実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜   作:ピクト人

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奇跡的に時間が確保できたため、不要不急の小説投稿します。

前回はアンケートにご協力頂き誠にありがとうございます。結果と致しましては、

1.「」と「」の間の行間はいる……225票
2.いらない……126票
3.どちらでもいい……386票
4.メルトリリスお誕生日おめでとう!……988票

以上のようになりましたので、今まで通り行間は空けて書こうと思います。ありがとうございました。



転生野郎Aチーム続編~後の祭り~

【テロ? 戦争?】ヨークシンシティが爆撃されている件について【救助求む】

 

1:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

シヌ

 

4:名無しのハンター ID:BQl7uGU3E

何があったし

 

8:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

何があったも何もスレタイ通りだよ!

現在進行形でヨークシンの街が謎の爆撃を受けて俺がやばい

 

13:名無しのハンター ID:pymAZTuOc

嘘乙

 

17:名無しのハンター ID:Bt8Q0G72V

解散

 

21:名無しのハンター ID:sOld+nMph

微妙に気になるスレタイで釣りやがって

明日も早いんだ俺は寝る

 

26:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

待って待って嘘じゃねぇんだって!

このスレの中に一人ぐらいヨークシン民いるだろ! 何か言ってくれ!

 

29:名無しのヨークシン民 ID:OKQWRl3JV

>>26

呼んだ?

 

30:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

やはり神は俺を見捨ててはいなかった!

 

35:名無しのハンター ID:7Gl60LAZz

>>29

イッチが言ってることは本当なのか?

 

36:名無しのヨークシン民 ID:OKQWRl3JV

いま起きたとこだからわかんね

 

37:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

はぁーつっかえ!

 

40:名無しのハンター ID:LU+duVK7z

なにがヨークシン民やお前

 

42:名無しのヨークシン民 ID:OKQWRl3JV

いやでも確かに外からぼっかんぼっかん音がするな

なんやこれ、何が起こっとるんや

 

47:名無しのハンター ID:8FrytPbz7

>>42

マジ?

 

50:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

ほらあああああボクが言った通りでしょおおおおお!?

 

55:名無しのハンター ID:mavYk4/CD

うっざ

 

56:名無しのハンター ID:ZkFELzMDF

ハイハイそうでちゅねー君が正しかったでちゅねー

で、真面目な話どんな状況なわけ? その爆撃で家が倒壊したとか?

 

57:名無しのハンター ID:QXeT0MSHz

イッチ倒壊した家の下敷きになったん?

 

61:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

下敷きになってたら呑気に掲示板になんかいねーよw

 

64:名無しのハンター ID:dBQkcTSuC

ダメじゃないか死んだ奴が出てきちゃあ!

 

69:名無しのハンター ID:ZkFELzMDF

茶番はいいから詳細はよ

状況によっては救助に行くから

 

71:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

いやほら、今ヨークシンでドリームオークションやってるやん? そこの深夜でだけやってる闇市的なのに行ったわけよ

 

そこのオークションで有り金全部溶かしたったwww 一文無しや助けてwww

 

76:名無しのハンター ID:ZkFELzMDF

あ ほ く さ

 

77:名無しのハンター ID:VxOzT86iO

んだよ爆撃なんも関係ねーじゃねーか!

 

81:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

いやこうでもしないと誰も集まってこないかなってwww

正直すまんかった

 

86:名無しのハンター ID:uOWKKyKFG

で、何買ったん?

 

90:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

プロハンターカオル=フジワラのコスプレ写真集

 

94:名無しのハンター ID:Eba9gZY9x

ファッ!?

 

97:名無しのハンター ID:F0Q8fM0FB

動画でカオルが「見つけ次第焼いてこの世から抹消しろ」って全リスナーに周知して

そしたら却ってプレミア度が上がったっていう、あの伝説のコスプレ写真集ですか!? 

 

98:名無しのハンター ID:rUAgNuRHL

あれオークションに流れてたんか!

 

100:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

>>97

説明乙

それそれ、まさにそれ! カタログとか何もないテキトーなオークションに冷やかしで入ったらまさかの掘り出し物よ

思わず衝動買いしちまったぜ

 

102:名無しのハンター ID:rxlhNEXIs

お前は正しい選択をした

 

104:名無しのハンター ID:l9ZrT+9UE

それでこそ男や!

 

105:名無しのハンター ID:ZuFKGA3Cb

ころしてでも うばいとる

 

108:名無しのハンター ID:gWqJeoP37

アストルフォ! アストルフォ! アストルフォ! アストルフォぉぉうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!

あぁああああ……ああ……あっあっー! あぁああああああ!!! アストルフォアストルフォアストルフォぉぉううぁわぁああああ!!!

あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いだなぁ……くんくん

んはぁっ! アストルフォきゅんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお! クンカクンカ! あぁあ!!

間違えた! モフモフしたいお! モフモフ! モフモフ! 髪髪モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅい!!

『ヒポグリフと空の旅』のアストルフォきゅんかわいかったよぅ!! あぁぁああ……あああ……あっあぁああああ!! ふぁぁあああんんっ!!

ファンクラブ会員5万人突破おめでとぉおおお! あぁあああああ! かわいい! アストルフォきゅん! かわいい! あっああぁああ!

最近は夜枠の出番も増えてきて嬉し……いやぁああああああ!!! にゃああああああああん!! ぎゃああああああああ!!

ぐあああああああああああ!!! 夜勤のせいで夜枠生で追えないいいぃぃぃ!!!! 現実なんてクソッたれだあああああああ!! にゃあああああああああああああん!! うぁああああああああああ!!

そんなぁああああああ!! いやぁぁぁあああああああああ!! はぁああああああん!! クソ上司いいいいいぃぃぃぃぃ!!

この! ちきしょー! やめてやる!! 社畜なんかやめ……て……え!? 見……てる? 動画のアストルフォきゅんが僕を見てる?

動画のアストルフォきゅんが僕を見てるぞ! アストルフォきゅんが僕を見てるぞ! アストルフォきゅんが僕を見てるぞ!!

画面越しにアストルフォくんちゃんが僕に話しかけてるぞ!!! よかった……世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!

いやっほぉおおおおおおお!!! 僕にはアストルフォきゅんがいる!! やったねたえちゃん!! 家族が増えるよ!!!

アストルフォくんちゃああああああああああああああん!! いやぁあああああああああああああああ!!!!

ううっうぅうう!! 俺の想いよアストルフォきゅんへ届け!! ヨークシンのアストルフォきゅんへ届け!

 

113:名無しのハンター ID:gWqJeoP37

すまん誤爆

 

117:名無しのハンター ID:sHmyf4/0W

えぇ……

 

120:名無しのハンター ID:qS1UVUoY+

酷い誤爆を見た

 

125:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

流石の俺もドン引きだわ……

 

127:名無しのハンター ID:ttVHbhKlA

アストルフォガチ勢はアストルフォ専用スレに閉じ込めておけとあれほど……

 

129:名無しのハンター ID:s6tJ9jCBS

で、結局ヨークシンの爆撃は何だったんです?

 

130:名無しのハンター ID:aGmTssP/7

 

131:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

すっかり忘れてたわ

 

134:名無しのハンター ID:MjVepNZMk

おいイッチwww

 

137:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

そうだよ俺いま素寒貧だったんだ!

頼む誰か助けて! 明日までに公共料金の支払い済ませなきゃなんねーのに!

 

139:名無しのハンター ID:yji0OnT3U

自業自得

 

140:名無しのハンター ID:3oax62x3k

はい解散

 

143:名無しのハンター ID:1523ggm1C

てっしゅー

 

146:名無しのハンター ID:BR02lWaRB

つーかイッチの居場所もわかんねーのに助けに行けるかよ

それとも住所晒す? どれだけ匿名性が保証されてるかもわからん掲示板で

 

147:名無しのプリマドンナ ID:AlterEgo/S

>>1

特定したわ

 

148:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

ゑ?

 

149:名無しのプリマドンナ ID:AlterEgo/S

顔覚えたから

大丈夫、お金は払うわ

明日までにはそっち行くから、他の何を差し置いても写真集は失くさないように

逃げたって無駄だから、地の果てまで追いかけるから

 

150:名無しのスレ主 ID:0UiHOHndU

……え?

 


 

 

 

 

「お前たちがヘルシングか」

 

 ずしりと腹に響く威厳ある声が一室に響く。その声の主は剃刀のような鋭い目つきで居並ぶヘルシングの面々を睥睨した。

 その男は誰あろう十老頭の一人、ヨークシンシティ含むサヘルタ合衆国一帯に勢力を張る巨大マフィアの長老である。一国の長にも匹敵する権力を持つ、裏社会において絶対的な影響力を有する十人の一。たとえプロハンターであっても彼らを前には萎縮せざるを得ない、そんな大人物だった。

 

 だが、生憎とヘルシングはプロハンターの中でも抜きん出た奇人集団。組織の強みである“数の力”を物ともしない絶対的な“個の力”を極めた強者たちである。十老頭の眼光を前にも委縮するようなことはなく、極めて自然体のまま視線を返すヘルシングの様子に男は「ほう」と感心したような声を上げた。

 

「オレを前に緊張すらしないか。陰獣ですら十老頭相手にそんな不遜な態度は取れんというのに……なぁ、“病犬(やまいぬ)”よ」

 

「え、あ……そ、そっすね、ええ」

 

「……いつになく大人しいじゃねぇか。これはこれで調子が狂うな」

 

 きょろきょろと男とヘルシングの間で視線を行ったり来たりさせる“病犬”の挙動不審な様子に男は眉根を寄せる。

 だが、“病犬”からすればこれは当然の反応だった。何しろ彼を含む陰獣はセメタリービルの一部始終を目撃していたのだ。伝聞でしか現場を知らない十老頭とは得た実感が違う。

 

 疾風のような身のこなしで鋭利なヒールを縦横に振るい、念すら溶解させる津波を引き起こす少女──カオル。

 強大な魔獣を操り、虚実入り混じる無数の分身を行う怪力の少女──アストルフォ。

 あらゆる干渉を跳ね返し、天を衝く巨大竜巻を生み出す青年──一方通行(アクセラレータ)

 無限に等しい量の刀剣を生み出し、挙句の果てには大量破壊兵器に匹敵する火力の大爆発を起こした男──エミヤ。

 

 そして──

 

「アーカード……その名は知っているぞ。まさか味方になるとは思わなかったが」

 

「我々はヘルシングとして依頼を受け、そのように動いただけだ。それ以外の意図はない」

 

 ヘルシング探偵事務所所長、アーカード。彼ら五人の頭。

 病犬は数時間前のセメタリービルでの光景を思い出し背筋を震わせた。あの、身の毛もよだつ恐ろしき化け物の姿を。

 

 純粋な破壊力という点ではエミヤと一方通行(アクセラレータ)が見せた念能力の方が優れていただろう。高層ビルを跡形もなく消し去るなど、病犬は元より、他の陰獣の誰にも不可能なことだ。

 だがそうではない。アーカードが見せたアレは単純な破壊力がどうこうといった領域の話ではなかった。只々“異様”、その一言に尽きる。

 

 エミヤと一方通行(アクセラレータ)のやったことはまだ理解できる──勿論原理についてはさっぱりで、念をどうやり繰りすればあんな真似ができるのかは今以て不明だが──現象だった。前者は爆弾などを用いれば実現可能な範疇だし、後者にしても自然現象でこそあれ事象としては既知のものだからだ。

 

 だが、アーカードの能力は徹頭徹尾既存の概念から逸脱した代物だった。微塵に砕かれようと時を巻き戻すように復元する肉体、汲めども汲めども尽きぬ命の灯。そして無尽の鮮血はあろうことに魑魅魍魎の潜む深淵であった。

 氾濫する蛇蝎磨羯、吐き気催す奇形の蟲どもの威容は陰獣として確かな実力を有する病犬をして怖気を感じずにはいられぬ醜悪さ。

 そしてあの巨漢を一呑みの下に葬り去った異形の大狼だ。あんなもの、もはや人が立ち向かうべき存在ではない。病犬はその異名が示す通り猛獣の爪牙をイメージし自らの戦闘スタイルに反映させており、肉食獣のように鋭く尖った牙は人体など骨ごと容易く食い千切る……が、そんなもの自動車すら丸呑みにする巨獣の顎と比べれば爪楊枝のようなものだ。大きさ(サイズ)が違う、膂力(パワー)が違う、存在(スケール)が違う──即ちそれは、そんな怪物(モンスター)すら腹に収めるアーカードの異次元の強大さを示している。

 

 別に病犬は自らを最強と自認していたわけではない。他の陰獣がそうであるように、自らと同等以上の念能力者がいることなど承知している。それでも間違いなく己は強者であると、数多いる念使いの中でも上澄みの存在であると自負していたのだ。

 だが、よもやこれ程……これ程までに格の違う存在がいようとは。ヘルシングは元より、幻影旅団ですら格上の強者揃いであった。

 

 つまるところ、病犬は自信を喪失したのである。これまでは自らが陰獣であるということに自負もあったが、今やそんな肩書きなど薄っぺらなものだ。それはきっと他の陰獣も同じであろう。ここまで格の違う存在と対面した経験などなく、取るべき態度を決めかねこうした挙動不審な様を見せる結果となってしまったのだ。

 

「ふん、依頼か。後でヴィンランドの(わっぱ)には報いてやらねばな。だが──」

 

 十老頭の男が目を眇める。その表情はお世辞にも上機嫌とは言い難く、彼の怒りを買うことの恐ろしさを知る病犬は肩を震わせた。

 

「街の外まで派手に追い立てておきながらみすみす逃がしたらしいじゃねぇか。幻影旅団だか何だか知らんが、ちぃとばかし手緩いんじゃねぇのか。え?」

 

「おやおやおや、これは異なことを。どうやら人の話を聞かん質らしいなお前は」

 

 難癖に皮肉で返されヒクリと男の口元が引き攣る。病犬は不意の腹痛に襲われ胃の辺りを手で押さえた。

 というかお願いだから態度を取り繕うぐらいはして貰えないだろうか、と病犬は内心思う。慇懃無礼なアーカードなどまだマシなもので、エミヤは欠伸を噛み殺しており、アストルフォはキョロキョロと落ち着きがない。カオルに至っては何故か鬼気迫る表情でスマホをタップしている。唯一まともなのは仏頂面で黙り込んでいる一方通行(アクセラレータ)ぐらいのものだ。

 

「依頼だと先に伝えた筈なのだがね。我々はあくまでヴィンランドファミリーの用心棒。地下競売がどうなろうと知ったことではない。我々に文句を垂れるのはお門違いというものだ」

 

「……ふん」

 

 ヘルシングはマフィアンコミュニティーではなくガル・ヴィンランド個人と契約を交わした立場にあり、そこに依頼以上の仕事を果たす義務も責任もない。それが分からぬわけもなかろうに難癖をつけようとしたのは、男がヘルシングに対し借りを作ることを嫌ったからか。

 だが、アーカードは恫喝如きでどうにかなるほど柔な存在ではない。十老頭の威光が通用しないことに男は不機嫌そうに顔を歪めるが、それ以上強く出ることはせず不承不承ながら引き下がった。

 

「まあ、そちらとしては面子を潰された落とし前を付けたいという気持ちがあるのだろうが……やめておけ。連中に手を出すことにメリットはない」

 

「何故だ」

 

「奴らは“名無し”だ。廃棄場の長老共と事を構えたくはあるまい?」

 

「……流星街か。だが奴らとは蜜月の関係にあった筈だ。何だってそこの出身者が競売を襲う」

 

「連中は流星街においても異端の存在。“蜘蛛”は如何なるものにも縛られぬ無頼の集まりだ。だが、それでも完全に流星街と袂を別ったわけではないらしい」

 

 そう、仕留められた筈の“蜘蛛”を仕留め切らなかった理由はそこにあった。

 マフィアは廃棄物と称して武器を融通し、代わりに流星街は“名無し”であることを利用して後ろめたい仕事をこなす人材を派遣する。互いに利用し合う関係にあった。原作においても同様の理由によりマフィア側は幻影旅団の手配を取り下げている。面子よりも流星街との関係悪化を恐れたのだ。

 

「ふん、だが一人は殺ったんだろう? 他の連中も知らぬ存ぜぬで始末しちまえば良かったものを」

 

「よくもまあぬけぬけと。どうせその時はヴィンランドに責任を押し付ける魂胆だったでしょうに」

 

 それまで携帯に夢中だったカオルが唐突に会話に加わる。画面から顔を上げジト目で男を睨んだ。

 

 マフィアではないヘルシングならば仮に幻影旅団を殺害しても問題はないように思えるが、今回彼らはヴィンランドファミリーの依頼で行動している。即ち、ヘルシングの行動は全てマフィアであるヴィンランドの責任に帰結するのだ。ガル・ヴィンランドが全責任をヘルシングに押し付けて切り捨てるでもしない限り、流星街からのヘイトは当然のようにマフィア側に向かうだろう。

 さりとてぞんざいに扱うにはヘルシングが保有する戦力は強大に過ぎる。ならば当然切り捨てられるのは──

 

「私も流星街の出だからアナタたちのやり口はよく知ってるわ。面子を保つためなら弱小マフィアの一つや二つ、切り捨てるのに躊躇いなんてないでしょう」

 

「ハッ、分かってるじゃねぇか嬢ちゃん。十老頭(オレたち)は裏社会の柱だ。その面子は何においても優先される」

 

 それは一部において真実だ。十老頭は裏社会における象徴的存在。絶対的な秩序の支柱だ。僅かにでもその権威が揺らぐことなどあってはならない。

 十老頭を中心とする秩序形成が揺らぐことで得をする存在など、愚かにも下克上を企む極一部のマフィアだけだろう。大多数の者にとって群雄割拠の混沌など望むところではない。

 

 しかし先程「報いてやらねば」などと言った口で平然と生贄にしようとするとは、流石の面の厚さと言うべきだろう。

 

「面子は守る。流星街との関係も守る。なら、誰かに犠牲になってもらうしかないわな。その点ヴィンランドは空蝉として丁度良かった。……とはいえ一人は確実に仕留めた、そうだな?」

 

「死体は残っていないがね」

 

「病犬」

 

「……確とこの目で確認しました。他の陰獣も同じく」

 

「ならそれで手打ちとするべきだろう、業腹だがな。流石にあちらに非がある以上一人ぐらいなら流星街も文句は言わんだろう。ヴィンランドを生贄にする必要もない。

 但し、こちらから手前らに報酬は(びた)一文出さん。全く、建物丸ごと台無しにしやがって……競売品が無事だったから良かったものの、ビルだって安かねぇんだぞ!」

 

「必要な犠牲だったと諦めたまえ。それに我々だけの責任にして貰っては困る。そもそも幻影旅団が暴れたのが原因なのだから」

 

「その幻影旅団に落とし前つけられねぇから苛立ってるんだろうがッ」

 

 取り敢えずではあるが落とし所を見付けることはできたらしい。男がアーカードに対し本気で不興を感じているわけではないらしいことが分かり、ヘルシングの武力と十老頭の権力の板挟みにあった病犬はそっと胸を撫で下ろした。

 

(生きた心地がしなかったぜ……ヘルシングとはもう金輪際関わらねぇからなオレ……)

 

 だが、病犬は知らなかった。ヘルシングが事務所を構えているのはまさにここヨークシンシティであり、病犬のボスである十老頭の男が支配する地域と無関係ではないことを。

 当然ながら自分が治めるエリアに存在する突出した戦力の集団を捨て置く筈もなく、十老頭の男とヘルシングを仲介するメッセンジャーとして病犬が度々駆り出されることになることを……この時の病犬は知る由もなかったのである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「おい……生きてるか?」

 

「何とかな……」

 

 地下競売襲撃に際して用意された幻影旅団のアジト。荒野に打ち捨てられた伽藍の廃墟に呻き声が木霊する。

 疲労が滲む団長の声に、同じく疲労困憊の団員は弱々しく声を返す。欠員がないことを確認すると、クロロは壁に背を預けるようにして座り込んだ。

 

「街の外まで追ってこないのは幸いだった。……見逃されたのかな」

 

「それにしたって限度があるだろうが……何が『死んだ幻影旅団だけが良い幻影旅団』だよドカドカ爆弾落としやがって! 街中だろうがお構いなしかクソッタレ!」

 

「フィンクスうるさい」

 

「騒ぐと傷に響くね」

 

 先刻の逃走劇を思い出し全員が顔を顰める。手の届かぬ遥か上空から降り注ぐ投影宝具による投下爆撃。一応は街中であることに配慮したのか『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』のような高ランク宝具を使われることこそなかったものの、追尾ミサイルの如き変態軌道で迫り来る矢雨から逃げ回るのは相当に神経を削られるものだった。

 

「ま、何はともあれ無事に逃げられたんだから良しとするべきじゃない? 足が残っていれば“蜘蛛”は不滅、だろ♠」

 

「無事だと……? ウボォーギンが死んだんだぞ!? これが無事なものかよ!!」

 

 ヒソカの一言を切欠にノブナガが激昂する。ノブナガはウボォーギンと特に仲が良く、また情に厚い性格の彼は旅団結成初期からの仲間の脱落にショックを隠せない様子だった。

 だが流石に言い掛かりだと自覚しているのかヒソカに掴み掛かるようなことはせず、ノブナガは唇を噛み締めながら力なく座り込んだ。

 

「相手はあくまで真っ当に戦っていた。正面堂々の戦いに敗れたのならば、それはウボォーギンの力が及ばなかっただけだ。

 ……それに、ウボォーギンを残して撤退すると判断したのはオレだ。恨むならばオレを恨むがいい」

 

「……いや、団長は悪くねぇ。オレがあの爆弾野郎をもっと早く仕留めていれば良かったんだ……そうすりゃあの化け物とウボォーギンを一人で戦わせることもなかった……」

 

 アーカードを指して化け物呼ばわりするノブナガ。だがそれに異論を挟む者などいない。手練れ揃いの“蜘蛛”をしてそう言わしめる程に、あの光景は常軌を逸したものだったのだ。

 

「今回は言い訳の余地なくオレたちの敗北だ。以降、地下競売からは完全に手を引く。異論は?」

 

 クロロの問いに声を上げる者などいない。当然だ。ヘルシングが守護している限り競売に手を出すことは自殺行為も同然である。

 幻影旅団が無理だったのだから、他の如何なる悪党も敵わないだろう。一国の軍が総出で掛かってもヘルシングの守りを突破できるかは怪しい。

 

「オレの見通しが甘かった。謝罪する」

 

「やめてくれよ団長。団長の話に乗ったのは紛れもなくオレたち自身の意思だ。なら誰の所為でもない、旅団全体の責任であるべきだ」

 

 頭を下げるクロロを慌ててフォローするシャルナーク。そして全団員がシャルナークの言葉に同意するように深く頷いた。

 それに見通しが甘かったなどと言うが、そもそもこんな事態になることなど予期できる筈がない。何しろヘルシングはマフィアとは何ら関わりのない外部組織であり、しかもマフィアンコミュニティーの関知しない契約によっての参戦だった。旅団にとっても、ましてや十老頭にとってすら慮外の存在。まさしくダークホースだったのだ。

 

 むしろ責任を感じるべきは自分である、とシャルナークは歯噛みする。戦力分析などの情報収集はクロロの右腕として参謀的立ち位置にあるシャルナークが負うべき役目。他ならぬ己こそがヘルシングの存在を把握していなければならなかった筈なのだ。

 手を抜いたつもりはなかったが、所詮はマフィアという油断がなかったかといえば嘘になる。その結果として仲間を失う羽目になったのだから笑い話にもならない。

 

 

『──ふん、どいつもこいつも雁首揃えて覇気のないことだ』

 

 

 俯いていたシャルナークは突如響いた声に弾かれたように顔を上げる。

 誰もがギョッと目を剥き、疲労を訴える身体に鞭打ち臨戦態勢を取った。何故なら、今の声は──

 

 同時に廃墟に吹き込む獣臭。濃密な血の臭いを纏い、巨大な魔獣がアジトに乗り込んできた。

 その姿を忘れよう筈もない。大型トラックにも匹敵しようかという巨体に、水牛の角の如き巨大な乱杭歯が並ぶ顎。全身を覆う漆黒の体毛は乾くことのない鮮血に濡れ、禍々しい瘴気と共に不気味なオーラを総身より迸らせている。

 

 黒犬獣バスカヴィル。数多いるアーカードの使い魔の中でも最強の存在が彼らの前に姿を現した。

 

『折角命拾いしたというのに辛気臭いことこの上ないな。これではウボォーギンも浮かばれまい』

 

「テメェその声……! ふざけやがって! どの面下げて来やがった!」

 

「よせ、ノブナガ!」

 

 まるで人のように悍ましい悪意に歪められた口からは、彼らに拭い難い恐怖を刻み付けた男の声が放たれる。怨敵の声で語り掛ける化け物の姿に再び頭に血を上らせたノブナガがいきり立つが、クロロはそれを雷鳴のような大音声で制止した。

 滅多に声を荒げることのない団長の怒声にノブナガは凍りついたように身体を硬直させる。クロロは団員を庇うように前に出ると、佇む巨躯の獣──否、バスカヴィルを介し言葉を届けているアーカードへと険しい視線を向けた。

 

「お前はオレたちを追わない、と言ったように記憶しているのだが。話が違うのではないかな」

 

『ふ、そう警戒するな。今の私に敵意がないことぐらい見て分かるだろう』

 

「……そうか?」

 

 素で首を傾げるクロロ以下幻影旅団。

 何しろバスカヴィルは何もせずとも全身から禍々しい気配を撒き散らしている。その場にいるだけで背筋が凍るような威圧を放つ存在を見て“敵意がない”など口が裂けても言えないだろう。

 

『私はこう見えて慎重な質でね。お前たちのような厄介な手合いと何度も争いたいとは思わん。二度と我らと関わらないという保証が欲しいのだよ』

 

「……心配せずともオレたちは地下競売からは完全に手を引くさ。それに関わり合いになりたくないのはこちらとて同じことだ。今後一切ヘルシングには近付かん」

 

()()()()()()()、だろう?』

 

「!」

 

 クロロは背後でノブナガが息を呑む気配を感じ取った。同時にアーカードの懸念について理解が及ぶ。

 

『少し調べれば我々の背後に何者がいたかなどすぐに知れよう。ならばそちらに報復が行くのは自明の理だ。……なあ、サムライ?』

 

「……ッ」

 

『それでは困るのだよ。彼らはヘルシングのお得意様……になる予定なのでね。仇討ちなどされては堪ったものではないのさ』

 

 ガン! とノブナガが床に拳を打ち付ける。流石の彼も今回の一件でヘルシングの危険性は理解した。仇討ちをしたいのは山々だが、それがリスクに見合わないことなど承知している。

 ならばせめて、そもそもマフィアではないヘルシングが出張る原因となった何者かを始末することでウボォーギンへの弔いにしようと考えていたのに。それすら許されないというのなら、このやり場のない怒りをどうすればいい。

 

「……そちらの言い分は理解した。だがそれに従う義理はないな」

 

『ほう? 見逃されたのが分からないらしい』

 

「ならば見逃してしまったのは不覚だったな、と言わせてもらおう。一度身を隠してしまえばこちらのものだ。本職の暗殺者には劣るだろうが、こちらも闇に潜むのは得手としている。いつ、どこから襲い来るかも分からぬ蜘蛛の牙から、お前たちは依頼主を守りきれるかな」

 

 ウボォーギンを失ったことに憤っているのはノブナガだけではないのだ。“蜘蛛”は受けた恨みを忘れない。リスクを考えればヘルシングに直接報復するのは断念する他ないが、ならばそもそもの切欠を作ったどこぞのマフィアには必ずや報いを受けて貰わねばなるまい。

 ヘルシングとて常に対象を護衛しているわけではない筈だ。今すぐは無理でも、いずれヘルシングの目が逸れるまで彼らは砂蜘蛛のように虎視眈々と機会が巡り来るのを待つだろう。

 

『自業自得なのだから全てを諦め素直に手を引く、などという殊勝な考えはないらしいな。これだから悪党というものは困る。物の道理というものが分からんのか』

 

「ハ、盗賊に道理を説くか?」

 

『そんな無駄なことはせんよ。そこにいるバスカヴィルを(けしか)けてもいいが……ふん、手負いとはいえ犬一匹に後れを取る幻影旅団ではないか。幾らか取り逃がすのは目に見えている』

 

 ぶふぅ、とバスカヴィルが不機嫌そうに鼻を鳴らす。それはアーカードの溜め息か、あるいは力不足と判断されたバスカヴィル自身の不満の表れか。

 

『まあ良い、半ば予想できたことだ。では本題に移ろう』

 

「おろろろろろろろ!!!」

 

『!?』

 

 何の脈絡もなく唐突に嘔吐を始めたバスカヴィルに驚き、一斉に距離を取る幻影旅団。

 まるで吐血のように魔犬の口から赤黒い体液が溢れ水溜まりを形成する。そして出来上がった血溜まりの上に、とても見覚えのある巨漢が吐き出された。

 

「うわらば」

 

「ウボォーギン!?」

 

 白目を剥いて血溜まりの上に転がるウボォーギン。突然の事態に呆然とするクロロの脇を駆け抜け、ノブナガは目の前にバスカヴィルがいるのもお構いなしにウボォーギンに駆け寄った。

 

「い、生きてる……! 気を失ってるが呼吸があるぞ!」

 

「なにぃ!?」

 

 完全に死んだものと思っていた仲間のまさかの生還に仰天する一同。度肝を抜かれた様子の面々を満足そうに眺め、バスカヴィルもといアーカードは仰々しく口を開いた。

 

『取り引きだ、その吐瀉物(ウボォーギン)は返してやろう。その代わり我々の雇い主には手を出さないと誓え』

 

『あ、これ幸いと吐瀉物(ウボォーギン)だけ連れて逃げようなんて思わない方がいいわよ。そいつの命はまだ私が握ってるからね』

 

 更に追い打ちと言わんばかりにウボォーギンの口から彼のものではない少女の声が発せられる。あまりに聞き覚えのある声にフェイタンは反射的に仕込み刀を抜き放った。

 

『本当は自己強制証明(セルフギアス・スクロール)があれば良かったんだけど、私もエミヤも使えないからね。せめて言質だけでも頂くとしましょう。

 さあ、今すぐ決めなさい幻影旅団団長クロロ=ルシルフル。私怨の為に仲間を切るか、仲間の為に私怨は水に流すか』

 

 i-des『オールドレイン』の能力により生み出されたカオルの分身がウボォーギンの身体の内側から語り掛ける。

 完全流体であるメルトリリスはあらゆるものに染み入る毒の蜜だ。今やウボォーギンの生死はカオルの胸先三寸で決まると言っても過言ではない。

 

「断ればどうなる」

 

『試してみる? すぐにでも溶けて消えるけど。あのデメちゃんとかいう掃除機モドキみたいにね』

 

「ッ、団長……」

 

「……ウボォーギンが生きて戻るというのなら否やはない。幻影旅団はヘルシングにも、お前たちの依頼主にも決して手は出さないと誓おう」

 

 仲間の命と雪辱の機会。秤に掛けるまでもない。クロロは迷いなく前者を選んだ。

 そう告げた途端、失神し半開きとなったウボォーギンの口の端から半液体状の何かが溢れ出る。気味が悪い程に真っ青なそれは瞬く間に人型を形作り、少女の外形となって具現化した。

 

「賢い選択ね。これで私たち(ヘルシング)は無事任務を全うできた。幻影旅団は誰一人欠けることなく生還し、マフィアンコミュニティーと流星街の関係にも傷は付かない。万々歳の結果じゃない?」

 

 バスカヴィルの背に腰掛け、優雅に脚を組んだカオルがそう言って微笑む。奇跡のような造形の少女の微笑は万人を魅了せんばかりに美しく可憐である。

 だが、そんな表面上の笑顔で騙される程クロロは馬鹿でも間抜けでもない。艶美に細められた蒼の瞳に映る嘲りの色を彼は見逃さなかった。

 

 実際馬鹿にされているのだろう。事ここに至れば誰でにも分かる事実だ。ここまでの道筋の全てが、徹頭徹尾ヘルシングが描いた絵図通りの結果なのだと。

 

(さしずめ、オレたちは釈尊の掌で暴れた猿猴(さる)と言ったところか)

 

『ではその言葉を以て取り引き成立と見做す。悪党にも一片の矜恃があることを願うよ』

 

「それではご機嫌よう、“蜘蛛”の皆様。

 ……ああ、そこの吐瀉物(ウボォーギン)からは幾らか経験値を頂戴しましたので。精々鍛え直すよう伝えておいて下さる?」

 

「は? 経験値って何……おいコラ、説明しやがれ陰険女──ッ!」

 

 ノブナガの怒声を無視し、用は済んだとばかりに身を翻しカオルを背に乗せたバスカヴィルはアジトから飛び出す。

 まるで矢か鉄砲のように遠ざかっていく一人と一頭の背を見送り、完全に気配が感じ取れなくなったところでようやくクロロはその場に仰向けに倒れ込んだ。

 

「あ゛ー……しんど。何なのアイツら。マジありえないんだけど」

 

「団長、口調……」

 

「もう仕事は終わりだ、終わり。あーあ、負け知らずの幻影旅団が初めての盗み失敗だ。きっとマフィアの長老共はこれ幸いとオレたちを扱き下ろすんだろうなー、あーあ」

 

 先程までの大盗賊の頭としての威厳はどこかへ放り捨て、クロロは年相応の言葉遣いで不満を吐露する。

 普段は厳格な団長が率先して気を抜いたのを見てこの長い夜が終わったことを悟ったのだろう。後に続くように他の団員たちも肩の力を抜いた。

 

「ヘルシング探偵事務所か……ありゃ盗めねーわ。てか二度と会いたくないね、うん」

 




十老頭「一人は確実に仕留めた、そうだな?」
アーカード「(仕留めてないから)死体は残っていないがね」
病犬「確とこの目で確認しました(丸呑みにされたんやし当然死んでるやろ)」

嘘は言ってない。嘘は。


これにて転生者複数√のヨークシン編は終了です。くぅ〜w 疲(ry
以降の予定は未定です。本当はまだ色々と書きたいことがあるんですけど……時間が……時間がね……
でも折角出したオリキャラとの絡みはもう少し書きたい気もするので、エピローグのエピローグみたいな小話は書くかもしれません。

それではまた近い未来、HUNTER×HUNTERが完結する頃にお会いしましょう。
……え、近くない? いやそんな馬鹿な……

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