[10月1日:空き教室:放課後]
夕日が綺麗だ。
ふと思う。同じ太陽なのに、朝日と夕日ではこうも見える姿が変わるのは何故だろうと。
「なあボンチ。なんで太陽は朝と夕方で姿を変えるのかな?」
ボンチは考え込んでいる。考える姿が様になっているのは多分夕日のせいだ。
「もしかしたら、俺たちが太陽なのかもしれないな」
ボンチは言った。支離滅裂な男だと思う。多分夕日のせいだ。
「朝日を浴びて、俺たちの心に太陽が灯る。そして、一日疲れた太陽に、今度は俺たちが太陽を与える。太陽はきっと与え合うものなんだ」
かっこいい。夕日のせいでボンチの顔が神々しく照らされている。
「じゃあ今僕たちは太陽なの?」
「ああ、お前は太陽。俺も太陽。そして俺たちは夕日に太陽を与えている」
そう言うとボンチは夕日に向かって両手をあげた。僕も両手をあげた。
ああ、そうか。僕は太陽だったのか。これからSUNとして誰かを照らす男になろう。そう思う。
「よし、この学校を照らしに行くぞ!」
ボンチが両手をあげながら教室の外に走りだして行った。僕もその後に続く。
「俺は太陽だ!」
ボンチが叫ぶ。
「僕はSUNだあ!」
僕も叫ぶ。
なんか太陽の気持ちが分かる気がする。宇宙の中心で、星々を照らし、時には泣き、時には叫び、いつだって自転している。僕も自転しよう。
回転しながら校舎を走り回る。校庭に出ると部活動をやっている者たちがいた。皆僕らを見ている。彼らにも太陽を与えるんだ。
「ボンチ!僕は今輝いてるかな!」
「ああ相棒!お前は俺の次に輝いているぜ!」
いつの間にかボンチはベンチに座っていた。僕は一人回転しながら校庭を走っている。
突然ひらめいた。僕は今ベイブレードなんじゃないかと。ベイブレードデビューした僕に怖いものはなかった。
「うおぉぉぉおぉぉ!青龍うぅぅぅぅう!」
回りながらゴールネットに突っ込む。ネットが絡みつき優しく僕を包み込んだ。
一日でいくつもの悟りを得た僕は、満足げな顔で瞳を閉じた。
太陽は沈み、一日は終わる。頭の中に様々な出来事が思い浮かぶ。
思い返すは先日の公園での一幕。凛々しい顔つきの女性の顔。
もう一度会いたいな。僕はそう夕日に呟く。
そう、僕は今、恋をしていた。
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[10月3日:職員室:昼休み]
「今月に入ってから、お前の奇行は様々な所で目撃されている。以前からおかしな行動をしていたが、ここ数日は特に酷いぞ。青春を謳歌するのはいいことだが程ほどにしておくように」
担任に呼び出されるのってちょっとワクワクするよね。呼び出された先で新たなドラマ、青春群像劇が始まるかもしれない。
しかし現実は非常であった。
かれこれ30分、今月に入ってからの自分の奇行について聞かされていた。
「僕は僕自身を僕の体で表現しているだけなんです。話変わりますが先生、あなたは今、恋していますか?」
先生が無表情な顔で僕を見ている。僕は先生の視界から逃れるべく上体を振り始めた。
デンプシーの軌道を描く僕の上体移動はさらに激しさを増していく。
景色がブレ、ぼんやりしてきた。酔った。酔ったわ。
「一度保健室でカウンセリングを受けた方がいいかもな」
「恋の病は保健室でなおるということですか?」
「馬鹿に付ける薬はないから自分でなおせ」
馬鹿っていう方が馬鹿なんだ。だから僕は馬鹿じゃないんだ。つまり、先生は馬鹿だ。
「先生のばかやろう」
僕は馬鹿だ。
職員室を後にして僕は今廊下を歩いている。あの女性のことを考えるだけで胸がズキンズキンと痛みを訴える。どうにかしてもう一度会いたい。
この気持ちを伝えなければ僕は多分胃に穴が開く。現実的だと思った。
よし、あの公園に張り込むか。
僕は公園に住むことにした。
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[10月3日:空き教室:放課後]
「ボンチ、MASAKI、君たちに言いたいことがあるんだ」
ボンチは机の上に座り、MASAKIは教室の隅でベースの手入れをしていた。
「なんだ、言ってみろ」
「実は僕、恋をしているんだ」
ボンチは僕を見つめていた。その表情は真剣そのものだ。MASAKIは歌を歌いはじめた。尾崎豊の『I LOVE YOU』だ。
「恋か…。恋は痛み、苦痛、悲しみ、そのどれもがお前を襲うぞ。覚悟はできているのか」
ボンチの表情は苦悶に歪んでいた。夕日に照らされた顔からは、細かな表情までは読み取れなかったが確かに歪んでいた。
「わかってる…。覚悟のうえだ」
多分僕の顔も歪んでいる。なんとなくわかる。
「今ならまだ間に合うぞ。…それでも、行くのか?」
問いかけるような声音だ。問われたのなら答えるのが世の理。
「行かなきゃ進めない。僕はこのままじゃ進めないんだ」
MASAKIの歌がサビに入った。結構うまい、そう思う。
「…そうか、じゃあ俺は何も言わん、行ってこい」
きっとボンチは苦しいんだ。僕も苦しい。MASAKIはわかんない。
「でも、もしかしたらこの定例会議に出れなくなっちゃうかもしr」
「馬鹿野郎!お前は大馬鹿野郎だ!」
ボンチは叫んだ。僕は驚いた。MASAKIは歌っていた。
「お前は黙ってお前の恋に決着をつけてこい。華探しは俺たちに任せろ!」
やっぱりボンチは僕の親友だ。違いない。
「ボンチ…やっぱボンチはかっこいいな!」
「だろ!」
いまだボンチの表情は読み取れないが、多分ボンチは笑っている。だって僕が笑っているからそうに決まっている。
教室の扉に手をかけるとMASAKIが僕を呼び止める。
『愛が白けてしまわぬように』
I LOVE YOUの一節だ。MASAKIはそう歌を結ぶと、ベースを地面に叩きつけた。多分MASAKIは感情の吐き出し方が下手なだけなんだ。だから僕が汲んでやる。
「お前の激励、受け取ったぜ。ありがとう、MASAKI!」
2人を背にして僕は歩き出す。
夕日に染まった校舎をガラス越しに眺めると自分の顔が映った。
やっぱり笑ってるな。
ふと自分の目に光る雫があることに気づく。
僕は太陽だからそれは仕方ない。
もしくは
多分
夕日のせいだ。
僕はそう思う。