Jingle All The Way To Triumph   作:TAC/108

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クリスマスの妨害を企んでいるらしき謎の書状に導かれ、石塔を登る藤丸立香一行。石塔の第一層に座する『第一の王』アルテラサンタを退け、第二層に辿り着いた彼らが目撃したのは、『第二の王』として石塔に現れた、英雄王・ギルガメッシュであった。


第二層:Last Lonely Christmas その1

「遅いわ、雑種共! (オレ)をここまで待たせたのだ、対価は払って貰うぞ?」

英雄王・ギルガメッシュは憮然と言い放つ。

相変わらずの上から目線ではあるが、ここまで来れば恒例行事の感すらある。

「待たせたな、英雄王! 時間は取らせん、手早く移るとしようぜ」

ナポレオンは既に臨戦態勢だ。アルテラサンタとの交戦で、塔を登る際のルールを掴んだらしい。

だがギルガメッシュの方は何か妙にそわそわしている。平時からは考えられないような微妙な表情だ。

「——ふむ、まあ……そうよな……」

いや、様子がおかしい。立香は英雄王の表情に既視感を感じていた。アレに良く似た表情を知っている。しかし喉まで出かかったその記憶は、ナポレオンの質問に掻き消された。

「何か気にかかることがあるのか、英雄王ともあろう者が?」

ナポレオンが問い質すと、ギルガメッシュは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作り、何事か語り出した。

消え入るような声で語られる内容からは無念さが滲み出ており、それはナポレオンに対する返答というよりは自分に言い聞かせるような声色だった。

 

「……いや、良い。良いのだ。(オレ)とて分別はある。たとえ二〇一五年のクリスマスが、無為の時間を一人で過ごす代物だったとしても。次、また次があると思えばこそ我もまたクリスマスを待ち遠しく思えたのであろうに。いや、ならぬ。シドゥリからも苦言を呈されたな。『貴方は城壁持つウルクの王なのですから、せめて未来ある子供に対して格好がつくように大人として分別を持ってください』と……だがまあ……辛いものは辛いな……」

 

声の主以外の誰もが、唖然とした。

立香はあんぐりと口を開け、ナポレオンは何か見てはいけないものを見たような表情になり、ジャンヌ・リリィに至っては余所見をして妙に拙い口笛を吹き始める始末。

当然である。

 

あの英雄王が、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

自分は分別ある大人だから悔しくない。間違ったプレゼントが来ても辛くはない。

肩を落としてギルガメッシュが一人呟き続けている内容は、あまりに物悲しい内容だった。

 

立香は瞬間的に理解する。英雄王が浮かべた微妙な表情の正体を。

それは……いわゆる『コレジャナイ現象』だったのだ。

一般家庭において、その現象は稀に発生する。

誕生日、クリスマス、就学祝い、はたまた平時のお使い……様々な状況で見られる『頼んだモノと異なる物品を贈られる』現象。

特に高額な費用をかけた商品であれば、相手の善意を慮って中々無碍に出来ないものだ。理由が何であれ、コレジャナイ現象は人間の心理として誰も幸せにならない結果を生みやすい。

誰もが言った。『頼んだのは、これじゃない』。

ギルガメッシュはまさに、コレジャナイ現象の被害者だったのだ。

 

「(あー、その、何だ。コレは……どうするんだ?)」

ナポレオンがジャンヌ・リリィに囁く。状況打開のためと言えば聞こえは良いが、ナポレオンがジャンヌ・リリィに向けるのは縋るような目つきだった。

「(今更、欲しかったプレゼントなんて聞けませんよ……そもそも私、アルトリア先輩にこう言われてるんです。『英雄王には出来るだけ関わらん方が良い』って)」

「(つまり、欲しいプレゼントが無いから英雄王はアレになってるのか。……マジなのか? いや、だとしてもリアクションが大きすぎないか!?)」

「(あの、お二方。英雄王が物凄く微妙な表情でこちらを見つめているんですけど)」

二人の密談に立香が割って入る。玉座を見やると、ギルガメッシュは目を細めてこちらをじっと見ている。

「貴様らはサンタクロースなのだろう。プレゼントは無いのか」

声に抑揚が無い。見ているこちらの胸が痛くなる。期待の全てを削ぎ落とした虚無の声色である。瞳からも光が失われ、ついには頬杖をつき始めた。

こうなっては埒が明かない。一念発起、ナポレオンが真実を言い渡す。

「悪いな、英雄王。オレ達はプレゼントを届けに来たワケじゃないんだ。オレ達がこの塔の主のシケた面を拝んでから、いくらでも願うと良い。まあ、何だ。先に通しちゃくれんかね?」

「(言ったァー!?)」

「(意外と容赦ありませんね、初代フランス皇帝……)」

後ろで二人が呆れる中、堂々と真実を言ったナポレオン。

それに対しギルガメッシュは……みるみるうちに目に光を取り戻し、玉座から立ち上がり、怒りと威厳に満ちた表情で声を張り上げた。

 

「貴様……プレゼントが無いと言ったな。今であれば代替品でも赦してやろうと思っていたところに、貴様は事もあろうに『プレゼントは無い。先を急ぐから通せ』だと? 冗談ではないわァ!」

 

瞬時にギルガメッシュの周囲に、いくつもの『穴』が開く。ギルガメッシュの宝具……世界のあらゆる技術・宝具・物品の『原典』を納める異次元の宝物庫『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』だ。それらの穴からは、世界各地の魔剣や宝剣など、多種多様の宝具が覗く。

危険なスイッチが入ってしまった。ナポレオンの宣告は、今のギルガメッシュの精神状態を考えればあまりに残酷だったと言えよう。いや、英雄王でなくとも、あの宣告には怒りを覚えただろう。

だがナポレオンは、『まさに狙い通り』といった表情でニヤリと笑ってみせた。つまり、英雄王を怒らせ、無理矢理に戦闘状態に持ち込もうというのだ。無謀極まる。

「オーララ! 少々強引なやり口だが、コレで戦闘には持っていけるな」

「狙ってたの?」

「おうよ。そら、気をつけな。空間が変われば、そこはもう戦場だぜ!」

 

部屋全体の空間が歪み、次に現れたのは……石造りの祭壇だった。

かつて彼自身が治めたウルクにそびえる聖塔(ジグラット)の頂上を思わせる、夜空の下の祭壇。

「その不敬、その罪業、もはや裁定するまでも無い! 塵芥すら残さぬわ!」

「下がってな、来るぞマスター(メートル)!」

マスター(トナカイさん)、支援をお願いします!」

 

動機が何であれ、相対するは世界最古の英雄王。

音に聞こえし無数の宝具が、その宝物庫より飛来する。

迎え撃つはカルデア一行。

ジャンヌ・リリィとナポレオンは、臆することなく正面に立ち、波濤が如き猛攻に立ち向かう。

 

つづく

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