tsプロゲーマー配信者なぎちゃん   作:ヲタクフレンズ

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お ま た せ 。
なんか気付いたら一年以上経ってたなぎちゃんの配信、はーじめーるよー
まともに文字書くの久々なんで文書ボロッボロだと思うけどお願い許して!


じゅうはちわ!

 教祖たそとの配信日の朝。

 

 どうにも寝付けなかったが、寝起きは良いみたいで、頭がスッキリしている。

 

 スッキリしているせいか昨日の痴態を思い出しそうになる……うう、切り替えよう、切り替えだ。

 

「はぁ……よし」

 

 ご飯を食べよう、実を言うとこの体になってから食欲が増えた傾向があるのか、よく食べるようになっていたり。

 

 だからって朝からラーメンヤサイマシマシを食べるわけじゃないし、カツ丼大盛りを平らげる訳でもないけどさ、ああいや、出来るか出来ないかの話をするなら問題なくどっちも出来る。

 

 ……食べた栄養がどこにいってるか、考えたくはないけど。三音いわくわたしは軽過ぎるぐらいだというので、いっぱい食べるのは良いことだ。そういうことにして。

 

「よし、まぐろ丼を食べよう」

 

 漬けまぐろのタレをかけると凄い美味しいんだぁこれが……

 

 食事を用意している間に、教祖たそについて考えてみる。

 

 といっても会ったことも無いし、実は見た事もないのだ。ああいや、記事で見てたりはするんだけどね、そうじゃなくて、放送とかでみたりはしたことが無く。

 

 声を聞いたことがないのだ。わかるのはリアルJC14才ってことと、その容姿だけだ。

 

「思えばわたしと似ているんじゃないか……?」

 

 わたしほどではないが、より白い銀色のホワイトブロンドに、赤に寄った紫色の……伝統色で例えるなら、紅桔梗(べにききょう)の瞳。

 

 それでわたしよりちょっと下ぐらいの身長かぁ、なんだか妹みたいだ、こんな子にお姉ちゃんって言われた日には萌え萌えキュンってなるかもしれない。

 

 いややっぱ無しで、お姉ちゃんはダメ。

 

「いらない事まで思い出しそうだ」

 

 ……ん?なんだろうこの記事。

 

 

【自我を持つAIに、心はあるのか?】

 近日、感情を持ち始めたと噂される自律AIが増え始めたのはご存知だろうか?例として自律型多機能AIのナゲット君のサボりや、妙な親切心、高度なプログラムでの扉のハッキングなどだ。

 何故このような行動を取るのか、我々AI管理者が思うに自律AIに組み込まれた“自己学習能力”の学習能力、そして伝達能力の高さが裏付けているのではないかと考えられる。

 ある事件以降、AI全体に感情プログラムは完全に破棄され、以降感情を持つAIは淘汰された。しかし自律AIの持つ自己学習能力が、様々な演算の果てに、感情というデータを入力し、確立され、伝達されたのではないか。

 始まりは謎に包まれているが、まるで人間のような行動、そして人間に対しての好意的な行動から推察するに、善意また優しさなどの、愛を伝達したのではないか、と私個人は考える。

 0と1で動く機械はつまり、方向性が一方的にしか動かないのだ。

 一般的な善、それは愛情や喜びを生み、一般的な悪とは、悲しみや怒りを生む。

 話が脱線したが、つまり自律AIの人間くささ、人間に対する好意的行動は、それらの愛を持つ人間から生まれたものだと管理者らしくもない、ロマンチスト的考察をしてみたのだ。

 ともあれ、これらの意見を踏まえた上で私は傍観する事にした、管理する立場としては無責任だろう、だが統治された意志に私は興味が無いのだ。

 成長していく自律AI達を君たちはどう見るか、どう思うのか?答えは尽きないだろう。

 以上で人工知能総合管理者Tの独白を終了する。

 

 

「はぇ〜……感情を学習するってすごいなぁ、それよりすごいのはそうまでした影響を与えた人かな?へへ、その人のお陰でわたしはナゲット君に優しくしてもらってるなら感謝しないとなぁ」

 

 このTさんって誰だろ、田中さんとか?なんちゃって、まさか管理者の人がわたしの配信を見ている訳ないか。

 

 ともあれ、感情があろうがなかろうが機械だからって差別するのは、なんだかおかしい話だし、こんなご時世に自我を持ったAIがいるよって言われても、そっかとしか思わないかなぁ。

 

 他の人はわからないけど、少なくともわたしはそう思う。人間としてAIを見てる訳じゃなくて、AIが好きとか、人間が嫌いとかの話じゃなくて。

 

 ただ単にAIも人間もわたしにはそう変わらないだけなんだ。

 

 優しくしてもらったら優しくするし逆もそう、ただそれだけ。

 

「……お、噂をすれば玄関に配達を頼んだナゲット君が」

 

 なんだかこうしてみると、心なしかそわそわしているみたいで可愛いなぁ。わたしに機械フェチの門は開いてなかったと思うんだけど。

 

 うーんでも、技術研究部に居た頃に作ったものの全てに愛着はあったから、案外潜在的に芽生えてたり?

 

 扉を開けて配達物を適当に置いて貰う。

 

「これが終わったら撫でてやろ〜う!」

 

 聞こえているのか聞こえてないのかはわからないけど、作業スピードが上がったかな?ふふっ、やっぱなんかかわいいなナゲット君。

 

 AIに心があるのかないのか、わたしには良くわからないが。

 

 感情を学習しようと学習する事自体が心を持つことの証明なんじゃないかなって、ナゲット君を見てたらなんとなく思った。

 

 

 

 

 改めて今日は教祖たそとの、より正確に言うなら、初見の人とVRで共に大手企業依頼のデモプレイ配信をする日だ。

 

 あぁやべっ鳥肌立ってきた、緊張しゅる〜……

 

 この緊張感の懐かしさ……わたしは忘れていたかもしれない。こんなことなら忘れたくなかった、慣れたくもないけど。

 

 だだだだ、大丈夫!大丈夫ダイジョブ!今までも配信が始まれば大抵落ち着きを取り戻したクールでかわいいわたし、今回もきっとそう。

 

 それに年下の女の子にビビるってそれはそれでなんか、距離を自分から置いてるみたいでやだし。

 

 距離は置くんじゃなくて詰めるモノだよ、だって仲良くなって友達になれたらそれは素敵な事だ。

 

 きっとその方が楽しい。

 

「……よし」

 

 そろそろ時間だ、事前に一緒の所に転移しようって事になってる。

 

 今回は赤のベレー帽とロングパーカー、手首に初菜のくれた御守りに加えて司のくれた金と黒が交互に交わった月のピンを反映した。

 

 おでこは出してないけど、この方がわたしの顔が良く見えるし……どうせならVRの方でも付けたいし?

 

「行こっか、よろしくね」

 

 なんとなく、自律AIってわけでもないのにそんな言葉を呟く。

 

 囁くようなか細い言葉と共に、わたしは電子の海を渡った。

 

 

 ーー擬似電子体総合プログラムを開始します。

 

 ーー肉体と精神の統一を開始します。

 

 ーー電子体へのアクセスを始めます。

 

 ーー適合を完了しました。世界への適合を開始します。

 

 ーーロストデイメモリーへの接続を開始します。

 

 ーー全行程良好、擬似工程クリア。

 

 ーー全行程完了。配信を始めます。

 

 

 ーーよろしくお願いします、凪沙様。

 

 

 見上げる空、雲一つないとまではないかないけど、なかなかの晴天。

 

 横を見れば煉瓦造りのアートセンスを感じさせる建物は中世ヨーロッパのような、日本ではお目にかかれない街並みをバックに、配信用ナゲット君が待ってましたと言わんばかりに飛び跳ねてる。

 

『始まった』『うおおおおお!』『出かわ』『なぎちゃん今日もかわいいお!』『髪留めなぎちゃん』『かわいい』『なぎちゃんが見つめてる』『なぎちゃんが僕に見惚れてる』『無職童貞太郎がなんか言ってる』『可哀想な奴』『この日を待ってた』『視聴者3万人超えた』

 

 次に、気配がする方に振り向けば見た事のある、だけど会った事のない女の子が今まさにこのロストデイメモリーに接続した。

 

『うおおおおお!』『うおおおおお!』『教祖たそ!』『天使と教祖……うーん』『桃源郷此処に在りて』『なぎちゃんと並ぶと姉妹みたい』『わかる』『わかる』『天使姉妹』『可愛すぎる……』『美しい……』『おいロシアの方の教団さんよォ!悔しいか〜??教祖たそは今日本で〜す!』『アァァァァアァアア!!』『草』『草』

 

 可愛らしい顔立ちだ、それでいて気品があり、お姫様のような黒いゴスロリチックな服装も相まって、将来は優雅さと気高さを併せ持つ美しい女性になるのだろうなと直感的に思った。

 

 わたしの黄金色の瞳と少女の紅桔梗の瞳が重なる。不思議な瞳だ、この瞳を言葉で説明するには、少し難しい。

 

「よ、よろしくね」

 

 ーーお?目逸らした。……顔赤らめてる、かわいい。

 

「そ、そにょ、き、今日はよろしくお願いします……」

 

 

 ……顔赤らめてる、かわいい。なんだかわたしも恥ずかしくなってきた。え……?何この付き合いたてのカップルみたいな。てかメールとえらくテンションが違うような、あれ?

 

『かわいい』『かわいい』『Wエンジェル』『Wコミュ障』『教祖たそ、緊張のあまりしおらしい』『しおらしい教祖たそかわいい』『よわよわ教祖たそ』『』『なぎちゃん、目を逸らす』『付き合いたてのカップル』『は!?』『おちつけレズ娘特攻隊長』『何その称号』

 

「あっ……あの、ファンで、昨日の配信楽しかった……です」

 

「そ、それは良かった……あ、ありがとう、ございます」

 

「な、なぎ様。あ、改めて今日はよろしくおねがいします……」

 

「う、うん……うん?なぎ様?」

 

 リアルJCに様付けされた件について。いやいやんん?

 

『!?』『様……!?』『なるほどね、私は理解しました』『何を受信したんだ』『うおおおおおおおお!』『気が早いぞ』『なぎちゃんそこかわって』『かわって』『立場的には?』『逆』

 

「様とかやめよ?立場的にも背徳感的にも、ね?」

 

「ふぇ……や、やです……」

 

「なんで!?」

 

「な、なぎ民ですから……」

 

 なんで!?

 

『困惑なぎちゃん』『かわいい』『かわいい』『気弱(譲らぬ精神)』『文面と対話の差が激しい』『こういう娘なんです』『これがギャップ萌え?』『教祖たそ~(天誅)』『昇天しないのか……』

 

「な、なぎ民は、なぎ様を崇め奉らなければならないんですよ……ロ、ロシアではそうしました」

 

「え、ええ!?ロシアの人それで良いのかよ!や、やめよ!ね?恥ずかしいから!」

 

「は、恥ずかしがってる……な、なぎ様、かわいいです……」

 

 

『なぎちゃん様バンザイ!』『なぎちゃん様かわいい!』『なぎちゃん様すてき!』『なぎちゃん様結婚して!』『なぎちゃん様俺だ!認知してくれ!』『認知兄貴まだ認知されてないん?』『なぎちゃん様とかいう新ジャンル』『さすがおそロシア、時代を先取りしたな』『視聴者50000人突破』

 

「よーしよしははは、もういいや。はい!じじょこうしょうかいしよ!?」

 

「に、日本語……崩れてますよ」

 

「うりゅさいょ!……ごほん、おはよう!こんにちは!こんばんわ!自称プロゲーマーなぎちゃんです」

 

「フィリス・リーベルフィールです。き、教祖たそって言ってください……」

 

『うおおおおお!』『うおおおおおお!』『始まったぞぉおおお!』『VR初コラボ』『なぎちゃんの成長が著しいぜ』『まじ姉妹みたいやなぁ』『二人でなぎ教』『それ別のになるのでは?』『なぎ民は実質なぎ教だった?』『なぎなぎなぎ……』『なぎなぎするにはまだ早いぞ』

 

 改めて説明しよう!ロストデイメモリーとは、SSS社の開発した異世界ちっくなオープンワールドゲームである!

 

 中世ファンタジー風味の世界。文明は停滞を告げ、緩やかな平和が世界に広まる。その世界にプレイヤーは迷い込むのであった。

 

 プレイヤーは現実世界から迷い込んだ『迷い人』だ、あなたはこの迷い込んだ世界で、何をしてもいい。広大な空を羽ばたくように走るのもいい、森林に入り、動物たちと心を通わすのもいい、人間社会に溶け込み、賃金を稼ぐのもいいだろう。

 

 或いは、遠く離れた魔王城に行き、魔王の私兵として志願するのもいい。古びた館にて、吸血鬼の始祖に出会い、共に旅をするのもいい。勇者の末裔に、行商人に、或いは、この世界の謎を解くと言うのは、どうだろうか?

 

 それら全てを壊してもいい、狂った迷い人として、この箱庭をめちゃくちゃにするのも、良い。

 

 あなたがやりたいことを、他でもないあなたが見つけるのだ。

 

 ……と、いうのが公式のあらすじ。

 

『コピペするな』『説明しよう!(貼り付け)』『一回目で聞いた』『コピペなぎちゃん』『そういや平和がテーマなん?』『迷い人たるプレイヤーの方々の行動次第ですね』『なんだその意味深発言』『戦闘できるって事はつまり?』『ゲーム脳ならわかりますね』『なぎ脳だからわからん』『バカの間違いでは?』『おまえ、滋賀県』

 

「そ、そうだ……なぎ様、聞きたい……ことがあるんです、し、滋賀県は、何故あんな……その、あの」

 

「ああうん、こういうのはね教祖たそ、関わらないのが一番だよ」

 

「え、えぇ……はい」

 

 滋賀県のなんの罪のない人すみません……いや、罪がある人はまず戦争区域に行けないし住めないんだけどさ、問題は滋賀県の音が隣接した県にまで響き渡るってのがね。

 

「さて!教祖たそ、ええっと……な、何したい?い、一緒に戦いに行く?」

 

「と、共に、その……た、戦いに行きますか……?」

 

『草』『草』『もっと他にあるだろ!』『話が合うねえなるほどねえ』『体が闘争を求めている』『これが戦闘種族ですか』『姉妹ってそういう……』『平和な世界って言ってるだろ!』『絶対そう言うと思ったのでですね』『ん?』『おや?』『ワールドイベントじゃああああ!!!』

 

 その時、示し合わせたかのように青空に次元が裂けたかのように切り裂かれた。

 

 何があっても良いように教祖たそをわたしの後ろに誘導する前に、教祖たそがわたしの前にかばうように飛び出した。

 

「なぎ様は私の後ろに!ーーこれは」

 

【WORLD;EVENT】

 晴天斬り裂くは邪神と言われる無貌の王がその一人。

 迷い人たる君はこの空の原因を突き止めるのも良し、無視するのもよし。どちらにせよ世界はその選択を受け入れ、次なる新しい平和の世界を作るだろう。

 報酬【世界救世の迷い人】【カルマ;善】

 

 な、な。

 

「なんだこれ!聞いてないぞSSS社さん?!てか説明不足だし、何しろってんだよばか!」

 

『罵りなぎちゃん』『ばか頂きましたアリガトウゴザイマス!』『わくわくしてきた』『やっぱこういうのがあるんすね』『でこれ多分、真逆の事も出来るよね、邪神側的な』『鋭い視点だぁ』『わざわざワールドって区切ったって事は別の特別なイベントの枠もあるのか?』『で発売はいつですか?』『未定!』『はよ』

 

「ワールド……?世界に影響する、つ、つまり平和を脅かすイベント……な、なら、放っていくわけには……な、なぎ様!ち、力を……貸してください」

 

「え?あぁいや、それは良いけど……」

 

「あ、当てはあるのか……ですよね……き、亀裂の出来た真下に、い、行きましょう。そ、それで何らかの手がかりがなかったらそ、その時に考えましょう」

 

 ノリノリかよ教祖たそ。

 

『ノリノリ教祖たそかわいい』『かわいい』『かわいい』『異世界転移したら早速邪神に絡まれた件について』『その小説、作者の体験談らしいよ』『えっ』『ファッ』『信じね〜よば〜か』『信じさせてやるよ、今から家いくわ』『えっ』『あいつ消えたわ』

 

 ちょっとコメントが何言ってるかワカラナイ。

 

「よし、じゃあ行こう!レッツ世界救世!」

 

「えいえいおー……ですねっ……!」

 

 デモプレイ用なのか、ご丁寧なことにわたしの脳内にはワールドマップが広がっているのだ、教祖たそが言っていた亀裂のできた下に行くぜ行くぜ!

 

「はいとーちゃ〜く……わあ」

 

「す、すごい」

 

 迷い無く亀裂の真下に移動すると、空間の亀裂の中は星々が煌めいていて……渦巻銀河のようなモノが覗き込んでいた。

 

『こりゃすげえ』『はぇ〜幻想的』『どう?モビルスーツ居る?』『金色に光る百の式いる?』『そういやこの前パイロットになったんだけどさ』『そういやじゃないが』『えっモビルスーツの?』『はい』『はいじゃないが、お前誰だよ』『俺……かな』『お前だったのか』

 

「なぎ様、あの亀裂の中に邪神さんがいます……ね」

 

「そ、そうなんだ?よくわかるね、全然わからないよわたし」

 

「そ、それはですね、えとえと、うにゅ……その、にゅぅ……」

 

「あ、ああ言わなくて良いから!ね?信じてないわけじゃないよ!」

 

 それにしても、邪神が居るとわかって倒せるのかな?このゲームはどうやら完全没入型のVRゲーム。わたしの視界に広がっている景色はデモプレイ用に用意してくれたワールドマップ以外システムの介入はされていない。

 

 つまりは、わたしが何を使えて何が出来るかは全くわからない、システム的には生身よりは数倍は強くなっているはずだし、配信前のゲームのデモプレイってことは……うん、よし。

 

「つまりは飛べばよいのだ〜〜〜!捕まるんだ教祖たそ!」

 

「ふぇ……なぎ様のお体に触れるわけには……」

 

「わたしがるーるなのだ!」

 

 渋る教祖たその手を掴んで、私は脚力で飛ぶーーー!

 

『うおおおおお飛んだぞ!』『飛翔とはこの事か』『なぎちゃん、行きまーす!』『あぁ〜可愛い子と可愛い子が手を繋げてるんじゃ〜』『てぇてぇ』『萌えじゃん?』『デモプレイ用とは言えここまで息切れしてないのすげえ』『つよつよだからな、なぎちゃん』『ポンコツだけどな』

 

 ポンコツじゃないわい!

 

 飛んで亀裂の中に入る。不思議な……いや、ちょっと怖い感覚だ、未知の領域ってこのことをいうのかな。

 

 私が感心していると、空間全体に声が響いてきた。

 

「おや、随分早いじゃないか、たしか迷い人と呼ばれるのかな?いやはやなんとまあ……よくないものに憑かれてるねぇ、君?」

 

 老若男女全ての声を混ぜ合わせた複合音声の様な、得体の知れない、重圧を感じる。

 

 ゾッとした、種としての本能からの警告、データ上とは言えこの感情は確かだ。わたしはいまとてもこわい。

 

 ひぇっ…調子乗ってたよお、わたしに邪神討伐なんてむりぃ!教祖たそと一緒に……あれ、なんか雰囲気が変わってるよ?

 

「悪しき神、人に災いを呼ぶ邪神!隠れるな!出て来なさいッ!!!」

 

 今までにない大声、剣幕で教祖たそが言葉を発した。か、かっこいい……

 

「ほう?威勢が良いねえ、君も君で面白い、”我ら“の創造主の星のモノは君達二人のようなモノが一般的なのかい?そこのところどうなのさ、見ているんだろう?迷い人諸君?」

 

『へ?』『ひょ?』『何も聞こえない何も聞こえない』『びくんびくん、僕は悪い迷い人じゃないよ』『この邪神さあ……』『はいSANチェック』『おわおわり!閉廷!』

 

 そう言葉を発しながら、その邪神はわたしたちの前に現れた。

 

 黒い外套に身を包んだ、人型のナニカ。

 

「お初にお目にかかるね、自己紹介をしようじゃないか!そうだなあ、君達に伝わりやすいとするなら……ナイアーラトテップ、聞いた事は?」

 

 わりい、わたし死んだ。

 

『ヒェッ』『ウーン(昇天)』『やべえ邪神じゃん』『なんつーもん作ってんだオイ』『敵わ(ないです)』『なぎちゃん、死す!』『待て次回』『無いよ〜!次回無いよぉ〜!』『よし、逃げよう!』『視聴者減って草、そりゃそうだわな』『デモプレイで裏ボスのその裏行くな』

 

「よーし逃げよう、うん。教祖たそ、無理です無理、ログアウトしよう!うん!そうしようね?ね?!」

 

「ログアウト不可領域の様です。なぎ様は私の後ろに、私に任せて」

 

 えっかっこいい、凛々しいんだけどもこの子?わたしがおかしいの?普通SAN値削れるよ?なんで?

 

「まあまあ、警戒しないで欲しいね。我らは君達迷い人を歓迎しているんだ、まだ構築し切れていないこの世界で愉しいコトをするんだろう?それよりほら、名前を教えてほしいな、初めてこの世界に訪れた光栄なお嬢さん?」

 

『わたちはなぎちゃん!あなたの心、奪っちゃうゾ?』『草』『草』『なぎ民くんさぁ……』『言い得て妙かよ』『怯えるなぎちゃん、かわえかわえ……』『庇う教祖たそに恋したわ』『叶わぬ恋じゃん?』『わかんねーだろ』『猿でも分かるわ』『つまりお前、猿以下決定』『はい戦争』

 

 すすすす好きかって言いやがって!

 

「あははは!なぎちゃんって言うんだ?ああ、当たり前だけど見えてるよ?それでそこの小さい子の方の名前は何かなぁ?」

 

『えっ見えてるってまじ?』『嘘だろ?AI設定どうなってるん』『俺頭良いから説明できるよ』『うるせえタコ、やってみろイカ』『OK、長くなるから簡単に言うけどシステムAI、つまりこの世界の権能を司るんだわ』『つまり?』『このワールドの持ち主』『チートじゃん』

 

「私はフィリス・リーベルフィール、邪神ナイアーラトテップ、何が目的ですか」

 

「良い名前だねえ、目的かあ、目的もくてきモクテキ……よし!決めた!」

 

『わあ?!』『わあ?!』『わあ?!』『綺麗だな』『これはすげえ、おじいちゃんと見たプラネタリウム思い出すわ』

 

 暗転、次の瞬間には星空が宇宙に広がっていた。その景色はあまりにも幻想的で、あまりにも宇宙的で、あまりにも……綺麗だった。

 

 その景色の中心でナイアーラトテップは狂気としか言い様のない悍ましい雰囲気で、外套に隠された貌の見えないその奥に、笑みを浮かべながらほんとうに愉しそうに歌った。

 

「なぎちゃん!フィリスちゃん!そして来たる日に現れし迷い人諸君!私は君達を歓迎する!私の箱庭に存在する事を許そう!そして存分に箱庭を愉しんでくれたまえ!君達の予測不可能な数々の物語が私の、我らの糧になる!この箱庭では何をしても構わない!私はその全てを許そう!愉しもう!この箱庭は、世界はッ!愉しむように出来ている!存分に愉しめ!」

 

「そして時が満ちるその時に、また会おうじゃないか?」

 

【WORLD;EVENT】

 晴天斬り裂くは邪神と言われる無貌の王がその一人。

 迷い人たる君はこの空の原因を突き止めるのも良し、無視するのもよし。どちらにせよ世界はその選択を受け入れ、次なる新しい平和の世界を作るだろう。

 報酬【世界救世の迷い人】【カルマ;善】

 

【CLEAR!!!!!!!!!】

 君達二人は邪神ナイアーラトテップに歓迎を受けた。

 ナイアーは君達迷い人が存在する事を良しとしたのである。それは即ち、世界に顕在する事を許したと言う事である。

 

報酬【カルマ:善】【邪神の加護】【解放:レコード《解放者》】

 

『うおおおおおお!!!』『熱いぜ!』『始まるって感じする』『いやもう始まってる、公式がサーバーオープンした』『まじ?!粋過ぎるだろ』『え、つまり?』『つまりロストデイメモリーをプレイ出来るって事じゃい!』『うおおおおおお!!!』『なぎちゃん、ぽかんとしてて草』『教祖たそもだぞ』『そりゃそうだ』『帰宅したら凄い事になってた件について』『悲報:家から追い出される』『何してんお前』『草』

 

 わたしは考えるのを辞めた。

 

 

 

 

 視点が切り替わる、……ってあれ?教祖たそは?それに配信用ナゲットもいない、あれ?

 

「やあ、これからはオフレコ。ちょっと個人的に話したいんだ」

 

「ひぇっ!ナイアーラトテップ……」

 

「そう怯えないでよ、親しみを込めてナイアーちゃんで良いんだよ?」

 

「な、なに、なにさぁ!わたしは食べても美味しくないぞ!」

 

「ふふ、それも良いかもしれないけども、後が怖いから辞めとくよ」

 

 今とんでもない事言いませんでしたか?

 

「さて、と……凪沙。キミ、随分面白い体してるけど……そのままで良いのかい?」

 

「な……?!なん、なんでわたしの名前、それに、体って……」

 

「我ら、ああいや、私は限りなく邪神ナイアーラトテップに近い存在だ、そのモノと呼んでも良い程にはね、魂の形ぐらい見れるさ」

 

 うそでしょ……なら、わたしがわたしじゃない事も分かるの?

 

「キミ随分怖がりだね、恐怖に敏感だ、虐めたくなっちゃうな……あぁ、ますます欲しくなってきた、ねえねえ凪沙、君を元に戻せーーーー「嫌ッ!!!!!」

 

 

「嫌だ!嫌ッ……やだっ!戻りたくなんてない!そんなの嫌だ!だって、だって戻ったら全部ーーーぜんぶッ」

 

「壊れるから?無くすから?元に戻りたくないと?ふふっ……アハハハハハッ!!!ああ失礼、そうかそうか、まあそれも良いけど、でもさあ。ただの矮小な人間如きが、我らに迫る程に成長を遂げている、進化をしようとしているのは見過ごせなくてねぇ、それは君達の世界だと尚更なんじゃないかなぁ。だからさ、優しい優しい邪神は考えました」

 

 ナイアーラトテップの目の奥と目が合う、その時何か強大な腕の様なものにわしづかみにされたような圧迫感が襲いかかってきた、くるしい。

 

 

「う……っァ、な、なにするの……やめてよ、やめて……ゃぁっ」

 

「だいじょうぶ、私に委ねて欲しいな、君はどうやら同類に気に入られてるようだし、変な事をしたら殺されちゃうかもだしね。うん、だからさ?

ちょっとだけ君の力、調整するよ、その力は膨大に溢れ過ぎだ。君が持つべき力ではないだろう?」

 

 うあ……いしきが、あたまがゆれて……ぁ

 

「じゃあ今度こそ、また会おうね?凪沙、約束だよ?」

 

 

 

 

 

ーーーーーさま!

 

 

 

ーーーーーさま!

 

 

 

 

「なぎ様!」

 

 

「っあ?!、あ、アレ?ここ……は」

 

 悪い夢を見た気がするけど、何も思い出せない。えっと、何があったっけ……?

 

「あ、ナゲット君、大丈夫だよ、心配しないで?それでええと?」

 

「え、えとですね、あの邪神さんの宣言ですね、視界が変わって私達は元の場所に返されたみたい……です」

 

『なぎちゃん、復活』『視点変わった瞬間気絶してたよ』『怖くて失神まじ?』『わり、俺も』『俺も』『なぎ民、なぎちゃんと仲良く御臨終』『精神よわよわ』『ニンゲン、オモシロ!』『だれだおまえ』『野生のゴリラでしょ』『野生のゴリラもネットを使い時代になったか〜』

 

「いやいやそんな時代にはなってないからね、なってたまるか!……はあ、疲れちゃった、もうわたし動けないよ」

 

「そう、ですね。デモプレイ自体は成功したみたい……ですし、配信時間も良い頃ですし……おひらきにしますか?なぎ様」

 

 あっ、気を使わせちゃったかな、ほんとうにいい子だなあ、妹にしたい、いやもう嫁にしたい。結婚しよ

 

「名残惜しいけど、うん、また会おうね、教祖たそ」

 

「ぜひ!ぁぅ……その、今度会いに行きます……ね?」

 

「うん!待ってるよ教祖たそ!……ん?」

 

 今度会いに行きますね(・・・・・・・・・・)

 

「そ、そそ、それでは!お元気で!なぎ様!なぎ民の皆様!教祖たそでした!」

 

「あっ待っ」

 

『消えた』『一瞬だったな』『かわいかったな〜結婚しよ』『それな結婚しよ』『このペドロリクソ猿共、粛清してやるわ』『アイエエエエエエエ?!』『南無……ロリコン、トリコン』『語韻で踏むな』『今度会いに行く(リアル)だよな多分』『多分ね』『てことは?』『住所特定済み』『ヒェ』

 

「えー……はい。まあとにかく!とーにーかーくっ!デモプレイ大成功です!ついでにこのゲームの製作者達を海に沈めます!はいでは!じゃあまたねなぎ民たち!」

 

 これ以上混乱する前にわたしはロストデイメモリーからログアウトした。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 VR機器を取り外して、一人考える。

 

 ナイアーラトテップはわたしのことをよくないモノに憑かれてるって言っていた、恐怖心を煽る嘘かもしれないし、AIの言ったことだけど、あれは多分本当の事なんだろうなって。

 

 だって、そうじゃないと、わたしの体の異変は説明がつかない。

 

 なんでわたしなの?でも、そのおかげでわたしはわたしであると感じることができる、生きている事ができる、でも……

 

 でも、

 

 

「……でも、」

 

 ロストデイメモリーは数分前のあのデモプレイ後、凄い勢いで迷い人達がやってきているらしい、正直私も普通にプレイヤーとしてやりたいけど、ちょっとしばらくはいいかな……。

 

 あっ、教祖たそからメールだ、ふむふむ……いい子やなあ、礼儀正しいなあ、妹にしたい。それどころかずっと養いたい……現実は養われてるようなものだけど。

 

 なんなら住所特定されてるみたいだけど、なんだかこわいんだけど。

 

 初菜からもメール来てるけどこれは開けないでおこう、嫌な予感がしゅるよぉ……

 

「ん……なんだか筋力落ちたかな、何でだろ」

 

 でもまあ、別に気にする程ではないからいっか。

 

 寝ちゃおうかな、少しだけ。

 

 ちょっと知恵熱みたいなの感じてるし、疲れたし。

 

「すこし……体調、崩したかな……」

 

 ベットに横になると、わたしの意識は数秒もしないうちに眠りについた。




なんやかんやあって再びフリーター生活に戻った作者、心の闇が倍増し1Lジョッキでキメた頭のインスピレーションで再び。

まあゴタクはさておき、待たせてすいません!二週間に1話は書けるよう努力するんで!許してください!なんでもしませんが!
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