Jingle All The Way To Triumph   作:TAC/108

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第二層の番人、英雄王ギルガメッシュと相対したカルデア一行。しかしギルガメッシュは、何やら求めていたクリスマスプレゼントが無いことに(どういうわけか)心底落胆しており、とても戦闘どころではない。しかしナポレオンの機転で英雄王が激昂し、第二層での戦闘が開始する。



第二層:Last Lonely Christmas その2

ギルガメッシュの宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』より、無数の武具が飛来する。

だがこの程度は小手調べ。立香(りつか)とて英雄王とは三年以上の付き合いだ。戦闘パターンの一つや二つは把握している。

「(回避はこの場合悪手……だったら……)皇帝陛下、突撃お願い!」

了解(Oui)、押し通るぜ!」

ナポレオンは雨の如く襲い来る刃に向けて突撃する。紛うことなき直撃コースを、砲撃の反動を利用した急速方向転換で潜り抜け、英雄王を爆発の煙に巻きつつ接近する。

「チィ、小癪な……」

「やぁぁッ!」

第一波が止むと同時にジャンヌ・リリィが煙幕の中のギルガメッシュを狙う。気合一閃、槍の穂先が黄金の鎧を捉えた。金属が高い音を立てて擦れ合う。

明らかにギルガメッシュは冷静さを失っている。慢心が体の一部とも言うべき彼ですら平時はこれほどではない。付け入る隙はある。

「貰った——」

「などと、言わせるものかァッ!!」

「何ッ、しまっ……!?」

煙幕の中を飛び回るナポレオンの動きが止まった。宝具の直撃とも異なるそれは……鎖であった。

ギルガメッシュの持つ宝物の一つ『天の鎖(エルキドゥ)』。神獣すら縛ってみせたとされる神の鎖。神に近い者ほど、その縛りは強固なものとなるが、たとえ神性を持たないナポレオンであってもその動きを縛るには十分な強度を持っていた。

「オーララ……マジかよ……」

「よもやコレを使うことになろうとはな……もはや後悔する暇も与えぬ。八つ裂いてくれる!」

怒りの混じった声色で宝物庫より取り出した剣を振るう。煙幕を一瞬で取り払った剣閃は、突撃姿勢のジャンヌ・リリィすらその余波で吹き飛ばす。

「ハ、終わってみれば呆気ないものよ。児戯にすらならぬ」

挑発するように高笑いを始めたギルガメッシュ。

……今なら、隙がある。慢心が鎧を着て歩いているような男だ。さしずめ、戦闘でストレスが発散されて平時より増長の度合いが増しているのだろう。

「(ナポレオンが捕らえられた、となると)……私が時間を稼ぐしかないか……」

立香が決然と歩み出す。

覚悟は決めた。後はやるだけだ。

立香は英雄王を指差す。狙うは頭部。チャンスは一回だけ。

「雑種め、何を思いついた? ……まあ良い、その遊戯に付き合ってやろう。我を愉しませてみせ——ガ!?」

一筋の光条が飛ぶ。必殺必中、ここぞという時に頼れる補助魔術。

自らの礼装に仕込まれた『ガンド』の魔術を英雄王に喰らわせる。

まさに致命の一撃(クリティカル・ストライク)。頭部にガンドを撃たれたギルガメッシュは完全に硬直した。

「リリィ、宝具お願い!」

「聖なる夜。ステキでムテキなキセキの一瞬!」

ジャンヌ・リリィが槍を掲げる。

 

良い子には聖夜の加護(プレゼント)を、悪い子にもお仕置き(プレゼント)を。クリスマスを祝う者に、等しく聖夜の贈り物を。

謳うは聖夜の不文律、顕現するは聖誕の祝福(たくさんのプレゼント)。平和のひと時を謳う福音(ほうぐ)の名は——

 

「『優雅に歌え、かの聖誕を(ラ・グラスフィーユ・ノエル)』!」

 

英雄王の真上から、無数のギフトが降り注ぐ。

比喩ではない。クッキー、ケーキ、ぬいぐるみ。全てが幻想から生み出されたものだが、何もかもが真実である。

ギルガメッシュは唖然としながら、プレゼントの山に埋もれていく。

決して数では、英雄王の宝物に勝るものではないだろう。

だが、平和で静穏なるひと時に捧げられた、無辜の祈りの尊さにおいて、この宝具に比肩するモノは数えるほどしかないと言える。

 

時間が経ち、プレゼントの山は光となって消えた。

その中から現れたギルガメッシュは、大の字になって寝転んでいる。気を失っているようだ。空間も元の姿を取り戻し、今ではギラギラと黄金に輝く一室となっている。

「ヒューッ、やるな嬢ちゃん!」

いつの間にか縛鎖より抜け出ていたナポレオンが声を掛ける。第三層に続くドアはナポレオンが開けていた。

「無事でしたか?」

「おう。にしても凄まじいモノを見たな……あんな感じなのか、バビロニアの英雄王ってのは?」

倒れ伏すギルガメッシュを見遣りながら、ナポレオンが言う。立香は首を横に振って答えた。

「いや……普段でもあそこまで酷くはないと思う」

「塔の効果なのかねぇ……アルテラサンタも、態度はあれだが問答無用って雰囲気もあったしな……」

「今は次に進みましょう。この塔を攻略すれば、きっと全て分かりますよね」

「……そうだね」

何か、引っかかるものを覚えつつも。

三人は次なる部屋へと歩みを進めるのであった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

四層構造の石塔、その最上層はどの部屋よりも簡素な設備だ。部屋全体も他と比べるとやや狭い。

外を覗く鉄格子が一つある以外には、外の様子を確認する術は無い。

ドーム状の室内を円形に囲む大量の光の点は、全てが煌々と炎を揺らめかせるランプだ。

格子の側に置かれた机に置かれたランプの光が、そこに座る男を仄かに照らしていた。

灰色のスーツに身を包み、髪を後ろに下げた、ヨーロッパ系の男。

組んだ両手を額に押し当て、じっと目を瞑っている。

その両目……虚無的でありながら超然とした雰囲気のあるその目が開かれる。

険しい目つきで、男はこう独り言ちた。

「残念だ。彼らは理解に至らなかったらしい……」

そして男は第三層の番人に思いを馳せる。

()であれば、あるいは彼らを導けるやも知れぬ。私が裁定するのは、最後まで見届けてからだ……結果は急ぐべきではない……」

 

◆◆◆◆◆◆

 

「着いたね、第三層だ!」

「そんじゃあさっさと行こうぜ、マスター(メートル)

木の軋む嫌な音を立てて、第三層の扉が開く。

第三層はそれまでの階層とは異なる、禍々しい様相を呈していた。

部屋を照らす光は、鬼火と呼ぶに相応しい青い炎。超常の光は、室内を小さく照らしている。

一寸先ですら闇の中。視界はほんの少ししか保たれていない。第三層に渡る階段も暗かったが、ここはそれよりも暗く感じた。

「リリィ、部屋全体は見える?」

「見えません。どうなってるんでしょうか……?」

その時であった。

ひそひそと闇の中で囁き合う彼女らを、縫い止めるが如き声が響いたのは。

 

「よくぞ来た。我が怨嗟の天牢に」

 

地獄より響く幽鬼の声。人にあって人にあらず、悪鬼にあって悪鬼にあらず。

誰もがその声を知っていた。その瞳を知っていた。

闇の中で黄金に輝く、虎の瞳。

怨讐の彼方を知る者。怨讐の果てに向かう者。

世界に謳われた復讐劇の主人公。そうあれかしと願われ、その姿を英霊のカタチと成したモノ。

白髪鬼、虎、あるいは……『巌窟王(モンテ・クリスト)』。

 

復讐者(アヴェンジャー)・巌窟王/エドモン・ダンテス。

恐るべきエクストラクラスの英霊が、その闇の中に立っていた。

 

「オーララ……因果じゃねえか」

「最後の王って……巌窟王だったの!?」

「そういうことだ、我が共犯者。此度はオレも囚人の一人というワケだ」

巌窟王が腕を振ると、闇が晴れ、薄暗い石室が現れる。あの闇の空間は巌窟王が張っていたものであったらしい。

「師匠のお友達さんですね? でもどうしてここに?」

「さてな、詳しい事は塔の主に聞け。もっとも、()()()()()では難しかろうがな」

「どういう意味です?」

「今のお前達は、あの男の求める域に達していない。故に、オレはこの塔最後の番人として、お前達を試すということだ」

だが殊に今回において、この男の存在は違った意味を持っていた。

「まさかオマエが最後の番人とはな……エドモン・ダンテス」

「その名は捨てた。オレはただ復讐鬼として此処にある」

「……オレが憎くないのか」

ナポレオンが問う。巌窟王は一瞬の後、続ける。

「くだらぬ問答を続けるなら、今すぐにその首を搔き切る……と言えば?」

「その方が妥当だろうな……すぐに始めようぜ」

立香は身構える。ナポレオンと巌窟王に複雑な事情があるのは聞いたことがあった。

巌窟王の原点、冤罪による監獄島(シャトー・ディフ)への投獄。当時ナポレオンは失脚を迎えエルバ島に幽閉されていた。この時期にエドモン・ダンテスと面識を持ったことが、エドモンを取り巻く陰謀に利用されることとなった。後にナポレオンは復権を果たすが、すぐに二度目の失脚を迎え、ついぞエドモンを解放することは叶わなかった。

ナポレオンはエドモンを救えなかったことをひどく後悔している。

故にこそナポレオンは、これから始まる戦いを必然の運命、逃れられぬ因果と捉えていた。

 

室内が一変した。

空には満月が浮かび、辺り一面は夜の砂浜と化す。

誰がその光景を願ったか——知る者はいない。

「二人とも、気をつけて……!」

「お任せを!」

「この因果に、ケリをつけようじゃねえか……エドモン!」

巌窟王はニヤリと笑い、黒いマントを翻す。

「来るがいい……貴様は、我が姿に何を見る?」

超絶の復讐鬼が、黒い炎を纏い始める。

 

つづく。

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