞭で打たれた程度では命に届くことはない。だが異形の肉体を持つ彼女にも人と同じく痛覚は存在する。
(我慢比べは分が悪すぎる……!)
鞭で打たれる強烈な痛みは人から抵抗の意思を奪う。その苦痛を前には奴隷も猛獣も等しく委縮せざるを得ないのと同じだ。今の時点では怨敵を前に昂った戦意が苦痛を上回っているが、苦痛が戦意を折るのも時間の問題であるとカオルは理解していた。
もしカオルがヒソカですら目で追えないほど速く動けたのなら。あるいはヒソカの攻撃など問題にしないほど莫大な潜在オーラを保有していたのならば。速度に物言わせ、またオーラ防御の高さに任せて一方的に攻撃できたかもしれない。だが所詮それはもしもの話。殆どドレイン行為をせず*4ここまできたカオルに、一流の念能力者であるヒソカを圧倒できる程の肉体能力・オーラ量はなかった。
(ないものねだりをしても仕方がない。それもこれも自分で蒔いた種だ、とことんまで付き合ってやろうじゃないの──!)
「やっぱりやめた♥」
「……は?」
カオルが決意を新たにした瞬間だった。これまで鞭打をぶつけ合っていたヒソカが唐突に脱力を解き、いつもの彼のスタイルに戻る。脈絡のない心変わりに目を白黒させるカオルに対し、ヒソカはその
「よく考えたら趣味じゃないんだよね♣ 技だの武術の型だの、ハッキリ言ってボクらしくない♦ あわよくばこのままシャオリーまで盗み取ってやろうかなとか考えてたけど流石に無理っぽいし、正直そもそもボクの戦い方とは合わない気がするんだよね♠」
「……」
ヒソカが好んで戦いに用いるスタイルは、その殆どが〝
だが、その言い分は。
カオルが苦労して身に付けた技をものの数分で完璧に我が物としておきながら、「趣味じゃない」という理由で呆気なく溝に捨てるその行為は。カオルが技の習得に費やしてきた努力と時間、その全てを否定するに等しい侮辱としか映らなかった。
「──ころしてやる」
直後。
咄嗟に身体を捻ったヒソカの横数センチを掠めるように、
「がッ……!?」
ダンプカーに撥ね飛ばされたような勢いで吹き飛ぶヒソカ。直線上にあった木々を薙ぎ倒しながら突撃したカオルはゆっくりと振り返り、感情の見えない眼差しで地面に転がった怨敵を凝視した。
その絶対零度の視線が物語っていた。次は当てる、と。
カオルがやったことは至極単純。その要領は
ならば一振りで大木をも粉砕せしめる打力を生む脱力の極意を、拳ではなく脚力に応用すればどうなるのか。脱力を超えた脱力……からの緊張。そこに生まれる爆発力の全てを突撃のための足腰に費やせばどうなるのか。
その結果がこれである。直進することしかできないものの、その突進は初速から最高速を実現。
「誇りを傷付ける者には死あるのみ。これは古来よりの慣わし……格式ある伝統は守らねばならない。
よって、これは紛れもなく正当な復讐です。侮辱には死を以て応報すべし。何が言いたいかというと 死 ぬ が よ い」
そんな伝統はないし格式もない。一体いつの時代の価値観を語っているのか定かではないが、唯一確かなのはカオルがこの上なく激怒しているということだった。
煮え滾るような嚇怒の念を迸らせるカオルの圧にたじろぐクラピカとレオリオ。一方、直撃だけは免れたものの無視できないダメージを負ったヒソカは、表面上は余裕の笑みを浮かべつつカオルの視線を正面から受け止める。
無論、取り繕っているだけで現実は立っているのもやっとという有り様だった。然もあらん、何しろ身長190センチもの人間が銃弾以上の速度で突っ込んできたのだ。銃弾などとは比較にならぬ大質量の人型が音速に迫る勢いでぶつかった際の破壊力を考えれば、直撃しなかったとはいえ立ち上がっただけでも驚きである。
とはいえ、これはヒソカの望み通りの展開ではある。折角カオルから手札を奪い勝ち筋を見出したというのに、それをあっさりと手放すのには違和感を覚えるかもしれない。だが、ヒソカからすれば勝利など闘争に付随する一要素に過ぎないのだ。
勝つのは気持ちがいい、当たり前だ。負けるのは悔しい、だが必ずしもマイナスではない。敗北を楽しめないなど戦士として二流である。勝利の栄光も、敗北の苦渋も等しく飲み込む度量が闘争には肝要だ。
駆け引きによって相手に本気を出させないままに勝利する。それも立派な戦い方の一つであろう。ヒソカはそれを否定するつもりはないし、実際この戦いにおいてはヒソカもそのような戦法で──どちらかと言えばカオルが墓穴を掘ったようなものだが──相手から殺傷力の高い技を奪い互角の戦いを演じてみせた。
闘争を最高のコミュニケーションと考えるヒソカにとって重要なのは、正しく「互角」の一言に集約される。互いが互いを確実に打倒できる可能性を有した状態における、完全な互角の戦いこそ彼が理想とする闘争のカタチである。
だが一見互角に見えても、その実態は本気を出せないカオルと本気を出させない立ち回りをするヒソカによる泥仕合。そんなどちらにとっても不完全燃焼な戦いに勝利してもヒソカは満足しない。勝つならば双方にとって納得のいく結末でなければならない。それが叶わぬなら、ヒソカは呆気なく勝利を手放すだろう。まさに今この瞬間のように。
当然のことながら終わらぬ戦いなど存在しない。勝負は時の運という言葉が示すように、互いの力量が如何に互角であれ、何らかの要因により勝負の天秤は傾きどちらかの敗北で幕を閉じる。それが道理というものだ。しかし同じ敗北にしても負け方というものがある。手も足も出ぬまま一方的に打ち倒されるか、身を削り合うような大健闘の末に紙一重で勝利を逃すか。大まかに大別するならばその二つか。
ヒソカとしては後者の方が好ましかった。闘争の酸いも甘いも全てを愛するヒソカにとっては敗北もまた甘美なものだが、彼とて一人の男。実力を認めた相手とはいえ、年若い少女相手に終始いいように翻弄されて敗北するような最期は可能ならば避けたいものである。
(ま、最低限の格好はつけられたかな♥)
十分に堪能した、と。そもそも小細工に頼らねばならないほど追い詰められた時点で既に望外の喜びなのだ。相手の失言に付け込み矜持を逆手に取り、もう十分に戦わせてもらったと言えるだろう。ならば後は潔く、順当に敗北するまで。
そのために敢えてカオルを怒らせたのだ。ヒソカにとって殺意なき闘争は闘争ではない。この戦いを試合のような生温い結末で終わらせたくはなかった。
「私を虚仮にした罰よ。酸鼻に過酷に残酷に、惨たらしく散華なさい」
「こわいこわい♣」
カオルが当初を上回る殺意を纏い、再び突撃の構えを取る。やはり怒りの感情は新鮮であればあるほど荒々しく鮮烈だ。どんな屈辱であろうと、四年も経てば幾ばくかの風化は避けられない。今この瞬間にカオルが抱いた烈火の如き怒りの情念に勝るものではないだろう。
魂を揺さぶるような激しい感情のぶつかり合いこそが闘争を彩る何よりのスパイスだ。そういう意味では今のカオルは最高だった。味わい尽くせぬ程のご馳走が最高最善の状態で自ら迫ってきてくれるのだ。こんな幸福が他にあろうか。
やはり闘争こそは
正面からぶつかり合う意思を見せるヒソカに対し、カオルは言われるまでもないと遠慮無用の突進を敢行する。重要なのはイメージ。もはや存在しない筋線維、関節、内臓、そして体細胞に至るまでその悉くを限界まで緩める。
水よりも、大気よりもなお柔く──その果てに訪れる脱力を超えた脱力。潜在意識下に残る強張りの一切を捨て去った脱力状態は、その先に常軌を逸した爆発力を約束させる。
肉体の操作のみであってもその踏み込みの速度は亜音速に届き得る。ならばそこにハイサーヴァントとして宿す莫大な魔力が、念能力者として有する豊富なオーラが加わればどうなるか。その答えが先ほど掠めただけでヒソカを重体に追い込んだ遷音速での突撃である。
(来るぞ……音の壁を超えた超ダッシュが!)
最初にカオルと対峙した時点で、既にヒソカは死出の覚悟を固めている。元より彼の内に恐れはなく、好敵手が繰り出す絶技を僅かたりとも見逃すまいと目を見開いた。
(来るぞ、来るぞ、来るぞ──来いッ!)
ヒソカの観察眼はカオルの脱力が極限に達した瞬間を見逃さなかった。ならば今すぐにも脱力は緊張へと転じ、信じられないような爆発力でその身を人間大の砲弾へと変容せしめるだろう。当然回避は不可能。待ち受けるヒソカは限界まで練り上げたゴム状のオーラに城塞の厚みを与え、攻め手のカオルは湧き上がるオーラに破城槌の破壊力を宿す。
「来いッッ!!」
「死に晒せ──!!」
刹那、両雄から立ち昇る戦意が最高潮に達する。その熱量は、オーラを目にすることのできないクラピカとレオリオをして直後に訪れる激突の凄まじさを予感させるに余りあるものだった。
(これで決まるのか──!?)
と、その時だった。
「ゴメンどいてどいてどいてぇ~!」
「取り込み中に悪い! けど正直それどころじゃないから!」
「あれ、ヒソカじゃん。お前も早く逃げた方がいいよ」
今にも激突せんとする両雄の間に広がる十数メートルの間合い。何者にも不可侵の領域と思われたその空間に無遠慮に踏み込む人影が三つ。木立の間から現れたゴン、キルア、イルミの三人は対峙するカオルとヒソカの間を慌ただしく駆け抜け、唖然とする四人を置き去りにあっという間に去っていった。
一瞬で現れて去っていった闖入者に硬直する四人。だが事態はそれだけに止まらなかった。ゴンたち三人が現れたのとは別方向の木陰から飛び出した二つの人影。ハンゾーとボドロの二人は必死の形相でまたもやカオルとヒソカの間を駆け抜ける。
「うははは! 信じらんねぇ何だアレ!? 妖術師か!? 忍び以外にもそういうのっているんだな広いな世界!」
「笑っとる場合か! ……ぬ、そこの四人! 早くこの場から避難するのだ! 白髪の悪鬼が来るぞ!」
壊れたように笑うハンゾーと青褪めた顔で捲し立てるボドロ。あっという間に去っていった三人組と二人組を見送り、そこでようやく四人は気付いた。この場に二つの巨大な気配が迫ってきていることに。
目の前の戦いに集中するあまり誰もが気付いていなかったが、奇しくもそこはゼビル島のど真ん中。そして相手に合わせてお行儀よく戦っていたカオルと異なり、ここに集いつつある二人は今以て頭のネジが外れたままのバーサーカーである。
「この世で狩りに勝る楽しみなし! 王者の喜び! 若人の憧れ!」
木々を薙ぎ倒しつつ現れたのは、幻馬ヒポグリフに跨る少年騎士アストルフォ。興奮によるものか頬を紅潮させ瞳を潤ませるその表情には、およそ正気と呼べるものは見当たらない。このスピード狂どもは主従揃って今日も絶好調であるらしい。
「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか────ッ!!」
暴風を引き連れ現れたのは、頭上に今にもはち切れそうな
まず、高速で動き回るアストルフォが進行方向にいるカオルたちへと突っ込んだ。理性がトんでいるためか目に映る動くもの全てを轢殺するバーサーカーと化している彼は、本来仲間である筈のカオルをカオルと気付かないままにこれを跳ね飛ばした。
そして突撃するためにこれでもかと前傾姿勢になっていたカオルと、防御のためにどっしりと腰を落としていたヒソカにこれを避ける術はなく、二人は横合いから突っ込んできたヒポグリフの突撃飛行の餌食となる。
「イッテイーヨ!」
「ダメに決まってんでしょうがげぼらッ!」
「マ゚ッ☠」
完全流体のカオルも、〝
惨劇はまだ終わらない。未だにイルミを追っているつもりであるアストルフォがフェードアウトすれば、次は俺だと言わんばかりに
だが、流石にそんな大量破壊兵器を非念能力者もいるこの場で爆発させるわけにはいかない。カオルは咄嗟に自身の霊基に干渉し、メルトリリスを構成する三つの神核の一つ、リヴァイアサンの神威を励起させる。
大海に君臨する神の怪物、大海嘯リヴァイアサンは海流を支配する。カオルはその権能を限定的ながらも行使し、ゼビル島周辺の海域からありったけの海水を引き寄せた。
まるで島そのものを呑み込むような大津波が発生し、それが地上の一切を喰らい尽くしながら押し寄せる。莫大な水量が渦を巻くように
「クラピカ、レオリオ! 今すぐここから離れなさい!」
「え、いや、は!? 水が動いて……えぇ!?」
「私にも何がなんだか……」
「そんなのどうでもいいから早くゥ! 逃げルルォ!」
如何にその水量が途轍もなかろうが、所詮は魔力も何もないただの海水。都市一つ崩壊させかねない程に巨大化した
そもそもカオル自身が無事で済む保証もない。そこで転がってるヒソカは心底どうでもいいが、クラピカとレオリオの二人には一秒でも早く避難してもらわなければならなかった。でないとカオルも逃げられない。
流石に呆然としている場合ではないと悟ったのか、我に返った二人は踵を返して走り去る。レオリオは少女一人置いて逃げることを最後まで渋っていた様子だったが、自分たち程度が介入できる問題ではないと判断したクラピカに促されこの場から離れていく。
二人が去ったことで憂いのなくなったカオルは全魔力を総動員し、巨大な水のドームと化した海水のシェルターに更なる水量を注ぎ込む。押し寄せる濁流によって島の自然が加速度的に破滅へ向かっていることなど知らぬとばかりに容赦なく海水を吸い上げ、今にも破裂しそうな破壊の灼熱を封じることにのみ専心する。
そして。その場が水の竜巻によって覆い尽くされようとした瞬間、中心地点で
「──ッ!」
歯を食いしばるカオルの目の前で、圧倒的な水量によって形成された濁流の牢獄が内側から崩壊していく。溢れ出る灼熱は瞬時に海水を蒸発させ、大規模な水蒸気爆発を誘発。生じた爆発の衝撃と熱波は半径数百メートルに渡って周囲を薙ぎ払った。爆心地にいたカオルが軽傷で済んだのは偏に念能力者であったこと、そして曲がりなりにも人間以上の存在である英霊であったからだろう。ヒソカは知らん。気付いたら消えていた。
カオルが押さえ込んだから良かったものの、本来ならばゼビル島そのものが木端微塵になっても可笑しくない衝撃だった。津波と水蒸気爆発によって地上にはどえらい爪痕が刻まれることになったが、本来想定された規模からすれば十分有情な結果であると言えるだろう。爆発の衝撃によって吹き飛ばされながらカオルはそう自分を納得させた。
──だがその直後、カオルは致命的な失策を悟った。
「地面には何の対策もしなかったなぁ……」
巨大な水のドームによって
その結果どうなるかなど、もはや語るまでもない。今カオルの耳に届いている島の地殻が崩壊する音が全ての答えである。
ゴゴゴゴゴ……と地鳴りを上げて崩れゆくゼビル島。それに追い討ちを掛けるように、
海が降り注ぐ。海に沈む。上と下から海水に呑まれたゼビル島は、爆発から半刻の時を経て完全に海の藻屑となった。その被害は島の上にいた全ての者に等しく降り掛かる。
逃げ回っていたゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ハンゾー、ボドロ、イルミの七人。それを追い掛けていたアストルフォ、
ちゃっかり生き延びていた満身創痍のヒソカ。
受験生一人一人について回っていた監視員のスタッフたちと、刻限が来るのを待っていた黒犬獣バスカヴィルら使い魔の獣たち。
そして島から少し離れた位置の海上で船に乗って待機していた試験官のアーカードとエミヤの二人(と既に回収されていた意識のないポックル)。
その全てが崩壊するゼビル島と共に海に沈んだ。その一部始終を海中から死んだ目で眺めながら、カオルは抑揚のない声で一言呟いた。
「もう知ーらない☆」
違うんです、ここまでやるつもりはなかったんです。私は暴走するアストルフォと
そもそも二人がああも暴走する切っ掛けとなったのはハンター試験で好き勝手してたアーカードとエミヤが原因です。なので一番悪いのはあのマダオ二人です。
いや、そもそも論で語るならマダオ二人をこの世界に転生させた自称神様が全ての原因です。奴がいなければこうはなりませんでした。なので奴が最強に悪いです。よって私たち五人に責任はありません。
──その日、世界地図から一つの島が消滅し、どこかの国の経済水域が狭まった。天変地異の前触れだと数週間に渡り世間を賑わせたこの事件が、たった数人の馬鹿な転生者によって人為的に引き起こされたものであることを知るのは、当人らを含めた極僅かな者のみであったという。
「四年前の復讐だ。やろうぶっころしてやる」→「なんか余裕だったし、気分がいいから半殺しで許したるわ」→「オレァ クサムヲ ムッコロス!!」
二転三転するカオルのテンション。お前さぁ……
というかギャグの外伝で何まともなバトルしてんだよって感じ。もっとはっちゃけさせつつ簡潔に済ませるつもりだったのに、参考資料としてバキ読んでたらテンション上がっちゃって長くなってしまった。次からはもう少し文字数少なくして読みやすくするからね……