流行りに乗って書いてみたヒーローアカデミアver.イバラギン 作:Gesamtsieg
主な訂正点は轟君が回から消滅したことです。
わかりやすいなぁ、この試験。期末考査なんかよりずっといいわ。
そんなことをぼんやり考えながら、俺は突っ走る。片手には身の丈を大きく超える槍。全体的に和のテイストのそれには骨のような装飾があり、穂先には刃がない。
右見て廃墟。左見て廃墟。前見ても廃墟。後ろ見ても廃墟。なんという廃墟尽くし。心霊スポットマニアなら飛び上がって喜ぶんじゃなかろうか。もっとも今は昼間であるし、ここは雄英の試験会場。幽霊などいるべくもない。・・・・・・いないよね?
だがまぁ、ホラー成分はそこら中にいるでかいロボットのおかげで薄くなっている。ここが無人の夜じゃなくて本当に良かった。いやマジで。
「58ポイントーっと」
中サイズの草食恐竜を思わせるロボット―――2ポイント仮想敵を蹴り飛ばして吹き飛ばす。まっすぐ飛んで右の廃墟の壁に激突し、首の部分があらぬ方向へ折れ曲がった。足の何本かも粉々になっちゃってるし、あれは無力化でいいだろう。
しかし脆い。とても脆い。しかも遅い。
こうやってどうでもいいことを考えている間にも、適当の投げた石で1ポイント仮想敵の頭が破裂し、拳が触れれば2ポイント仮想敵が地にめり込む。積極的に狙っていたのは序盤だけだが、それでもそこそこのポイントが集まってしまった。
俺が先行し過ぎているのはわかる。こちとら一年ちょっと前から人間の体じゃなくなってるんだ。足の速さで競ったら、そりゃあ他の受験生に負けるわけがない。俺の周りに他の学生がいないのはそういう理由だろう。
俺の実力云々ではなく、この試験はおかしい。不合理だとさえいえる。学力だけで人を測るくらい不合理だ。
何故、個性把握テストがない。何故、体力テストがない。何故、面接がない。
この実技試験だけでは、『現時点における戦闘力の高さ』しか測れない。『今後における資質の高さ』までは一切測れない。
例えば、機械に対してだけ強力な攻撃ができる個性があったとする。この試験では有利だろうが、実際のヴィラン相手では使い物にならないだろう。
例えば、味方の能力を強化できる個性があったとする。これは見た目にもわかり辛いし、自分にポイントが入らない。それがどれだけ実戦で有効であったとしても。
もしヒーロー育成校らしく人助けでポイントが入ったとしても同様だ。この試験ではとことん『今』しかわからない。これを不合理と言わず何と言う。まぁ、筆記試験しかやらない一般校も大差ないけど。
十字路に差し掛かった時、角から巨大でえらくごつい仮想敵が姿を見せた。3ポイント仮想敵だ。この敵にポイントが書いてあるシステムも正直どうかと思う。
仮想敵は俺を見ていない。しかし無警戒で歩行しているというよりは、何かを追っているようだった。
横取りするか? まぁしとくに越したことはないか。俺が勘違いしてるだけで皆もっと稼いでる可能性もあるわけだし。
次の一歩を、今までより強く踏み込む。それだけで地面は少し陥没し、俺はそのインパクトをもって急加速した。
背中にはほんの少しの炎。これ以上はまだできない。火力が出ないのではなく、制御ができないのだ。
十メートル以上の距離を一足飛びに、俺は飛び越える。手に構えるは槍。穂先を仮想敵に向けて力を込めた。
詫びの意味を込めて、俺は横目で仮想敵に追われる学生を見やる。巨大な尻尾の生えた男子学生だ。良くも悪くも影の薄くパッとしない顔立ち。きっとあの尻尾で攻撃と防御を行うスタイルなんだろうが、如何せん相性が悪い。3ポイント仮想敵は連射型の遠距離攻撃を備えている。掻い潜るのは難しいだろう。
しかしその余所見が悪かった。加速が少しだけ衰えた俺の槍が届く前に、仮想敵は石の塊と化したのである。
「泥棒猫!」
どの口で言うか。我ながらそう思うが、ついて出てしまったモノは仕方がない。
仮想敵を石にしたらしき学生がいるであろう方向を見やる。そこには先刻のガイダンス中爆睡していた眼帯の少女がいた。いや、今は眼帯を外している。隠されていた目の瞳孔は縦に長い。まるで蛇か何かを思わせる。
少女は俺を見ていない。さっさととっり外していた禍々しい眼帯を右目に装着している。個性は恐らく『石化』か何か。あの右目がキーだと見た。
美少女なら許そう。わけのわからない上から目線で呟きながら、俺はその場を後にしようとする。今は美少女より試験だ。
「待って」
「ハイなんでしょう、お嬢様」
試験? 何それ。美少女に話しかけられること以上に重要なことがあるとでも? あるだろうか? いや、ない。
足の向きを身体ごと180度変えて、俺は少女の元へ足を進める。いやはや近づけば近づくほど感嘆する。雑誌の読者モデルなどが一般人に見えるほどの美少女だ。顔立ちからしてヨーロッパ系っぽいけど留学生のようなものだろうか。それとも親がこっちに移り住んだとか?
「今のは貴方の獲物だった?」
可愛らしく小首をかしげて、無表情な左目で少女は俺を見る。なんとなくわかる。わかりづらいがあれは申し訳なく思っている感じの顔だ。どうやら横取りしたことを気にしているらしい。
「いいや、俺も横取りだ。他の学生を追っていたところを仕留めただけでね」
少女は少し考えるように押し黙る。言葉を間違えただろうか。いや、できるだけ気を遣わせないよう配慮したつもりだが。それに言ってることは事実そのものだし。
たっぷり十数秒の時間をかけて、ようやく少女は口を開く。
「この借りは返す。近いうちに」
そう言うだけ言って少女は俺に背を向けて去って行く。なんか半分くらい誤解させちゃった気配がするなぁ。まぁ次会う機会があればもうちょっと話をしてみよう。
これ以上言葉をかけるタイミングもなく、俺も身体の向きを変えて立ち去ろうとした時だった。大きなものが倒壊するような轟音が、周囲に響く。いや、周囲どころじゃない。この音は会場中に届いているだろう。それくらい大きな音だ。
目の前の美少女のことなどすっぱり忘れて、俺は、そして少女も、音の発信源を仰ぎ見る。
そこには巨大なロボットがいた。それはもう今までの仮想敵が虫に見えるレベルのギガントだ。全体的なフォルムこそ無理に維持しているという感じだが、あれだけでかければ鈍かろうと大雑把だろうと関係ない。巨大というだけであらゆるものに対し脅威なのだから。セイスモサウルスや現代のゾウが自然界で襲われないことがその証左である。
恐らくあれが0ポイント仮想敵。強過ぎてポイントにならず、ゲームにおけるお邪魔キャラでしかないというアレだ。
ギガント仮想敵は周りの建物を薙ぎ倒しながら足を進めている。轟音の正体はあれが出現した衝撃音と建物の倒壊音が合わさったものに違いない。
「いやいやいや。無茶すんな雄英」
全受験生の心中を代弁した俺の声が破壊音に呑まれて消えた。