Jingle All The Way To Triumph 作:TAC/108
英雄王ギルガメッシュ。
紀元前、中東のシュメル文明に端を発する英雄。半神半人の暴君であり、杉の森の怪物フワワを倒した者。朋友エルキドゥの死を契機に不死を求め、その果てに国を治める賢王となった男。
立香はかの英雄王について仔細を完全に把握しているわけではないが、英雄王が制御の利かない恐ろしい英雄であることはよく知っていた。いつぞの秋……カルデアでは恒例行事となっていた『ネロ祭』を開催用の資金諸共裏から掻っ攫い、ニューヨークにて自らが主催の『バトル・イン・ニューヨーク2018』を開催した事件は記憶に新しい。
とかくそういった『財力にモノを言わせた策略』については手が早くまた力強い運営を行う人物である。逆説的に言えば、彼がクリスマスに欲するものがあるとすれば……
石塔の階段を上りながら、立香とナポレオンはそう結論づけていた。
◆◆◆◆◆◆
立香とナポレオンは、アルテラサンタの支配する第一層を越えて、第二層に辿り着こうとしていた。ちなみに先の戦闘で使用した戦車……もといソリは損傷が激しく、塔の外に運び出されたのち、野晒しにされている。ナポレオン曰く、修理はダ・ヴィンチに依頼するそうである。
立香が扉を開けると、以前来た時と変わらない、夜の祭壇が姿を見せる。辺りは煌々と篝火に照らされ、夜の風景を映し出していながら、室内は明るく感じられた。
そしてその中央にはギルガメッシュが立っている。これも以前とは変わらない……というわけでもなかった。
「えーっと……賢王、もといゴージャスP? どうしてここに?」
立香が疑問を口にした。
祭壇の中央にいるギルガメッシュは、黄金の鎧を着ていない。紺のジャケットに灰色がかったジーンズを着用し、両手首には金のブレスレットを着け、金のネックレスが開襟した胸元から覗いている。全て高級ブランド品であり、それを自然に着こなしている姿は黄金の王と呼ぶに相応しい。手に持っているのは金色のタブレット端末。これも彼の私物にして魔術礼装の一種であるらしい。
この姿のギルガメッシュは、神の獣を打ち倒し、数々の冒険を行った英雄王ではない。不死の探索を経て成長を遂げ、国を治める賢王となったギルガメッシュである。
クラスは
賢王・ギルガメッシュ……もといゴージャスPは、手元のタブレット端末を弄びながら、ちらと視線を立香達の方に向けた。
「謁見を許す。こちらに来るがいい」
その言葉に突き動かされるように、立香達は自然と足を踏み出していた。五メートル程歩くと、賢王は無言で手を翳す。制止の合図であった。
「さて、コレが
「そうだな」
「今度は、大丈夫……だと思うんだけど……」
『二度目』という部分を殊更に強調するギルガメッシュ。根に持っているのだろうか。
「さて、クリスマス・イヴに至ってこの
「へえ、アンタにしちゃ随分と殊勝じゃないか……さすが人類最古の英雄王は言うこと為すこと違うってか」
「フ、言い回しは傲岸だが、クリスマス故特別に許す。話の続きだが、ニューヨークの闘技祭で想定以上の収入を得られたのでな、その資産をクリスマス分に回すことも大いに可能であった。そこで、コレだ!」
ギルガメッシュは宝物庫から目録を取り出し、立香に投げ渡す。目録を開くと、そこには『極秘ファイル:ゴージャス・クリスマス計画』と題された、大規模なクリスマスプレゼントの配布プランが記されていた。
「ゴージャス?」
「クリスマス?」
「フハハハ、聞いて驚け。クリスマスプレゼントの大規模大量生産及び即日配達プラン、名付けてゴージャス・クリスマス計画! アマゾネス・ドットコムとライオンヘッドを多額のQPで買収し、実行は秒読みに入っている。クリスマスプレゼントとあっては、要望に応じた品を確実に届けなければならん。よって生産プラン明確化のために要望リストを製作し、署名を募っているところだ。どうだ、貴様らにも恵んでやろう。案ずるな。こと祭日にあって、金と資材には糸目をつけぬ。
計画の全容を聞いた瞬間、立香とナポレオンは一つの理解に至った。
『なるほど、
要望に応じたクリスマスプレゼントの配達サービス、それ自体は確かに合理的と言えよう。しかし、サンタクロースにとって何より重要なある部分が、決定的に損なわれる。
「なあ、無礼を承知で尋ねるが」
「む?」
「アンタ、
「フッ、蒙昧極まる問いだな。だが赦す。サンタクロースとはな、要望に応じたプレゼントを配る
「……ソイツは、神様の仕事だ。サンタの役じゃねえ」
「吼えたな、雑種。では聞かせよ。サンタクロースとは何だ?」
「決まってんだろ、『夢を与える
間髪を容れず、根本的な疑問に目を向ける。そもそも、この塔に閉じ込められたのは
果たしてギルガメッシュの答えは、至極単純なものであった。
「それこそ愚問よ。
「あの、英雄王」
一つの確信を得た立香が畳み掛ける。聞けば確実に、英雄王が真の姿を現すであろう、禁断とも言える質問。
「何だ」
「サンタクロースになろうとしたのは、どうして?」
「知れたこと。
「……貴方も欲しがっていたのに?」
彼とて、欲しがっていたはずだ。
届かぬ星と知りながら、尊きモノとして見据えた彼女と肩を並べる奇跡。
聖夜の奇跡に不可能は無い。御伽噺と知っていながらも、児戯にもならぬ希望と断じながらも、英雄王は信じたのでは?
賢王は目を伏せる。僅かな間を置いて顔を上げると、黄金に輝く髪をかき上げる。宝物庫を展開し、黄金の鎧を着込んだ。その瞳は爛々と輝き、普段通りの怜悧さを湛えた笑みを浮かべると、次の瞬間には呵々大笑し始めた。
「ふ、フフフハハハ! ハハハハハハハハ!! ク、フフハハハハハ!! 成る程、これが笑わずにいられるか! まさかこともあろうに貴様ら雑種が、この
普段の英雄王が、戻ってきた。アーチャー・ギルガメッシュ、ここに再びの降臨である。
ひとしきり笑い終えると、普段よりも活力を感じさせる視線と声を、立香達に向ける。
「だが、それはそれとしてよくも謀ってくれたな?
「塔の主……あのルーラーの視線にやられたリリィを思い出してな。アンタの言動が腑に落ちなかったのも、つまりは塔の影響だったと。アルテラサンタはまだマシな方だったが、それは要するにアンタを縛り付ける分にリソースを多大に割いたってコトなんだろうさ」
立香も頷く。言われてみれば不自然極まる話だった。英雄王ともあろう者が、クリスマスに無償でプレゼントを配るなどあり得ない。仮にそのような事態になったとしても、彼ならばその倍のリターンを何らかの方法で手に入れる策とセットで行うに決まっていたのだ。高ランクの黄金律持ちは伊達ではない。
つまり、ギルガメッシュの不可解な言動の数々は、何らかの外部からの影響によって発せられたものということになる。
「なかなかの座興よ、前戯としては申し分無い! さあ本番だ。
正気に戻ったとて、塔自体の道筋は変わらない。英雄王を倒さねば先に進むことも、ジャンヌ・リリィを助けることも、クリスマスを安全に迎えることも出来ない。であれば。
「貫き、砕いて、押し通るまでだな。
「了解、戦闘配置について!」
「興が乗ったわ。頭を垂れよ……裁定の時だ!」
相対するは英雄王、立ち向かうはカルデア一行。
原初の財宝、地獄の波濤。
切り抜けた先に、何を見る。
つづく。