Jingle All The Way To Triumph 作:TAC/108
一八四四年のライプツィヒ郊外に建つ、謎の石塔に入り込んだ藤丸立香一行。石塔の第一層に待ち構えていた『三人の王』の一人目は、カルデアの三代目サンタクロース、アルテラサンタであった。
カルデアより連れて来られた彼女は、わけあって第一層の門番として、立香の前に立ちはだかるのであった。
「準備はいいな、
「いいよ、でもほどほどにね!」
「
満点の星の下、白銀の大地で向き合うは藤丸立香率いるカルデア一行と、石塔に閉じ込められし『第一の王』アルテラ・ザ・サン〔タ〕。
先手を取らんとナポレオンが武器を抜く。それは鉄塊じみた武骨で巨大な砲台であった。およそ常人が持てるサイズではない。
人呼んで『勝利砲』。ナポレオンがアーチャーのクラスで召喚されたのは、彼が生前に砲兵であったことに由来するが、この砲はそれが彼なりに
「ぜえりゃッ!!」
轟音と共に巨砲から砲弾が放たれる。紛うことなき先制攻撃。だが、これを避けられないアルテラサンタではない。
羊と共に空中に飛び上がる。弾丸は空を切り、アルテラサンタの後方で爆発を起こした。
「まあそう上手くはいかないよなァ……リリィ!」
「お任せ下さいッ!」
アルテラサンタが上を見遣ると、槍を構えて飛びかかるジャンヌ・リリィの姿があった。
一直線に向かってくるリリィを、虹色に輝く杖で迎え撃つ。
空中で何度も二人は打ち合う。両者互いに譲らぬ激しい攻防戦を展開した。
「私は先輩ですからね……カッコ悪いところは見せられません!」
「私も、サンタの後輩として負けてはいられないな」
アルテラサンタはリリィから飛び離れると、虹色の杖から鞭の様にしなる虹の刃を飛び出させ、リリィを拘束した。刃と言っても、サーヴァント・アルテラの本来の宝具『
「なんてバランス感覚だ、ありゃぁ!?」
いくらツェルコが安定しているとはいえ、その上で鮮やかなジャイアント・スイングを決めているのだ。正気の沙汰とは言えない。
「そおれ、ぐるぐるぐるぐるー」
「わわわっ、目が回りますーー!?」
「マズイな……マスター、一つ頼みがあるんだが聞いてくれるか?」
ナポレオンが立香にある『秘策』を耳打ちした。
立香は一瞬躊躇ったが、その策は状況の打開策としては悪くない。
……
「大丈夫なの!?」
「安心しな、死にはしない。いいか、オレが合図をする。そうしたら
立香は頷くと、ナポレオンが指定した位置に向かった。
「ぐるぐるぐるー」
「あうう……世界が回って……」
ナポレオンは勝利砲を構える。狙うはアルテラサンタ……ではなく、彼女のキャンディケインから伸びる刃である。
「コイツで……どうだ!」
先程よりやや小さめの弾丸が飛ぶ。弾丸は大回転する虹の刃に過たず命中した。
「あ」
「はぇ?」
アルテラサンタは大きく態勢を崩し、
「わぁぁぁぁぁーーー………」
しかし虹の鞭はリリィに巻きついたままだ。スイングの勢いがある程度殺されているとはいえ、空中で身動きの取れないリリィは重力に従って落下していく。
「しまった!」
「届けぇぇぇッ!!!!」
大音声を張り上げて、落下するジャンヌ・リリィに飛びついた者がいた。誰あろう藤丸立香である。
ジャンヌ・リリィと諸共に雪の大地を転がっていく立香。それを驚きの視線で見つめていたアルテラサンタを、ナポレオンの砲口が狙う。
「すまんな、大王サマ。少し眠ってもらうぜ」
轟音、そして着弾。第一の王は黒煙を上げて墜落していく。
◆◆◆◆◆◆
「ん、うぅ……ここは……」
「あ、起き——痛ったあ!?」
ジャンヌ・リリィが目を覚ましたのは、星空の下ではなく、煌びやかに飾り付けられた部屋の中であった。
彼女は飛び起き、状況を確認する。頭頂部に奇妙な衝撃を受けつつ、回りを見渡した。
クリスマスツリーの頂点に突き刺さったアルテラサンタ。ツリーの下で葉巻を吹かしているナポレオン。そして彼女のすぐ近くには、何やら痛そうに鼻を押さえる立香がいる。
「いたた……」
リリィが起き上がった瞬間、彼女の頭が立香の鼻にぶつかったのだ。
「——はわわ!
「うん、大丈夫……」
その様子に気づいたナポレオンが、遠くからリリィに声をかけた。
「目は覚めたか?」
「はい、もうバッチリです! それで……私達、勝ったんでしょうか?」
「おう。アルテラを撃ち落としたら、この空間が元に戻ったのさ。それにしても妙な結界だったぜ。この塔のご主人サマが、あの空間を作ってたのか……?」
「まあ、ひとまずは勝ったということで。次の階に進もう!」
堂々巡りの推論を打ち切るように立香が言う。
足並みを整え、三人は次の階へ向かう。
誰もいなくなった部屋の中、アルテラサンタは何かに取り憑かれたように呟いた。
「気をつけよ……三人とも気をつけるのだ……ここを切り抜ける方法は一つだけだ……塔の主を……」
その警告は、果たして彼らに届くであろうか。
◆◆◆◆◆◆
扉の先は、螺旋階段となっていた。明かり一つ無い回廊を、一直線に進んでいく。
「暗いですねぇ」
「さては内装をケチったな? 冬は冷え込むッてのに……お前さんは大丈夫か、
「いや、特に寒かったりはしないよ。多分、この塔の効果なのかも……」
立香がこの塔に入ってから……いや、入る前から何か違和感を感じていたことがあった。それは、『寒さを全く感じない』ことである。
思えば、この世界は色々とおかしな点がある。
なぜカルデアにいたはずのサーヴァントがこちら側に連れて来られたのか。
なぜ塔の外に人の気配が無かったのか。
なぜ雪が降っているのに、サーヴァントはおろか、ただの人間である立香ですら寒さを感じていないのか。
そんなことを考えながら進んでいくと、闇の中に扉を発見した。暗い場所に目が慣れてきた証拠である。
「ここに、第二の王がいるってワケだな」
先頭にいたナポレオンが、その扉を開けた瞬間——
三人は目を焼かれるような感覚に陥った。
二つ目の部屋は、王宮が如き豪奢な部屋であった。
赤、青、緑、紫……数々の色の輝きを惜しげなく散りばめたような色彩の暴力。それら全ては宝石によって織り成されていた。
天井には巨大なシャンデリアがいくつも吊り下げられている。
壁や床は古代ギリシャの神殿を思わせる作りだが、それら全てが
だがそれらの中で尚異彩を放つものがある。部屋の中央の玉座……そしてそこに座する、黄金の鎧を着た男だ。
全てを射抜くような赤い瞳、逆立った金髪、憮然とした表情。
「そんな!?」
「あれが、第二の王……」
「ウソだろ……英雄王だとッ!?」
「遅いわ、雑種共!
玉座に座る男……英雄王が怒りと共に声を張り上げる。
その男に誰もが驚いた。
彼こそは英雄王、即ち『英雄たちの王』。
世界を見据え、全てを見通す裁定者。
世界最古の英雄とも言われる、神々の時代を生きた王。
彼こそは……
つづく