愛に生きる   作:かのん

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初めまして”かのん”と申します。

ハーメルンで度々投稿させていただいておりましたが、今回は今までと作風の異なる新しいものへと挑戦してみようと思い、あえて匿名で投稿させていただきました。

今回の試みは私としても初めての挑戦となるため色々と至らない部分も散見されるとは思いますが、今後の作品への参考とするつもりですので感想・批評などございましたら遠慮せずにおっしゃってください。

エタらないようにやっていきたいと思っておりますので1話5000字程度で週に1回ほどの投稿で進めていく所存です。
ゆっくりと暇つぶし程度で構いませんので是非ご一読いただけると幸いです。

本作は原作『緋弾のアリア』の物語に一人の”オリジナル主人公”を加え、原作の流れは否定せずに原作半分、サイドストーリー半分という形で構成していきます。一部作者なりの検証によって矛盾のないように設定を変更しているところもございますが、原作の本筋の影響は最小となるように配慮していくつもりです。

原作未読の方にも読んでいただけるよう工夫はしたいと考えておりますが、この1話だけは作者的にもかなりわかりにくく、原作を読み込んでいる方でないとなかなか理解が深まらないかと思います。
原作未読の方には最後までしっかりと通していただけたら全て繋がるように書く所存ではありますので、よろしければお楽しみください。

一応後書きに用語説明や私的な解釈も載せるつもりなのでので確認してから読んでいただくのもアリかとは思います。
長くなりましたが注釈は以上です。




サブタイトルは『Hope is a waking dream』-Aristotle-の格言から


Love is a waking dream

「すまないが、お前の気持ちに応えることはできない」

 

 

地中海に映える夕日のオレンジの中で長い髪を海風に流しながら言う。

 

 

「お前の気持ちには気づいていた。いずれこうなるだろうことも予測していた」

 

 

悲しそうな、申し訳なさそうな、それでいてきっぱりとした言葉が私の耳を貫く。

 

ああ、この決意は変わらない。彼は何度も自問し考えた上で応えを決めたのだろう。

 

込み上げてくる悲しみや切なさの中にほんの少しだけ胸にスッと入るような納得も感じている。

無意識の中で予想はしていたのかもしれない。

 

それでも、やはり彼との別れを認めたくはない。

 

 

「お前には随分と助けてもらった。俺がこの国に来てから慣れない文化の中で落ち着けるようにと、苦を感じないようにと世話をしてくれた」

 

 

あらゆる方面で優秀だった彼は私のおせっかいもあまり必要なかった。言葉も、文化も、環境も、1週間も経つ頃にはすぐに順応して。

それでも遠く異郷の地から来た彼を放っておけなかったのはなぜだろうか。

彼のひたむきな姿にあてられたのか、彼にしかない二面性に惹かれたのか、それとも年上の持つ独特の色気に魅かれたのか。

 

 

「お前と過ごす日常をかけがえのないものだと感じていた。日々の刺激の中にある平穏が長く続いたらと考えたことも一度や二度ではない」

 

 

この気持ちを『恋』だと気づいてから、彼との日常にほんのりと色を添えて、時にはさりげなく時には大胆に、それでも彼が落ち着いて過ごせるように配慮して。

そうやって自身の考える理想の『女』を努めてみたのも間違いではなかったようだ。

事実、彼は私との1年足らずの日常をそんな風に捉えてくれていたらしい。

 

 

ただ、それでも……

 

 

「それでも、ここで停まることはできない」

 

 

それでも彼は征くのだろう。去ってしまうのだろう。

 

 

「討たなければならない『巨悪』がある。守らなければならない『社会』がある。帰らなければならない『場所(いえ)』がある」

 

 

なぜなら彼らは『義』の一族。

なさなければならない『使命』があるなら全身全霊を持って立ち向かいその生命を燃やす。

そこに彼らの都合などない。

それは彼らに定められた『天命』であり、彼らの目指す『人生(生き様)』なのだから。

 

 

 

 

「俺たちは『義』を全うする」

 

 

 

 

……ああ、これはやはりどうにもならないな。

 

 

滲んでいく視界と込み上げる嗚咽の中で目の前の彼が狼狽えているのが小気味よかった。

 

 

そうして私は14歳の夏の終わりに、人生初の失恋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい夢をみた。

 

あの日、たかが14の小娘に人生の難所を経験させてくれた彼は未だに私のところへ出張してくるらしい。

ここ最近までは随分と御無沙汰だったのに、妙にはっきりとした苦い記憶が私を苦しめる。

もうかなり前に心の中では折り合いをつけたはずだったのに、夢から醒めた身体は微熱と速い鼓動をうったえている。

気づけば目の端にも涙が溜まり、今にも溢れてこぼれ落ちそうなほどだ。これを寝起きだ、あくびのせいだと決めつけられれば話は簡単なのに。

 

近々、彼の故郷(くに)への留学が決まったからなのか。

もう連絡も取っていない彼への、随分と前に捨てたはずの『初恋』が再燃してくるのを自覚した。

 

同室の娘を起こさないようにそっと寝室から抜け出し冷蔵庫に入れていたミネラルウォーター(Fiuggi)で身体の火照りを冷ます。

リビングの勉強机に置かれた古い燭台のような、良く言えば趣きのあるアンティークな香りのする灯りをつけて、暖かい暗闇の中、淡い甘さを孕んだ苦い(記憶)の余韻に浸る。

 

もう何年も前にこの部屋を去ってしまった彼女()の残り香はとっくに消え去り、新しい娘達の私物が部屋を新しく染め上げている。

あの頃は二人だけで、偶に自身の姉貴分も心配して訪ねてきてはいたが、その頃に比べて和気藹々とした空気を楽しく感じながらも彼女()の醸し出すあの穏やかな雰囲気をふとした瞬間に懐かしんでしまう。

 

自分の右手人差し指を縦に割る一本の線はここ最近消えずに残ってしまうようになり、そういえば彼女()もそうだったかなと朧気ながら記憶が蘇る。

これも少し彼に近づいたところかもしれない。消毒液と硝煙の匂いが手や髪に染み付いてしまうのもそう遅くはないだろう。バチカンで育った身としては当然のことではあるが、彼らの言葉で表せばこれも『天命』だということであろうか。

この身体に刻まれるなにもかもが彼と結びついているような気がして、勝手な思い込みではあろうけれど、そこに確かに彼との絆を感じてニヤけてしまう。

この想いが私の窮地を救ってくれた恩人へのものなのか、歩むべき道を示してくれた先輩へのものなのか、それとも初めて私の人生に色をさしてくれた男へのものなかか、あるいは何か他のものなのか、はたまたそれら全てを内包するものなのか、未だに判断はつかないが一度再燃した初恋は今度は色濃く私の心に巣食うつもりなのかもしれない。

 

そんなことをぼんやりとした頭で考えながら彼との思い出に浸っているうちに時計の短針はもう30度以上動いてしまっていた。もう少しこの夢の余韻に浸りたい思いはあるが、これ以上の夜更かしは明日以降の授業に響いてしまう。ここはお酒の力にでも頼ろうかと、バチカンの使徒には許されないと知りながら姉貴分がナイショで持ち込んだアマレットリキュールを流し込む。なに、バチカンが許さないだけで国は許してくれているのだ。恋に悩むイタリアの乙女が一時アルコールの力を借りることぐらい、主も大目に見てくれるだろう。

喉を通り抜ける熱と舌に残る甘い香りを味わってから灯りを消し、私は再びベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アテナ先輩、USAから国際郵便が届いてますよ〜。送り主は……Colt’s Manufactu……あれ?アテナ先輩ってベレッタ使ってませんでしたっけ。」

 

あの夢から1ヶ月、今日も衛生科の実習を終えバチカンに与えられたシェアルームの一室に帰ってきた私を同室の後輩のそんな言葉が迎えた。

微笑みながらお茶を濁し、包みを開封して中から発注してもらったものを取り出す。

コルトSAA(シングルアクションアーミー)、彼の使っていた愛銃だ。バチカン経由で取り寄せてもらおうと頼んだ時には、姉貴分を含めて皆が、あらあらまあまあとニヤケながらイラっとくる笑みを浮かべて了承してくれた。

そういえば彼らは彼女が女であると信じて疑わなかったな、と大変な誤解を受けたのを思い出す。いや、こう表現してみるとおかしなのは私の方なのだが、彼らから見たら私は同性の先輩に思いを馳せる世界を知らない乙女に見えたのかもしれない。

この銃が私の体に合うかどうかはわからない。それでも、彼の故郷()に旅立つ前に、どうしても彼との絆の証として持って行きたかった。

 

「あれっ?先輩……その銃って確か……」

 

一瞬にして彼らと同じことを思い浮かべたのか、ニマニマとした笑みを浮かべて

 

「いえ!大丈夫です!私は応援しますよ!」

 

と、後輩もそれ以上は踏み込んでこない。

物分かりの良い後輩を持ったことに感謝するべきか、それともこの大変な誤解を解くようにと努めるべきか。

私としては当然後者を選びたいのだが、如何せん彼はそれを明かすことを許さないだろう。この巡り合わせを嘆くべきなのだろうか。

 

誰にも言いません、と良い笑顔を浮かべながら弁明(?)する彼女を尻目に同封されていた45口径のロングコルト弾を確認して元に戻す。

この数で日本に旅立つ前に十分な撃ち慣らしをこなせるだろうか。

使い慣れた国産のベレッタ 92 とは口径も大きさも威力も弾も何もかもが異なるこの銃を十分に使いこなせるようになるには長い時間が必要になる。

そもそもオートマチック拳銃とリボルバー拳銃は素人が見ても全く違うものと判別できるくらいなのだから、きっとちょっとやそっとじゃなれないだろう。それでも、彼に無様な姿は見せられない。

憧れの人に自分を飾って見せるのは女の権利であり義務なのだ。恋に生きるローマの女がそれに全力を傾けるのは自然の掟に匹敵するくらい当然のことなのだから。

 

夢に彼が現れた日から私の日常は変わってしまった。彼の祖国では昔、夢に出てくる人は自分に会いたくて出てくるのだ、というなかなかに自信たっぷりな考え方があったという。日常の中で彼に教わった軽い雑学の一つ一つが大切な思い出となって蓄積されていたことを今日もまた実感する。

彼もそうだったらいいのに、と叶うこともない小さな希望を胸に抱いて主に祈る。

この想いが報われる日が来ますように、と。

 

 

 

++++++++++

 

 

 

彼女は祈る。いつの日か、あの健気な少女の儚い願いが叶うことを。カトリックの総本山、バチカンでは許されぬ願いだと知りながら、それでも彼女の想いがどのような形であっても報われることを祈る。

洗礼を受けてから、主を疑うことはなかった。ローマの娘にとっては最大級の不幸を身に纏い、自身の運命を、ひいては畏れ多くも主を恨んだこともあった。それでも主を疑うことはなく、試練だと乗り越えて、努めて、毎日欠かさず祈り続けた。

時には友軍の武運を、時にはバチカンの繁栄を、時には勝手ながら自身の女としての幸福を、願い祈り続けて来た。

そして今回も同じように、今までの祈りの多くが約束されて来たように、彼女の前途に幸あらんことを祈るのだ。

自身が半ば諦めてしまった道を、ふらふらと迷いながら進む彼女に自身の願いを重ねて、いつかは自身も報われると信じて祈り続ける。

 

 

日々の幸せと恵みに感謝を。我ら使徒の前途に光を。彼女の未来に幸せを。

 

 

叶わない願いを胸に抱いて今日も彼女は祈り続ける。

 

 

 

++++++++++

 

 

 

「アテナ・カレンダ、あなたに正式な辞令が下りました。来月4月を以ってバチカンより東京への出向を命じます。」

 

ついに私に指令が下りた。

あの夢から3ヶ月、未だにあの銃への慣れはつかめないままだが。ここ1,2週間でカンは得られたと思っている。まだまだ実践には程遠いが、どうせ私は前線で戦うような人材ではない。護身としては十分な腕だろう。そもそも、ベレッタ 92を使えばいいのだし。

 

「貴女にも伝わっているのしょうが、神託が下りました。近いうちに世界の均衡が一変し、また世が戦火に包まれる。かねてからの予測はありましたが、その中心地点、騒乱の渦は日本の関東地方に位置すると」

 

神託というのは滅多には下りてこない。よほど高位の聖女か神官が己の力を使い果たして、それでも10回に1回もなし得ない最高位に属する魔術だ。

その常識を覆してどうでもいいところでポンポンと神託を下ろす姉貴分のような規格外もいるが、そもそもあの人は例外なのだ。

 

「言語能力、人脈、環境への適応性、性格などあらゆる面から考慮した結果、貴女が最適だとの結論が出ました。知っての通り今のバチカンには手隙の人間があまりいません。ある程度の戦闘能力も必要となることが予測される以上、実戦経験もそれなりに豊富な貴女が第一陣としてはふさわしいと。追ってメーヤ・ロマーノも向かわせますが彼女はバチカンにとってもかなり重要な身、まずは貴女が先遣隊として向かってください」

 

なにやらややこしいことを神妙な顔で言っているが、皆の心は分かっているのだ。内心を隠しきれなかったらしい姉貴分のニマニマとした小憎たらしい微笑みを見た時点で。

 

「繰り返しますが、この辞令は神託に基づいたものです。バチカンの使徒である身としてよもや反意はありませんね」

 

どうせないだろうと分かっているのにそれをわざわざと確かめるような質問を。

ここにいる皆の内心はこちらにお見通しなのだ。なにせここにいる姉貴分を含めた上司全員のいる場であの銃の無心をしたのだから。

 

「はい。このアテナ・カレンダ。主とバチカンの名の下に必ず責を果たして見せます」

 

胸の前で十字を切り、跪く。

 

これを聖戦だというつもりはない。主の名の下でこんなくだらない思いを胸にして戦うなど一人の教徒として、バチカンの使徒としてあってはならないことだ。

だけど、そうであっても一人の少女としてはこの任務は立派な聖戦に値するのである。この3ヶ月の間に日に日に大きくなっていったこの思いを確かめながら、主の前で懺悔して祈りながら、あの姉貴分に告解室で自らの想いを告白しながら、決心を形作ったのだ。

 

ここ、この瞬間だけは、一人の女として、男と結ばれることを夢見る少女として、『恋に生きる』と決心したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして意気揚々と今にも弾けそうな想いを胸にして遠く異郷の地を踏んだ私の元に舞い込んだのはただ一つの情報(知らせ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2008年12月24日 浦賀沖海難事故 死亡 遠山金一武偵 (19)』

 

 

 

 

 

「……キン……イチ?」

 

 

 

思考は無に染まり、躰の芯から足の先まで凍えるような寒さが落ちてゆくのを感じた。




・バチカン

緋弾のアリアに登場するカトリック系の宗教組織。
彼らにとっての平穏を維持するための”魔術”中心の武力を有する。
規模や性格は特殊だが世界中に存在する秘密結社の一つとして考えても問題はない。
本作主人公はここに属する。


・Colt's Manufacturing Company

Colt Firearmsといってもだいたい通じるあの銃器メーカー

代表作として"Colt SAA" "Colt Python" "M1911" などが原作では登場している。
あの有名な"M16"や"M4 carbine"などのアサルトライフルも実はここの作品。


・Colt SAA

西部劇にによく出てくるアレ。正式名称はColt Single Action Army.
1870年代から今でも製造されているリボルバー拳銃。
普通にSAAといったら.45 LC弾を使用する「Peace Maker」のこと。
実は.44-40 Winchester caliberを使用する「Frontier Six-Shooter」も市販されているが知っている人はそこそこのマニアだと思う。知らなくていい。
原作では主人公の兄(たまに姉)の遠山金一が所持。


・ベレッタ 92

イタリアの銃器メーカーベレッタ社が開発した傑作オートマチック拳銃。
標準的な9x19mm Parabellum弾を使用する。
米軍がNATO標準に合わせるために前出の"Colt M1911"からこれに転換した。
日本では"ベレッタ M92"と表記されるが正式名称は"Beretta modello 92"でありイタリア語でモデルを意味する"modello"は表記しないのが正しい・・・が別に通じるし、日本だとほとんど"M92"表記なので気にしなくてもいい。
主人公はイタリア人なので会話の中では"ベレッタ 92"で表記。
原作主人公、遠山キンジが所持。


・遠山家

初代、遠山金四郎を始祖とする正義の一族。
詳しいことは知らなくてもいいが端的にいうと性的興奮により超人になる性質がある。変態ファミリー。


・遠山金一
遠山家の長兄でありキンジの兄(たまに姉)
性的興奮により超人になるという遠山家の体質を受け継ぐ。女性との性的接触だけでなく自らの女装によっても性的興奮を得られるという剛の者。むしろ業の者。
女装しているときはカナという完全に別人格の絶世の美女を演じる。
男の状態の時は女装をすることをひた隠しにしており、バラされると激怒する。

この作品中では東京武偵高の2年次の9月から、イタリアの新年度に合わせてローマ武偵高の3年に編入している。
原作中では短期留学・強襲科とあったが、おそらく医師免許を取得したタイミングがここであるため衛生科も兼科していたものとしている。また、医師育成過程の専門性・複雑性も鑑みるに東京武偵高時代から衛生科を兼科して優秀な成績を修めていたことが予測できる。

2008年12月24日に海難事故により行方不明となり捜査が打ち切られる。


・アテナ・カレンダ

本作の主人公。性別は♀。16歳。
ローマ武偵高の衛生科と探偵科を兼科している3年生。そこそこ優秀。
13歳の9月から14歳の8月までカナのルームメイトとして過ごした。

・アマレットリキュール
イタリアのお酒。結構甘め。食後などにデザートと一緒にロックで飲んだりもするが、決して寝る前に常習的に飲むものではない。結構好き嫌いが別れるお酒。
本作の知識をひけらかすと痛い目を見ます。



今回はこんなところで




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