「事情はわかったから頭を上げてくれ」
俺は今土下座をしている。
この年にしてここまで深く頭を下げることになるとは思ってもみなかった。
そして相手は年下の女の子2人。
もうよくわかんないけどとりあえず死にたい。
※※※※
「へぇーすごいなぁ」
絶対信じてない。夏奈のこういうとこクソ腹立つな。いやまあそりゃ信じなくて当然だけどさぁ。俺の話を聞いてる時の態度がもうマジで...はぁ。一旦冷静になろう。
なんか子どもを見守る母親みたいな目でずっとこっち見てくるんだよ。哀れみを通り越してるんだろうな。うんわかるよその気持ち。立場逆だったら俺も『この人可哀そうな人だ』って思うし。
「確かに言ってることがぶっ飛んでるのは自分でもわかってる。でも本当のことなんだ...信じてくれ!」
もうこうなったら情で訴えかけるしかない。ここで『ちゃんと聞いてくれ』なんて言って機嫌でも損ねられたらもうそれこそジ・エンド。ここはゴリ押すしかない。
「いきなり転生したなんて言われて信じるバカがどこにいる。何か証拠はないのか?」
千秋さんに再び睨まれてます。これはまずい。てかさっき『転生した』って言ったら少し表情が緩んだのは何だったんだよ...やっぱ女って分かんねえ。
大体証拠なんかあるわけなかろう。転生先は同じ日本なわけだし仮にポケットに小銭が入ってたとしてもそれは証拠にならない。本当に詰んだかも。
「お前さっきこの世界が作られてて私たちが主人公って言ったよな?」
「はい...言いました...」
もはや敬語。でもこの夏奈の顔は何処か真剣さがうかがえる。
「じゃあ私がクイズを出すから答えてみろ!見事正解したらお前の言ってること全てを信じてやろう」
――それだっ!!!
「分かった。受けて立つよ」
ヌルゲーすぎてにやけちまった。というかなんで俺は『証拠』=『物』と考えていたんだ。そうだ。そうだよ。俺には『記憶』という何よりも真実味のある証拠があるではないか。
しかも夏奈に関するクイズとあらばもう正解したようなもんだ。案外何とかなるもんだなぁ...そう思った3秒後に涙するとはこの時の俺は知る由もなかった。
『――南夏奈、』
『私の生年月日を言い当ててくれ』
いや誰が分かるかバカ野郎。連載当初から考えたらこの内田でさえ俺より年上だ。というかお前がアニメの闇に自分から手を突っ込むなよ。
「いやそれは分からないよ...連載されたのが2004年くらいでアニメなんか4期まで続いてるのに全く歳とらないし逆にこっちが聞きたいくらいだよ」
俺氏アニオタ。かなり詳しい。まさかこんなところでどうでもいい知識が役に立つとは思わなかった。
そしてふと疑問に思ったことがある。いや何もかも疑問だらけなんだけどさ...
「ねぇ、今年って2018年だよね...?」
多分今まで異世界に転生した主人公らが絶対にしなかったであろう禁断の質問を投げかけてみる。タブーに触れたら発作で死ぬとかそんな縛りないよな...一気に怖くなった。
ドヤ顔で問題を出してきたさっきの表情から何か考え事をしているかのような表情に切り替わる。
「2018年に決まってるだろバカ野郎」
横から千秋に不意打ち喰らったせいで心臓バックバク。そして言葉の意味を5秒くらいかけて理解した。
俺は驚いた。つかどんな答えが返ってきても驚くんだけどさ。
まさか元いた世界と同じ年とは...ということは並行してこっちの世界も時間が進んでるってことか?いやじゃあ何でコイツらは歳をとらないんだ。もう余計謎なんですけど。
「もう難しい話は後にしてくれ。お前は何が目的なんだ?」
いきなり核心をついてきたよこの子。確かにこのまま話し続けてても何も生まれないとは思ったけど急すぎやしないか。
何が目的ね...そんなの決まってるじゃん
『――俺を家に泊めてください!!!』
※※※※
それで今に至る。
要するに考え得る最悪の状況をみなさんにお届けしているわけだ。
さっきまで俺に好意を向けていたユカの顔なんて怖くて見れたもんじゃない。ドン引きしていることだけはハッキリとわかるけど。。。
「泊める!泊めるから今すぐ頭を上げろーー!」
え、マジすか?
年上の見知らぬ男に1分近く頭を下げさせたことに罪悪感を感じたのか夏奈は焦ったように頭を上げることを促してきた。
「おい、勝手に決めるなよバカ野郎。全ては春香姉さま次第だ」
『ちなみに私は反対だ」
はぁ...心が痛いよう。
ここまで面と向かっての拒否反応は生まれて初めての体験だった。
いや、あの何回も言うけど千秋は至って正常です。知らん男を自分の家に泊めるって嫌に決まってるでしょうに。俺だったらブチ切れてる。
夏奈も勢いで泊めるって言ったこと後悔してるんだろうなぁ。アニメで見たことのない絶妙な顔してるし。
もう正直元の世界に戻してくれていい。というか戻してくれ。
アニメキャラとこんな風に会話できるのは失神するほど嬉しいんだけど俺のせいで彼女らの日常が壊れていくのを見たくない。
というか金さえあれば良かったんだよ。カプセルホテルでも借りて週2くらいで南家にお邪魔する日々を過ごしてみたかった。
多分だけどこの部屋にいる4人全員表情が曇っているに違いない。
もう場の空気は最悪。俺は葬式にでもいるのか?そう思ってしまうほどであった...
『ただいまぁ~』
ん?
誰か帰ってきた?のか?
段々と足音が近づいてくる、
――きたっ!!!
『あれ?...お友達?』
「は、はじめまして。お邪魔してます...アハハ」
春香帰宅
正直助かった。ほんと居づらかったから隕石でも落ちてきてくれないかなって思ってたほど。
「もう夏奈!お茶くらい出しなさい」
「あぁ...うん。」
「その...春香姉さま。ちょっとお話が...」
俺の緊張が解かれる瞬間はくるのだろうか