流行りに乗って書いてみたヒーローアカデミアver.イバラギン 作:Gesamtsieg
目が覚めたら見知らぬ天井だった。
ありふれた小説の書き出しを、そっくりそのまま俺―――水尾陣は口に出していた。
いや、正確には全く知らないというわけでもない。全体的に白を基調とした内装。平均的なそれよりも清潔感があるベッドや布団。ベッド脇には花が備え付けてあり、そのすぐ横に小型の受話器とあらばここがどこであるのか想像は容易い。
ほぼ間違いなく病院だろう。それも個室入院ときた。
見覚えがない辺り近所の病院ではないと思う。よくよく見れば設備自体が真新しく、インターホンのようなものまで付いている。うちの近所にあるのはほとんど診療所レベルの小さなオンボロ病院だ。こんな綺麗な個室は用意できない。
重い怪我でもしたのだろうか。しかし俺の身体に包帯の類は見当たらない。点滴もないし内臓系の病気でもないだろう。
そも何故俺はここにいる。確か、いつも通りチンピラをボコしていたら変な男が女の子を襲っているのを見て、それから・・・・・・。
「っ!」
・・・・・・そうだ。思い出した。
俺は反射的にその女の子を守ろうとしてしまったのだ。しかし相手はガチのヴィラン―――個性を使った凶悪犯罪者で、分が悪く押されてた。そこにどうしてかあいつが現れて。
てか、そうだよ! 何であいつがあそこに! いや、そもそも。
「無事だったんだろうか、あいつ。いや死んでも死ななそうな奴だけども」
「生憎だな。この通り命だけは助かっているとも」
病院のドアが開いて、突然現れたのは渡辺咲夜。俺の幼馴染である。
いつも通りの憮然とした表情と、いつも通りの冷ややか銀髪美人。うむ。紛れもなくあのぺったん胸は我が幼馴染だ。個人的には今後成長の余地はないと思っているのだがどうか。
「今無礼なことを考えなかったか?」
「気のせいだ。・・・・・・ってお前やっぱりあの場にいて」
咲夜は車椅子に乗っていた。両足を包むように分厚く包帯を巻いていて、とても歩けるような状態には見えない。
それを見てだんだんと思い出してきた。咲夜は咄嗟に巻き添えを避けきれず両足を負傷したのだ。幸いにして千切れはしなかったものの、俺の記憶が間違っていないなら深くえぐられていたように見える。
どうしてあの場に。そんなことを訊こうとして、俺は首を左右に振った。違う。今はそんなことはどうでもいい。
「・・・・・・大丈夫なのか、足」
「大丈夫に見えるか?」
咲夜はキッとその切れ長の目で俺を睨む。
俺が恨まれるのも無理はない。ヘンな正義感を出して俺が無謀な真似をしなければ、こいつは今この時も道場で剣を振るえていたのだ。
・・・・・・しかし、思いのほかキツイな。巻き込んでしまったこともそうだが、気心知れた奴に悪感情を向けられるというのは。
「・・・・・・悪い」
そう口にするのがやっとだった。それ以上何か言うともっと嫌なことを聞かされるんじゃないかって気がして、会話を避けてしまった。
沈黙が続いて何秒だろう。俺にはもっと長く感じた。十分? 二十分? 気まずいなんてものじゃない。
「ふ・・・・・・ふふ……はははははははは!」
長い静寂を破って、突然咲夜が腹を抱えて笑い出す。目尻には笑い過ぎで涙が溜まっており、相当に堪えていたことが伺える。
あまりの急変ぶりに、俺は目を白黒させるばかりだった。まったく、わけがわからないよ。某鬱アニメの淫獣の声が脳裏に響く。
「ああいや。すまない。お前が本気にするものだから、つい。私の演技も捨てたものではないな」
「なっ」
俺ははめられたのか。
畜生。こいつはたまにこういうことするから嫌なんだ。これだから中二の終わりにもなって彼氏の一人もできないんだよ。まぁ、裏で剣鬼とか呼んでたの俺だけども。
いや、しかし、その包帯は嘘には見えない。確かに咲夜は手の込んだことをするタイプではあるが、ここまではしない。
俺の視線が足に向かっていることに気づいたのか、咲夜はにたりと笑って口を開く。
「傷ならそう心配することもない。この医院はかなり熟練の医師がそろっているようでね、私を治療したアイリーン・ナイチンゲール女史に至っては貴重な治癒系の個性ときた。後一週間もすればとりあえずギプスも外れるそうだ」
思わず、心中で安堵を漏らしてしまう。絶対表には出さないが、こんなんでも咲夜は幼馴染だ。嫌な気分をさせるのは忍びない。
ただ。言葉を選んでいるような様子で咲夜は言葉を続ける。
「今は私よりもお前の方が問題だろう。鏡見てみたか?」
「What is happened to me?」
おっと。余りの驚きで英語になってしまった。
ステイステイステイ。ちょっと待て。俺に何が起きたんだ。
鏡に映る俺はブロンドのサラサラロングヘアー。身長は150cmないくらいと見た感じさほど変わっていないが、もともと平均より細かった体の各部が華奢と呼べるまでになっているし、腕や脚の先が真っ赤になっている。八重歯も妙に尖ってしまっているのに加え、女顔がより女顔になってしまっている。
てかそもそも何だこの頭の角。真っ黒で、鋭くて、まるで鬼か何かじゃないか。
だがこんなことは序の口でしかない。何せもっとヤバイ変化が俺の身体に起きているのだ。
おっぱいが。ついている。おっぱいがついているのだ。
大事なことなので二回言いました。
そう。あのおっぱいである。我ら男子の永遠の夢。遥か遠き理想郷とまで呼ばれたあの、おっぱいだ。昨夜が望んでも得られない、あのおっぱいだ。とても小さいとはいえ、あのおっぱいだ。
そして我が息子が家出している。いや、家出なんてチープなもんじゃない。これは出奔だ。何処かへ出奔なされたのだ。伊達成美のように。伊達成美のように。
道理で股間が物足りないと思った。ないんだもんな。あるべきものが。
さあ諸兄。私と一緒にもう一度。
「What is happened to me?」