Jingle All The Way To Triumph   作:TAC/108

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第三層にて『第三の王』巌窟王を、激戦の末に制した立香とナポレオン。ジャンヌ・リリィを救うため、そしてこの騒動を終局へ導くため、最後の戦いに臨む。


再走・最上層:暗夜の果てに

最上層の扉が開く。内装も広さも以前と全く変わらない。ランプの置かれた机、壁に掛けられたランプ、一つ違いがあるとすれば……机に座っているのは、塔の主ではなくジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィであるという点のみだ。

部屋の中心には、塔の主たる男……裁定者(ルーラー)のサーヴァント、フリードリヒ・ニーチェが立っていた。

服装に変化はなく、彼が持つ超然とした雰囲気は全く失われていなかった。白目と黒目が反転したような、深淵を思わせる瞳が、立香達の方を向いた。

「久しいな、カルデアのマスター。そして……当代のサンタクロースとなった者。初代フランス皇帝、ナポレオン・ボナパルト」

「せいぜい三日ぶりだがな、フリードリヒ・ニーチェ」

「時間はさしたる問題ではないが……よく間に合わせた。クリスマス・イヴ、この日こそ我々の決着には相応しかろう。『Frohe Weihnaghten(メリークリスマス)』と言わせて貰おう」

些かの揺らぎもなく、裁定者は淡々と応じた。億劫げにも聞こえる、低く重苦しい声色。立香は彼の一挙一動が、不自然かつ超越的な何かを孕んでいるように見えた。

「此処に囚われた『三人の王』を、君達は正しく解き放った。その労力に報いるとしよう。最初にここに来た時には開示しなかった情報も含めて、全てを明かすと宣言する。具体的には……カルデアのマスター、君がかつて行った三つの質問に回答させてもらおう」

 

▲▲▲▲▲▲

 

では始めるとしよう。時間には余裕がある。

質問その一。『三人の王』の選定基準とは何であったか?

『三人の王』……アルテラ・ザ・サン〔タ〕、ギルガメッシュ、巌窟王(モンテ・クリスト伯)。なぜ彼ら三人が『三人の王』として選ばれたのか……それは彼らが本質的に持つ『孤独』の性質に由来するものだ。

 

英霊アルテラ、その起源は遊牧民族たるフン族の王アッティラに遡る。しかし彼女は生前より『他者より隔絶した、何らかの強大な力』を持っていた。英霊として再現されたアルテラはこの力を持って顕現するワケだが、それ故に孤独であったと言えるだろう。神性に程近い、人間世界とは異なる起源の力、そして一民族の王という立場こそ、英霊アルテラが持つ『孤独』の出自であると、私は考えた。

サンタクロースになろうとそれは変わらぬ。サーヴァントのクラスは、英霊の在り方を強調し、写し出すモノだが、『孤独に寄り添う』というアルテラサンタの在り方は……英霊アルテラが持つ孤独を、同時により強く表したとも言えるだろう。

 

英霊ギルガメッシュ。半神半人、太古の英雄王。天に近き者として、人類を見定める裁定者。故にその在り方は孤高でなくてはならない。彼は比較的分かりやすい方だったな。人と共に生きる……人の世を人であるがままに、人に寄り添って生きる賢王ではなく、孤高の存在、天より人類を見定める英雄王の側面が、今回の件においては相応しいというワケだ。

 

英霊巌窟王、またの名をエドモン・ダンテス。無辜の人民、マルセイユの船乗りに過ぎなかった彼は、無実の罪により獄に繋がれ、十四年の時を経て脱獄、モンテ・クリスト伯と名を変え、復讐を成した。最終的には復讐を止め、異国の寵姫エデと共に旅立ったが、復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントである()は事情が異なる。傍らにエデは無く、復讐鬼モンテ・クリスト伯爵としての側面を切り出された彼は、その在り方として『孤独』であると言えよう。

 

以上三名を私は『三人の王』として召集した。彼らは必然的に、何かしらの『孤独』を抱えた存在であるからだ。

 

質問その二。ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィに挑戦状を叩きつけたのは何故か?

それは『彼女でなければならなかったから』だ。今回の議題に応えるべきは、歴代のサンタクロースの中でも最も『実在から遠い』存在である彼女だ。

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。聖女ジャンヌ・ダルクの『反転(オルタナティブ)』、自らを魔女と認めたフランスに憎悪したという『空想』から生じた復讐者(アヴェンジャー)、その幼少期(リリィ)に、サンタクロースとしての側面を与えた存在。空想より生まれ、実在から遥かに遠ざかった彼女は、まさに奇跡めいた存在だと言えるだろう。

サンタアイランドとは何か?

意味深に仮面を被り、正体を隠す『師匠』とは何者だ?

そもそも聖女ジャンヌの幼少期とは何なのか?

一つ一つ、疑問を紐解けば見えてくることだ。それらは聖夜の幻想、うたかたの夢に過ぎぬ。それ故に『実在と空想の狭間の存在』であるサンタクロースの概念と、相性は良好であったのであろう。故にこそ、今回の件においては彼女である必要があった、というワケだ。

 

そして最後の質問。私がこの騒動を起こしたきっかけとは何だったか?

……私がサーヴァントとして召喚され、特異点を形成するに至った経緯にまで遡る。

私が最初に、()()()()()()()()()()()はこの部屋ではなく、また外に見える雪降る村でもない。ただ『私』という存在が認識できるだけの、何もない闇の中だ。闇の中に一際輝く何かを見出すまで、感覚的には五分とかからなかったがね。私がその『輝くモノ』に意識を向けた時、周囲の景色は一変した……闇は消え、辺りは私の出身地を模した、雪降る村となっていた。勿論、この石塔も存在していた。私の意のままに存在する固有結界として、私は塔の最上層に座すことにした。

『聖杯』と言うのだったな。人理が不安定になっている状態で発生した、微弱な魔力の流れ。それがやがてカタチを成し、私という存在を核として特異点なるモノを生み出すに至った。私の宝具、即ちは固有結界という形で具象化された、非常に微弱な特異点だ。人理そのものに影響を及ぼすほどの規模は無い。

 

そして此処が『特異点』として存在する以上、特異点(わたし)を観測する者がいる。人理継続保障機関カルデア。君達だ。

私は聖杯を通して君達を観測した。いわば聖杯をアンカーとして、カルデアとこの特異点を繋げたと言ってもいい。

観測した、といっても、まあせいぜいが映写機(プロジェクター)のように一部分のみを映し出す程度のものだ。そう規模の大きい話でもない。

生憎、こちらは特に使命を負ったわけでもなかったのでね。暫くはコレで暇でも潰そうかと思っていた。

そして私の目に映ったのは、君達が近日中に開催しようとしている、クリスマスパーティー用の飾り付けを行っている場面だった。微笑ましいものだ。

 

ふと、私は考えた。クリスマスに現れる存在。願いを叶え、奇跡を起こす『人間』である者、即ちはサンタクロースのことだ。

古来より奇跡とは神の領分だ。自然の恵みより始まり、人の心に希望を齎す奇跡。それを人の身にて行う者達の伝説が、一つの巨大な宗教を作り上げたように、一寸先も見えぬ未来に灯火を光らせるほどの精神的効果を成し得るのだ。

宗教とは信仰だ。不安を募らせる未来に『救済を齎す者』を仮定し、信ずる者に安寧や幸福を約束する。救済者に未来における己の幸福を依存し、委託する。大雑把に言えばこういう話だ。

『良い子にしていないと、サンタクロースは来てくれない』と諭されたことは無いかね。そういうことだ。サンタクロースとて、根幹にあるモノは同じと考えたワケだ。

 

神は死んだ。いや、神は死ななければならなかったのだ。

奇跡によって救済を齎す超越者。死後に魂の幸福を約束する神。それらは人の世においてはさして重要なものではなく、また人間自らの価値を損なってしまうものだ。人間にそんなものは必要ない。彼らは在るがままで美しい。

 

人は己を救済出来る。超常の救済者に頼らずとも、己の意志で己を救済出来るのだ。故にこそ私は問わねばならぬ。

 

サンタクロース、その存在を。奇跡齎す神の名残、彼こそ、私が相対し戦うに相応しい。

 

▼▼▼▼▼▼

 

「以上だ」

淡々と、しかしこれまでになく情感を込めて、フリードリヒ・ニーチェは語り終えた。

「なるほどねぇ。聖杯を使ってカルデアと接続していたからこそ、嬢ちゃんに手紙を送り付けることも、『三人の王』を従えることも出来たワケだ」

「然り。彼らは聖杯によって新たに召喚したサーヴァントではなく、カルデアから招いた者達だ。そして……聖杯はここにある」

ニーチェが虚空に手を翳すと、朧げに光を放ちながら、金色の杯が姿を現す。膨大な魔力の塊、特異点の核たる聖杯が、ニーチェの手に握られている。

聖杯をそっと机の上に置き、ニーチェは立香に視線を向ける。

「カルデアのマスター。私は以前、君に『答えを抱き、ここに来るがいい』と言ったが……君の中に、答えはあるかね?」

声色は穏やかだが真に迫る何かを孕んでいた。外的な感情の発露、その片鱗を立香は感じ取った。

立香はその上で、首を横に振った。彼女は未だ、この騒動の中に何かを見出すことは出来ていなかった。

「そうか。まあ無理もない。結論は()()()でも構わぬ。だが……貴様は別だ、当代のサンタクロース」

ナポレオンに視線が向く。その眼差しは戦意に満ちている。僅かな瞬間に、彼の存在感は物理的な重圧を錯覚させるまでに増大していた。常人であれば発狂は免れ得ない、重苦しい感情を湛えた視線だった。

「貴様こそは、私が求めた大敵。王なる者、願いに応える皇帝、そして神の名残たる奇跡を宿す人間(サンタクロース)よ。何故に貴様は、()()()()()()()

ナポレオンは絶大な重圧にも負けず、己の抱く答えを語る。

 

「オレは確かに、願いに応える英雄だ。だがこの姿になったのはオレ自身の意志だ。誰が求めたワケでもなく、オレ自らがそうすべきと判断した。誰が願うでもなく、オレ自身がだ。けどな、サンタクロースの役割は、大それた奇跡をやらかすことじゃあないのさ。それはな、()()()()()()()()()()()()だ。人間は独りでは生き辛いモンだ。心の中に、共に立つ誰かを、或いは窮状を救う何かを願う。未来はどうしようもなく闇の中で、多くの人間はその中で今を生きる。だからこそ、だ」

ナポレオンは剣を抜き、切っ先で天を指す。

「オレに出来るのは、夜空に輝く星のように、闇を照らす光として在ることだ。それがオレにとって『誰かの孤独に寄り添う』ッてことなのさ」

 

ニーチェは無言で聞き入っていた。それは『敵』として向き合ったナポレオンに対する、彼なりの敬意でもあった。

そしてナポレオンが語り終えた後、彼は静かに言った。

「そうか。それがサンタクロースか」

真正面から己と対峙したこの男は、己と完全に主義を逆とする者だ。

ならば最後に交わすのは、表層に溢れ出る言葉程度では足りない。

 

立香は瞬時に強烈な重圧を感じ取った。それまでに感じていた、粘質で重苦しいものではない。荒れ狂う暴風の如く、前に進む足を止める強大な力。激しく熱を持つ鋼鉄の壁めいたプレッシャーが、目の前に立つ男……フリードリヒ・ニーチェから発せられているのを察した。

「皇帝陛下……!」

「おう、感じるぜ。何て重圧だ、コレが人間の出せる力なのか?」

ニーチェは確たる信念を持って、これより完全な『敵』となる。

あまりにも力強い意志を、二人は肌で感じ取っていた。

最上層の内部は、その姿を全く異なるものに変えた。無数の星が瞬く夜空……いや、違う。空ではない。立香の立つ床にすら、星の光が瞬いている。

宇宙だ。この世界は宇宙そのものを模している。

更にはニーチェの姿までもが変化する。肌も、衣服も、髪の毛一本に至るまで完全な白一色に染まり、ただ目だけが暗黒を湛えている。ブラックホールめいた黒い眼に、白色の恒星じみた白い瞳が現れる。全身から滲み出る、炎のように揺らめく何かは、恐るべき力の奔流、即ち彼自ら発する、絶大な意志の力を、オーラめいて纏っているのだ。

「聖杯に依るものではない。これは私自らの力だ。世界に生き、世界を変える人の力。奇跡に依らずして世界を塗り変える、意志の力だ」

ニーチェの声が幾重ものエコーを伴い響き渡る。クレバスの底から響き渡るような、低く重苦しい声が、立香達の耳に突き刺さる。

「これで最後だ。行こう、ナポレオン!」

「ああ……最後の大仕事だ! ついて来な、マスター(メートル)!」

ナポレオンが剣を構え、立香が後ろに退がった。

 

「では、最後の議論を始めるとしよう。当代のサンタクロース、ナポレオン・ボナパルト。全霊を賭して、私はお前を捩じ伏せ、粉砕する。奇跡を夢に還し、夜明けと共に消えるがいい。だが……或いは、その刃が私を超えて行くと言うのなら——」

孤高の裁定者とサンタクロース。

最後の闘いを告げる鐘が鳴る。

 

「その力を、可能性を、見せてみろ!」

 

つづく。

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