Jingle All The Way To Triumph 作:TAC/108
「よう
冬の寒さが深まる頃の話だ。と言っても、この場所は年中豪雪に見舞われているので季節感などあったものではないが。
南極の山嶺に存在する、人理継続保障機関フィニス・カルデアの施設は、何度目かのクリスマスシーズンを迎えていた。
所属するサーヴァントやスタッフ達は、日々の労苦を労ったり、ある者は稚気じみてクリスマスの贈り物に思いを馳せていた。
カルデアに所属する唯一のマスター、
その日の準備を終え、窓辺に座りながら疲れた体をほぐしていた時、彼女の傍らに現れたのは、軍服を着崩した屈強な大男だった。高級な銘柄の葉巻を吹かしながら、男は話しかけてきた。
「まあ、大変だけど楽しいよ」
「そうか、そりゃ良かった。冬は冷える。オレもロシアでそれを痛感させられたが、まあそれはそれとしてクリスマスは楽しいモンだ。オマエは特に楽しめ。未来ある若者であるからにはそうあるべきだろ?」
「ありがと、皇帝陛下」
「良いってコトよ!」
皇帝陛下。この男は立香から冗談めかしてそう呼ばれることがある。
初代フランス皇帝であり、数々の遠征によりフランスに栄華を齎した凱旋の王。人々に願われ、伝説を成し遂げた偉大なる皇帝。砲兵としての経験からか、彼は勝利砲という巨大な砲台を扱うアーチャーとして召喚されている。
二人は他愛の無い話に花を咲かせた。いつぞに食堂で誰が大ポカをやらかしたとか、夏の夜に特異点で見た星空が綺麗だったという程度の話だ。だがその何でもない平和こそ、立香にとっては何よりも尊いものだった。
……ところが。
「
平穏を打ち破る、騒々しき白い影が舞い込んだ。
「リリィちゃん、どうしたの?」
「オーララ! あの聖女サマ……の別側面の、幼少時代、で良いんだよな? 名前は確か……」
「あ、初めまして、ナポレオンさん。私はジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです。呼びにくければ『オルタ』でも『リリィ』でも構いませんよ?」
白い髪、金の瞳、そしてクリスマスに相応しく赤と緑で彩られた服装。可愛らしい少女の姿をした彼女もまた、カルデア所属のサーヴァントだ。
クラスは
さて、何やら大慌てのジャンヌ・リリィは、懐から書状を取り出し、その内容を立香に見せる。ところが立香には読めない。文字は非常に美しく達筆であり、著者の教養の深さを感じさせる優雅な書体だ。だがそれは見慣れぬアルファベットの列であり、おそらくはドイツ語かフランス語であるらしかった。カルデアに来るまではごく普通の学生だった立香には読めない。代わりにナポレオンが手に取る。しばし唸った後、ナポレオンは内容を告げた。
「簡潔に述べるとだな……サンタクロースなんざいねえ、それを証明するために挑戦を申し込む。以下の座標にて『三人の王』と共に待つ……だそうだ」
「サンタがいない!? 言語道断ですね!」
リリィが怒りと共に地団駄を踏む。サンタの非存在とは即ちリリィの存在の否定である。こうも言われては退けない。
「ああ、厄介な事態が起きる予感しかしねえ。急ぐぞ
「わかった! 急ぐよ、リリィ!」
かくして三人は管制室に向かう。目標は一八四四年、ドイツ・ライプツィヒ郊外のある村であった。
◆◆◆
石造りの古風な四重塔が、静かな村の一角に佇んでいる。雪に晒され続けて白く染まったその塔の第三層に、二人の男がいた。
一人は塔の主らしき男。もう一人はポークパイハットを被り、黒いマントを羽織った色白の男である。
「何の真似だ、コレは。あの二人の様に呪縛するでもなく、オレのみをこうして放し飼いにするなどと」
「どのみち、脱獄の逸話のある君であってもここからは抜け出せないし、また私の言葉も、君には届かない。むしろ君のような人間は、私の弱点とも言える存在だ。だからこそ乗り越える意味も生じるというものだよ」
塔の主は、色白の男に楽しげに語った。それが面白くなかったのか、色白の男は憮然とした態度で塔の主を見据えた。
「私はただ、知りたいのだ。存在の意義というものを。サンタクロースはその材料だよ。非実在と実在の境界線にあるモノ。私はそこに何か意味を見出したいのだ」
「ふん、勝手にしろ。せいぜい食い破られぬよう気をつけておけ。たとえこの無限獄であろうと、オレが抜け出さぬ保証は無いと知れ」
「それはそれで、むしろ期待しているとも」
塔の主はそう言って、最上層へと去っていった。
色白の男は、カルデアから連れて来られた『三人の王』の一人だ。彼はこの明かりもロクに存在しない塔の第三層に一人閉じ込められた。この塔からの脱出は現状不可能であった。そのため彼は一人、カルデアのマスター・藤丸立香の救援を待たざるを得なくなったのだ。
「……いつぞやを思い出すな。かの監獄島に比べれば随分とマシだが……気をつけろ藤丸立香。お前はこの塔に囚われてくれるなよ」
冷え切った空気を、男の言葉が震わせる。
藤丸立香一行が向かうは、精神を時間から切り離す不壊の無限獄。
西暦一八四四年、ライプツィヒ郊外にそびえ立つ石塔である。
クリスマスまで、あと五日。