愛に生きる   作:かのん

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お待たせいたしました。
前回の後書きであれだけドヤ顔で書き込んでおいて、投稿できたのは1週間後とは……

CUBE作戦走ってたなんて言えない。
まさか初の大規模イベントがあんな難易度になるとは思わなかったんや……
作者は無事グローザ姉さんをお迎えできました。
好きな銃だからそのうち出してみたいけど緋アリでARやらMGやらポンポン出すわけにもなぁ(白雪さんから目を逸らして)




サブタイトルは『If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive』-Raymond Chandlerの格言から


If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever love, I wouldn’t deserve to be alive

 

 

 

 

 

「――――――クソッ!!!」

 

部屋の隅に置いてあるビリヤード台に両拳を思い切り打ち付ける。

バゴッという台の一部が凹む音が部屋に響き、その音が冷静な思考を少しだけ呼び戻す。

 

なんなんだあの女は。なぜ、なぜ遠山金一を知っている。

表舞台から消え去ったはずの存在がまるで亡霊のように自分の体にまとわりつくのを感じた。

キンジと同じだ。本人にその気は無くても行く先々で女を無意識に惹きつける。

遠山家に課せられた呪いの血が今度は自分にまで及んでいる。

 

これからはあの女もキンジの周りに関わってくるようになるだろう。

金一の存在を追うように、彼が存在した証を求めるように、この世界の暗部へと入り込んでくるだろう。

たかが1人の武偵では決して関わることのない暗部へと踏み込んでくるだろう。

 

「――ッ!」

 

もう一度両拳を、今度は先ほどよりも幾分か弱く叩きつける。

これでこの台は廃棄決定だな。この部屋に入ってから使い込んでいた台を惜しみながら、けれど思うようにいかない現実に歯がゆさを感じて奥歯を噛みしめる。

これで計画がまた狂ってしまう。

もう当初の予定よりも遅れてしまっているのに。

全て彼女のおかげだ。あの少女に関わった日から、自分が思い描いていた計画の歯車が崩れて行く。

 

……あたしはしくじるのか。

 

望み続けた、手を伸ばしても、祈っても決して届かなかった自由を手にいれる念願のチャンスなのに。

 

……落ち着け、理子。

 

ふう、と息をつき深呼吸を繰り返してから思考の渦に戻る。

良い知らせもあるじゃないか。

ここに来てキンジがようやく折れた。

 

彼に忍ばせた耳から得られた情報。

 

ついにアリアの要求に折れたのか、一度だけ、一回だけ、事件を解決するために彼は強襲科に戻ってくる。

どんな事件でも1回。例え小さくても、大きくても。

骨伝導スピーカーから伝わったその約束はしっかりと脳に刻まれている。

 

キンジはいつもの自分でやり過ごすつもりなのか、そんな安易な考えでアリアの要求を飲んだのかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

必ず本当の彼を、アリアの目の前で、白日の下に晒してやる。

彼女が求めて止まなかった、オルメスのパートナーと成り得るあの実力を。

 

……そうだ、たかが計画が2,3日遅れたからなんだ。予定外の因子が一つ入り込んだからどうしたというのだ。

 

私は耐えてきたじゃないか。たった一つのチャンスをつかみとるために何年も耐えてきたじゃないか。

今更、これくらいの予定外で諦める事では、諦められる事ではないだろう。

 

 

私は掴み取る。今こそ。求めて止まなかったその願い(自由)を。

 

 

紛れ込むというなら操ってやろう、見だすというなら練り直してやろう。ここから何度でも、棄て切らなかった怪盗の意地を見せてやろうではないか。

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

「遠山くん、お話があります」

 

アリアとの約束の翌日、午後から久しぶりに強襲科に戻ろうかという日の昼休み。

一般科目の授業が終わった直後に、決心を固めたような、覚悟を決め込んだような表情で左前の彼女が話しかけてくる。

 

表情は、いざカチコミをかけようかと逸る武偵のソレ。

 

「……なんだよ」

 

どうしても美人に対して態度が硬くなる俺は少々ぶっきらぼうになってしまうが、彼女は気にする様子もない。

というか、気にする余裕がないと言ったところだ。

 

「大事な話なんだけど……、他の人には聞かれたくないというか……」

 

周りをキョロキョロと見渡しながら困ったように言う。

一体なんだ。

 

周りでは聞き耳を立てていたらしい生徒たちが

まさか……、とか、またキンジかよ、とか、さすがイタリア娘……、とか色々密かに色めきだつ。

 

何だ?この状況から皆は何を想像したんだ。

首をひねってみるが、あいにくと俺にはカケラも理解できない。

 

クラスメイトに大事な話があると言って人目のないところに呼び出す。

そりゃ入ってきたばかりの編入生には縁遠いかもしれないが、そんなに騒ぐほどのことでもないだろうに。

一体、何の用だってんだ。俺と彼女の間に秘密にしなければならない事なんてないはずだ。

 

「ここじゃダメなのか?」

 

「そうよ!キンジは今、あたしの奴隷なの!あたしのいないところでなんか許さないわ!」

 

せっかく俺を確保したアリアも絶対に離さないとでもいうように話に割り込んでくる。

普段は邪魔でしかないがナイスプレーだ、アリア。こういう傍迷惑な奴でも役に立つことがあるんだな。

 

それを聞いた彼女は困ったように、でも……と少し考えるそぶりをして、スカートの下からではなく机にかけてあったカバンの中から1丁の銃を取り出した。

 

彼女はその白魚のような手で『ソレ』を俺の机の上に置く。

そしてサラサラとメモ帳に何かを書いて。

 

「もしコレに心当たりがあるのならば、後ほどそのアドレスに連絡をお願いします。……私はいつまでも待つつもりですから、心の整理がついてからでも構いません」

 

「っおい、この銃はまさか!」

 

ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる俺をなだめるように彼女は続ける。

 

「安心してください。彼のではありませんから……」

 

私は何も残して貰えませんでしたから……と寂しそうに告げる。

 

確かに言われてみればこの銃は真新しい。何発も撃った形跡は残ってるが整備された、補修された後が少ない。

あまりのことに動揺して確認を、冷静な判断を怠ってしまった。これでは武偵失格だ。

では、待っていますねと言い残して彼女は教室の扉から出て言った。伝えたいことは伝えたと背中に残すように。

 

「……何よ、コレ。一体どういう意味なの?」

 

隣のアリアは困惑を隠さないが、それもそうだ。兄さんがこの銃を使っていたことなんて、知っている人間は極僅か。例え、あの事件を知っていたとしても。

俺と知り合って間もないコイツに、いや、このクラスにいる他の人間にもわかるはずがない。

 

つまり、これは彼女から俺に向けたメッセージ。俺のこと、そして兄さんのことを知っているぞという明確な。

 

……これは無視することはできないな。

正直、ここにアリアがいなければ今すぐにでもあの背中を追いかけたいくらいだ。

強襲科の訓練に参加した後、すぐに連絡を入れよう。

そう決めて逸る気持ちを抑えて午後の訓練に臨む。

 

こんなところで停まり続けてはいられない。

彼女が何を知っているかは分からない、それでも俺は手を伸ばさなければならない。

 

 

どうしてか、強くそう感じた。

 

 

 

「余計なことを……」

 

左隣の理子が苦々しげに呟いたのには終に気づかなかった。

 

 

 

 

 

戻ってきてしまった。

 

東京武偵高三大危険地帯の一つ、強襲科、通称『明日なき学科』。

困難な状況に耐えきるため、この時間は絶えず戦闘訓練が行われ数多の銃声がこだましている。

 

もうここには戻ってこないと思っていたのに。

 

途中、久しぶりにこの場所で会った連中が死ね死ね言うのに、律儀に死ね死ねと返していたら訓練場に着くまでに思った以上に時間がかかってしまった。

ちなみにアリアは俺のそのヒトが変わったような変化に少し引いている。

死ね死ねいうのがここの挨拶とはいえ、ある程度親しい中だけの話だ。俺は去年1年の積み重ねがあるものの、コイツは友達が少なそうだからな。

 

「おーう、遠山ァ、久しぶりやなぁ。その腑抜けた頭戻しに来たんか?」

 

強襲科の専任教諭である蘭豹が恵体揃いの強襲科でも圧倒的に目立つその姿を表す。

背には明らかに2mをこす斬馬刀、腰には象をも撃ち殺すと言われる巨大拳銃M500。どちらも扱えるのが世界にコイツしかいないんじゃないかと思えるほどの暴れ馬だ。

武偵高の教師の中でも突出した危険人物。できればコイツだけには会いたくなかった。

 

「なんや、お前が久しぶりに間抜け面晒しに来とるから顔見に来たんやで?」

 

つまらん奴やな……とこぼすが、お前に見込まれたら地獄の組手に付き合わされんだろうが。

一年の時に受けたアレは忘れんぞ。

 

とりあえず、蘭豹から逃げ出して射撃レーンに移る。ここ最近は探偵科の授業や依頼をこなしていたから銃にはあまり触れていない。

銃は訓練を続けないと簡単に腕が落ちてしまう。不殺を定められた日本の武偵は銃との会話を絶やさずに上手くその銃の持つクセと付き合って行かなければならない。

 

ショルダーホルスターに入れたベレッタM92を抜いてマンターゲットの肩、腕、手の6箇所を狙って引き金を引く。

久しぶりに手首や肩にかかる9mパラベラム弾の反動を懐かしみながら、全弾撃ち尽くすまで指を引き続ける。

 

狙った場所には撃てている。ただ、去年の俺と比べるとどうしても腕が落ちていることを実感してしまう。

狙い通りに撃てることはスタートラインでしかないのだ。

日本において武偵は不殺を義務付けられている。何があろうとも、例え犯人がこちらへ向けて機関銃を乱射してこようとも、その犯人を射殺してはいけないのだ。

これは元々警察や自衛隊であっても重武装化を忌避していた日本人が、武偵と言う職業を受け入れるための最後の妥協だったのかもしれない。

 

動かないマトに対して狙い通りに弾を撃ち込むなんてことは強襲科の生徒であれば誰だってできる。というか、これができないと任務を任せてもらえなくなってしまう。

だから、今俺がやったのはその最低限のラインを確かめることでしかない。

俺が強襲科に戻ることができるかどうか、アリアとともに事件に臨む資格があるのか、それを確かめるものでしかなかった。

 

ここから動く標的や民間人などを模した標的も混ぜて訓練を行い、失ったカンを取り戻さないといけない。

アリアと臨む、事件がやってくる前に。

アイツには俺の実力に失望してさっさと部屋から出て行って欲しいと思っているが、それでもこれは武偵として超えてはいけない一線だから。

 

まだ少し肌寒い春なのに額に浮かび始めた汗で前髪が貼りつくのを感じながら、懐かしい訓練に没頭した。

 

 

 

「今日のキンジちょっとカッコよかったよ」

 

帰り道でアリアが言う。

 

「いつもは根暗っぽいけど、強襲科のみんなに囲まれてた時のアンタはカッコよかった」

 

やめてくれ。あんなとこにいる自分を褒められても嬉しくない。

中身はともかく外見は可憐な美少女のアリアに言われると背筋がむず痒くなる。

 

「訓練の内容はこの前みた時のアンタとは全然違ったけど、やっぱりアタシは間違ってなかった。だって、強襲科のみんなから一目置かれてて……あれだけ歓迎されてたんだから」

 

みんな口では言ってなかったけどアンタが戻って来たこと喜んでた、アリアは続ける。

 

そんなことは言われなくてもわかっている。

去年の入学試験でヒステリアモードになってしまった結果、強襲科のSランク武偵として入学した。

逸材として期待され、育てられ、教務科から降りて来た特別任務もそつなくこなして来た。

周りの仲間たちからも一目置かれ、好かれて来たことも自覚はしている。

久しぶりに訓練に混ざって汗を流し、体と心が型にはまったように感じたのも事実だ。

 

「やっぱりアンタにふさわしい場所は強襲科(ここ)よ。今日のアンタはいつもと違ってイキイキとしてた。直接は話していないけど周りのみんなもそう言ってたんだから」

 

「アンタにどういう事情があったのかは知らないし、どんな気持ちで探偵科に移ったのかも知らないけど、アタシはアンタに戻って来てほしい」

 

縋るような、どこか焦りを感じさせるような声でそう伝えてくる。

 

「……一回だけって言っただろ」

 

そんな(少なくとも外見だけは)可憐な少女にカッコいいと、褒められ続けて恥ずかしさがあった俺はぶっきらぼうな口調で返してしまう。突き放すように。

 

「……そうね。でも諦めないから」

 

そう言って、この話はおしまいとでも言うように前に駆け出してしまう。

舞った髪からふわっと香るクチナシのような残り香はどこか寂しそうに感じられた。

 

「何ボサボサしてんのキンジ。早く帰るわよ!!」

 

この後は一刻も早く彼女と連絡を取って、昼の件について話を聞きたいと思っていたが、このまま彼女を突き放してしまうのにも罪悪感を感じてしまっていたので、ここは素直に従うことにする。

あの感じだと彼女も少しくらい待ってくれるだろうし、アリアとの事件が終わってからでも問題はないだろう。

 

ももまん〜ももまん〜と小刻みにステップを踏んでかけていくアリアの小さな背中を小走りで追いかけた。

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

――ここだ。

 

このぶんだとキンジがアテナんに接触するまで時間はある。キンジとアリアの仲も少しは近づいたようだし。

今なら仕掛けられる。

何日か遅れてしまったがこの程度であれば誤差の範囲として収束できるだろう。

上手くいけばアテナんの問題も一挙に片付けられそうだ。

 

彼女には少し申し訳ないけれど。それでも、自分の第一目標は変わらない。

 

「ごめんねアテナん」

 

かすかに残る申し訳なさに蓋をして。

 

 

 

 

 




用語解説


・ももまん

アリアの好物。ももの形をしたあんまん。……だったと思う。
別に知らなくても良いかと。


・M500

S&W M500。使用弾薬は.500 S&Wマグナムもしくは.500 S&Wスペシャル。
世界最強のリボルバー拳銃といっても間違いでは無いであろう有名な銃。
開発構想が「.454カスール以上の威力を撃てるリボルバー」であるため、基本的に射手のことは考えてない試作品みたいな銃。発射することが目的だったせいで構造にかなり無理があったりして集弾性とか反動とかはめちゃくちゃ。そもそも扱える人がほとんどいない銃。
これ以上のリボルバー銃も世界には存在するが、大きさからして「もうそれHand gunじゃ無いよね」ってやつばかりだから、実用的なリボルバー拳銃の中ではやっぱり世界最強。
これを実用的っていうと怒られるかもしれないけど、アメリカじゃ一般市場に出回ってるから、作者の中では許せる最終ラインに片足を踏み込んでるくらいの立ち位置。
実は銃身長別に4モデル程開発されていてM500ESとかは秘匿性もめちゃくちゃ高かったりする。護身用で持ってる人間なんか絶対いないけど。

他にトーラスのレイジングブルが.500 S&Wマグナム使ってたような気がするけどとっくに生産中止になってるから、やっぱりこの銃が最強(狂)
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