実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜 作:ピクト人
翻って、拙作に出てきたYouTubeのパチモノであるToiTubeのToiはフランス語で「あなた」という意味。つまりこちらもまんま「あなたのブラウン管テレビ」です。パチモノっつーかただのパクリや。
一応玩具を意味するToyと掛けて「
「第108回! Aチーム家族会議~!」
「いぇーい……」
どんどんぱふぱふ、と安っぽい太鼓と
ちなみにAチーム家族会議とは、何か重要なイベントに際しての取り決めを協議する場である。例えばヘルシングとして大掛かりな依頼を請け負った時だったり、晩御飯のメニューについて五人の意見が対立した時などに度々開催されてきたAチームの恒例行事であった。
「奇しくも煩悩の数と合致した今回の議題は~」
「ジャカジャカジャカジャカジャカジャカ……」
「ジャン! 『祝! ToiTuberデビュー!~カオルを立派な配信者にするためのプロデュース方法会議~』!
……というワケで、この度めでたくToiTuberとしてデビューすることが決まったカオルをどのように売り出していくかを協議するのが今回の主な議題だよ! まま、それはそれとしてぇ~……イェイ! カオルおめでとーっ! かんぱーいっ!」
『乾杯!』
エミヤが腕によりをかけて作った豪勢な料理の数々が並んだ食卓を囲んだ彼らは、アストルフォの合図に合わせてグラスを掲げる。杯がぶつかり合う甲高い音が響き渡った。
一方、本日の主役である筈のカオルはその乾杯に応じることなく、手にしたグラスを勢いよく床に叩きつけた。
「
「ああ! 何故かカオルがドイツ式の乾杯を!」
「こらッ! 食べ物を粗末にしちゃダメでしょ!」
「じゃかァしゃーゴラァ! 貴様ら揃いも揃って人の受難を喜びやがって……それでも同郷の仲間か! 終いにゃ泣くぞ!」
バンバンと机に手を叩きつけて喚くカオル。
しかしその経緯を思えば無理もない。自分の意思で配信者になるのならいざ知らず、パリストンによる半ば強引な取り決めによって仕立て上げられたのだから不本意に思うのは当然だ。しかもそもそもの原因となったのがエミヤによる写真売却なのだから笑えない。真の敵は身内にいたのだ。
「いや、まあその……その件につきましては本当に申し訳なく……」
「憤ッ!」
「痛い!」
カオルは対面に座るエミヤの足を踏みつける。例の一件以来カオルは度々エミヤの足に蹴りを入れるようになったので、今やエミヤの膝から下は痣だらけだった。
とはいえ、実のところカオルは自分の顔が世間に広まってしまったことについてはあまり怒っていなかった。カオルにとって今の自分の顔は“カオルの顔”ではなく“メルトリリスの顔”である、という認識の方が強い。今の外見になって久しいとはいえ、まだ前世で過ごした時間を超える付き合いではない。これが今の己なのだという自覚はあれど、それでもどこか他人事でいる自分がいる。故に己のコスプレ写真を見ても「自分のコスプレ写真」ではなく「メルトリリスのコスプレ写真」なのだという感想しか抱かなかったのだ。
では何に怒っているのかというと、それはメルトリリスの玉体をよりにもよってコスプレ写真などというふざけた形で世に広めたことだった。転生特典として選ばれたが故の贔屓目もあるのかもしれないが、カオルはメルトリリスという存在に対して憧憬にも似た感情を抱くようになった。前世の自分とは比較にならぬ美しく強靭な精神と肉体、強大な霊基に裏打ちされた確かな戦闘能力……あらゆる危険に満ちたこの世界に身一つで放り出されたカオルにとって、人ならざる神秘を宿すこの身こそが唯一頼れるものだったのだ。元は架空のキャラクターだとて、そして故知らぬ上位者に与えられた力であるとて、我が身を守ってくれるものに信頼と尊敬を抱くのは自然なことだろう。Aチームというこの上なく頼れる仲間ができた今でもその心は変わらない。
だからこそ、この世界においてもメルトリリスは強く美しい存在でなければならないと。来歴を知る仲間の前でまで見栄を張るつもりはないが、せめて大衆の前では美しきプリマドンナであろうと心掛けてきたのだ。
そのはずだったのに!
よりにもよって!
コスプレ写真などという形で世に知れ渡るなど!
こんな恥辱が他にあろうか!
「メルトリリスは園児服なんて着ないのよおおおおおお!!」
「うーんこれは厄介オタク」
「まあ確かに……カオルのその見た目でスモックはあまり似合ってなかった……」
婦警服は許す。
チャイナ服も許そう。
プラグスーツも……まあギリ許容範囲だ。
だがスモックは許さない。このチョイスだけ悪意が滲み出ている。
「こうなったら動画配信で悪しきイメージを払拭せねば……強く美しいメルトリリス像を取り戻すのよ……」
「いやぁ〜……それはやめた方がいいんじゃないかなぁ」
「なんでよ!」
「録画したものを編集して投稿するならいいけど、聞くところによるとパリストンの意向で生放送もするんだろう? 君のことだからすぐに仮面が剥がれるんじゃないかと思ってね」
アーカードは普段の芋ジャージ姿でゴロゴロしているカオルの姿を思い出す。外出時にはそれなりにシャキッとするのだが、事務所などのプライベートな空間では途端に干物と化すのが彼女の常だった。
「ぐぅ……」
「あと衣装のチョイスは我々に任せるように。君はどうも私服のセンスが壊滅的なようだからね。特にこの間のハンター試験の時みたいな服装で配信するのはどうかと思うよ」
「え、あれスポーティーでかっこよくなかった?」
「まさか本気でそう思ってたのかい……?」
あれはスポーティーなんじゃなくてガキっぽいって言うんだよ──と言いかけたエミヤは慌てて口を噤む。今は余計なことを言ってカオルの機嫌を損ねたくはなかった。
「何か言ったかしら?」
「イイエナニモ」
「とにかく、カオル君は普段の君らしさを前面に押し出していこう。変に取り繕うより余程取っ付きやすいと思うよ。ハンターを身近に感じてもらうというパリストンの意向とも合致するだろうし」
「……そもそもハンターを身近にってのが既に意味不明だけどね。ハンターって一種の特権階級なわけだし、むしろブランドイメージを強調した方が都合がいいんじゃないの?」
「さて、私にもあの変人が何を考えているのかは図りかねるが……案外何も考えていないのかもしれないよ?」
「えぇ……」
実際、パリストンの立場からすればヘルシングは扱いにくいことこの上ない存在だろう。既に手に職を得ているため協専の依頼を受ける必要がなく、パリストン側から影響力を確保できない。しかも保有する戦力がずば抜けているので下手な手を打てず、生半可な謀略を仕掛けようものなら力尽くで捻じ伏せられる恐れがある。
そして仮に首尾よく味方に付けられたとしても、絶対に思い通りには動いてくれないヘルシング特有のフリーダムさが邪魔をする。総じて手を出すにはハイリスクローリターンな存在であると言えるだろう。命令通り動かず無駄に事を大きくする大戦力など扱いづらいことこの上ない。さりとて無視していた所為で気付いた時には反パリストン派──例えば十二支んなど──と仲良くなってました、などという事態を防ぐために放っておくこともできない。
つまりパリストンにとっての最善手は、完全には繋がりを絶たず、付かず離れずの距離を保つこと。味方にはならずとも、最悪敵にならないだけの関係を保てればそれでよい。彼がヘルシングの内ゲバに便乗して接触してきたのはそのための最初の一手である。ToiTubeに設けた公式チャンネルの運営が上手くいっていないことなどどうでもよく、何でもいいから取り敢えず理由をつけて接触しようというのが今回の顛末だった。
……パリストンにとって誤算だったのは、彼らが原作を通して既にパリストンという男の
とはいえ、パリストンがハンター協会ナンバーツーの重役であることは事実。プロハンターとしての立場にある以上、理由なく敵対するつもりも過剰に反発するつもりもない。今回の件もヘルシングへの依頼として正式に出されたものなので断る理由もなかったのだ(カオル以外は)。
「ねーねー、そんなことよりどんな動画を作るか話し合おうよー! ボクはやっぱりやってみた系が鉄板だと思うんだよね!」
「おっ待てい、鉄板と言えばやっぱゲーム実況だろ。こいつビビリだからホラゲ実況とか絶対面白いぜぜぜぜぜ痛い痛い小指はやめて小指折れちゃう!!」
「いやいや、まずは自己紹介動画が先だろう。しかしただの挨拶では味気ない。強烈に印象に残る何かをやりたいものだ」
「……歌ってみたとか良いと思う。折角の声帯を活かさない手はない」
「アンタらねぇ……!」
当人そっちのけで盛り上がる四人。前世の彼らは自らは何も生み出さない典型的な消費型オタクだったため、自分から作品を発信する機会に興奮を隠せないらしかった。
カオルとてアストルフォあたりが主役となるなら素直に喜んで騒いだことだろう。しかし残念ながらメインとなるのはカオル自身であり、アストルフォはゲスト扱いの出演になるようだった。
不特定多数の視線に晒されながら何らかのパフォーマンスを行うことは天空闘技場で経験したが、闘技場で求められたのは純粋な戦闘技能だけであり外形などは二の次だった。しかし動画作成となればもっとエンタメ方向に気を遣ったパフォーマンスを行う必要があるだろう。動画映えする企画やテーマの考案、視聴者を飽きさせないトークの構築、どれもこれもが未知の世界である。
正直に言えば緊張していた。アーカードはいつも通りでいいなどと言うが、それで事が済むのなら世の動画配信者は苦労しないだろう。ハンターの肩書きだけでどうにかなるほど甘い世界でないことぐらいはカオルでも理解できた。
だが、カオルのそんな思考などアーカードにはお見通しだったのだろう。彼は血の通わぬ冷たい手でカオルの肩に手を置き、安心させるような笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、カオル君。我々も最大限にサポートするし、アストルフォ君もついている。きっと素晴らしい動画が出来上がるだろう」
「旦那……」
「それに君は根っからの芸人気質だから。ホントに素で面白い画が撮れると思うよ」
「旦那ァ!」
台無しである。一瞬で激昂したカオルはアーカードの
「ふざけやがってこのマダオどもが! 成人なんて待ってられるか、こんなものこうしてくれるわァ────!」
「ああああ結構高かったとっておきのシャンパンがー!?」
「ラッパ飲みだとぅ!? いけないカオル君、なけなしの女子力まで捨て去るつもりか!」
「ッシャアアアアアアアうめぇえええええええ!!」
エミヤのことをどうこう言えないキャラ崩壊ぶりを披露するカオル。プリマドンナ(笑)
一応弁明しておくと、カオルがこうも酒が好きなのは本人曰く神性の所為である。
その日、仕事を終えて帰宅したケリーは部屋着に着替えるや自室のPCを起動し、大手動画共有サイト“ToiTube”を開いた。
テーブルの上にはPCの他に簡素なコンビニ弁当、そしてキンキンに冷えた缶ビールが置かれている。なんとも物悲しくなる独り暮らしの男の夕飯メニューといった風情だが、ケリーとて普段はもう少しまともな料理を自分で作って食べている。何故自炊する手間すら惜しんで動画サイトを開いたのかと言えば、それは彼が贔屓にしている動画投稿者がこれから生放送を行う予定だからだった。
少し前にハンター協会の公式チャンネルから動画投稿を始めた“彼女”は、プロハンターという肩書きと抜群のビジュアルから忽ち人気を博し、今でも順調にチャンネル登録者数を増やしている。斯く言うケリーもそんな彼女に魅了された口であり、同僚からの飲みの誘いを断って急いで帰宅したのだ。
彼女の配信枠を開いてみれば、どうやら既に相当数の視聴者が待機しているらしい。まだ始まってすらいないにも拘わらず多くのコメントが書き込まれており、誰も彼もが彼女の登場を心待ちにしている様が見て取れる。ケリーとて全く同じ心境であり、壁に掛けられたアナログ時計にチラリと視線を向ける。いつもと同じ速度で時を刻んでいる筈の秒針がいやに遅く感じられた。
やがて時計の針が19時を示すと、どこかの風景画が映し出されていた配信画面に変化が訪れる。現れたのは淡い照明に照らされた小洒落たバー……のような小道具が設えられたいつもの光景だった。夜間に行われる配信の際にはいつもこのセットが使われ、バーカウンターの上には場の雰囲気に似つかわしくないスト○ングゼロの缶がぽつんと置かれている。最初の頃は空気に合わせてお洒落なカクテルなどが用意されていたものだが、彼女曰く用意するのが面倒臭くなったらしく最近はいつもこんなものだった。何とも言えずミスマッチな光景にケリーは口元を綻ばせる。
俄に騒がしくなったコメント欄を眺めること暫し、いよいよ本日の主役がその姿を見せる。
『待たせたわね。画面の前の皆様、こんばんは。カオルよ』
来た。ケリーは現れた少女の姿を注視する。この時間帯の枠の定番になりつつある見慣れたイブニングドレス風の衣装に身を包んだ彼女──カオル=フジワラの可憐な容姿が映し出され、何の変哲もない見慣れたPCが一気に華やかなものになったかのような錯覚を覚える。
『こんばんは』
『間に合った』
『こんばんは〜』
『待ちくたびれたぜ』
『おまどうま』
彼女らしい簡潔な挨拶にコメントを介して言葉を返す視聴者たち。我に返ったケリーも慌ててコメント欄に「こんばんは」と打ち込んだ。
薄手のストール──こちらは定番のドレスと異なり日によって違う──を羽織った彼女は加速するコメント欄を眺めて薄く微笑み、優雅な挙措でカウンターの向こうの席に着いた。
『不定期の雑談配信によくまあこれだけの人数が集まるものね。まあ、それだけ期待されているということなのでしょう。……さて、それでは恒例の挨拶で始めましょうか。
今夜はここ“BAR HELLSING”にようこそおいで下さいました。飲み物でも飲みながらどうぞごゆるりと、一日の疲れを癒していって下さいな──』
神秘的なまでに整った美貌の少女が微笑み、画面の前の不特定多数の視聴者に言葉を掛ける。
この瞬間がケリーはお気に入りだった。別段ケリー個人に対して投げ掛けられた言葉でないのは承知の上だが、それでも目の覚めるような美少女に優しく微笑まれて悪い気はしない。仕事で疲れた身体にはそんな些細な優しさが身に染みるものだ。
『……はい、真面目モードは終わり。それじゃあ飲みましょうか! 今夜の私はキンキンに冷えたストロングゼ○で乾杯よ。はいかんぱーいお疲れー』
『はい』
『はい』
『はいじゃないが』
『かんぱーい』
『乾杯!』
『お疲れー』
……そして、そんな神秘的な雰囲気が一瞬で瓦解するのもいつものことだった。
忘れてはいけない。彼女はハンター。我々一般人とは一線を画す感性の持ち主なのだ。そんな変わらず型破りな姿勢を見せる姿に苦笑しつつ、ケリーも彼女と同じようにキンキンに冷えた缶ビールのプルタブを引き起こし開封する。画面の向こうと手元から同時に空気が抜ける音が鳴り響いた。
ToiTubeという動画共有サイトが出来たのはいつで、ToiTuberという言葉が出来たのはいつだったか。生憎と具体的な時期を知り得ないケリーであるが、さほど昔のことでもない筈だ。精々二、三年前といったところだろう。動画サイトと言えばToiTube、と断言できるほど有名になったのなんてもっと最近のことだし、ToiTuberのように自らの顔を晒して動画を配信する個人──特に女性の配信者──など数えられる程しかいないのではないか。
そんな中で唐突に現れたカオルという少女の存在は誰にとっても衝撃的だった。まず以て本物のプロハンターという肩書きが尋常ではない。一般人代表のケリーにはとんと分かりかねるが、プロハンターといえば何を警戒しているのか兎にも角にも個人情報の秘匿に執心しているものなのだ。別段顔を隠して生活しているわけではないのだろうが、公に活動している者を除き自らプロだと吹聴して回るようなことは基本的にない。ケリーが知っている顔と名前が一致するハンターなど伝説と謳われて久しいネテロ会長ぐらいのものだし、大多数の一般人にとってもその認識は同じだろう。
逆に言えば知名度はあるのにその全貌が不透明な人気職ハンターに対する興味は尽きないわけで。ハンター界隈のアレコレを話せる範囲で赤裸々に語るカオルへの注目度が高まるのは自然な流れだった。お陰でケリーも少しはハンターという存在に対する理解が深まった……と思う。
そして何よりその類稀な容姿と、その外見に反する極めて小市民的な感性の素顔とのギャップが強烈だった。完璧な左右対称の美貌は作り物のように非現実めいていて、聞く者の耳を甘く蕩かす美声はまるで天上の調べ。にも拘わらず好きな物は酒とおツマミ、趣味はゲームに漫画。これではまるでどこにでもいる私生活にだらしないOLのようではないか。
その女神のような美貌に幻想を抱いた者の期待を裏切りながらも、一方で高嶺の花と思い込んでいた少女の思わぬ親しみやすさは多くの人々を惹き付けた。人がギャップに弱いのはどこの時代も同じであるらしい。時折り見え隠れするハンターらしい突飛な感性も、今や人を遠ざける要因足り得ない。近寄り難くなるどころか愛嬌の一つとして映るあたり、やはり美人は得であるとその容姿に引っ掛かった一人であるケリーはしみじみと思う。
『それじゃ、今日も適当にコメントを拾いながら寄せられたお便りを捌いていきましょう。例によって飲みながらね』
また、彼女が親しまれる要因の一つにはこの視聴者との距離の近さが挙げられるだろう。録画し編集した動画を投稿するタイプのToiTuberと異なり彼女は生放送をメインに行うため、視聴者はコメントを介して擬似的に会話できるし、質問を送れば大抵は即座にレスポンスが返ってくる。この距離感が人気の秘訣であるとケリーは考える。運良く自分が打ち込んだコメントを拾って貰えた時は嬉しかったものだ。
別段生放送をメインにしているToiTuberが彼女だけというわけではないが、やはりプロハンター且つそこらのアイドル顔負けの容姿の少女となると他にはない特徴だろう。本物のハンターと一般人のケリーが言葉を交わせるなど、画面越しとはいえ本来ならあり得ないことなのだから。
『やっぱりハンター関連の質問が多いわねー。そういう目的で作ったチャンネルだから当たり前っちゃ当たり前だけど。
えー、HN“カオルさんに踏まれたい”さんからのお便りです。「カオルさんの動画を見て自分も本気でハンターを目指そうと考えるようになったのですが、これは絶対にやっておけ、と言うようなことはありますか? あれば教えてほしいです。ちなみに自分はボクシングやってます」とのことです。はい、“カオルさんに踏まれたい”さんありがとうございました。アナタはハンター云々以前にその腐った性根と性癖をどうにかしましょうね〜』
『草』
『正直者は嫌いじゃないぜ』
『お前は俺か』
『流石に草』
『まあ質問自体は極めて真っ当なので答えますけど……何はともあれ体力を付けることね。美食ハンターだろうがコレクトハンターだろうが、どのような種別であれ基本的にハンターは体力と一定以上の武力がなければやっていけません。当然ハンターの世界にボクシングのようなルールは存在しないから、うっかり試合感覚でいると死を見るわよ。金的噛みつき目潰し何でもアリだから、その辺は覚悟しておくようにね。
プロ入り後に予定している活動が戦闘関連の分野でなくともそれは同じよ。十分自衛できるだけの戦闘能力は必要不可欠です。尤も、低い戦闘能力を他の要素で補うハンターもいるので絶対とは言い切れないけどね。
後は……月並みだけど柔軟な思考力、そして洞察力かしら。例えばハンター試験なんかが良い例で、まず試験会場の位置を自分の力で見つけ出さなければいけないの。協会がアナウンスするものは大抵が欺瞞情報で、散りばめられたダミーに騙されず真実を見抜く技術が試されるわ』
『やっぱ体力は必須かー』
『というか試験会場自分で探さなきゃいけないってマ?』
『低学歴ワイ、低みの見物』
『性格悪w』
『つーかそれ言っていいこと? 協会に怒られない?』
『怒られないかって、試験会場の話? 大丈夫でしょ。事前に知らされる情報が嘘だって前提があったとして、結局はその嘘から自分の頭で真実を探り当てなきゃいけないんだから。そもそも、何度も試験に挑戦してる人にとっては当たり前すぎて今更なことでしょうし。
そういうわけで、文武を兼ね備えた人材こそが協会が求める理想のハンターってわけね。必然、試験もその両方が問われるような内容になるわ。まあそんな完璧超人なんて一握りだけど。私なんかは頭使うの苦手だから、そういうのは専ら頭脳労働担当の仲間に任せてるし』
『ぶっちゃけたぞw』
『頭わるわる~』
『知ってた』
『顔と武力にステータスを全振りした女』
『適材適所よ適材適所。一人より二人、二人より三人、対等に付き合える頼れる仲間は何人いたって困りはしないもの。
はい、次行くわよ次。HN“アストルフォきゅんの出番をもっと増やしてくだちい”さんからのお便りです。「アストルフォきゅんの出番をもっと増やしてくだちい」……ってふざけてんのか!』
『www』
『草www』
『草に草生やすな』
『出た、アストルフォくんちゃんガチ勢だ』
『流石に草生える』
今話題に上がったアストルフォとは彼女と同じ事務所に所属する同期のプロハンターである。ピンクブロンドの髪が華やかな一見して美少女な人物なのだが、その実態はこれ以上なく女装が板についた少年である。いわゆる男の娘というものらしいのだが、その事実を知ってなおケリーは彼が女の子にしか見えなかった。
そんな彼は不定期に彼女の配信に出没しては愛嬌と渾沌を撒き散らす。どちらかと言えばクールなカオルに対し、童児のように無邪気で愛らしいアストルフォの人気も彼女に負けず劣らず高い。型破りという意味ではカオル以上のものがある彼だが、持ち前の愛嬌と人好きのする性格によりそうと感じさせないのが魅力だろうか。
なお、二人によるゲーム実況は必見である。特に格ゲーのような対戦ゲームでの二人のやり取りは一見の価値があるだろう。負けが嵩んでやさぐれたり発狂するカオルと無邪気に笑うアストルフォのシーンは方々で切り抜かれている程だ。
『アストルフォの奴は配信直前になって「ペプシ切らしてた!」って言ってコンビニに駆けていったわよ。時間的にそろそろ帰って来る頃だと思うんだけど……』
『ただいまー! あ、もう始まってる? やっほーい、みんな大好きヘルシングの一番槍、アストルフォだよー! ピースピース! みんな見てるー?』
『キタ━(゚∀゚)━!』
『アストルフォくんちゃんオッスオッス!』
『出たな俺の性癖を歪めた張本人』
『かわいい』
『今日も可愛いなアストルフォ!』
『こいつキチガイやぞ』
『やったぜ』
『か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛ア゛ス゛ト゛ル゛フ゛ォ゛き゛ゅ゛ん゛』
『おいコラ私の時よりコメントが加速するのはどういう了見だ』
夜間の配信にアストルフォが登場するのは珍しいことだ。華のある二人の配信が見れるのはケリーにとって歓迎すべきことである。
「めしどころ“ごはん”」で魔獣と共に入店してきた彼女たちと出会ったあの日から数ヶ月。よもやこのような形で再びその姿を目にすることが出来ようとは思ってもみなかった。その時一緒にいた白髪の少年は裏方で二人の配信を手伝っているらしいが、一度でいいからもう一度三人揃った姿を拝みたいものだ、と常々考えている。
それだけあの日の邂逅はケリーにとって印象的だったのだ。明らかに一般人とは一線を画す風格を目の当たりにし、それまでハンターという人種を直接見たことのなかったケリーに少なくない衝撃を与えた。自らの手で自由を勝ち取った者ならではの自信に満ちた表情、誇るでもなく自然に纏う強者の威風、そのいずれもがケリーが持ち得ないものである。
とはいえ、残念ながらケリーにはハンターになろうという気はない。
確かにハンターに対する憧れはある。彼女の配信により曖昧だったハンター像が明確になり、彼らに対する憧れはより確かなものとなったと言えるだろう。
だが、ケリーは自分が如何に平凡な男であるかを知っている。身体的に秀でたところは特になく、頭の回転も取り立てて良くもないし悪くもない。何らかの専門的な知識も持ち合わせず、何よりハンターになってまで為したい夢もない。地位や名声に興味はなく、お金は……まあ欲しいが、ハンター職に付随する危険の度合を考慮すればやはりケリーには過ぎた欲だろう。ハンターが危険と隣り合わせであることは彼女が動画内で散々念を押していたし、自らの分を弁えるケリーはその忠告に従い無謀な冒険は控えるつもりだった。
やはり憧れは憧れのままにしておくべきなのだろう。命の危険が隣り合わせの世界に身を置くのはケリーには荷が重い。こうして平凡であることの幸福を噛み締めながら彼女の配信を楽しみに日々を過ごすのが性に合っている。
『お誂え向きにアストルフォ宛てのお便りがあるから、それを読みましょうか。えー、HN“
『“
なになに~……えー「最近このチャンネルの存在を知りました。紛らわしいので協会の公式チャンネルと分けるべきではないでしょうか。それはそれとして、アストルフォさんが男の娘とはどういうことでしょう。私は初めてその姿を見た時から女の子だと信じ切っていたので、今も性別・男という事実を受け入れ切れません。酷いことだ、頭の震えが止まらない……冗談なら冗談と言って欲しいのですが、実際のところはどうなのですか」だって!』
『草』
『おっ新人か? 肩の力抜けよ』
『懐かしいな……まるでかつての俺を見ているかのようだ……』
『安心しろ、じきに男の娘でなければ満足できない身体になる』
『誰もが一度は通る道』
『アストルフォくんちゃんガチ勢怖い……とづまりすとこ』
『また一人新たな犠牲者が……』
謎の一体感を見せるコメント欄にケリーも釣られて笑みを零す。やはりこの雰囲気がいい。あくまで一般人だからこそ味わえるこの感覚がケリーには合っている。憧れの人と並び立つより、あくまでファンとしてずっと応援していたいというか……とにかく、今の環境と身分で十分に満足していた。
やがて夜は更け、今日も代わり映えのない平凡な一日が終わる。そんな一日の締め括りを憧れの女性と共に酒を飲みながら過ごす……そう聞けば何とも贅沢ではないだろうか。実際には互いの距離は果てしなく遠いわけだが、そういう雰囲気を味わえるだけでもケリーにとっては十分に上等であった。
ケリー君による主人公ageの描写が書いてて背中が痒かったです。
しかし作者も推しのYouTuberやVTuber相手にはこんな感じでキモいのでセーフ。ケリー君は作者の自己投影オリ主だった……?
ちなみに作者の最推しはバーチャル債務者こと
そして突然ですがアンケート取ります。今後の展開についてです。
1.幻影旅団√でヨークシン編。カオルが悪党の一員としてCCCの頃のメルトのように悪逆を尽くすお話。クルタの薄汚い血統は根絶やしにする……(鬼畜)
2.引き続き転生野郎Aチームでヨークシン編。原作主人公組との接触はほぼナシ、オリキャラ・オリ展開アリ、例によってメアリー・スーどもがメアリー・スーするだけなので面白さは保証しない。
3.象が如くの続き。イヴァン雷帝√で目指せグルメハンター。短い上に毒にも薬にもならないスローライフになると思われる(多分)
4.そもそもカオルとかいうメルトを汚すオリ主の使い回し飽きた。何でもいいから新作書いて。
5.富樫仕事しろ(乞食)
いずれにしろ投稿速度はお察しですので、そこはご承知おき下さい。
今後の展開について
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1.幻影旅団√でヨークシン編
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2.転生野郎Aチームでヨークシン編
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3.イヴァン雷帝√でスローライフ
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4.新作書け