実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜   作:ピクト人

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はい、よーいスタート。
ゼビル島を沈めることによって発生するバグを利用し因果律を歪め、女王の漂着時期を早めます。これにより天空闘技場編、ヨークシン編、グリードアイランド編を経ることなくライセンス入手直後にキメラアント編を開始することができます(大嘘)


転生野郎Aチーム続編~率直に言うと自陣営のオリキャラage回~

 結論から言うと、序盤で番号札(ナンバープレート)を奪取され脱落したポックルを除く十一名は合格扱いとなった。方々で小競り合いはあったが、結局プレートを紛失した者は皆無だったためである。

 試験会場であるゼビル島が没した時点で試験続行不可能と判断され、最終試験は強制終了。その時点でプレートを所持している者は合格とし、第287期ハンター試験は幕を閉じたのだ。

 

 そして、場所は原作において最終試験会場となったハンター協会審査委員会が運営するホテル。その一室にて、見事合格を勝ち取った十一名は神妙な面持ちで前に立つアーカードの言葉に耳を傾けていた。

 既にハンターライセンスは配布済み。現在は試験官であるアーカードによるガイダンスの最中である。とはいえそれほど複雑な規約があるわけでもなく、協会が定めたハンター原則十ヶ条についてと、ハンターに許される特権について軽く説明する程度だったが。

 

 説明を終えたアーカードは確認するように部屋の端に控えるネテロ会長へと視線を送る。彼のアイコンタクトを受けたネテロは満足げに頷いてみせることで説明に不足がないことを伝える。

 アーカードはネテロに黙礼すると、改めて合格者たちへと向き直り一人一人順繰りに視線を向けた。

 

 目立った怪我はないものの、例外なく疲れた顔をしているゴン、キルア、クラピカ、レオリオの四人組。

 骨折でもしたのか腕を吊っているハンゾーに、捻挫や脱臼の治療痕が見て取れるボドロ。

 大小様々な怪我を負っているものの、相変わらずの無表情で感情が読めないイルミ。そして全身包帯塗れで表情云々以前に肌が見えないヒソカ。

 

 ……最後に、やや気まずそうに目を逸らすアストルフォと一方通行(アクセラレータ)、そして瞳孔を広げてプルプルと小刻みに震えるカオル。以上の合格者十一名を視界に収め、アーカードは柔らかな笑みを──生来の凶相の所為で全く柔らかくは見えないが──浮かべた。

 

「今この場にいる十一人は、過酷極まる第287期ハンター試験を乗り越えたいずれ劣らぬ猛者たちだ。君たちという得難い人材の参入をハンター協会は歓迎する。プロハンターの先達として、僭越ながら私が代表して祝辞を述べさせて頂こう。

 ──おめでとう。現時刻を以て第287期ハンター試験を終了し、今この瞬間から君たちはプロハンターとなる」

 

Congratulation(コングラッチュレーション)!」

 

Congratulation(コングラッチュレーション)!」

 

「おめでとう……!」

 

「おめでとう……!」

 

 パチパチパチ、とアーカードとエミヤの二人による称賛の言葉と拍手の音が響く。

 そしてアーカードによってハンター試験終了の宣告がなされた瞬間、椅子を蹴倒したカオルはツェズゲラもびっくりな大跳躍を敢行した。

 

「キャオラァッッ!!」

 

「痛い!」

 

 天井スレスレまで飛び上がり、十分な位置エネルギーと重力加速を得てからの踵落とし。念こそ込められていないものの、鋼でできたカオルの足は相応の重量と硬度を有している。ただの人間であれば柘榴のように無惨に弾けること請け合いの脳天蹴りだが、相手はご存知不死身のアーカード。頭蓋が砕け脳漿と鮮血をブチ撒けるも、飛散した体液と肉片は即座に血霧と化して寄り集まり、次の瞬間には元の形状へと修復を果たしていた。

 

 ヒソカやイルミを除く常識人たちは突然のカオルの凶行に目を剥き、しかもそれを「痛い」の一言で済ませ何てことないように(結果的に)無傷で凌いだアーカードの肉体能力に度肝を抜かれる。

 

 だがカオルの本命はアーカードではない。普段は旦那と慕う男の脳天を砕いた彼女は、床に着地するや稲妻のような足払いで傍らに立つエミヤを転倒させる。身体能力的にはAチーム五人の中でも最下位であるエミヤはカオルの電光石火の速攻に対応できず転倒。尻餅をついたエミヤの股座へとカオルは金的を叩き込んだ。

 

「だおォッ!」

 

「アバーッ!」

 

 流石に本気で蹴ると洒落にならないためか、足の甲で弾くような鋭くも手加減された蹴りだ。しかし対象となるのは露出した内臓とまで言われる男の急所、睾丸。まともに打たれれば大の男であっても昏倒する金的の痛みに耐えられる者など、男に生まれた以上は存在しないと言っていいだろう。

 当然睾丸を体内に収納するような特殊技術など修めていないエミヤにこの痛みから逃れる手段はなく、絶叫を上げてその場を転げ回った。ヒソカにすら行使することのなかった禁じ手を躊躇なく使うあたり、カオルのエミヤに対する怒りの大きさが窺える。

 

「成敗ッ!」

 

「よくやった!」

 

「お前がナンバーワンだ!」

 

 アーカード自ら試験終了を宣言した以上、既に彼らの間に試験官・受験生の垣根は存在しない。一度プロの資格を得てしまえば、そこから先は徹底して実力が物言う世界だ。先輩後輩の関係すら明確な実力差の前にはあってなきが如し。もはやライセンス失効の心配がない以上勝てる相手に(おもね)る必要などなく、遠慮を捨て去ったレオリオとハンゾーは右手を振り上げ勝利を確信するカオルに惜しみない喝采を送った。

 

「ほっほっほ、元気がいいのう。結構結構」

 

 やいのやいのと騒ぐハンターの卵たちを顎髭を扱きながら笑って見守るネテロ。アーカードとエミヤに試験官を一任する以上、当然彼らの素性については概ね調べがついている。彼らとカオルの関係を知っているため、特に制止するようなことはしなかった。

 前述のように確かにプロハンターは実力主義の世界だが、よほど才能に溢れた者でもない限り「先輩>後輩」の力関係が崩れることはない。とりわけ試験に合格したばかりのヒヨっ子など、既に数年に渡りプロとしての経験を積んだハンターからすれば赤子のようなものだ。

 

 その理由として、〝念能力〟という特殊技能の有無が挙げられる。命あるものならば全てが例外なく有する生命エネルギー〝オーラ〟を自在に操る力、念能力。これを扱う者は常識ではあり得ぬ超常の力を宿すことになる。摂理に反する超能力、人の枠を逸脱した腕力……まさに怪力乱神というべき圧倒的な力を使用者に齎すのだ。

 

 だが、念能力は一部の特別な人間にのみ許された力──というわけではない。持って生まれた才の多寡はあれど、修行次第では誰にでも習得が可能。何となれば動物や虫ですら念能力を操るケースもあるという。

 その性質故に悪用を恐れ、ハンター協会は念能力の存在を一般人に知れ渡ることのないよう秘匿している。しかし相応の強さを求められるプロハンターが念を身に付けることはむしろ推奨しており、「裏ハンター試験」と称して念の習得を課している。

 

 つまり、現在プロハンターとして活動している者は通常のハンター試験に加え、例外なく裏ハンター試験を経て念能力に開眼している。これが表のハンター試験に合格したばかりのルーキーとキャリアを積んだプロハンターとの違いである。どれだけ素晴らしい才能を秘めた金の卵であろうが、念に目覚めていない以上は先達との力関係が覆ることはない。それだけ念能力が齎す力は大きいのだ。

 

(まあ、今期は例年に比べ既に念を修めた挑戦者が多いようじゃが。暗殺一家の長男に天空闘技場の名物闘士、そして()()ヘルシングの実行部隊と噂される三人組。いやはや、よくもこれ程の曲者が一堂に会したものよ)

 

 どこからともなく現れたペンギンに袋叩きにされている姿からは想像もつかないが、アーカードとエミヤの二人は知る人ぞ知る強力な念使いである。とりわけアーカードにまつわる物騒な噂は枚挙に暇がなく、一部のハンターは彼を十二支んにすら匹敵、あるいは凌駕する実力者だと評する程だ。

 そしてネテロは実際に対面したことでその噂が決して的外れなものではないと確信する。十二支んとはネテロが直々にその実力を認めた協会の最高幹部だ。その実力は本物であり、十把一絡げのプロハンターが束になって掛かっても足元にも及ばないとされる。そんな彼らに匹敵するなど、噂だとしてもあまりに不遜な評価だと言えよう。……普通ならば。

 

(匹敵する……どころではない。ともすればあの男一人で十二支ん全員を上回りかねんわ)

 

 鍛錬の形跡は見られるが、決して熟練の武を感じさせるような佇まいではない。外観から窺えるオーラ量も取り立てて化け物クラスという程ではなく、全盛期のネテロと比べれば──ネテロと比較できる時点で既に尋常ではないが──見劣りするだろう。

 だが違う。彼の本質は外から見える部分にはない。ネテロの目は常人とは明確に一線を画す()()をアーカードの内に見出していた。喩えるならば嵐、雷、地震……人の身では抗拒し得ぬ自然災害……そういった“現象”の領域にある途方もなく巨大な力──そんな言語化できぬ不定形の脅威を無理矢理人の形に閉じ込めているような違和感。意思疎通できること自体が理不尽でしかないような、そんな形容し難い感覚をネテロは感じていた。

 

 アーカードとまともに勝負が成立する念使いなど、ネテロを始めとする極一部の実力者に限られるだろう。協会も要注意人物としてマークしていたため、アーカードが数年前に個人事務所を設立した時は一部で話題になったものだ。ネテロ個人としては彼のハンター試験以来ようやく二度目の邂逅なのだが、成る程これほど底知れない人物ならば注目もされようと納得する。

 

 アーカードが立ち上げた「ヘルシング探偵事務所」に所属する人員は五名。メンバーは設立当初からいる所長たるアーカード、その片腕であり立場的には──全くそうは見えないが──副所長であるエミヤの二人。そして設立から暫く経って加入したカオル、アストルフォ、一方通行(アクセラレータ)の三人である。

 規格外の念使いであるアーカードが率いる探偵事務所。ではその仕事は何かと言えば、これが本当に多岐に渡る。探偵と謳っていながらその実態は何でも屋のようなもので、犬の散歩や失せ物探しから警護任務、果ては用心棒としてマフィア間抗争に参戦し片方を完膚なきまでに壊滅させたこともあるとか。基本的にハンターは特定の分野にのみ専心するケースが多いものだが、対する彼らの活動はハンターとしては異端と言ってよい程に幅広く、金額次第で何でも引き受ける姿勢は数多いるプロハンターの中でも異彩を放っている。

 

 そして、その先鋒を務めるのが今回ハンター試験に挑戦した三人組である。設立初期は人員不足から所長たるアーカード自ら現場で腕を振るっていたが、現在はエミヤ共々後方支援に回る機会の方が多いという。

 アーカードが見出しただけありその実力はアマチュアでありながら確かなもので、実際に彼らの加入後は明らかに武力を要する依頼を引き受けることが増えている。前述したマフィア壊滅の際にはこの三人がかなりの大立ち回りを見せたらしい。

 

 その実力の程はこのハンター試験において遺憾なく発揮された。試験官が身内であることから八百長を懸念していた審査委員会の不安を鼻で笑うエミヤの大暴走。そして最終試験での三人による破壊劇。よもや完全な人力で島一つを海に沈めるなど、一体誰が予想できようか。受験生を追跡していた委員会のスタッフから上がってきた報告に目を通したネテロも思わず二度見してしまった程だ。

 

 大地を引っ繰り返すような風圧を巻き起こしながら高速飛行する化け物のような魔獣に、それを十全に操り本人も高い戦闘力を秘めるアストルフォ。

 一挙手一投足が破壊を伴い、ただ移動するだけで地形を変動させる規格外。挙句の果てには戦略核にも匹敵する大破壊をノーリスクで実行した一方通行(アクセラレータ)

 熟練の戦巧者であるヒソカに匹敵する体術の冴えを披露するに止まらず、海流を操り莫大な水量を地上に出現させたカオル。

 

 彼らが最終試験で見せた異常な戦闘力はハンター試験関係者を震え上がらせた。これが一人ならばまだ分かる。いつの時代にも不世出の天才というのはいるもので、若き日のネテロがそうであったように、他と隔絶した傑物が唐突に表舞台に現れることはままあることだ。

 だが、そんな稀な例が一度に三人も、それも同陣営の仲間として現れるとは一体どういう了見なのか。しかもそれを率いるのは同じく稀代の実力者であるアーカードとその盟友であるエミヤだ。どんな確率であればこんな非常識同士が巡り会い、いがみ合うこともなく轡を並べるに至るのか。

 

「ここまで来るともはや一つの勢力じゃのう」

 

「ええ、ええ、全く以てその通り!」

 

 何となしに呟いたネテロの独り言に返る声があった。ネテロが振り返ると、そこには胡散臭い笑みを浮かべたスーツ姿の優男が一人。無論のことネテロは彼の入室に気付いていたが、普通の人間であればその気配を捉えることは不可能だろう。それだけ自然で巧みな隠形だった。

 

「どうしたパリストン。お主は今回のハンター試験には関わっておらんかった筈じゃが」

 

「私としても最初はそのつもりでした。ですが試験官を務めるのがあの“巨凶”アーカードに“徘徊する火薬庫”エミヤとあっては、ねえ? こんな愉快……いえ、面白……いえ、大変そうな事態に傍観を決め込むのは如何なものかと思いまして。微力ながら会長のお手伝いをさせて頂こうかと!」

 

「もうちょっと本音を隠す努力しよう?」

 

 ──パリストン=ヒル。ハンター協会副会長にして、協会最高幹部「十二支ん」の“子”を与るプロハンター。「最も苦手なタイプを側近にした方が面白いから」という理由でネテロにより協会の次席に指名された男である。

 ネテロに「最も苦手なタイプ」と評されただけあり、彼の本領は直接的な武力ではなく*1謀略の手腕にこそある。頭脳明晰で話術に長け、謀で他者を陥れることに倒錯的な歓びを感じる生粋の策略家にして謀略家。それがパリストンという男だった。

 

 また、彼は多くの協専ハンターを子飼いにしていることでも知られている。協専とはハンター協会が政府や企業から依頼された仕事を専門に請け負うハンターの総称であり、「協会の斡旋する任務を専門とする」ハンターを略し「協専」ハンターと揶揄される。成否に関わらずリスクや難易度に応じた報酬が与えられるため、協専と揶揄されようがこれを本業とするハンターは数多い。

 そして協専に任務を斡旋する立場にあるのが他ならぬパリストンであるとされ、即ち協専ハンターは実質的なパリストン派であると言えるだろう。パリストンなくして協専ハンターは仕事を得られず、故に協専は彼に味方しその采配に従う私兵となる。その派閥は協会内でも一大勢力となっており、もはやネテロですら容易に切り崩せぬ程に膨れ上がった。

 

 もし。もし仮にだが、パリストンがあの三人に粉を掛けようと目論んでいるのならネテロはそれを阻止するつもりだった。如何にパリストン派閥のハンターが数で勝ろうが、それだけではあの破天荒な三人組を御し切ることはできないだろう。

 だがその懸念は杞憂だったようで、ネテロの表情から彼の言わんとすることを察したパリストンは静かに首を振った。

 

「個人の武力で覆せる数の差には限度というものがあります。が、数の差で押し潰せぬ個人が存在することもまた事実。会長がそうであるように、アーカードさんもまたそのような埒外の個として君臨している者の一人です。あの三人が加われば個々の戦力で劣る私の派閥の勢力は大きく底上げされるでしょうが、そのために彼を敵に回したくはありませんねぇ」

 

「分かっておるのならよいが、ならば何故わざわざ顔を出した?」

 

「単純な興味本位ですよ。早くも話題の新人を一目見ておきたくて」

 

 まあ地図を塗り替える程の破壊劇だ。事後数時間しか経過していないとはいえ、情報を専門に扱うハンターならば既に下手人を特定できていてもおかしくはないだろう。既にある程度の知名度のあった彼らだからこそかもしれないが。

 

「それと多忙のビーンズさんに代わり報告を。ゼビル島を領有していた国への隠蔽工作は順次執り行うとして、ビーストハンターなど種の保全を目的に活動しているハンターからの苦情の処理が一段落つきましたので」

 

「ふむ、彼らは何と?」

 

「ゼビル島には固有の種が生息していましたのでね、まあそれなりに色々と言われましたよ。我々協会の監督責任が云々とか……でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ニコリと、ともすれば好青年めいてすら見える涼やかな笑顔でパリストンはそう言い切った。自然災害と、今回の顛末をそう片付けるつもりのようだ。

 

「だってよく考えてみて下さいよ。ちょっとした街一つ程もある巨大な島が跡形もなく粉砕して海に沈んだんです。こんなの核の力でも不可能ですよ」

 

「そうじゃな。仮に“貧者の薔薇(ミニチュアローズ)”を数十投下したとしても島の表面を焼き払うので精一杯じゃろう。核爆発に匹敵する破壊力を余すことなく地殻に叩き込むことができれば話は別じゃろうが、普通の爆弾では衝撃の大部分が上方向に逃げてしまうからのう」

 

「会長なら同じことができますか?」

 

「できぬ、とは言わんよ。じゃが〝百式観音〟でちまちまと島を破壊して回るのは骨が折れるどころの話じゃないわい。日が暮れてしまうし、何より体力が持たんわ」

 

「でしょう!? 一瞬でゼビル島を沈めるなどという会長にも成し得ぬ大破壊をあの三人の子供がしでかしたなど、アーカードさんの秘蔵っ子といえども荒唐無稽が過ぎるというものです! それなら突発的な自然災害によるものである、と言う方がよほど説得力がある!

 きっと偶然にも、偶 然 に も 試験会場となったゼビル島の直下で大規模な地殻変動が起きてしまったのでしょう。天下のハンター協会といえども星の運動を制御することは不可能です。つまりこれは悲しい事故。ゼビル島の生態系が永遠に喪失したことは悲劇と言う他ありませんが、これもまた自然の摂理。仕方のないことなのです」

 

「ま、落とし所としては妥当なとこじゃろう。真剣に環境保護に取り組むハンター諸兄にはちと心苦しいが、そう納得してもらう他あるまい」

 

「ゼビル島なんかのために手放すには惜しい人材ですもんねぇ?」

 

 ニヤニヤと厭らしく笑うパリストン。人の神経を逆撫でする笑みを浮かべるこの男に同意するのは癪だが、協会にとっての益を考慮すればそう結論せざるを得ないのは事実だった。

 先程ネテロはヘルシングの面々を指して一つの勢力と呼んだが、強ちそれは誇張でもない。世界の表と裏を問わず多大な影響力を持つゾルディック家。そして旗揚げされたのは比較的最近ながら、既に犯罪界においてカリスマ的立場を確立しつつある幻影旅団。強力な個が寄り集まり形成された少数精鋭の勢力は少ないながらも存在する。知名度という点では上記の二つに劣るが、保有する戦力の面においてヘルシングは決して見劣りしないだろう。野放しにしておくのは些か危険過ぎる爆弾だ。首輪……と言える程の効力はないだろうが、ハンターとして協会と僅かにでも繋がりがあった方が何かと安心できるというものだ。

 

「そして、今回のハンター試験を以てヘルシングの人員は全員がプロハンターとなった。見方を変えれば、ヘルシングは協会の傘下にあると言えるでしょう」

 

「冗談にしても拡大解釈が過ぎるじゃろ。協会は基本的にハンター個人の活動に口を出すことはせんよ」

 

「基本的には、でしょう? 彼らには本来ライセンスなど必要としないだけの力がある。ゾルディックや旅団がハンターではないようにね。しかし彼らはライセンスを求めた。つまり、ライセンスを通して得られる恩恵に何らかのメリットを見出しているということ。それは協会側からの貸しであると見ることはできませんか?」

 

「必ずしもライセンスを必要としないと言ったのはお主じゃろうに。あまり恩着せがましいと離反を招くぞ?」

 

「おおっとこれはしたり! 勿論ライセンスを盾に無理な要求を通そう何て考えてませんとも! しかし彼らがハンターとして協会に連なる立場にあることは事実。全くの無関係であるよりは話が通りやすいのではないでしょうか。それに──島一つを沈没させるという一大事をなかったことにしたのです。ちょっとした“お願い”の一つや二つ聞いてもらうぐらい、安いものではありませんか?」

 

「何でこんな火消しに乗り気だったのかと思えば、それが本音かい。何を企んでいるかは知らんが程々にしておくことじゃな。負債の一つや二つ、易々と踏み倒せるような化け物が相手だということを忘れんことじゃ」

 

「無論です。会長を相手にしているつもりで臨みますとも」

 

「暗にワシが化け物と言いたいんか? お?」

 

「HAHAHA! それでは私はこれにて失礼! 心配なさらずとも、しばらくは様子見に徹するつもりですから!」

 

 そう言ってパリストンはそそくさと部屋を後にする。

 あんな男でも協会の次席を与るプロハンターだ。戦闘要員ではないとはいえ念能力者の端くれ、最後まで非念能力者に気配を悟られることなく去っていった。気付かれてないのを良いことに長々と話しおって、とネテロは嘆息する。

 まあ、アーカードやイルミなどの念使いには筒抜けだったようだが。あるいは聞かれても構わなかったのだろうか。

 

 こちらの会話が終わったのを察したアーカードは全身に纒わり付くペンギンを振り払って立ち上がる。嘴でつつかれ所々が解れた赤い外套の襟を正し、彼は改めて試験が終了したことを告げる。

 

「さて、では本当にこれでハンター試験は終了だ。以降はプロハンターとしての自覚を持ち、節度を持った行動を心掛けるように*2

 ──以上、解散!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 第287期ハンター試験が終了したその日の夜、某高級焼肉店にAチームの姿はあった。

 

「それじゃハンター試験合格を祝って!」

 

「カンパーイ!」

 

「乾杯……」

 

 上カルビ焼2900J(ジェニー)也。

 特選ネギロース焼3100J也。

 ヒレ焼4500J也。

 壷漬カルビ焼2800J也。

 ハラミ焼2100J也。

 上ネギタン塩焼2800J也。

 etc.etc……

 

「うぉぉおおい悉く高いもんばっかり頼むんじゃねーよ! 手加減しようぜ手加減!」

 

「喧しいわこの贋作者(フェイカー)贋作(パチモン)が! この程度で済ませてやるだけありがたく思いなさい!」

 

「あ、すみませーん上カルビ追加で10皿!」

 

「カルビカルビカルビタンカルビヒレカルビカルビハラミカルビ……」

 

一方通行(アクセラレータ)さん!? アナタそんなに肉食うキャラでしたっけ!? つーかお前らカルビ食い過ぎじゃね!?」

 

「目標、キルアの腹筋……」

 

「ああ筋肉つかないこと気にしてたのね! だ、だが肉ばかりでは如何にもバランスが悪い。どうだ、ここいらでサラダになど手をつけてみては……叙〇苑のサラダは美味いぞぉ!」

 

「それもそうね。すいません、サラダ20皿持ってきて下さい」

 

 サラダ700J也。

 

「カオルさああああん!? サラダといえども20皿も重なると洒落にならんのですが!」

 

「〇々苑のサラダって異様に美味しいわよね。このドレッシングって市販されてないのかしら*3

 

「そうだね美味しいよね! だからってそんなに食べるか普通!?」

 

「あ、サラダばっかりじゃバランスが悪いよ! すみませーん、ハラミ10皿追加で!」

 

「バランスなんざとっくに崩壊してんだよクソがあああああ!!」

 

 店側への迷惑など考えず片端から肉を注文していくカオルたち三人*4。まるで某腹ぺこ王の食欲が乗り移ったかのようだった。焼いては食べ、焼いては食べるの繰り返し。底なしの食欲で肉を飲み込んでいく様は狂気すら感じられる。

 全額を負担することになったエミヤからすれば堪ったものではない。一皿ですらファミレスで贅沢できる値段の肉を瞬く間に平らげるのだ。加速度的に金が飛んでいく様を幻視し、エミヤは恐怖に身を凍らせた。

 

「ハッハッハ、済まないねエミヤ君。私までご馳走になってしまって」

 

「ッつーか一番納得いかねぇのはコレだよ! 何で同じく仕掛け人だった旦那はお咎めなしなわけ!?」

 

「旦那はアンタの悪ノリに便乗しただけだったじゃない。こっちが被った実害の殆どがアンタの発案だって知ってるんだから」

 

「いや、まあ、確かにそうなんだけど……何か腑に落ちねぇ!」

 

「それに旦那は一回頭砕いたし、それでチャラでしょ」

 

「オレのマグナム蹴ったじゃん!」

 

「調子乗んなデリンジャー。それに手加減したじゃない」

 

「そりゃ手加減されてなかったらオレは今頃アチャ子になってましたからねぇ!」

 

 そうやって言い合っている間にもカオルの食事の手が止まることはない。しかも会話に参加していないアストルフォと一方通行(アクセラレータ)などは更にギアを上げて肉を頬張っていく。色々とやらかした自覚のあるエミヤはそれを強引に止めることができず、何とかブレーキを掛けようと試行錯誤する。

 

「えーと、ホラ、あれだ。あまり大量に注文してるとお店に迷惑が掛かるだろっ。なっ? 残さないだけ大したもんだが、用意する方も大変だろうし、そろそろ……」

 

「オイゴルァ! さっきから馬鹿みたいに肉食ってるテーブルはここかァ!?」

 

 その時、個室の扉を蹴破って数人のチンピラが乗り込んできた。

 彼らはヨークシンに拠点を構えるとあるマフィアの構成員だった。シノギに成功し昇格が決まり、そのお祝いにと奮発して叙々〇に来てみれば、どこかのテーブルがアホのように注文を連発するせいで自分たちの席にまで店員の手が回らず待ちぼうけを食らう羽目になっていたのだ。

 

 至極真っ当な理由で文句を言いに来たチンピラ一同を、エミヤは救いの神を見るような表情で出迎えた。頼んますマフィアの皆さん、この大飯食らい共にガツンと言ってやって下せェ!

 

「あ"あ"ん?」

 

 だが、彼らはヨークシンのマフィア。そしてカオルたちはヨークシン在住のアングラ探偵である。同じ街に拠点を持ち活動する者同士、当然ながら両者の間には面識があった。

 

「やべーぞヘルシングだ!」

 

「へへっ、何だカオルの姐御じゃねぇッスか! いるんならそう言っておいて下せェよ! いやホントマジで……

 

「じゃじゃじゃあオイラたちはこれで失礼しますぜ! 今回は挨拶に来ただけってことで一つ!

 ……行くぞお前ら、撤収だ! 昇格おめでとうパーリーはまた次の機会だぜ!」

 

 ガンを飛ばすカオルの顔を見るや即座に回れ右。一糸乱れぬ動きでチンピラたちは店を去っていった。

 逃げ去っていくマフィアを制止するように手を伸ばしたままの姿勢で固まるエミヤ。その哀愁漂う姿にアーカードは思わず箸を止めるが、三人にそんな手心を加えるつもりはない。彼らには自分たちが被害者であるという大義名分(?)がある。「自分たちはあれほど酷い目に遭ったのだから何をしてもいい」という一番厄介な被害者意識に凝り固まっていた。

 

「すいませんロース追加で」

 

「やっぱりボクは王道を征く……カルビでおなしゃーっす!」

 

「タン塩……お願いします」

 

「うおォン」

 

 晩鐘は汝の財布を指し示した。この日エミヤは財布が空になるまで有り金を搾り取られ、ハンター試験で調子に乗ったツケを支払わされるのだった。

 

*1
それでも十二支んのメンバーである以上、一定以上の実力はあるのだろう

*2
お前が言うな!

*3
売ってます。美味しいよ!

*4
マジで迷惑なので現実では絶対に止めましょう




これにてハンター試験編終了。くぅ〜疲……れてないです。本編と違って頭空っぽで書いたから気が楽で気が楽で。

これでAチーム編はバッサリ終わりにしてもいいんですが、仮に続けるとしたら以降はあまり原作キャラとは関わらなくなると思います(全く関わらないとは言ってない)
それなりに小ネタはあるのですが、果たして受けるかどうかは未知数なので慎重に行きたいと思います。やるとしても投稿速度はガクッと落ちるでしょう。え、今更? ですよね。

では、雑ゥな締め方でしたが今回はこれで終了です。こんな馬鹿話に付き合って下さった皆様、ありがとうございました。


PS.アストルフォきゅん星五実装おめでとう。
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