Jingle All The Way To Triumph 作:TAC/108
第二層の番人、ギルガメッシュを攻略した藤丸立香一行。
そしてたどりついた第三層、その番人は巌窟王/エドモン・ダンテスであった。
ナポレオンとエドモン・ダンテス、二人の因縁が激突する。
月光が白い砂浜を照らす。
「貴様は、我が姿に何を見る?」
「オレが見るのは、あの日の後悔……それだけだッ!」
怨嗟纏う炎が、ナポレオンに向けて放たれる。
ナポレオンは避けずに正面から撃ち返す。
衝突、そして爆発。砂と飛沫が舞い散る中、両者は互いを見つめ続ける。
「悪いな、
ナポレオンが立香に語りかける。これは個人的な因縁による闘争、つまりは私闘だ。ナポレオンとしてはそこに無関係のジャンヌ・リリィや立香を巻き込みたくはなかった。
「でも彼は強いよ」
「ああ、そうさ。今の一撃だけでも十二分に伝わってきやがる。だがオレは、今この時だけは、初代フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトとして、あの男と真ッ正面から向き合わないといけないのさ」
いつもとやや異なる雰囲気に、ジャンヌ・リリィは無言でそわそわと落ち着かない素振りを見せている。
だが立香の表情は変わらない。平時と変わらぬ笑顔で、彼女はこう言った。
「なら、私も手伝うよ。皇帝陛下、貴方の見てる世界を見せて!」
「……ハッ、そうだな。お前さんは、言葉で聞かせて止まるタイプじゃなかったな!
マスターの決断を待ち、後ろに控えていたジャンヌ・リリィが槍を構える。巌窟王はその様を見ながら、ニヤリと笑った。
「流石は皇帝陛下。貴様もまた、オレの類型というヤツか」
「求められたからには応える。これがナポレオンだッ!」
腰だめに構えた勝利砲から光線が放たれる。巌窟王は難なくこれを避けるが、追撃の光弾が襲いかかる。
「やるな……幼子とはいえさすがに聖女かッ!」
「貴方に恨みはありませんが、サンタアイランド仮面第一の弟子として、貴方に勝たせてもらいます……ツインアーム・リトルクランチ!」
赤と緑の光弾が弾けた。空中機動で回避しつつ、高速でジャンヌ・リリィに迫る。
巌窟王は比較的近代の英霊だが、スピードという点においては神秘の多い時代の英霊にも引けを取らない。
高速移動ですれ違いざまに闇の炎を浴びせ、ナポレオンとジャンヌ・リリィを追い詰めていく。
「瞬間移動か何かか……動きが速すぎる。攻撃チャンスを作らないとな」
「私とナポレオンで支援する。リリィ、行って!」
「了解しました!」
リリィは矢面に、ナポレオンと立香が並び立つ。立香が右手を前に突き出すと、手の甲に刻まれた赤い紋章——
「令呪を以て命ずる! リリィ、宝具を解放して!」
三画の令呪、その一画が消失し、ジャンヌ・リリィに魔力が漲る。
「『
英雄王にしてみせたように、プレゼントの雨を降らせる。
しかし巌窟王は、これで止まる程の男でもなかったのだ。
「ハ、福音の束とて、踏破しよう。我に祝福は無く、楽土に至る道は無い。故に……我が往くは怨讐の彼方——『
先程までを遥かに超える高速移動。瞬間移動と比較しても大差ないレベルの速度で、虚空に残像を生みながら次々とプレゼントを切り刻み、燃やしていく。
……英霊といえどこの速度の移動に耐えうる者は少ない。これに耐えるのは、シャトー・ディフの地獄で鍛えられた、巌窟王の強靭なる鋼鉄の精神である。
怨嗟の炎は煌々と、白い月の下で燃え盛る。
怨讐の牙は虎の如く、夜の闇の中で光を放つ。
即ち超人。
しかしながら。
出鼻を挫かれて尚立ち上がる、男がいた。
ただ一人、その男は、仲間の目が諦めに染まりつつあるその様を見ていた。
「どうした、まだ終わってねえだろ?」
勝利を示す大砲を、天に掲げるその男。
消えぬ炎の快男児。初代フランス皇帝。『不可能などない』と語る、可能性の男。
「さあ、願え。
可能性を束ね、虹の極光を放つ凱旋の皇帝。
彼は高らかにこう告げる。
「オレが! ここに! いるぜ!」
伝説を成し遂げる男、ナポレオン・ボナパルト。
その目に、一切の曇り無し。
勝利砲の砲身が展開し、内部に隠された機構が露出する。
大柄なナポレオンの体躯すら上回る、巨大で無骨な大砲。露出した内部機構のエネルギーラインは虹の光を灯す。
砲口が光る。エネルギーが充填されているのだ。発射は秒読みの段階に入った。
「『
束ねるは人の
これを以て勝利し、これを以て凱旋を成す。
虹の極光は、空に可能性の橋を架ける。
「『
人の願いに応え、許容するモノ。
数多の可能性を虹と成し、それを弾丸として撃ち放つナポレオンの最強宝具。
『
現在、フランスはパリのシャルル・ド・ゴール広場に位置する、エトワール凱旋門と同じ名を持つ宝具。
空駆ける可能性の橋が、地を斬り裂いて眼前の闇を照らす。
月明かりと虹の光が、夜の闇に包まれた巌窟王の表情を暴く。
それは、酷く驚きに満ちた表情だった。
そしてその表情のまま、巌窟王は虹の光に呑まれていった。
◆◆◆◆◆◆
空間が暗黒の牢獄に戻る。
どうやら、勝利は出来たようだ。
後ろで始終を見ていた立香とジャンヌ・リリィが、疲れを隠して笑顔でハイタッチをしている。
「ふぅ……これで決着、ってところか」
ナポレオンは激闘の後の憩いとして葉巻を吹かしていた。
立香は仰向けに倒れている巌窟王に駆け寄り、質問を投げかける。
「さっき言ってたよね、私達を試すって。どういう意味?」
巌窟王は憮然とした視線をぶつけながら立ち上がると、扉の方へ歩いていく。
「詳しいことはこの塔の主に聞け。だがまあ……敢えてオレから言うならば、今回についてはお前が敗北する可能性もある」
「へ?」
「会って話せば分かることだ。なぜこの塔にオレ達が囚われたのか、なぜクリスマス間近にこのような異常が発生したのか、そして塔の主とは何者なのか。全ては最上層で、あの男から聞けるだろうさ」
そう言って、巌窟王は暗闇の中に溶けるように姿を消した。
「
「詳しいことは、この上で聞けるんだって。他は何も」
「そうか……なら、進むのみだな」
「行きましょう。この先が最上層です!」
最上層へと続く回廊。その扉へと手を掛ける。
軋むような音と共に扉が開くと、三人は先へと歩み始めた。
つづく