パラレル・アース ~3つ目の平行世界は異世界だった?~   作:千円ぱすた

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第27話 怒り

 サクラコは、電動二輪車(バイク)を飛ばしてドマイセン市に戻ると、王国使節団の宿舎になっている迎賓館へと駆け込んだ。

 そんなサクラコの姿に、ダスターツ伯領から同行している領軍騎士3名の内の1人、アザルークが気付いて横合いから声を掛ける。

 

「サクラコ殿、こっちだ!」

 

 そう言って、コの字型になっている迎賓館の東棟の方へとサクラコを誘導した。

 

「アザルークさん、現在の状況を。襲われた騎士の方が負傷したという話を聞いて戻ってきました」

 

 サクラコの求めに応じ、アザルークは事の顛末をかいつまんで説明する。

 

「それが、お嬢様からの使いという者が来て、サリアにお嬢様の上着を一着届けて欲しいと連絡があったらしいのだ。

 それでサリアに荷物を持たせて、護衛にはエルナントとフィーゼを付けて送り出したんだが・・・・・・南門に行く途中のファルエネス通りの路地裏で、倒れているエルナントとフィーゼが発見された。

 2人共、ドマイセンの、あの『鉄火捧』とやらで撃たれたらしく、エルナントは頭に食らって恐らく即死。フィーゼの方は腹に2発食らって、今、医者が見てるが・・・・・・」

 

 アザルークは『ヤバいかも知れない』という言葉を飲み込んだ。

 しかし、その思いはサクラコにも伝わる。

 東棟の通用口の扉を、やや乱暴に開けて中に入ると、『ますはフィーゼさんのところに』と、アザルークに案内させた。

 二人して迎賓館の長い廊下を足早に歩きながら、先導するアザルークが情報を口にする。

 

「王子の方にも伝令は走らせたので、お嬢様も間もなく戻られると思う」

 

「それでサリアは?」

 

「わからん。行方不明だ。目撃証言から、馬車で市外に連れ去られた可能性がある。犯人は2人組の男女で、手駒に使われていたチンピラが5名、この5人は既にドマイセン軍の方で身柄を確保したそうだ。

 主犯の2人については、今、ドマイセン軍の兵士が追っていると、ジーマールとかいう指揮官が報告に来てくれた。サクラコ殿に会いたいと言って待ってるよ」

 

「後にしてもらって下さい。まずはフィーゼさんの治療が先です」

 

「え? いやしかし、今、医者が・・・・・・」

 

 アザルークとしては、サクラコが武力や浄化設備の建設に係わる知識に長けていることは承知していた。

 しかし、サクラコの本質は医療用AM(メディカル・オートノマス・マシン)である。

 

「この地域の医療水準は理解しています。もし、内蔵にまで傷が達していれば、まず助からないでしょう。でも、本来私の得意分野は医療です。特殊輸送車両(バス)に一応の医療器具は備わってますから、私が見ます。フィーゼさんは死なせません。

 ドマイセンの指揮官の方には、容疑者の情報を提供しますので、まずはそちらの捕縛とサリアの無事な救出に全力を上げて欲しいと伝えて下さい。

 犯人は恐らく『二重星(ふたえぼし)』のローギルとザラという男女の2人組で、帝国ではそれなりに有名な傭兵だそうです。他にも仲間がいる可能性もあります。

 彼等に指示したのは帝国の人間ですが、一部が暴走した結果と思われます。恐らく帝国方面に逃走を図る可能性が高いでしょう。

 目的からするとサリアに即、命に係わるような危害が加えられるとは考えにくいですが、それでもサリアの無事を最優先に・・・・・・たかが侍女の身と軽く見れば後悔させて差し上げます、と」

 

「わ、わかった。フィーゼはその奥の突き当たり右の部屋だ。ドマイセンの指揮官には俺の方から厳重に伝えておく」

 

 そう言ってアザルークはサクラコと別れ、ジーマールに伝えるべく、彼の待つ部屋の方へと向かった。

 後悔させられるのがドマイセンだけなら、まだいい。しかし、王国まで巻き添えにされたら(たま)ったものでは無い。

 

 この世界(ガンマ・アース)では人間の価値に大きな差が存在する。

 もちろん、ベータ・アースでも建前はともかく、現実にそれが無いわけではないが、ガンマ・アースでは建前に於いても明確な身分差があるのだ。

 貴族家に仕えるとはいえ、単なる平民であるサリアの身は、自国内で外国の賓客に対するテロを起こされ、面子(メンツ)を潰されたというドマイセンの立場からすれば、犯人に対する報復よりも一段下がった所にあるのが現実だ。

 アザルーク自身、そのことは『当たり前のこと』理解していたが、サクラコはそんなことは関係無いとばかりに『サリアの無事を最優先』と、条件をつけてきた。

 もちろん、サリアとは言葉を交わしたこともあるし、良い印象を持ってはいる。無事であって欲しいとも思う。

 しかし、それをドマイセン側に徹底させることが、どんなに難しいか・・・・・・。

 

(なんで俺が・・・・・・伯爵様、恨みますよ・・・・・・)

 

 ダスターツ伯爵領軍から派遣された騎士達には、『出来うる限りサクラコ殿の意向を優先するよう』伯爵直々に言い含められている。

 ジーマールの待つ部屋に到着すると、アザルークはやや乱暴に扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 それからのドマイセン国軍の動きは目を見張る物があった。

 各方面への働き掛けを率先して行ったジーマールが、ニイロとその仲間が、やると言ったことは必ずやると身をもって体験していたことが大きい。

 未だ王国から身柄が解放されていないオルフ・ヤノスの支持者達も、交渉の為にヤノスから送られてきた書状によって事情を理解する者が多く、その事も有利に働いた。

 

 まず、速《すみ》やかに各地に早馬を送り、人質を抱えて移動速度に限界がある誘拐犯に先回りして、他国への逃走ルートに厳重な検問を敷くと、さらに3000の兵を追加動員して人海戦術で誘拐犯の炙り出しにかかった。

 その結果、事件の翌日には、最も可能性の高いと思われたビンガインに向かう街道から、少し離れた場所で怪しい馬車の一団が網に掛かったが、これは誘拐犯が用意した囮であることも判明した。

 そして、そのさらに2日後、本命が意外な場所で網に掛かることになる。

 

 

 

「ニイロです。宜しくお願いします」

 

 ニイロは握手の為に手を差し出しながら、目の前の日に焼けた銀髪の大男に挨拶する。

 場所は臨時に設けられた幕舎の中。

 差し出されたニイロの手を、やや不思議そうな顔で見つめながら、オンド・チェセルは尋ねた。

 

「それは?」

 

「え? ああ、これは握手といって、俺の国では一般的な挨拶です。この辺(ガンマ・アース)じゃ、やんないのかな? 互いに手を握る。

 理屈っぽく言えば、手に武器なんか持ってませんよ、敵意はありませんよ、という、友好の証しですね」

 

 そう教えられて納得したのか、チェセルは『なるほど』と感心した様子で頷くと手を握り返した。

 

「オンド・チェセルだ。そしてこっちが検問でやつらを発見した小隊長のクーセット」

 

 そう言って傍らに立つ細身の男を紹介され、同じように握手を交わした。

 

「実は、コルエバンで貴殿の姿は拝見している。あの戦の後で、この北東区の軍区長に移動になったが、その前はジーマール将軍の下で、あの戦場にいたのだ。あ、いや、勝ち負けは戦場の習いであるし、貴殿に含むところは無いので安心して欲しい。ジーマール殿も貴殿を恨んではいなかった」

 

「そうですか。ジーマールさんは今回の件で色々動いて下さったとサクラコから聞いてます。戦場では色々あったけど・・・・・・それはともかく、今は現状を教えて下さい。サリアの様子は?」

 

 ニイロの催促にチェセルは緊張を強くした。

 ここまで柔らかかったニイロの表情が急に引き締まり、怒りを(こら)えているように見える。

 チェセルは「わかった」と頷くと、中央に据えられたテーブルの上に周辺の見取り図を拡げて状況を説明した。

 

「ここが今いる場所で、この先2kmほどの、ここがネウロン村だ。この村の裏手からネウロン間道が伸びていて、王国のコルエバンの南に出られる。

 ビンガイン経由で帝国に逃げると見せかけて、囮を使ってそちらに注目を集め、その隙にネウロン間道を徒歩で王国側に逃げるつもりだったんだろう。そこからルートを西に取ってヨーネス大森林を抜けて帝国に向かう算段だったのではないかと思われる。

 ネウロン間道は、コルエバンに進軍した際に突貫工事で馬車も通れる程度に整備されてたんだが、戦後の処理で潰してあるから馬車で来れるのはこの村で終点だ。

 それでこの先の検問で引っ掛かったんだが・・・・・・クーセット、実際の状況を」

 

 チェセルはそこから先の話を、実際に現場に立ち会った人間であるクーセットに振る。

 彼はニイロを前に緊張した面持ちのまま、直立不動の体制で答えた。

 

「はっ、はい! 例の2人組は、こうも早くここまで手配が回っているとは考えていなかったようで、ここの検問で見つかると馬車を捨ててネウロン村に逃げ込みました。

 中々の手練(てだれ)で、その際に兵士2人が軽傷、1人が重傷を負っています。さらに、(あらかじ)め村に潜伏していたと思われる仲間が合流して、元からの人質に加えて村長の13歳になる娘も人質にして、そのまま村長宅に立て篭もりました。その他の村民については、村長をはじめ全員を別の場所に避難させてあります。

 合流した仲間は6人。今は村長宅はもちろん、増援も得られましたので村の周囲にも見張りを立てて、万が一にも逃がさない体制を取ってはいますが、人質に万が一があってはならないとの厳命でしたので、どうも勝手が・・・・・・正直、膠着(こうちゃく)状態です」

 

 そこからは、またチェセルが言葉を継いだ。 

 

「こんな所に仲間がいたのは予想外だったが、ヨーネス大森林を抜ける為に用意していたんだろう。あれを2人で、しかも人質を抱えて踏破するのは無理があるだろうからな。

 それで今は、事態を打開するのに本営に連絡を取って、コルエバンでも使われた、あの姿を消す魔道具と、扱える人員を寄越してもらえないかと頼んだのだ。

 貴重品だが、あれなら相手に気付かれることなく不意打ちでケリがつけられる。もっとも、貴殿には通用しなかったし、あの2人組が貴殿と同等以上の手練だった場合は別だが・・・・・・それで代わりに来たのが貴殿だった、というわけだ」

 

「なるほど、よくわかりました・・・・・・」

 

 チェセルの依頼はジーマールの(はか)らいでサクラコの知るところとなり、フィーゼの治療で動けないサクラコから連絡を受けたニイロが、サリア誘拐の一報を受けて急ぎドマイセンに電動二輪車(バイク)を飛ばしていた進路を途中で変更して駆けつけたということだ。

 

「それで、後は任せてもらえますか? 人質は必ず無事に取り返しますし、犯人は捕らえて引き渡します」

 

「ああ、それは構わない、と言うか、上のほうからもそうするよう命令が来ている。ただ・・・・・・1つ聞いてもいいだろうか。

 いや、単なる好奇心なので答えなくても結構だが、人質になっている娘はどういった人物なのだ? 本部からは使節団の随員の侍女という説明だったが・・・・・・」

 

 チェセルとしては、いかに腕利きの傭兵とはいえ犯人は2人だ。通常の人質事件ならば現時点で捕らえている自信があった。

 それなのに、人質の安全を最優先し、絶対に傷つけてはならないという本部からの通達で思うように動けなかったという不満があったのだ。 

 これが王国使節団の主要人物ならば、まだ納得できるのだが、これがたかが侍女(・・・・・)では、人間の価値に格差のある世界の住人としては不満の方が大きくなってしまうのは仕方の無いことだった。

 

「サリアはサリアですよ。犯罪の被害者です。身分なんか関係無い。だから、新たに人質になったっていう村長の娘さんも一緒だ。2人共、絶対に無事に取り戻す」

 

 ニイロは、チェセルに答えるのではなく、まるで自分に言い聞かせるように言った。

 サクラコの話によれば、犯人の狙いはニイロの持つ武力であり、ニイロを操るための餌としてサリアが狙われた。

 サリアがどう思っているかは置いても、ニイロからすれば、サリアは単に知り合いの女の子にしか過ぎないのだが、犯人はそうは判断せず、その結果が今回の事件に繋がってしまった。

 ニイロ自身を狙ってくるならばまだいい。しかし、サリアには何の落ち度もなく、彼女を守るために騎士の1人が命を落とし、フィーゼも重傷を負った。

 

(実行犯だけじゃない。後ろにいる黒幕も・・・・・・)

 

 ニイロは極力、国同士の事情には首を突っ込まないつもりでいた。

 それでも成り行きで巻き込まれはしたが、その基本スタンスは変えないつもりだった。

 しかし、ニイロの持つ武力が知れ渡った以上、いくら拒否してもちょっかいを出してくる連中は存在し、それに巻き込まれる第三者がいる。

 ならば・・・・・・。

 

「このままでは済ませない」

 

 ニイロは断言した。

 

 

 

 ネウロン村のほぼ中心に位置する村長の家。

 時に小規模の集会などにも使われる、比較的広い10m四方ほどの部屋に9人の人間、2人の人質と7人の誘拐犯一味がいた。

 南向きの壁面には大きな窓があり、その横には直接外に通じる扉があるが、今は窓には布が掛けられ、扉は中から鍵と、さらに家具を積み上げたバリケードで塞がれている。

 残りの三方にも他の部屋に通じる扉があるが、北と東の扉は同様に塞がれ、台所と厠に通じる廊下に面した西側の扉だけが開け放たれている。誘拐犯の残り1人は、そちらの方で見張りについていた。

 室内は天井の明り取りの窓と、布を通して入る光だけでは薄暗く、昼間だというのに四方の壁に掛けられた灯明も点されている。

 床には人質を盾に差し入れさせた食べ物の残り滓が乱雑に打ち捨てられていた。

 

「くそっ! これじゃ(らち)が明かねえぞ」

 

 窓に掛けられた布の隙間から外を伺っていた男が鋭く声を上げた。

 この家に立て篭もってから、もう何度目かの同じセリフだ。

 

「だーかーらー、もう少しだから大人しく見張ってろっての。無事に逃げたかったらチェルカの邪魔すんじゃねーよ」

 

 椅子にだらしなく腰掛けたまま、眠そうな目を半眼にして男を窘(たしな)めたのは、二連星(ふたつらぼし)として悪名高い、傭兵のローギル。

 ウエーブの掛かった長目の金髪の美男子だった。

 同じく二連星(ふたつらぼし)のチェルカはやはり金髪の美女で、今は部屋の片隅で床に直接座り込み、祈るように目を閉じたまま、目の前に置いたギターケースほどの大きさの箱に手を当てて微動だにしない。

 額には玉の汗が浮かび、一種妖艶な雰囲気を漂わせている。

 

「しかしよお、ありゃ本当に使いもんになんのかあ? テネッセラ男爵の寄越したって言うが、あの業突(ごうつ)()りがそんな高価なもん寄越すかね?」

 

 今度は別の男が、床に座り込んで自分の得物である短槍を、ボロ切れで手入れしながらローギルに聞く。

 

「まあ、俺もあの腐れ男爵は信用なんかこれっぽっちもしてねえよ? ただな・・・・・・確かに男爵は小者だよ。後ろにいるのさ、でっかいのが。

 そうじゃなきゃ、こんな博打(バクチ)みたいな依頼、いくら金額が良くても受けねえよ」

 

「でっかいのって・・・・・・確かテネッセラ男爵の親分はウォルムズ子爵だったっけか? その親分は誰だっけ? どっちにしてもザルーク派だろ?」

 

「ふふん。そう思うだろ? ところが・・・・・・おっと。まあ、色々あんだよ。まあ、俺たちゃ金さえきっちり取れればそれでいいじゃないか。それに、チェルカが本物だって言うんだから本物なんだって」

 

 ローギルの返答に、聞いた張本人は「ふーん」と気の無い返事をするだけで、興味を無くしたように武器の手入れを続ける。

 その様子にローギルは、拍子抜けしたかのように溜息をついた。

 

「まあ、いいけどね。それと、そこ! 2人でボソボソ喋ってんじゃねえよ!」

 

 そう言って部屋の角の人質に鋭く釘を刺した。

 そこにはサリアと、同じ歳か、やや下くらいに見える村長の娘が、両手を後手に縛られ、床に直接転がされている。

 別の男が面倒臭そうに「猿轡(さるぐつわ)噛ませとくか?」と聞くが、それには「飯食わせる時面倒だからいいや」とローギルは否定した。

 

「あ、あなた達なんか、ニイロ様が来ればすぐ捕まります!」

 

 サリアが勇ましくも震える声でローギルに食って掛る。

 しかし、ローギルは余裕の表情でサリアに言い返した。

 

「ニイロ様ねえ。お嬢ちゃんの(ドラゴン)を駆る勇者様ってところか? そういやコルエバンの魔王とか言ってる噂も聞いたぜ? 火を噴く悪魔を手下にしてるとか、空飛ぶ悪魔を操ってたとか。もう話が盛られすぎてて訳わかんねえわ。

 ま、テネッセラ男爵ご自慢の魔人形が起動したら外の連中なんぞ目じゃねえし、おっかねえやつが来る前に、俺たちゃさっさと帝国に戻って、依頼主にあんたを引き渡したら貰うもん貰ってサヨナラするさ。

 都合よくドマイセンの新兵器()も手に入ったし、こいつも売ればしばらくは遊んで暮らせらあ」

 

 ローギルはサリア達人質の側に無造作に転がしてある布で巻いた荷物に目を向ける。

 そこには裏の(つて)から入手し、護衛騎士のエルナントを殺し、フィーゼを負傷させたドマイセン軍の新兵器、鉄火捧三本が入っていた。

 

「だからよお、その起動には、いったいいつまで掛かるんだ?って話なんだよ」

 

 窓のところで外の様子を伺っている男が横から再びローギルに絡む。

 

「あん? そんなの俺にわかるわけねえだろ。今、チェルカが頑張ってんだから待てってーの! だいたい、ここまで恐いくらい順調に来たんだし、少しくらい苦労したっていいじゃねえか。

 ダメだったら夜になって暗い内に人質を盾にして強行突破すりゃいいだけだろ?

 だいたい、これでも伯爵の令嬢の方とか、あのピンクの髪の得体の知れねえ娘狙ってるやつらに比べりゃまだいい方だぞ? 後は逃げ切るだけなんだからよ。

 まったく馬鹿な連中だよ。いくら報酬が五倍ったって、王国とドマイセンの両方の護衛相手とか絶対割に合わないし、あのピンク髪は本気でヤベえ。こういう勘は当るんだよ」

 

 若干堂々巡りになりかけている話に、ローギルも少々苛立ちの篭った声で男に答える。

 そしてそれを合図にしたかのように、これまで箱に手を当てた姿勢で微動だにしなかったチェルカが動いた。

 気怠(けだる)げに「ふう」と溜息を一つ吐くと、眉間に(しわ)を寄せて呟く。

 

「変ね・・・・・・」

 

 そう言うと、形の良い唇に手を当てて考え込む。

 

「おいチェルカ、何が変なんだ?」

「なんでえ、やっぱり偽物かい」

「やっぱりあの男爵(やろう)、ガラクタ掴ませてやがったのか」

「おいおい、今更勘弁しろよ・・・・・・」

 

 チェルカの不穏な様子に、これまで待たされていただけに、男達の表情も険しくなる。

 しかし、そんなことは全く意に介さない様子でチェルカは言った。

 

「そうじゃないわ。これがあの有名なヴェールサルク作の魔道具『魔人形』シリーズの内の1体、『首狩姫』なのは間違い無いのよ。この魔道士チェルカの名に賭けたっていいわ。

 ただ、この魔道具は、魔道士がこの(ケース)を媒介にして魔力を注入することで起動して、魔道士の意のままに操れるはず。それなのに、どれだけ魔力を注いでも起動する気配がないのよ」

 

「おいおい、それじゃやっぱりニセ「そうじゃないのよ」」

 

 疑念を呈する男に、すかさずチェルカは言葉を被せた。

 

「そうじゃなくて、ううん・・・・・・感覚的なものだから、何て言ったらいいのか・・・・・・ニセモノだから起動しないんじゃないの。ちゃんと魔力は通ってるし、言うなれば、もう起動して・・・・・・」

 

 そう言いかけたチェルカの言葉を(さえぎ)るように、突然、間の抜けたノックの音が室内に響いた。

 コンコンという乾いた音に、室内にいた誘拐犯9人の目が一斉に西側の開け放たれた戸口に向けられ、そこに佇む1人男の姿を捕らえる。

 一瞬、誰もがそちらで1人見張りについているはずの仲間かと思ったが、そうではなかった。

 明らかに異質な格好の男、ニイロは穏やかに言った。

 

「どうも。魔王です」




次回更新は2月3日を予定しています。
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