実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい〜外伝集〜   作:ピクト人

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~今回の反省点~

・タイトルが汚い
・別に言うほどはっちゃけてない。タイトル詐欺
・本編書け


転生野郎Aチーム続編~原作レ○プ! 無法地帯と化したハンター試験~

「二次試験会場まで私について来ること、それがこの一次試験だ。場所や到着時刻に関する質問は一切受け付けん。ただ黙ってついて来たまえ」

 

 両手を後ろで組み、鼻歌でも歌いそうな気楽さで歩くアーカードは端的にそう告げた。

 それは異様な光景だった。ただ歩くだけの男の背を追い掛けるのに多くの受験生が必死になって走っている。確かにアーカードは長身で足も長いが、別段歩幅が図抜けて大きいというわけではない。加えて早歩きをしているというわけでもない。にも拘らずその歩みは走らなければ追いつけない程に速かった。

 

「ど、どうなってやがるんだあのオッサン……まるで一人だけオートウォーク*1の上を歩いてるみてぇだ」

 

 その不可解に過ぎる現象を後方から見やり、息を荒げながらレオリオはそう呟いた。クラピカもやや呆然としつつ同意を示すように頷く。

 

「流石はプロハンターと言ったところか。ただの走り一つを取っても常人とは違う……」

 

「クソ、いきなり調子狂うぜ……落ち着いて呼吸を整えねぇと最後まで持たねーぞこりゃ」

 

 これを持久力試験であると受け取ったレオリオは(かぶり)を振って驚愕から脱し、規則的な呼吸を心掛けようと努める。

 一方、クラピカはこれが単純な持久力テストではないと見抜いていた。いつまで走ればいいか分からないのはかなりの心理的負荷となる。敢えて具体的な目的地や時間を告げないことにより、走者の体力のみならず精神力も試す目的があるのだと看破していた。

 

 「望むところだ」と不敵に笑うレオリオと、「やはり一筋縄ではいかない」と表情を引き締めるクラピカ。好対照な両者に挟まれるゴンは比較的リラックスした風情でマイペースに走っていた。

 その時、スケートボードを駆る少年が三人の脇を駆け抜けていく。99の番号札(ナンバープレート)を胸に付けた銀髪の少年、キルアは必死に走る他の受験生たちを余所に一人涼しい顔でボードを走らせていた。

 

「っておいガキ、汚ねーぞ! そりゃ反則じゃねーのか!?」

 

「……?」

 

 必死こいて走る傍らで楽をされれば腹も立つ。思わず怒鳴りつけたレオリオの声に振り返ったキルアは、心底不思議そうに首を傾げた。

 

「何で?」

 

「何でっておま……こりゃ持久力のテストなんだぞ!?」

 

 レオリオの認識においてこれは持久力を測る試験であり、スケートボードを使って楽をするなど言語道断であった。

 

「違うよ。試験官はついて来いって言っただけだもん」

 

 だが、反撃は思わぬところからやって来る。レオリオの隣を走るゴンはアーカードが提示した一次試験の内容を思い起こしつつレオリオの間違いを訂正した。

 そう、この試験で求められているのはただアーカードについて行くことのみ。その過程でどんな方法を使おうがそれは受験生の自由である。加えてハンター試験はどんなものも持ち込み自由であり、即ちスケートボードを持参しそれに乗るキルアは何ら反則を犯してはいないのだった。

 

「そりゃそうかもしれないけどよぉ──」

 

 理解を示しつつも納得できないのか尚も文句を重ねようとするレオリオ。だが、唐突に頭上に影が差したことでその口上は中断させられた。

 

 

 

「誰が原作なんか……原作なんか怖かねぇ! 野郎ォぶっくらっしゃああああ!!」

 

「マイネェェ────ム! イズ! ギョウブマサタカァ! オニワァアア────!!」

 

「ボスケテ」

 

 

 

 鷲の前駆に馬の後躯、巨大な翼を羽搏かせる魔獣が彼らの頭上を高速で通り抜けていく。魔獣の背には三人の少年少女が跨っており、形容し難い表情で形容し難い文句を口走りながらフェードアウトしていった。

 

『…………』

 

 愕然とそれを見送る四人。無論のこと他の受験生たちも同じように呆然とその未確認飛行物体を眺めることしかできなかった。

 

「……やっぱオレも走ろっと」

 

 妙な静寂が地下通路に満ちる中、キルアはそっとスケートボードから降りるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 己の後方を追従する集団が乱れたのを感じ取ったアーカードは僅かに首を動かし背後に視線を向ける。同時に巨大な魔力反応が接近してくるのを察知し、その原因の正体を悟った彼は口角を持ち上げ笑った。

 

「おやおや、お菓子禁止の罰則が怖くないと見える」

 

「じゃかあしゃあコラァ! ボクらに黙って面白いことやってるダメな大人には言われたくないね!」

 

 瞬く間に他の走者を牛蒡抜きにして背後に迫るヒポグリフ。その背の上で目を三角にして怒るアストルフォを見て、遂にアーカードは声を上げて笑うのだった。

 

「はっはっはっは! いやはや、予想通りの面白い反応をありがとう! しかしあまり怒らないでほしいね。私はただハンター試験に挑戦する君たちを特等席で見守りたかっただけなのだから!」

 

 「言うなれば授業参観に熱を上げる親の心境だよ。親心さ親心」と白々しく笑うアーカード。そんな彼を見て幾分冷静になったカオルが呆れた表情で嘆息した。

 

「楽しそうなのは結構だけど、よくもまあ思い切ったものね。原作に敢えて干渉することはしない方針だと思ってたのだけど」

 

「そりゃあ態々原作の道筋を破壊しに行くようなことはしないがね、敢えて原作の遵守に拘泥するつもりもないということさ。ここは確かに物語の舞台だが、登場人物たちにとっては間違いなく現実だ。それを原作だ何だと我々の手前勝手な理由で色眼鏡を通して見るのは、それこそ現実を生きる彼らに失礼というものさ」

 

「うわ屁理屈」

 

「そうかね? 彼らは他ならぬ自分たちの意思で好きに生きている。ならば我々も同じ世界に住まう人間として、己自身の意思で好き勝手に生きるというだけさ」

 

 一個の人間として真摯にあろうとしているだけさ、などと嘯く胡散臭いサングラスの吸血鬼。しかし三人から向けられる白眼視が止むことはない。

 

「こらこら、休日に寝てばかりいる駄目なお父さんを見る娘のような目はやめなさい。というか、私のした事と言えばサトツ氏の代わりを務めているぐらいじゃないかね。試験内容に変化はないだろう?」

 

「……まあ、確かに」

 

「この後のヌメーレ湿原においても特に余計な変更を加えるつもりはない。原作通り真っ直ぐ二次試験会場まで向かうだけさ。君らなら簡単だろう?」

 

 ヌメーレ湿原──通称"詐欺師の(ねぐら)"。他の生物を欺き食料とする狡猾な生き物たちが数多く生息する一級の危険地帯であり、原作において最も多くの受験生たちを篩いに掛けた悪名高き山場であった。

 ……とはいえ、先導する試験官にしっかりと遅れずついて行ける体力があればそう難しい試験ではない。下手に距離が離れると危険だが、目視できる範囲に試験官を捉えつつ後について進んで行けばまず間違いはない。そして仮にも念能力者である三人が体力面で後れを取る筈もなく、そもそもヒポグリフに乗って進むのだから体力を消耗する筈もない。アストルフォは「ヒポグリフがいれば一次試験は楽勝」と豪語していたが、それは誇張でもなんでもなかったのである。

 

「それより二次試験に注意したまえよ。担当はエミヤ君だからね」

 

「……知ってた速報……」

 

「ですよねー」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 三人の脳裏にイイ笑顔で親指を立てる錬鉄の英雄の姿が過る。Aチームが誇る二大問題児の片割れがこんな美味しいイベントを逃す筈がなかった。

 なお、二大問題児のもう一方がアストルフォであることは言うまでもない。

 

「そもそも言い出しっぺは彼だからね。きっと私と違いオリジナリティ溢れる試験を用意してくれていることだろう」

 

「そんなオリジナリティ要らないから……せっかくお寿司作る練習してたのに……」

 

「努力が全部パァよ、まったく」

 

「パァ( ᐛ ) 」

 

「やかましいわ」

 

 両手を広げて阿保面を晒すアストルフォに手刀を入れるカオル。そんな彼らのやり取りを可笑しそうに眺めていたアーカードだったが、ふと思い出したように真顔に戻った。

 

「おっといかん、ついいつもの調子で話し込んでしまった。今の私はハンター試験の試験官。あまり特定の受験生と親しくしている姿を見せるのは良くないな」

 

「あり得ないことだけど、八百長を疑われても面白くないしね。アストルフォ、もう少し速度を落としてアーカードから離れましょう」

 

「はーい。ヒポグリフ、ちょっちペースダウンで」

 

「くえー」

 

 アストルフォの指示に気の抜けた声を返し、ヒポグリフは翼を畳んで着地。そのまま速歩(はやあし)に移行した。元々音速での飛行が可能なヒポグリフにとっては、敢えてゆっくり飛ぶよりは歩く方が楽なのだろう。

 

「──ねえねえ! そこのお兄さんとお姉さん!」

 

「……ん?」

 

 背後から投げ掛けられた威勢の良い声に振り返る三人。すると、そこには猛ダッシュでヒポグリフに追い縋ろうとするゴンとキルアの姿があった。

 キルアは単に仲良くなったゴンについて来ただけなのだろうが、ゴンの目当てはそのキラキラと輝く瞳を見れば一目瞭然である。彼の熱視線は真っ直ぐにヒポグリフへと向けられていた。

 

「スゴイね! その……鷲? 馬? オレそんな動物見たことないや!」

 

「へへーん、凄いだろー? ヒポグリフって言うんだ! ボクの相棒さ!」

 

「うん! カッコイイ!」

 

 衒いのない誉め言葉に気を良くしたのか、得意顔で胸を反らしたヒポグリフはゴンたちの走りに合わせて少し速度を落とす。ようやく追いつき隣に並んだゴンは、一言断ってその巨体に近付いた。

 

「うわ、近くで見るとスッゲー筋肉だ! キルアも見てみなよ!」

 

「うん、まぁ確かに。でもウチのミケも大概だし、今更このぐらいで……あ、でもコイツ飛べるのか。いーなー、ミケも飛ばねーかな」

 

 ミケとはゾルディック家で飼われている番犬の名であり、ヒポグリフよりも更に大きな体躯を持つ屈強なモンスターである。流石に本物の幻想種であるヒポグリフに格で及ぶことはないだろうが、それでも十年に渡りゾルディックの庭を守り続けてきた実力は本物であり、それは一目見ただけでゴンが──念習得前ではあったが──死を覚悟した程であった。

 そんなただでさえ獰猛な番犬が、更に飛行能力まで身につけるなど悪夢以外の何物でもない。キルアの呟きを聞きそんな最悪の想像をしてしまったカオルは身震いした。

 

「そうだ、良かったら少し乗ってみる? ヒポグリフも君を気に入ったみたいだし、遠慮はいらないよ!」

 

「え、いいの!?」

 

「勿論! キ……そっちの銀髪の子も良かったらどうだい?」

 

 辛うじて「キルア」と呼びそうになったのを踏み止まるアストルフォ。幸い不審に思われることもなかったのか、キルアは疑問を抱いた様子もなく頷いた。

 

「じゃあ、せっかくだから乗せてもらおっかな」

 

「なら私と一方通行(アクセラレータ)と替わりましょう。五人も乗ると流石に狭いでしょうし」

 

 そう言ってカオルはヒポグリフの背から飛び降りる。一方通行(アクセラレータ)も慌ててそれに続いた。

 

「悪いね、なんか」

 

「気にしないで。ここまで楽してきたし、少し走るくらい訳ないわ」

 

 ガツン、と硬質な音を立てて着地するカオル。その不自然な足音にキルアは首を傾げたが、そこは暗殺一家の出身。「靴に何か仕込んでるだけか」と思い至り、特にそれ以上気にすることもなくゴンと共にヒポグリフに乗り込んだ。

 

「オレ、ゴンっていうんだ! こっちはさっき友達になったキルア! 君は?」

 

「ボクの名前はアストルフォ! あっちの黒髪の女の子がカオルで、白髪の男の子が一方通行(アクセラレータ)! よろしく!」

 

 和気藹々とヒポグリフの背の上で盛り上がるお子様三人。一応アストルフォは成人間近なのだが、小柄なのも手伝って同年代の少年らが戯れているようにしか見えなかった。

 

「……違和感/Zero」

 

「うん……まあ、そうね。精神年齢が極めて近いのでしょう」

 

 至極あっさりと原作主人公らと打ち解けたアストルフォ。そのコミュニケーション能力は三人の中でも随一であった。

 

 そうしている間にも着々と目的地は近付いてくる。ぶっちぎりで先頭を走る彼ら五人と一匹の前に最後の山場、心臓破りの大階段が現れた。

 人間の歩幅を前提に造られた階段は歩き難いのか、ヒポグリフは再び翼を広げて浮遊した。その傍らで並走するカオルと一方通行(アクセラレータ)は疲れた様子も見せず、平然と一段飛ばしで突き進んでいく。その様子を見てキルアは感心したように目を瞬かせた。

 

「……へぇ、汗一つかかないなんて意外と体力あるんだなアンタ。あー……アクセラレータ、だっけ」

 

「うん……一応鍛えてはいるんだけど、あんまり筋肉がつかなくてね……意外だった?」

 

「かなり意外。走り始めたのは途中からだったけど、絶対すぐにバテると思ってたぜ。どう見ても貧弱そうだし」

 

「ひ、貧弱……」

 

 幼い時分にありがちな遠慮の欠片もない率直な言葉に項垂れる一方通行(アクセラレータ)。これでも彼は『一方通行(アクセラレータ)』の抱える弱点を克服しようと筋トレに励んでいるのだが、如何せん体質的に筋肉がつき難いのかいつまで経っても見た目に変化がないのだった。

 それでも一方通行(アクセラレータ)は念能力者の端くれである。オーラの恩恵によりその痩躯は常人を遥かに凌駕したパワーを秘めている。今の一方通行(アクセラレータ)ならばベクトル操作に頼らずとも上条当麻や木原数多を相手に一方的に殴り勝てるだろう。

 ……その成果が目に見える形で報われることは残念ながらなかったのだが。アーカードやエミヤの逞しい肉体を見る度に一方通行(アクセラレータ)は「不公平だ」とぼやくばかりであった。

 

「……これでも力瘤はできるし腹筋も割れてるのに……圧倒的肉不足……」

 

「腹筋? それならオレも割れてるよ。ホラ」

 

「 」

 

 何の気なしに服を捲り腹筋を見せつけるキルア。その見事なシックスパックを目の当たりにし、一方通行(アクセラレータ)は彼我の圧倒的な筋肉格差に絶望するのだった。

 

「……世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだね……ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ……」

 

「ちょっとちょっと、急に減速しないで頂戴! ゴール目前なんだからシャキッとしなさい!」

 

「……カオルには分からないよ……男子の筋肉への憧れは……」

 

「ガチムチはアーカードとエミヤだけで十分よ。アナタまでガチムチの仲間入りしたら暑苦しくって敵わないわ」

 

 発破を掛けるカオルに追い立てられるように階段を上る一方通行(アクセラレータ)

 そして相変わらず不可解な挙動で先頭を歩く(走る)アーカードについて進むこと暫し、五人は順当にゴールへと到達するのだった。

 

「到着っと。これでも少しは緊張してたんだけど、案外呆気なかったな。それに……」

 

「うん、楽しかった! ありがとう、アストルフォ! ヒポグリフ! 魔獣に乗るなんてすごくいい経験ができたよ!」

 

「これぐらいお安い御用さ! 何しろボクは騎兵(ライダー)だからね!」

 

 ゴンとキルアはヒポグリフから降り、満足そうな笑顔で礼を告げた。

 世界広しといえど、ヒポグリフ程の強大な魔獣を飼いならす猛獣使いはハンターの中にも滅多にいない。それもただ従えるだけでなく、己や他者を背に乗せられる程に心を通わせるとなるとその数は更に絞られるだろう。この上ない貴重な経験であったことは言うまでもない。

 そんな二人の感謝を受け取ったアストルフォとヒポグリフは大層得意げだ。主従揃って胸を反らす姿に、ゴンとキルアは顔を見合わせて笑い合った。

 

「やはり君たちが一着だったか。見たまえ、後続はまだ階段の中程に差し掛かったばかりだ」

 

「あ、試験官の……」

 

 すると、いつの間にか二人の背後に近付いていたアーカードが声を掛ける。音もなく接近していたことにゴンは驚いて目を丸くし、キルアは身体を強張らせ後退った。

 

「趣味が悪いわよ」

 

「すまないね、驚かせるつもりはなかったのだが……あれだ、化け物(フリークス)の性というヤツさ。夜に紛れ、人を脅かす。実に()()()とは思わないかね」

 

「それが趣味悪いって言ってんの。アナタ最近そういうの多いけど、なに、年のせい?」

 

「年齢の話はやめたまえ」

 

 呆れ顔のカオルと年齢の話題になると表情が消えるアーカード。他に誰もいないからと懲りずに会話を始めた彼らを見て、ゴンは「二人は知り合いなの?」と当然の問いを投げた。

 

「知り合いというか……私やアストルフォ、一方通行(アクセラレータ)の上司って感じかしら」

 

「立場としては対等なのだが、世間的には確かにそんな感じかな。私たちはとある事務所を営んでいてね」

 

 そう言ってアーカードは懐から二枚の名刺を取り出し、それぞれゴンとキルアに手渡した。

 

「えーと、『ヘルシング探偵事務所』……? おじさんはハンターなのに探偵なの?」

 

「その通り。まあ探偵と銘打ってはいるが、実質万屋のようなものでね。これでもヨークシンではそれなりに名の知れた事務所なのさ」

 

「最近は探偵らしい仕事なんてまッッたく入ってこないけどね」

 

「ははは、だが繁盛していることに変わりはない。何か困ったことがあれば、我ら『ヘルシング探偵事務所』を頼ってくれたまえよ」

 

 そう言って帽子を取り、気取った仕草で一礼するアーカード。「では引き続き頑張ってくれ」と告げて彼はゴンやカオルたちから距離を取る。見れば丁度後続の受験生たちが到着するところだった。

 

「探偵だって! 何かカッコイイ! それにオレ名刺なんて貰うの初めてだよ。ねえキルア……キルア?」

 

 ふとゴンが隣を見ると、キルアは何やら難しい表情で受け取った名刺を睨んでいた。

 

「どうかした?」

 

「いや……このヘルシングって名前に少し覚えがあってさ」

 

 キルアは数年前の出来事……珍しく疲れ切った様子で帰還した父の姿を思い起こす。特に怪我を負った様子はなかったのだが、そのとき彼は家内一同に対してこう告げたのだった。

 

 

『──ヘルシングの連中とは関わるな。奴らは割に合わん……色んな意味でな』

 

 

 凄腕の暗殺者である彼をして「割に合わない」と──妙に含みのある物言いだったが──言わしめたヘルシングの名をキルアはしっかりと覚えていた。まだ幼かった故かそれが何なのかまでは聞かされなかったが、名前だけは強く印象付けられていたのである。

 

「ヘルシング探偵事務所……何者なんだ、アイツらは」

 

 赤い外套の偉丈夫、アーカード。黒髪の少女、カオル。白髪の少年、一方通行(アクセラレータ)。そして少なからず親しくなったピンクブロンドの髪の少女、アストルフォ。そんな四人から成るヘルシングとは、一体──

 

 

 キルアは知らない。まだこの場にはいない、もう一人のメンバーがヘルシングにはいることを。

 そして、その最後のメンバーが二次試験の試験官として立ちはだかる未来が迫っていることを──キルアは、まだ知らない。

 

*1
動く歩道こと水平型エスカレーターの通称。ムービングウォーク、トラベレーターなどとも呼ばれる。空港や地下街などに多いが、HUNTER×HUNTERの世界に実際にあるかどうかは不明。




実はまだアストルフォが男であることに気付いてないゴンとキルアでした。

何か期待させるような締め方しましたけど、いい加減本編の執筆に戻ります。流石に完結間近でいつまでも停滞してるのはアカン。
すまないがエミヤ君! キミの出番は当分先だ! 悪いね!
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