[9月27日:空き教室:放課後]
ボンチが新メンバーを連れてきた。軽音楽部のMASAKIだ。MASAKIはすごいベージストだが方向性の違いで部活を止めたらしい。方向性ってなんだ、ベクトルか?
「ぼかぁMASAKIですうぅぅ」
「おう、よろしくなマサキ」
「マサキじゃぁあ、ないですうぅぅ。MASAKIですうぅぅ」
あ、だめだ。こいつ僕と方向性違うわ。
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「華がない」
ボンチはいつだって突然だ。今も思い立ったように突然口を開き、良く分からないことを口走っている。
「どういう事だい?」
どうでもいいけどMASAKIがエアギターをやってる。机の上で飛んだり跳ねたり。あ、落ちた。痛そうだ。
「つまりだ、この集団には女子がいない」
ハッとした。なるほど。確かに女子がいないのが間違っていたんだ。見落としていた。大切なものは目に見えないとはよく言ったものだ。
カチ
「わかったよ、ボンチ。華を探そう」
カチ
「おうよ、相棒」
カチ
夕日が眩しい。多分僕たちの新たな門出を祝福しているからだ。どこかロマンチックな雰囲気が漂う。
カチ
「早く華探して夕日を一緒に見たい」
カチ
「俺のセリフだドアホ」
どうでもいいけどさっきからMASAKIがカスタネット叩いている。お前ベージストだろ、ベース弾けや。
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[9月28日:教室:昼休み]
サエコ嬢に事のあらましを伝えると、彼女はこう言った。
「え~なにそれ~。うちエロ動画とか興味ないんですけど~」
違う、君は華であればいいんだ。よくあるじゃん。野球の試合とかで途中で出てくるセクシーな女性たち。彼女らが踊ると場は盛り上がり僕は嬉しい。あれは華だ。でも彼女らは野球に詳しいわけでも上手いわけでもない。華でさえよければ何でもいいのであって、そこに壁は無いと僕は考える。
つまり、今回の件に当てはめて考えると、別にエロ動画に興味のある華を見繕う必要はなく華でさえあれば誰でも良いのだ。そこで、僕はサエコ嬢に話しかけたわけだが、さっきからノブオが鬼の形相でこっちを睨んでる。めちゃくちゃ鼻息荒いね。ぶっちゃけキモイ。
「まあサエコ嬢、今すぐ判断を仰ぐつもりはないさ。策士は焦らない。速度を上げるばかりが、人生ではないのさ」
「半裸そうやって小難しい表現ばっか使うから友達出来ないんだよ~」
失礼な女だと思う。いやまじで
サエコ嬢については保留にして、次行くか。
「おい奇人、僕に華を紹介しろ」
示し合わせたような無視は予想の範疇さ。机を揺らしてみる。
「さあ奇人よ、どのくらいの揺れまで耐えられるかな?」
くそ、机が宙を舞ってもDSを止めないとは。流石はノブオ、奇人と呼ばれているだけはあるな。よし、じゃあMASAKI直伝のエアドラムで今度こそノブオの注意をこちらに向かしてやる。演奏する曲はX JAPANの紅。ノブオの頭と肩でリズムをとっていく。
僕はドラマーだ。ショーケースに入っているドラムを物欲しげな目で見ていたら、たまたま傍を通りかかった富豪にドラムを買い与えられ、雨の日も晴れの日もドラムを叩き続けいずれはプロドラマーになり最後は家族皆に囲まれてドラムを叩きながら天寿を全うするドラマーだ。
ふぅー、ドラムっていいな!なんか魂って感じがする!
叩き終わったし席に戻るか。あれ、僕なんでドラム叩いてたんだ?まぁいいか。そこにドラムがあったら叩くべし、これ即ちドラマー極意。多分
この後ノブオが消しカス投げてくるのは、ある意味必然だったのかもしれない。
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[9月28日:自宅:夕方]
家はいい。解放感がある。安心感がある。優越感がある。だから僕はリビングで寝転ぶ。時刻は17時を回るが特段やることもないので、そのまま寝転ぶ。
玄関の開く音がした。多分弟だろう。あいつにこの場所はやらん。地面との結合を強固なものにしておこう。
「おい兄貴、そこどけ」
「弟よ、この場所は既に僕の強固な共有結合により分離不可となっている。剥がしたかったらブルドーザーでも持ってくるんだな」
こう言っとけば弟は諦めるだろう。我が共有結合は世界一!
痛い。めちゃくちゃ蹴られた。致し方ない、退くか。
「弟よ、これは敗北ではないぞ。意義ある撤退、名誉な敗北だ」
「じゃま、しね」
なんか最近弟の切れ味が増してきてるんだが。このままリビングにいたら両断されかねないから急いで出るかな。
よし、それじゃあ廊下で寝るか!ん?玄関の前に人影があるな。NHKかな?見てみるか。
「こんにちわー、あれ、お宅どなた?」
玄関の前にいたのは一輪の華ではないか。恐らく神が哀れな僕に使わせた天よりの使いであることは間違いない。
「お嬢さん、こんな辺鄙な家になにか御用ですか?」
「あ、はい。えーと、たくみ君の友達のリエと申します。たくみ君のお兄さんですか?」
ほぉなるほど。目の前の天使は愚弟の彼女と言うわけか。
「そうです。私が兄です。愚弟がいつもお世話になっております」
しかし玄関前で彼女を待たせるなんて愚弟もまだまだだな。女ってのは男の退屈な面を見つけて愛が冷めていくものなんだ。ここは兄の爆笑トークで場を繋いでやるとするか。
「あ、えーと、リエさん…であってますよね?」
「はい!リエと申します!」
「リエさん。僕は実はエスパーなんです」
「え、そうなんですか!すごい!」
「ええそうです。ですからあなたの考えていることは手に取るようにわかる」
「え…は、恥ずかしいな」
いや、かわいい。めっちゃかわいい。でもだからこそ言う。言うぞ僕は。言ってリエさんの爆笑をかっさらうんだ!
「リエさん。あなたは今…、せいr」
ドロップキックだった。あれは確かにドロップキックだった。秩序のない兄へドロップキックをきめやがった。
「腰が痛い」
1階から弟とリエさんの喋り声が聞こえる。
なんだこの家。解放感ない。安心感ない。優越感もない。
爆発しろ。僕はそう思った。