「自己紹介まだだったね...俺の名前はユウ。よろしくね」
『女の子が凶暴なモンスターに襲われそうになったときに颯爽と現れ一瞬で倒す上級戦士がする自己紹介』ならカッコイイけど『スイカを運んだだけの陰キャが他人の居間でカッコつけて自己紹介』する光景がどれほど滑稽で見苦しいか俺にさえ分からない。
「あぁよろしく」
そう俺に告げた3秒後には横になって漫画を読み始めていた。マジで興味なかったのかよ。てかあんたは自己紹介せんのかい。
ところでお前らにも言ってなかったけど俺『ユウ』って名前なんだよ。まぁ本名は...いや、これはお前らにも言いたくない。
俺は自分の名前が嫌いなんだ。読み上げられれば誰もが振り向くし、変なあだ名付けられるし...この辺にしておこう。上げたらキリがない。
それなのに何故か名前からとってしまった。どうせならめっちゃカッコイイ名前にしたかった。後悔だけが残る。でも『ユウ』単体ならカッコイイからよし。
「あ、私も自己紹介しなくちゃ。内田ユカっていいます...よろしくお願いします!!!」
おいおいそんな頭下げないでくれよ。バイトの店長か俺は。こんな可愛い子雇うに決まってんだろ。
とかいつもの脳内コントをやりながら、
「よろしくね。えーと、何て呼べばいいかな?」
元いた世界で俺は『通話アプリ』にハマっていた。画面をタップするだけで全く知らない人とお話ができてしまうのだ!
コミュ障克服のために何回かやってたんだけど、そんときの俺のお決まりの質問が『何て呼べばいいかな?』なのだ。もはやお決まりでも何でもないただのコミュ障がする質問である。
相手が小学生ではあるけどいざってときに役に立つもんだなぁ...と素直にコミュ障を克服しようとしていた自分を褒め称えたくなった。
「んー...ユカ...とか...?///」
細い首をかしげながら何故か頬を赤らめてそう言った内田ユカ小学5年生。もうこの子俺のものでいいよね?マジでなんなの。絶対俺のこと好きじゃん。
ちなみに俺は学生時代クラスの女子にいじめられていたので話しかけられるだけで『コイツ、俺のこと好きなのか?』とバカみたいな勘違いをする池沼だ。
「お前...名前あったのか...」
「あるよ!みんな『内田』って呼ぶから名前呼びされてみたかったんだもん!」
いつの間にか漫画を閉じて俺たちの会話を盗み聞きしていた夏奈。1つのことに集中できず途中で投げ出してしまう俺を遥かに凌駕している。
そして内田に関しては本当にかわいそうだ。アニメを見ていてもそう思った。周りが皆名前で呼び合う中、1人だけ名字って他人行儀すぎて泣けてくる。あ、藤岡もか。
でも安心しなさい。俺が来たからにはもう大丈夫だ。ちゃんと愛情込めて『ユカ』と呼んでやろう。
そんなきっしょいこと考えてたら『ユカ』から衝撃の質問が、
『あれ...そういえばさっき私の名前言ってたけど何で知ってるの?』
◆◇◆◇
やばい。やばすぎる。人生最大のピンチかもしれない。
そういえばさっきから千秋がずっと俺を睨んでいる。ここで変な言い訳をしたらマジで捕まる。もう泣きそう。お家に返して。
ここまで追い詰められたことはない。大体なんでスイカを運んであげた俺がこんな仕打ちに合わなくちゃいけないんだよ。さすがに酷すぎるだろ。何か腹が立ってきた。
いやいや、キレてる場合じゃない。最善の策は...こうなったら最悪この場だけを乗り切れれば...ダメだ。
俺は何のためにこの世界に転生したんだ。自分の意志じゃないにしても折角来たからにはアニメキャラと幸せな毎日を過ごしたい。だけどここで嘘を言ったらこれからも間違いなく嘘を言い続けることになる。それが本当に幸せと呼べるのか?俺はふとマコトを思い出した。
彼は自分を隠してマコちゃんを演じた。マコちゃんで旅行に行き、マコちゃんで海に行き、マコちゃんで花見をし...確かに幸せかもしれない。でもどこか後ろめたさはあったはずだ。俺はアニメを見ながら思っていた。『もう彼は元に戻れないだろうなぁ』と。
つまり1回の嘘が今後の人生を狂わすといっても過言ではないのだ!
...よしっ
――もう覚悟を決めるしかない
俺は正直に話す。
『転生したこと』、『この世界が作られた世界であること』、『行く当てがないこと』
とりあえずこの3つさえ伝えてしまえばぶっ倒れても問題ない。
緊張で変な寒気が体を支配する。さっきまで暑くて死にそうだったのに嘘みたいだ。いや、もしかしたら全部嘘なのかもしれない。この世界に来たことも。んなわけあるかボケ。
緊張しすぎて意味不明な考えが頭の中をぐるぐると回り続けている。こりゃ早く言わねえとマジでぶっ倒れる。
大きく口を開いた。不自然すぎて多分余計怪しまれた説あるけど今の俺はそんなこと考える余裕なんてなかった。
そして一言、
『――転生した』
声に潤いがなくカスカスだった。そして意味不明な回答。正直もう不審者でいいよ。
5秒くらいなんて言おうか考えてたけどこれしか思い浮かばなかった。聞かされた側は『?』以上の何物でもないが俺からしたらこの一言で言いたいことはすべて伝えられているのだ。
――お前
...っ!?
『バカなのか?』
◆◇◆◇
真剣な眼差しで刑事が犯人を言い当てるかのように夏奈は言い放った。夏奈に言われるんじゃ間違いない。俺はバカだ。
でも一気に緊張が解けた気がする。俺は考えすぎていた。
さっきも言ったが俺はいじめられていた。
女子の間だけだったのが唯一の救いだが、毎日陰口が絶えない。俺は不登校になった。それから『女』という生き物に対して恐怖を抱くようになった。
雑な説明だけど許してくれ。あんまり思い出したくないんだ。
まあそんな感じで女の子と話すのがトラウマになった訳ですわ。もう欠点多すぎて自分でも笑えてくる。
「まさか夏奈と同等...いや、それ以上のバカ野郎に出会えるとは思っていなかったよ」
口の悪さは相変わらずだが千秋の警戒が解かれた気がした。どうやら正直に話して正解だったらしい。
「バカって酷いなぁ...でも本当なんだよ。信じてもらえないだろうけど――」
もうここまでくれば勢いに乗るだけだ。
3人に俺の『軌跡』を語らうとするか。
『w』とか『///』はあまり使わない方がいいと何処かのサイトで見た気がするんですけどその表現に一番ふさわしい文字、記号を使っていこうと思いますので見慣れなかったり違和感があったら申し訳ないです。でもやりたいようにやるので使わせてもらいます。
あーそういえば感想本当にありがとうございます...自分で楽しめればいいなと思い書き始めたのですが、温かいコメントが来たことによって自然とモチベが上がってます(笑)