パラレル・アース ~3つ目の平行世界は異世界だった?~ 作:千円ぱすた
第26話 待ち伏せ
「あっ、おはようございます!」
サクラコが迎賓館の一階にある食堂に降りると、サリアの元気な声が彼女を出迎えた。
「おはよう、サリア。今日も早いのですね」
時刻はまだ早朝である。
窓の外はまだ暗く、冬の遅い日の出にもまだ少しの余裕がある。
ダスターツ伯爵の孫娘であるメリーチェ付きの侍女であるサリアは、主人の起きる時間よりも先に起きて仕度を整え、朝食も先に済ませておく必要があった。
「はい、もう慣れっこですし」
「そうですか。ああ、一応確認しておきますけど、今日の予定はどうなってますか?」
バイキング形式の朝食をトレーに盛りながらサクラコはサリアに尋ねる。
特に深い理由があるわけでもないが、今更事実を告げたところで余計な混乱を招くよりは、ということだ。
一応そういった、擬似的に食事をする行動にも対応はできるので、今のところ問題も無い。
「ええっと、お嬢様は午前中ナルセン王子やホルストーン子爵とご一緒に市場とか市内を見学してから、市外の操練所? 訓練所? よくわかんないですけど、そこで観閲式に出席。それから午後は市内に戻って議会に出席なさって・・・・・・後は色々? 夕刻には戻られるそうです。護衛は王都の騎士団の方々がされるそうで、私とかフィーゼさんとか、伯爵様の騎士の方々はお留守番です」
今回の王国使節団は、ナルセン第五王子を団長に、50名の規模で構成されていた。
ナルセン第五王子たっての希望で、役員5名と30名の護衛騎士団が王都から馬車で出発し、騎士団がドマイセン入りする時期を見計らった上で、それに合わせるようにルードサレンから
ちなみに、最後のその他1名はナルセン王子本人であり、メリーチェを使節団に推薦したのも王子だったりする。
コルエバンに於いて、戦後の会議でニイロについて熱弁を奮ったメリーチェを気に入ったらしいが、それについてのメリーチェの心情は不明である。
「そう。私も食事を済ませたら、積んできた
サリアにも、そう伝えておく。
被害の大きいボノ川の下流域は、馬車なら片道1日かかるが、
ベータ・アースからは2台が送られてきており、ピンクに塗装された1台をサクラコ専用としている。
浄化施設が稼動してまだ僅かな期間であり、数値的にたいした進展は望めないが、調査ポイントの設定と通達も事前に済ませてあり、ドマイセン側でも調査を行っていて、そのデータは報告も上がっているので、今回はサクラコが正確なデータを拾うことで、言わば答え合わせを行うことが出来る。これでドマイセン側の人員の教育にもメドが立つだろう。
実は王子やメリーチェ達に同行して行事に出席するように求められたのだが、それでは1日が無駄になるからと素気無く断っている。
それから2人は他愛の無い雑談を続けながら食事を済ませると、同時に席を立った。
「それじゃあ、行ってきますね」
そう挨拶するサクラコに、サリアが少し頬を染めて返した。
「いってらっしゃい。お気をつけて・・・・・・
最後は消え入るような言葉だったが、サクラコは優しい微笑みを返すことでその言葉に応えた。
◇ ◇ ◇
銃声が聞こえた。
もっとも、それが銃声であることに気付いた人間は少ない。
「今の音は・・・・・・
ソットス・ジーマールは兵舎の一画にある自分の執務室で、目を通していた補給物資の関係書類から顔を上げると、正面に控える副官のワーゾに尋ねた。
コルエバン攻略作戦の総指揮官であった彼は、失敗の責任を取る形で、現在は補給部門の輜重部隊編成部署へと事実上左遷されていた。
当初は正面部隊を外されることに
元々見栄を気にするような性格でもなかったことから、最近は与えられた仕事に
「えっ? いえ、私は気付きませんでしたが・・・・・・あっ、聞こえました! 確かに!」
ワーゾがそう答える間にも、またもパーン!という銃声が遠くで響く。
明らかに異常事態だった。
「今日は市内で鉄火捧を使う部隊の訓練は聞いていません。ワーゾ、すみませんが急いで誰か様子を見に行かせて下さい」
ジーマールは、そう言ってワーゾを送り出した後、言い知れぬ不安に書類が手に付かず、窓の外の景色に目を向けた。
そこに見えるのは隣の兵舎の古ぼけた壁だけだが、目は壁を見つめたまま、頭の中では様々なケースに思いを
鉄火捧は正式採用されたとはいえ、まだ数も少なく一部の部隊だけに配備されている兵器だ。
そして、その訓練は基本的に機密保持の観点から市内ではなく、市外に設けられた施設で行われていた。
最近になって、配備数が一定数に達したことから、一部が市内の壁で囲った施設内でも行われるようにはなったが、それも今日は予定になかったはずだ。
では、真っ先に考えられるのは事故だが、一発だけならともかく、二発目――今、三発目が聞こえた――こうなると事故は考えにくい。
すると、次に考えられるのは兵の反乱、いわゆるクーデターだが、少なくともジーマールが知る限り、ドマイセン軍内部にそのような兆候は無かったはずだ。
そして最後に思いつくのは、第三者による襲撃に対しての発砲である。
現在、市内には王国の使節団が滞在している。
団長であるナルセン王子の都合とやらで、まず先乗りの護衛騎士団が3日前にドマイセン入りし、その後、昨日になって、コルエバンで見た馬無しの箱馬車に乗った王子達メインゲスト十数名が到着して、昨晩は大々的な歓迎レセプションが行われたと聞く。
ジーマールも出席して、あのニイロと名乗る男の
考えられるのは、この使節団に関連したトラブルだ。
もしも、何者かが何らかの思惑で使節団を襲ったとしたら――ドマイセンとしても警備には厳重な体制をとっている。襲撃者の規模にもよるが、すぐに鎮圧されるだろうし、ジーマールの出番などあろうはずもない。
しかし、そこでふと思った。
有り得ない話ではあるが、襲撃者が使節団そのものだったとしたら?
王国の使節団は総勢でも50名ほどだ。いかに精強な部隊であっても、たったの50人で落とせるほどドマイセン軍は弱くない。
追加の軍が侵攻してくるにしても、コルエバンへの侵攻に使ったルートは逆侵攻に備えて潰してあるし、ビンガイン経由にしても国境からの連絡にその気配は感じられない。
だが、あのニイロという名の男の顔が浮かぶ。
話をした限りでは、あの男が暴挙に出る可能性は低いと思う。
だが、あの男の持つ武力が脅威であることは事実だ。
騎士が50でも恐れはしないが、もし、あの男であれば、ドマイセンは一日で落ちるかも知れない。
そして、今、市内にはあの男の
ジーマールの背筋にゾクリとした不安が走る。
(何にせよ、最悪を考えた準備だけはしておくべきでしょう。空振りでも今より閑職に飛ばされるだけでしょうし・・・・・・)
そこに、ちょうど使いを出し終えたワーゾが戻ってきた。
「ワーゾ、戻ってすぐですが、今出られる兵を集めておいて下さい。私はベルテン部長の所に市内警備の加勢の許可を貰いに行ってきます。」
そう言って椅子に掛けていた上着を掴むと、ワーゾと入れ替わるようにジーマールは部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
早朝に宿となっている迎賓館を出たサクラコは、
ベータアースであればノーヘルでアウトだが、
服装はいつもの大正時代風ナース服モドキではなく、
これがベータ・アースであれば、(少々ダサいが)あまり違和感の無い格好なのだが、ここはガンマ・アース。
時折すれ違う旅人には驚愕と奇異の目を向けられるが、一向に気にすることはない。
やがて、両側からせり出した森の間を通る、見通しの悪い場所に差し掛かると、サクラコは一旦、
そこには倒木――明らかに切り倒したばかりで枝葉の茂ったまま――が行く手を塞いでおり、手前には
前方の男達は8人。
ニヤニヤ笑いを顔に張り付かせて、品定めでもするかのようにサクラコを眺めている。
「いよう、お嬢ちゃん、御覧の通りこの先には行けねえよ。大人しく言うこと聞いてくれりゃあ、お互い手間が無くて助かるんだけどなあ」
頭目らしき髭面の男がサクラコに呼び掛けたが、サクラコはその呼び掛けには
「私のことをご存知なんですね?」
その問いに、男は意味がわからなかったのか、「ああん?」と怪訝な表情を見せる。
「いえ、私の格好、そしてこの
大勢の男達に行く手を塞がれているにも係わらず、全く動揺する様子もなく受け答えするサクラコの態度に、髭面の男は明らかに狼狽した様子を見せた。
「そっ、それがどうしたって言うんでえ!」
「別にどうもしません。見たところ、盗賊を装っておられるようですが、それらしく見せても皆さん剣には拘りが有りの御様子。どこかの国の騎士さん? いえ、統一感も無いですし傭兵さんでしょうか。
大人しく道をあけて下されば、特に追求する気はありませんし、何の問題もありません。
でも、どうしても敵対なさると言うのであれば、私も容赦はできませんが、それで宜しいですか?」
「この人数に勝てるってのか!」
見抜かれた髭面の男が、左手を上げて周囲の男達に合図を送ると、配下らしき男達はサクラコを包囲するように散らばった。
サクラコの背後の左右の森からも、新たに2人の男たちが姿を現し逃げ道を塞ぐ。
「むしろ私のことをご存知の様子なのに、負けると思われることの方が驚きです」
「ふん! 小娘が何をほざきやがる! おい、構わねえからさっさと捕らえろ!」
その合図と共に禿頭の大男が前に出て、サクラコを捕らえようと腕を伸ばすが、それを素早く半身になることで避けると、逆に突き出した男の手首を取って
「ぐぬっ」
捻り上げられた腕の痛みに耐えかね、呻き声を上げながら思わず片膝を着いて下がった大男の顔を、サクラコはカウンター気味に蹴り上げた。
見た目は華奢な少女でしかないサクラコの蹴りは、その見た目からは思いもよらぬほど重い一撃となって、大男の顔面にヒットする。
ゴツリという鈍い嫌な音と共に、大男は声もなく顔面を血塗れにして崩れ落ちた。
「警告はしましたよ?」
「くっ、おい! 相手は小娘一匹、囲って一斉に押し潰してしまえ! 生きてりゃ腕の一本くらい構わねえ!」
髭面の男に
「それでは」
サクラコは、一瞬だけ自分の体をかき抱くように身を屈めたかと思うと、次の瞬間にはまるで舞台役者のごとく両腕を左右に広げる。
その手にはいつの間にか10mm
そのまま流れるような仕草で、まるでフラメンコのダンサーのごとく、くるりと体を回転させながら、包囲する男達に正確に2発づつ、銃弾が叩き込まれる。
ある者は呻き声を上げ、またある者は無言のまま、しかし一人の例外も無く男達が血塗れとなってサクラコの周囲に転がった。
「これで残るは・・・・・・どうされます?」
左手の銃は横に向けたまま、森の中の藪に突きつけられている。
右手の銃を正面の髭面の男に向け、サクラコは先程までと全く変わらない調子で男に尋ねた。
追い詰められた男は、顔を真っ赤にしながら一瞬だけ、サクラコが銃を向けた藪の方へ視線を投げる。
「き、気付いてたって言うのか・・・・・・」
「ええ、まあ、最初から。弓を構えた方を伏せてますよね。
サクラコの言葉に呼ばれたかのように、藪を
20代半ばくらいの、黒に近い茶色の髪に、意志の強そうな太い眉が印象的だ。
茶色皮鎧とズボンの上下に緑の葉を散らした即席のギリースーツ。腰にはショートソードを吊り下げ、背には小型の弓を背負っている。
「お手伝い頂いたようで、有難う御座います」
サクラコが弓の伏兵を片付けてくれたことに礼を言うと、藪から出てきた女は申し訳無さそうにそれを
「いいえ、むしろ私達の事情に巻き込んでしまったことをお詫びしなければなりません。ですが、その前に」
そう言って、おもむろに髭面の男に向かって声を掛ける。
「破砕の牙のオルナド! あんた達には生死を問わずの回状が回ってる。ドマイセンまで流れてきてたとは驚いたけど、もう諦めな!」
喝破された髭面の男――オルナドは、無言のまま女が出てきた方と逆側の藪に飛び込んで逃げ出そうとするが、それよりも一瞬早く、女の放った捧手裏剣の一撃がオルナドの背中を襲う。
そのまま藪の手前に倒れ込んだオルナドは、捧手裏剣に毒でも塗られていたのか、ひとしきり苦しそうに体を痙攣させると、そのまま動かなくなった。
女は倒れたオルナドに歩み寄ると、完全に死んでいることを確認してから、サクラコの方に向き直って頭を下げる。
「ご迷惑をお掛けしました。死体の後始末はこちらで引き受けます。それで・・・・・・言い訳にはなりますが、事情を説明させて頂いて宜しいでしょうか」
「そうですね。一応、夜には戻らないといけませんから手短に」
「有難う御座います。私はバネストリア帝国第二王女、ティリザ・エルノ・バネストリア様に仕えるチェク・ファノと申します。
帝国の現状をご存知かわかりませんが、お恥ずかしい話、現在、帝位を巡って争いが続いており、劣勢となった派閥があなた方を巻き込む算段をしているとの情報を聞きつけたティリザ様が、配下の私共にそれを阻止せよとご下命なさったのです。
残念ながら今回は一歩遅かったのですが・・・・・・」
チェクは忌々しげに周囲に倒れ伏す傭兵達を見渡した。
「なるほど。それで私を人質にしてニーロを脅そうとでも考えたのでしょうか・・・・・・ちなみに、今も王国のメリーチェ様の周囲に30名ほど不審な人物が見られますが、これはチェクさんのお仲間でしょうか? それとも劣勢になっているという派閥の方々でしょうか?
そう問われたチェクは、きょとんとした顔で聞き返した。
「え? 今? ですか?」
今、サクラコ達がいる場所とメリーチェ達がいるドマイセン市では、直線距離にして20km以上離れている。
「そう。今です。今、メリーチェ様達はちょうどドマイセン市の南門を出て、側の練兵場に向かうところですが、その前方に多数の人間がいます。
残念ながら、私が護衛に付けているクラブからの情報では、個々の人達の敵味方の識別までは出来ませんから、行動に移る前に排除するわけにもいきません。偶然この場にいる無関係の一般人もいるでしょうし。
まあ、護衛の騎士や兵士さん達も100人近くいますから、敵であってもおいそれと手出しできないでしょうけど」
「わ、わかるのですか・・・・・・」
「ええ、メリーチェ様の方には念の為、護衛にクラブを残してありますから。クラブの見ている情報は、私にもわかるようになっています。魔法のようなもの、とでも思って頂ければいいかと」
「クラブ・・・・・・それは確か、空を飛ぶという噂のゴーレムですか。実在するのですね・・・・・・。話には聞いていましたが、私の目では確認できなかった。
それはいいとして、私達の手の数は、そんなに多くありません。特に今はドマイセン市を出た
それに、伯爵の孫娘は王国の要人でもありますから、そのような立場の人間を狙うことは無いでしょう。いくら劣勢でも王国を引き込むのはリスクが大きすぎると考えるはずです。
敵の戦力も、雇った傭兵崩れが
「なるほど。では、敵の狙いは私個人と見ていいようですね・・・・・・ところで、今、こちらに向かって来ている方はお仲間ですか?」
そう言ってサクラコは左手の藪の方へと視線を向けるが、チェクには何も異常は感じられない。
「えっ?」
戸惑うチェクを他所に、サクラコは10mm
「すぐにわかると思います」
そう言われてチェクも藪の方へと注意を向けると、暫くの間の後、藪を掻き分けて一人の男(?)が姿を現した。
「お嬢!」
「ロッチャか」
チェクは安心したように肩の力を抜いた。
ロッチャと呼ばれた男(?)は、サクラコの存在に気付くと、慌ててサクラコに会釈する。
男(?)としたのは他でもない。外見からは区別がつかないからだ。
「紹介します。私の仲間でロッチャです」
そう言ってサクラコにロッチャを紹介する。
「見ての通り、
その姿は、一般的にリザードマンとして描かれる、二本足で歩くコモドドラゴンのようなファンタジーアートとは、かなり
半裸ではなく、普通の人間のように露出の少ない皮鎧を着込み、顔は
もしも恐竜が絶滅せずに進化し続けたら、という思考遊戯の末に生まれた想像図で、あくまでお遊びの域を出ないものだったが、実際にサクラコの目の前にいる
服を着ているので定かではないが、おそらく尻尾も生えているようには見えない。
紹介されたロッチャは、周囲に転がる『破砕の牙』の死体を
「どうやら一足遅かったようで、ご迷惑をお掛けして申し訳ない。しかし、ご無事で何よりでした。出来れば、これで帝国に悪い印象を持たないで頂けると嬉しい。ティリザ様も、何よりそのことに心を痛めておいででした。
それからお嬢、つい今しがた連絡を受けたんだが、向こうの雇った連中のことで、気になることが・・・・・・」
そう言ってチェクとサクラコの様子を伺う。この場で報告してサクラコに聞かれてもいいか、ということだ。
それに対してチェクは
「そうか。じゃあ報告するが、身元のわかってなかった連中の中で、8人の身許が判明した。内2人は『
しかも、遅れてドマイセン兵が追いかけて行ったらしいが、その先は不明だ。残る6人はソロでやってる連中だが、腕の方は中の上から中の下ってところか。
それから、王国の騎士が何人か負傷したって噂があるらしいが、詳しくはわからん。迎賓館の方で何やら動きが
それを聞いたサクラコの顔色が変わった。
すぐにクラブからの映像を確認するが、メリーチェ達を護衛する王国の騎士達に異常は無い。
そうなると、ドマイセン内にいる王国騎士は、宿舎である迎賓館に居残ったダスターツ領軍の騎士しかいないはずだ。
しかし、迎賓館の方へクラブを向かわせれば、今度はメリーチェ達の方に不安が残る。練兵場周囲に散らばる不審者の情報には特に動きは無く、こちらも決して油断できないのだ。
ドマイセンへの出発前、ニイロからクラブとファージを何機連れて行くか聞かれた時、それよりもニイロ本人の安全を図って欲しいとクラブ1機だけで断ったことが裏目に出てしまった。
「その話はいつ伝わったのですか!」
「つ、ついさっきだ。まだ十分くらいしか経ってない」
人が変わったように迫るサクラコに、ロッチャは
「どうやって!? 市内とここでは離れすぎています! 話が伝わるには早すぎます!」
「そっ、それはこれで・・・・・・」
ロッチャはそう言って、腰に下げた袋からボックスティッシュほどの大きさの木製の箱を取り出した。
箱の表面には幾つかのボタンと、小指の爪ほどの宝石が取り付けられている。
「遠くからでも信号を受けることができる魔道具だ。光の点滅の具合で文章を受け取ることができる。送る方の魔道具は大きくて持ち運ぶことは難しいが、今回はドマイセンの市内に1台持ち込んだ。受ける方も距離としてはこの辺りまでが限界だ」
要するにモールス符号のような文字コードの送受信機だ。携帯電信機、あるいはポケベルの親戚と言ってもいい。
サクラコはすぐに決断した。
「ドマイセン市に戻ります」
そう一言だけ言い捨てると、すぐに
残された2人もすぐに動いた。
「ロッチャ、この死体を片付けたら私達も追うよ。あの
そう呟きながら、既に見えないサクラコの消えた方向に、チェクは視線を送った。
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