実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜   作:ピクト人

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念のために言っておきますが、このSSは“ギャグ小説”です。
チート転生者がチートを振り翳して原作キャラを蹂躙するなんて、そんなことあるわけないじゃないですか……(ガンギマリしてる旦那を見ながら)

ちなみに今回カオルとアストルフォの出番はないです。この人数を乱戦という形で同時に描写しようとすると単純にスペースが足りなかった。



転生野郎Aチーム続編〜奴ら(馬鹿)勝利(理不尽)を携えやって来る〜

 

 『宝具』──貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)とも称されるそれは、神話伝承に謳われる英雄を象徴する切り札にして真骨頂であり、英霊が生前に愛用した武具、あるいは逸話を奇蹟として再現したものである。

 主に英霊が持つ、彼らが生前に築き上げた伝説の象徴。逸話や伝説、あるいは真に存在した武器道具そのものを基盤として誕生したもの。伝説を形にした「物質化した奇跡」である。

 

 字面の上だけでも宝具というものの神秘性、希少性は窺えよう。特に戦いの場で活躍した伝説の武具が宝具化した際の破壊力は群を抜いており、取り分け対軍宝具・対城宝具に分類されるものは威力・効果範囲共に戦略兵器に喩えられる程だとされる。とてもではないが個人が携行できる武具の類に持たせて良い破壊力ではない。

 

 ──そんな伝説の武具を複製し、使い捨ての爆弾とする英霊がいる。

 

 その名は錬鉄の英雄エミヤ。目視した刀剣を登録し複製、貯蔵する固有結界『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』を宝具とする英霊であり、その異能を以て数多の刀剣宝具の劣化コピーを所有している異端の英雄である。それは本来ならば他の英霊が所持する筈の宝具であっても例外ではなく、それが剣であるのなら問答無用で複製し再現してしまう。

 唯一無二の切り札たる宝具を爆弾にするという暴挙。これが可能なのは、偏に彼が所有する宝具が全て複製品に過ぎず、幾らでも替えが利く鉄砲玉の一つに過ぎないからである。

 

 ともすれば本来の担い手である他の英雄を冒涜しているかのようにも見えるこの異能だが、英霊エミヤとはなにもコピーした宝具を乱雑に使い捨てるだけの英霊ではない。神話に語られる英雄豪傑のように特別な出生や血筋があるわけでもなく、固有結界という異能を除けば本当にただの人間に過ぎなかったのがエミヤという男のルーツである。

 剣才は平凡、魔術の腕は半人前。ただ人一倍強かった正義感のみを原動力に、果てに英雄の座にまで手を掛けた“正義の味方”。短くも鮮烈な生涯の中で築き上げたエミヤの戦闘技能。それは剣技であり弓技であり、膨大な戦闘経験の中で培った戦術眼である。曰く、人が人のまま辿り着ける究極。愚直なまでの鍛錬によって鍛え上げられた神ならぬ“人の(わざ)”は、遂には神話の頂点とまで称される大英雄にすら届くに至る。

 

 ……そんな超人ではないからこその輝きに満ちた鋼の英雄、英霊エミヤの能力を受け取った転生者エミヤはと言うと。

 

 

「ぃぃぃぃぃぃいいいいい良いぃ音だぁぁぁぁぁぁァァァ……!」

 

 連続する爆音。着弾の度に閃光と衝撃を撒き散らし、爆炎がフロアを舐める。競売の会場だったホールの壁は大半が吹き飛び、セメタリービル一階の内装は一瞬にして廃墟さながらに成り果てた。

 

 投影されたのは炎の概念を宿した聖剣魔剣が十二挺。虚空に出現したそれは幻影旅団目掛けて射出され、『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』──魔力暴走による意図的な自壊によりその内に秘めた火炎の魔力を爆発させた。膨れ上がる灼熱の嵐の煽りを全身に浴びながら、エミヤは哄笑を上げ狂おしく身を捩った。

 

 何故エミヤが理性蒸発聖騎士男の娘ライダーことアストルフォと並んで「ヘルシングの二大問題児」と呼ばれているのか。それはハンター試験に(かこつ)けてこれでもかと悪ふざけに走るからでも、仲間のコスプレ写真を無断で売却するからでもない。アストルフォがスピード狂であるのと同じように、エミヤは爆発にロマンを感じる狂人であった。

 

 彼は『エミヤ』のように干将莫邪を握って接近戦を行ったりはしない。何においてもまずは壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。誰が相手でも壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。屋外戦闘なら当たり前のように壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。屋内の狭所であっても構わず壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。三度の飯より壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。魔力効率など考慮に値しない。剣は爆発するもの。遠距離狙撃は爆風を間近で浴びれないので嫌いです。

 

「ハハハハハ! いきなり派手にやってくれるじゃねえか! これは期待が持てそうだ!」

 

「ふざけやがって……!」

 

 充満する熱気を掻き分け、オーラで熱波から身を守ったウボォーギンとフランクリンが姿を現す。その背後では具現化した防火服で身を包んだフェイタン、上背のあるウボォーギンらを盾にしたノブナガ、シャルナーク、マチが五体満足な様子で立ち上がる。

 六人が六人とも先程までとは打って変わって真剣な面持ちでヘルシングを見定めている。咄嗟に射出された剣を避けたまでは良かったが、その後の爆発で完全に意識が切り替わったのだろう。もはやその目に油断や侮りは存在しなかった。

 

 第一波を凌いだ旅団を見て爆裂狂は笑みを深める。宝具級の刀剣を複数使い捨てたというのに敵側の損害は限りなく少ない。初撃で仕留め切れなかったのは痛恨の極みだ。

 だがそうでなくては面白くない。まだだ、まだ足りない。戦いは始まったばかり、身体はより多くの爆発を求めている──!

 

「そらまだまだ行くぞ! 次弾装填(バぁレットクぅリア)……」

 

「この馬鹿! ビルごと吹っ飛ばすつもりか!」

 

 続けて剣弾を投影しようとするエミヤの後頭部をカオルの鋭いツッコミが襲う。

 これがエミヤとアーカードの二人だけなら問題ない。エミヤがどれだけ絨毯爆撃しようがビルが崩落しようがアーカードなら死なないからだ。だがこの場にはカオルとアストルフォもいる。一方通行(アクセラレータ)はともかく、この二人が壊れた幻想(ブロークンファンタズム)の爆発に巻き込まれればただでは済まないだろう。

 

「悪い悪い、つい旦那と二人で活動してた頃のテンションになっちまった」

 

「わかればいいのよ。そもそも宝具の連続投影なんてすぐガス欠に──」

 

じゃあこっちにするわ(トレース・オン)

 

「……はい?」

 

 がしゃこん、と重々しい金属音を立てて現れたのは、エミヤの身の丈を優に超える長大な砲身を持つ銃砲だった。まるで戦車の砲塔をもぎ取って無理矢理銃床を取り付けたような外観のそれは、アーカードの持つ“ジャッカル”と同じく『HELLSING』を参考にエミヤが作り上げた武器の一つである。

 

「口径30mm、装弾数1発、装填方式単発(ブレイクオープン)、劣化ウラン弾及び爆裂鉄鋼焼夷弾使用──化物殲滅用携行砲“ハルコンネン”。コイツを魔術で再現するのには手を焼いたもんだ。なにせ剣じゃねぇからな」

 

 エミヤはその能力の特性上、宝具のような規格外品であってもそれが“剣”であるのならば比較的低コストで再現できる。逆に言えば、それが剣及び近接武器でないのならば通常の投影魔術の範囲でしか実現できない。魔術回路の特殊性故に時間経過で消滅することこそないが、機構が複雑化すればするほど使用する魔力は嵩む。

 加えて、再現のために要する手間も無視できないだろう。エミヤは刀剣類ならば目視しただけでその来歴から真名まで全てを詳らかにしてしまうが、それ以外の物品となるとそうもいかない。直接手で触れ、魔術で解析する必要があるのだ。当然ながら空想の産物でしかないハルコンネンを投影魔術で再現するためには、実際に現物を手で触れ、構成材質・製作技術など細部に渡り十全に理解せねばならない。

 

 故に造った。材料を取り寄せ、加工から組み立てまで全て自らの手で行ったのだ。そうでなければ実用に耐えるレベルの銃火器を、基本的に剣が専門のエミヤに投影できる筈もない。

 その果てにエミヤはハルコンネンを投影することが可能になったのだ。普通に投影した宝具を爆発させた方がよほど威力・魔力効率ともに理に適っているだろうに。

 

 何故そこまでする? と人は言う。それに対しエミヤは一貫してこう答えるだろう。そこにロマンがあるからだ、と。

 

「Ypaaaaaaaa!!!」

 

「馬鹿か己は──!?」

 

 爆音を轟かせ、異形の大砲が火を噴いた。魔力とオーラの二重強化によって巨大な反動を抑え込み、エミヤはハルコンネンの立射を実現する。

 放たれるは軍用の装甲車であっても一発でお釈迦になるような砲撃である。たとえプロレベルの念能力者であっても直撃すれば即死は免れないだろう。

 

 だが相手は幻影旅団。当然ながらその実力は尋常ではない。

 

「ぬぅん!」

 

 立ちはだかるは筋骨隆々の巨漢ウボォーギン。彼は全身にオーラを漲らせると、その剛腕を振るい迫る巨砲の一撃を弾いて逸らした。軌道が逸れたハルコンネンの弾は辛うじて残っていたホールの壁に直撃し、盛大な爆炎の花を開かせる。

 至近距離から撃たれた拳銃弾を歯で受け止め、狙撃銃の不意打ちを無傷で凌ぎ、バズーカ砲の一撃をも正面から耐え切ったウボォーギンの肉体強度はもはや人の域を超えている。だが、その彼をしてハルコンネンの砲撃は直撃を避けるべきと判断した。その直感に従い受け止めるのではなく受け流したのだが、どうやら正解だったらしい。もし直撃していればどうなったか。高速でジャイロ回転する砲弾に肉を抉られ、続けざまの爆発で致命傷を負っていただろうことは想像に難くない。

 

「すげぇなお前! こんな威力の大砲を具現化する念使いなんざ初めてだぜ!」

 

「ありがとよ……っと!」

 

 本来ならば手動で次弾を装填する必要があるが、投影魔術で弾を生み出している故にそのような手間は存在しない。エミヤは弾倉に直接砲弾を出現させ、即座にトリガーを引き次弾発射する。

 

「ああもう! 後でコミュニティから苦情が来ても知らないからね!」

 

 やけくそになったカオルはトリガーハッピーと化したエミヤを放って駆け出す。

 同時に戦場が動き出した。先ほどのリベンジとばかりにフランクリンがカオルを照準して念弾を撃ち出し、アストルフォが両手それぞれに剣と槍を握り締めて飛び出し、念糸を展開させたマチと抜刀したノブナガがそれを迎え撃ち、袖の内に忍ばせた(ノコギリ)を引き抜いたフェイタンが疾走する。

 

 そして一方通行(アクセラレータ)は。

 

見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だァ? 上等じゃねェか。テメエら全員血祭りに上げてやるよ……!」

 

 〝思考実験:暗闇の五月計画(パーソナルリアリティ:アクセラレータ)〟を発動し獰猛な人格を露わにした一方通行(アクセラレータ)はフランクリンとカオルの間にその身を滑り込ませる。

 これに驚いたのはフランクリンだ。何せ一方通行(アクセラレータ)は碌にオーラを纏っていない。ただの〝纏〟などフランクリンの念弾を前には障子紙以下の防御しか望めないだろう。だが──

 

「効かねェな」

 

 直後、フランクリンの身体を無数の念弾が抉っていた。

 

「!?」

 

「生憎だが、テメエらじゃ俺に傷一つ付けることはできねェよ」

 

 一方通行(アクセラレータ)が持つ唯一絶対の超能力『ベクトル変換』は全ての物理法則を支配する。その卓越した演算能力で観測し計算に組み込んだあらゆる力の向き(ベクトル)は彼の掌の上だ。それは今や念能力すら例外ではない。

 分類としてはオカルトに限りなく近い念能力だが、それすら一方通行(アクセラレータ)の頭脳を以てすれば計算式上の数字の一つに過ぎない。数字にしてしまえる。オリジナルが魔術のベクトルすら掌握したように、自らが念能力者である一方通行(アクセラレータ)は念のベクトルをも完全に支配下に置いていた。

 

 ならばこの結果は必然である。どれだけの威力を持っていようと、それがただの念弾ならばただの銃弾と何も変わらない。ただの石礫も同然だ。等しく反射の膜に触れた瞬間にベクトルは裏返る。

 

「ぐおおおぉぉ……!?」

 

 咄嗟に回避行動を取っていなければ、己が放った念弾数百発全てがフランクリン自身の身体を抉っていたことだろう。よもや絶対の信頼を置いていた念弾が悉く跳ね返されるなど予想もできなかっただろうに、すぐに身体が回避を選んだのは流石に歴戦の大悪党と評すべきか。

 だが無意味だ。ここで窮地を逃れたとしても至近に迫る敗北が僅かに遠ざかったに過ぎない。フランクリンではどう足掻いても一方通行(アクセラレータ)には敵わない。否、フランクリンだけではない。()()では一方通行(アクセラレータ)を傷つけることはできない。

 

「フランクリン!」

 

 その時、洪水に押し流され戦域から離れていたシズクが背後から一方通行(アクセラレータ)に迫る。彼女はその頭蓋目掛けて具現化した掃除機〝 デメちゃん〟を振り下ろした。

 

「無駄だ」

 

「ッ!」

 

 だが結果は変わらない。殴り掛かった際に込めた力を倍する衝撃が自身に返り、辛うじて掃除機は手放さなかったもののシズクの身体は大きく弾き飛ばされる。

 シズクは受け身を取ろうと身体を捩る。だが次の瞬間、信じ難い程の速度で肉薄した一方通行(アクセラレータ)の蹴りが突き刺さった。

 

「あ、ガッ……!?」

 

「お前の能力は厄介だからな。そこで死んどけ」

 

 肋骨が砕ける生々しい音が響く。腰も入っていない適当なフォームから放たれた筈のただの前蹴りは凄まじい威力を発揮してシズクの横腹を抉り、細身の身体をピンボールのように跳ね飛ばした。

 

 一方通行(アクセラレータ)の代名詞たるベクトル変換の能力は防御のみならず攻撃に際しても多大な威力を発揮する。通常、殴る蹴るなどの攻撃行動の際に発生する運動エネルギーはその全てが相手に向かうわけではない。力が分散したり熱エネルギーとして放出されたりと、運動エネルギーが100%移動することは通常あり得ないのだ。

 だが、一方通行(アクセラレータ)のベクトル変換能力はその法則を覆す。能力を介することで運動エネルギーを運動エネルギーのまま、100%の大きさの衝撃として置換及び向きの変更が可能。彼にとっては衝撃の分散も空気抵抗による力の減衰も無縁のもの。発生する力を余すことなく相手に伝えることができる。

 

 この事実だけでも一方通行(アクセラレータ)の打撃能力の高さが窺えるが、これに加えて彼は反作用すら攻撃手段に変えてしまう。

 反作用とは文字通り相手に作用する力に反する逆のベクトルを持つ力。衝突に際して自分に跳ね返ってくる力のことを指す。要するにニュートンの運動法則だ。物を殴った際に自分の拳が痛むのは、この反作用によって作用する力と等しい大きさの衝撃が自身に返ってくるが故である。

 

 しかし反射能力を有する一方通行(アクセラレータ)に作用反作用の法則は通用しない。本来ならば加えた力と同等の衝撃が返ってくるところを、彼はそっくりそのまま敵に押し付けることができる。例えば100㎏の力で殴れば、敵は反作用で一方通行(アクセラレータ)自身に向かう筈だった100㎏の力を加えた200㎏の力で殴られるということだ。当然そこに力の分散は発生せず、敵は常に二倍のパワーに晒されることになるのだ。

 そして当然ながら念使いとしてオーラ強化の恩恵を受ける一方通行(アクセラレータ)のパンチ力が100㎏程度ということはあり得ない。通常の運動エネルギーのベクトル変換だけでも生粋の強化系念能力者以上のパワーで格闘を行うことが可能であり、具現化系であるシズクの身体能力ではこれに対抗することは難しい。

 

 その結果がこれだ。一方通行(アクセラレータ)は決して本気の力を込めて蹴ったわけではないが、肋骨を砕かれたシズクは一瞬で戦闘不能状態にまで追い込まれた。折れた骨が呼吸器を傷つけたのか、床に転がった彼女は少々どころではない量の血を吐いている。無論のこと念能力者が片肺が損傷した程度で易々と死ぬことなどあり得ないが、もはや戦線に復帰することは不可能と言っていいだろう。

 

「オオオオオ!!」

 

 大地を揺るがすような咆哮を上げ、その巨体からは信じられぬ程の敏捷性を発揮したウボォーギンが倒れたシズクににじり寄ろうとする一方通行(アクセラレータ)目掛けて突進する。

 当然ながらその吶喊はヘルシング側の注目を集めたが、ウボォーギンが向かう先にいるのが一方通行(アクセラレータ)と分かるや彼らは即座に各々の戦いに意識を戻した。それは一方通行(アクセラレータ)ならばウボォーギンなど物の数ではないと知るが故である。

 

 事実、一方通行(アクセラレータ)のベクトル変換能力を前に肉弾戦しかできないウボォーギンでは為す術もないだろう。しかしそれはフランクリンとシズクとの攻防を離れた位置から見ていたウボォーギン自身も、原理は分からぬまでもおおよそ理解していることだった。尋常な攻撃では奴には通じぬだろうと。……それでも、まあ強く殴れば何とかなるだろうという程度の浅い理解だったが。

 

 強敵を前にウボォーギンの中の闘争心が強く疼いたが、窮地にある仲間を前に優先順位を誤るほど彼は愚かではない。ウボォーギンは備えもなく徒に殴り掛かる愚を避け、一方通行(アクセラレータ)の手前の床を思い切り殴りつけた。

 幻影旅団一の怪力であるウボォーギンの剛腕は易々とホールの床を粉砕し、勢いよく瓦礫と粉塵を巻き上げる。これを目晦ましにシズクを救出する算段だった。

 

 確かに視界を遮ることはできた。だが反射の膜に守られているために飛び散る瓦礫は勿論、濛々と立ち込める粉塵すらも寄せ付けない。塵が舞う中でも瞬き一つせず、一方通行(アクセラレータ)は気配を頼りに煙の向こう側へと回し蹴りを叩き込む。ウボォーギンはこれをシズクを抱えているのとは反対側の腕で防御するが、見るからに痩せぎすな少年のものとは思えぬ蹴りの重さに目を剥いた。

 

 だが、流石に世界中を見渡しても随一の水準にある強化系念能力者たるウボォーギンの肉体能力はシズクなどとは比較にならない。彼はシズクを負傷させた一撃を上回る威力の蹴りを腕一本で受け切ると、その衝撃を利用してシャルナークが控える後方まで一足で飛び退いた。

 

 当然黙ってそれを見逃す一方通行(アクセラレータ)ではない。彼は即座に退いたウボォーギンを追うべく踵に力を籠めるが、アーカードの手が肩に置かれたことで動作を停止させる。

 

「深追いは禁物だ。君の念能力は諸刃の剣。ハンター試験の時のように暴走したくはないだろう?」

 

「……あン時は手加減のために無駄に頭使ったからだ。連中相手に加減の必要はねェ」

 

「それでもだ。まだ団長も現れていない今、君の力は極力温存しておきたい」

 

「チッ……」

 

 自己暗示によって疑似人格を形成する操作系念能力〝思考実験:暗闇の五月計画(パーソナルリアリティ:アクセラレータ)〟。発動中は一方通行(アクセラレータ)本来の人格は休眠状態にあるが、その意識は完全に失われるわけではなく、僅かにだが外部からの刺激に影響を受ける。例えば意識が飛ぶ程の強い衝撃を受けたり、あるいは本来の人格ならば絶対にやらないような行動を取り続けるとストレスにより疑似人格に綻びが生じてしまうのだ。

 だが基本的に反射能力で守られている一方通行(アクセラレータ)が失神する程の衝撃を受けることなどない。懸念すべきは後者であり、激しい戦闘行為及び殺傷行為を繰り返せば繰り返すほどに暴走の危険性が高まる。

 

 尤も、暴走したとしても能力行使そのものに支障はない。周辺被害への配慮や敵味方の区別がつかなくなるだけで、一方通行(アクセラレータ)自身に対するデメリットというものは特に存在しなかったりする。何とも理不尽なことである。

 

 一方、一方通行(アクセラレータ)が矛を収めたお陰で無事に退避できたウボォーギンはシャルナークの傍に負傷したシズクを横たえる。

 

「シャル、シズクは任せた」

 

「うん。ウボォーギンは……」

 

「当然、あの白いのをやる。……と、言いてぇところだが」

 

 ウボォーギンはもはや辛抱ならんと言いたげに口元を歪める。一見してその眼光は戦場全体を油断なく睨んでいるように見えるが、彼の意識は先程からただ一人のみに向けられていた。それを察したのだろう、シャルナークは素早く件の人物についての情報を脳内で検索に掛ける。

 

「赤い外套、白と黒の巨大拳銃。黒髪に血のような赤い瞳の長身の男。これだけ特徴が揃っているならまず間違いない。十中八九“二挺拳銃(トゥーハンド)”のアーカードでしょうね」

 

「有名なのか」

 

「プロ資格を持つハンターだけど、裏社会で広まっている悪名の方が知られている人物です。一部の国家からはアンタッチャブルとして警戒されているとか。ここ数年は目立った活動を行っていないようですが……。

 “巨凶”アーカード。“殺し屋”アーカード。“血塗れ(ブラッディー)”アーカード。“不死身”アーカード。出身・人種・年齢全てが不明。分かっているのはこの数々の渾名の他に一つだけ。彼が火砲飛び交う文字通りの“戦争”をたった一人で鎮圧し得る飛び抜けた単体戦力であるということ。もし彼に纏わる噂が全て真実だったとするなら……ウボォーギン、あなたと同等かそれ以上の能力の持ち主ということです」

 

 シャルナークの説明は簡潔であり且つ正確だった。ライセンスを持つ彼はハンターサイトにアクセスすることができる。買収したのかアーカードの身元に関することは一切知ることができなかったが、その戦歴については隠されておらず閲覧することができたのだ。

 アーカードだけではない。十二支んにゾルディック家。団長の右腕として、そして旅団の頭脳役として“蜘蛛”と敵対する可能性のある勢力や人物については、有名どころに関しては概ね網羅していた。今回はそれが功を奏する形となった。

 

「アーカードの相方、エミヤにも注意を払うべきでしょうね。“徘徊する火薬庫”、“移動爆心”、“爆裂狂”などなど、こちらもこちらで物騒な噂には事欠かない人物です。その戦法については渾名から大体察せるとは思いますが……」

 

 曰く、壮麗な大都会のビルディングもアーカードが通った後は廃墟と化す。そしてエミヤが通れば廃墟は荒野と化す。

 だが、注意すべきはこの二人だけではなかったらしい。今もフェイタンとフランクリンを相手にしている黒髪の少女に、マチを翻弄しているピンク髪の少女。そしてフランクリンを負傷させシズクに重傷を負わせた白髪の少年。いずれも並の念使いを歯牙にもかけない実力を感じさせる。“蜘蛛”に対して数的不利を受けながら互角以上に立ち回れる者などそういるものではない。

 

 生憎とあの三人に関する情報は皆無だが、シャルナークは自分なりに分析した結果をウボォーギンに伝えようとする。だが──

 

「もう十分だぜ、シャル。奴が強ェってことだけ分かれば十分だ」

 

 シャルナークはウボォーギンの表情を見て口を噤んだ。懸命に歯を食いしばっているものの隠しきれぬ頬の緩み。充血した目。灼熱するオーラ。握り締めた拳はギシギシと軋みを上げ、今にも籠った力を爆発させかねない。

 餓狼飢虎とは正に今の彼の有り様にこそ相応しい喩えだ。もはやこれ以上シャルナークが何を語ろうが聞こえはしないだろう。

 

「あの野郎、誘ってやがる。あああああもう我慢ならねぇ! 良いなシャル、奴はオレの獲物だ! 誰にも手出しさせるなよ!?」

 

「万全を期すなら彼には複数で当たってほしいところですけど……どのみち威力偵察は必要か」

 

 アーカードから放たれる鬼気は尋常でない。そんなものを前に闘争心が服を着て歩いているようなウボォーギンが我慢できる筈もなく。諦めたようにシャルナークがため息を零すと、それを了承と受け取ったのかウボォーギンは弾かれたように駆け出した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ヨークシンは眠らない街である。モデルとなったのがニューヨークというだけあり、夜が更けても人々の活気が完全に消えることはない。

 特に今宵は年に一度の大イベント、ドリームオークションの一夜である。メインのオークションイベントが行われるのは昼間だが、幾つかの競り市は夜を通して開催される。さながら夜祭りといった風情であり、深夜にも拘らずその喧噪が途切れる様子はない。

 

 だが、突如として響いた爆発音が街の空気を震撼させ、賑わうヨークシンの夜に終わりを告げた。

 それは裏社会の闇が表側に侵食してきたことの証左。非日常が日常を犯す前兆である。

 

「何事だ!」

 

「セメタリービルで火災だ!」

 

「地下競売はどうなった!?」

 

 掟に従い会場の周囲500メートルより外で警備していたマフィアたちが騒ぎ始める。街中に響き渡る爆音である、何も知らぬ一般のオークション参加者にも今の轟音は届いたことだろう。異常を察知した彼らは血相を変えてセメタリービルへ向けて駆け出した。

 

 無論、これ程の騒ぎを聞き逃すセンリツではない。超人的な聴力を誇る彼女は誰よりも早く異変を感知していた。

 

「クラピカ」

 

「分かっている。すぐにリーダーに連絡を」

 

「もう繋いでいるわ」

 

 センリツはコールを開始している携帯電話をクラピカに差し出す。ノストラードファミリー護衛団のリーダーであるダルツォルネと通話越しに言葉を交わすクラピカを横目に、センリツは言い知れぬ胸騒ぎを感じていた。

 今し方の爆音は通常の火薬によるものとは一線を画していた。薬物の燃焼による空気の膨張とは少し違う。燃え上がる炎の灼熱を数十倍、数百倍にも拡大したかのような発火音……と言えばいいか。支離滅裂なのは自覚している。センリツにはその現象を上手く言葉にすることができなかった。それだけ不自然なプロセスを経て起きた爆発だったのだ。加えて、その少し前に聞こえた洪水のような水音も気掛かりだ。

 

 いずれにせよ、尋常ならざる何事かが起きている。あるいは起きようとしている。今夜は長くなるわね、というセンリツの呟きは熱を帯び始めた夜の空気に溶けて消えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「何者かを打ち倒しに来た者は、何者かに打ち倒されねばならない」

 

 目の前の男が何事かを喋っている。だがそれはウボォーギンの耳には届かず、拳が空気を抉る擦過音に打ち消された。

 銃声。Hellsing Arm 454 Casull──白銀に輝く長銃が火を噴き、敵を粉砕するべく打ち出された剛腕を迎撃する。通常のマグナム弾の三倍近い口径と火力の.454カスール弾を更に改造した爆裂徹甲弾、これにダメ押しと言わんばかりに〝周〟によるオーラ強化が加わるのだ。その威力たるや、直撃を許せば鋼鉄の如しと喩えられるウボォーギンの肉体であってもただでは済まない。

 

 知らぬとばかりに拳を振り抜いた。発火した弾頭が爆発を起こすが、そんなものでは旅団きっての怪力は止まらない。鮮血を迸らせながらもウボォーギンの拳はアーカードの顔面目掛け炸裂した。

 

 否。戦車砲のような剛撃は破城槌の如きアーカードの肘撃に迎え撃たれる。およそ肉と肉がぶつかり合ったものとは思えぬ鈍く激しい打撃音を上げ、ウボォーギン渾身の一打は受け止められた。

 思わず笑みが零れる。こうして真っ向から力で拮抗する敵など果たしていつ以来か。純粋な腕力でウボォーギンと競り合える者など、少なくとも旅団結成以降はお目に掛かったことがない。

 

 お前やるな、と獰猛に笑い掛ける。返答は六発の銃声だった。一発で並の念使いなら即死して余りある威力の銃弾がウボォーギンの腹を抉る。今まさにアーカードの肘撃を押し退けんと拳に力を籠めている最中である。腹部の防御は万全とは言い難い。

 それでも内臓までは届かせない。ウボォーギンは腹の筋肉のみで炸裂する.454カスール弾の威力を堰き止めてみせた。

 

「おおおおおあああアアアッ!!」

 

 痛みを振り切るように咆哮を上げ、お返しとばかりにアーカードの腹部に膝蹴りをお見舞いする。アーカードの長身が衝撃で浮き上がる。手応えあり。畳み掛けるなら今。

 

「純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻、マーベルス化学薬筒NNA9。全長39cm、重量16㎏、13mm炸裂徹甲弾」

 

 鈍い殺意に濡れ光る銃口が突き付けられる。Jesus Christ is in Heaven now(神は天に在り、世は全て事も無し)──見慣れぬ文字列が刻まれた銃身は黒鉄の設え。直感が警鐘を鳴らし、全身を総毛立たせたウボォーギンは獣染みた反応で防御態勢を取った。

 

「──“ジャッカル”。パーフェクト(完全)だエミヤ」

 

 回避は間に合わぬと見て咄嗟の判断で防御を固めたのは英断だった。早計に回避を選んで無防備に一撃を食らったなら死んでいただろう。そう確信させるに足る威力だった。

 腕が吹き飛んだ。否、繫がってはいる。だが繋がっているだけだ。左上腕の筋肉は半分近くが爆ぜ、骨が露出している始末。黒鉄の長銃による銃撃は十全な〝堅〟で身を固めた筈のウボォーギンの肉を抉り取ったのだ。ホローポイント弾ですらもう少しお優しい威力だろうに、これで拳銃を称するなどもはや詐欺に近い。

 

「やるじゃねぇか……!」

 

 強気に笑みを浮かべてみせる。抉られた左腕が激痛を訴えるが、幸い傷口は焼け焦げているためか出血は激しくない。継戦に問題はないと判断。血に塗れながらもウボォーギンは果敢に攻め掛かる。

 拳銃を主武装とする者を相手に下手に距離を取るべきではないという冷静な思考も働いた。これほど長い銃身を持つのだ、密着されれば取り回しに難儀するだろう。

 

 そしてアーカードは想定通りに床を蹴って後退した。白銀の銃床から空になった弾倉が零れ落ちる。

 好機。ここを勝負所と睨んだウボォーギンは全身にあらん限りの力を籠めて加速。カスール弾の装填を試みようとしたアーカードは敵の急接近にその手を止める。

 

「〝超破壊拳(ビッグバンインパクト)〟ォォォ──ッ!!」

 

 右拳に凝縮された莫大なオーラがインパクトと同時に炸裂する。これこそがウボォーギンの唯一にして最強の念能力。ずば抜けた怪力、有り余るオーラ、その全てを最高効率で運用した結果編み出された──ただのストレートパンチである。

 故に小賢しい制約も誓約も存在しない。小細工など必要ない程にその一撃は極まっていた。「何よりも強く、ただ強く」──以て最強に至らん。その純粋なまでの想念が、ただのオーラを籠めた拳に究極の破壊力を齎したのだ。

 

 そして真実、その一撃に宿る威力は超爆発(ビッグバン)の名に恥じぬものだった。果たしてアーカードの上半身が()()()()。骨肉は塵に、血は霧に。両腕の肘から先と腹から下を残して命の灯は消え失せた。

 

 獲った──ウボォーギンは敵の打倒を確信した。その胸に勝利の高揚感と、強敵との別れを惜しむ寂寥感が去来する。

 

「否、獲っていない」

 

 届く筈のない声が届き、目を見開いたウボォーギンはハッと顔を上げた。

 力を失い崩れ落ちようとしていた膝に活力が戻り、踵が力強く大地を踏みしめる。命なきアーカードの下半身は確と直立し、その断面から零れる臓物と共に噴出する鮮血が妖しく蠢いた。

 

「なんだそりゃあ!? いや、え、嘘だろオイ!?」

 

 眼前で進行するあり得べからざる事象を目の当たりにし、ウボォーギンはその人生で間違いなく一番と言っていい驚きを体験する。間違いなく殺したと確信した。当たり前だ。身体の半分を、脳と心臓を失って生きていける人間など存在しない。

 なのに、この男は生きている。不浄と冒涜の呪詛に侵された人ならざる血液は命なき肉体を駆動させる。まるで血液そのものに意思があるかのように蠢き、胴、腕、頸と、まるでテープを巻き戻すかのように破壊された肉体を修復していった。

 

「我は“生ける屍(アンデッド)”、“不死者(ノスフェラトー)”……即ち、神が定めし命の転輪を否定する涜神の獣。定命の軛から逸脱した化け物が私だ。()()()()()()()()()()

 

 滲み出る暗黒のオーラ。殺気や害意に濁った負の想念の発露とはまた異なる。言うなれば、その存在そのものが生命(オーラ)を冒涜しているような──

 

 砲声が轟く。いつの間にか装填を終えた白銀の銃が火を噴き、呆然とするウボォーギンの身体を射抜いた。

 

「ッッッ……!!」

 

「さあ、これでようやく一度だ。まだまだ闘争は終わらん。あと何回殺せる? あと何度やれば私を殺せるかな? さあどうする戦闘狂(ウォーモンガー)? お前は犬か、それとも人間か?」

 

 流れ出た冷や汗が額を濡らす。身体を伝うこの震えは恐怖か戦慄か。

 否。これは歓喜であるとウボォーギンは確信する。最強を目指す一匹の獣は心のどこかで待ち望んでいたのだ。殴っても殴っても倒れぬ強敵を。骨が折れ肉が抉れ血に濡れて、それでもなお打倒叶わぬ難敵を。

 

 ならば喰らおう。この恐るべき好敵手すらも喰らい血肉に変え、ウボォーギンは更なる夢への一歩を邁進する。“最強”の二文字、ただそれだけが我が望み。

 

 闘争の夜は終わらない。彼らがそれを望まぬ限り、永遠に。




旦那「アンデルセン、神の化け物にはなるなよ?」

神父「Amen(了解)!」聖釘グサー

初めてこのシーンを見たとき、了解トランザム味があるなー、なんてどうでもいいこと考えてた思い出。

神父がヒロアカの塩崎茨にTS転生して“個性:神の茨”を使いヴィラン連合をエイメンするというネタをふと思いついたものの、ヒロアカは体育祭までしか知らないため断念しました。「暴力を振るっていい相手は異教徒どもとヴィランどもだけです」という茨ちゃんが見たかっただけ。
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