流行りに乗って書いてみたヒーローアカデミアver.イバラギン 作:Gesamtsieg
前回のお話ですが私の記憶違いで轟君が入試にいるというミスを犯してしまいました。大変申し訳ありません。
修正は完了しておりますので、よろしければご覧ください。今後はこのようなことが起きないよう努力させていただきます。具体的には原作を読み返している最中でございます。
以上。不肖の身ながら謝罪させていただきました。本文をお楽しみいただければ幸いです。
でかい。なんかもうこの世の全てがバカバカしくなるほどでかい。
ビルよりでかいって何だ。メカゴジラか? それともエヴァか? もしくはジプシー・デンジャー? 何にせよ頭がおかしい。人間がいる場所で出していいような玩具じゃない。
ビルを崩しながら進む巨大仮想敵―――面倒だから偽ゴジラと呼ぶ―――の行動に今のところ一貫性は見られない。適当に暴れて、適当に進んでいるように思える。正しく怪獣だ。しかし怪獣に相対するのはウルトラマンで、ヒーローといえば怪人じゃなかったか。
こりゃ無理だ。オールマイトでも呼んで来いって話だよ。
とっとと見切りをつけて怪獣から距離をとろうと振り向いた時だった。
偽ゴジラに向かって一直線に走る少女が視界に入った。仮想敵を石化させた眼帯の少女だ。その速度はすさまじい。最高速の俺とまではいかないものの、十分に人間の筋力の限界を超えた動作をしている。
「おい! まさかあれに喧嘩を売ろうってんじゃないよな!?」
少女は横目で一瞬俺を見ただけで、言葉を返すことはない。偽ゴジラ以上の優先対象は他にないということだろう。
いや、違う。彼女は怪獣を見ているんじゃない。怪獣の進行方向のど真ん中にいる学生達を見ているのだ。
傍には硬いもので何度も打撲されたような3ポイント仮想敵が数体転がっており、黒髪の気の強そうな男子学生が一人の女子生徒を守るように立っていた。守られている方は足が可笑しな方向に曲がっていて、もう一方も全く動けないほどではなさそうだがかなり消耗している様子だ。肩で息をしているし、見た感じ生きも上がっている。あの状態では人一人運んで逃げるのは無理だろう。
死にたがりが多いなぁ! ヒーロー志望って奴はさぁ!
精一杯胸中で文句を言いいつつも向かっているというのだから、俺も大概だ。別に死にに行くわけじゃない。俺の足と膂力があれば人の2、3人運べないこともないからな。この程度のことなら点数稼ぎと割り切るとも。決して後味が悪いとかそういうわけじゃなく。決して。
動けない学生2人に向かって走る。流石に眼帯の少女は早い。徐々に差が縮まっているものの、辿り着くまでには追いつけそうにないな。俺は彼女が失敗した時のデバックか、サポートに入ろう。
数秒も置かず、少女は2人の10メートル前まで辿り着く。
「おまっ、早く逃げ・・・・・・」
「黙って」
少女が運動服の袖から出したのは鎖付きの短剣だ。一瞬でそれを2人の腰に巻き付け、嵐の如く振り回した。
わあ。ホントに助ける気あんのかなぁ。どっちが悪役かわかんねぇぞアレ。
そのまま十分に勢いをつけて少女は鎖を解く。
そうするとどうなるか。決まっている。吹き飛ぶのだ。それはもう豪快に。人間ハンマースローである。
「「――――――っ!!!!」」
声にならぬ悲鳴が宙を舞う。いやー。あそこまで行くと浮遊感に酔う余裕なんてないだろうなぁ。
ていうかあの角度といい方角といい、間違いなく俺に向かってきてるよな。パスしてきてるよな。そっかー。さっき横目で見てきたのはそういうことかー。バスケじゃねぇんだぞおい。
「よいしょっと」
「きゃあっ」「痛てぇっ」
イキが良くて健康そうなのは左膝で、足が折れている女の子は腕で横抱きに優しく抱き留める。
もちろんアフターケアも忘れない。土で汚れた細い手を丁寧に握り、俺は言う。
「大丈夫かな、お嬢さん。このまましっぽり・・・・・・じゃないや。ゆっくり安全な場所に連れて行ってあげる」
「は、はい。ありがとうございます」
キョトンとした様子で首を縦に振る女の子。可愛いなぁ。目を見張るほどの美少女ってわけじゃないけど学年で三番目くらいに可愛い感じだ。一番モテるポジにいるって奴。
「扱いが違い過ぎねぇか!?」
「何を言う。公正だとも。俺の感情にどこまでも公正だ」
俺の膝から立ち上がって黒髪の男子学生は、ピーピーと文句を言う。助けてやったのに。これ以上何を欲するというのか。
横で騒ぐ少年をさておいて、俺は念の為に眼帯の少女の方を見る。逃げているはずだ。目的は達しているのだから。
「な」
しかし俺の予想は外れた。眼帯の少女は未だまっすぐに偽ゴジラへと向かっている。
何してんだあの子!? 十分仕事はしたじゃん!?
いや、理由はわからないでもない。『これが本当の実践であれば』この状況でヒーローが逃げる選択肢はありえない。敵わないにしても足止めの努力をすべき状況だ。
だがこれは飽くまで試験である。ほっといても偽ゴジラは試験終了になれば停止するだろうし、そうじゃなくても危険すぎると判断されれば止められるはずだ。更に言えば、あれはゼロポイント。試験的に倒しても意味がない。
やらない理由はいくらでもあるが、やる理由は一つしかない。それはあまりにも非合理だ。
だが少女は走る。それ以外の選択肢など存在しないかのように走る。
「あーっもう! 畜生!」
「あ、おい! お前どうする気だよ!」
抱きかかえていた少女をその場に座らせ、駆け出す。
見ていられなかった。愚かだからじゃない。見ていると目が潰れそうで辛かった。
我ながら馬鹿なんじゃないかと本気で思う。顔見知りの女の子が死に急いでいるからといって助けに走るような阿呆が、愚かでないはずがない。
このままじゃ、少女には追いつけない。距離を開けられ過ぎた。先に偽ゴジラのところまで着いてしまう。
次の一歩を踏み込もうとする右足に、思い切り力を込める。3ポイント仮想敵を横取りされた時の比じゃない。後先を考えない本気の加速だ。
そうなれば俺の一歩は10メートルを余裕で超える。それを一歩毎に繰り返すのだから速くないはずがない。もっとも、翌日ばっきばきの筋肉痛で動けなくなるのだが。
一方少女はむしり取るように右の眼帯を外していた。『石化』の個性を使う気だろう。有効範囲がどれだけかは知らないが、強力な個性だ。確かに時間稼ぎくらいはできるかもしれない。
果たして、少女の目の力で偽ゴジラの足先から徐々に色が失われていった。鉄臭い鈍色が少しずつではあるが、岩のような白くなっていく。
しかしそれだけだ。片足首まで動けなくするのがせいぜいで、全身には回らない。そうなる前に石化部分が折れた偽ゴジラがバランスを崩して倒れ込んでくるだろう。
そうなれば真正面にいる少女の命はない。いくら速かろうと周囲を高い建物に囲まれたこの場所であの巨体の自由落下から逃れられるほど、俺も少女も速くないのだ。ていうか生物じゃ無理。もしも身体能力を何千倍まで引き上げる方法があれば別だろうが、ないものねだりである。
引っ込みがつかなくなっているのか、少女はその場を離れない。
否。離れられないのだ。今すぐ離れてしまえば、追いかけようと偽ゴジラが動き出し、倒れ込むのが早くなってしまう。それでは『まだ周囲にいるかもしれない』学生達が巻き込まれてしまう。ここから見える限りではいなくても、怪獣の後ろや建物の中にいないとは限らない。
「畜生」
思わず愚痴が漏れる。
俺の、正しくは俺の先祖の能力は強い。人間を大きく超えた身体能力と火炎操作能力。それに変な槍も出せるようになった。
だがそれだけだ。それだけなのだ。いくら強い能力が手に入ろうと、訓練を怠れば何の意味もない。
別にサボっていたような記憶はない。慣れようと咲夜を巻き込んでまで特訓もした。だがあまりにも時間がなかった。受験勉強もあったのだから訓練ばかりにうつつを抜かしてもいられない。そも、それさえ言い訳で、もっと本気になれたのではないか。そう思わうにはいられない。
最初に比べれば身体能力も上がった。小さな火くらいなら自由に出せるようになった。しかしもっといけたんじゃないかと後悔が止まらない。
手に持つ槍を思い切り握りしめる。長い爪が手のひらに刺さってわずかに血の雫が溢れた。
強くなりたい。いや、我を通す強さが欲しい。邪魔なものを喰らい尽くす力が欲しい。
1年前の時以来の感情が、俺の中で爆発する。
その時だった。
槍の穂先に炎が宿ったのだ。
今までの火炎とは比べ物にならない、業炎である。巨大な拳を象ったようなそれは、パチパチと聞いたこともないような弾ける音を鳴らしている。纏う炎と同じで不思議と熱くはない。
心臓が脈打ち、妙な高揚感が俺を支配する。悪くない気分だった。今なら何でもできる。本気でそう思えた。
背中の火も強化されているのか、速度も今まで以上に上がっている。これならば偽ゴジラが倒れる前に接敵することができるだろう。
いいや、それだけじゃ足りない。スクラップにしてしまおう。
血が熱い。頭が熱い。胸が熱い。――――血が騒ぐ。そう。それだ。その言葉こそが相応しい。俺の中を占める人間じゃない血が騒ぎ立てて仕方がない。
一足飛びに眼帯の少女を追い越して、次の一歩で俺は高く飛び上がった。
あれは俺の獲物だ。雑兵にも劣る無機物でしかないが、案山子としては上等だ。
腰の部分に着地した俺は、一気呵成に偽ゴジラのボディを駆け上がる。小細工などない。そんなものは必要ない。頭を焼けば大概のものは壊れるのだ。
「ははっ! いいなこれ!」
肩まで登り切り、炎拳を纏った穂先を怪獣の四角い頭部に叩きつける。何度も。何度も。何度も何度も。鉄屑になるまで叩きつける。
一度打つ度、面白いように怪獣は壊れた。打撃に表面を削られ、炎で中を焼かれる。炎自体にも破壊力があり、ぶつかったところはバラバラになるように崩れていった。
十数発ほど打ち込んだ時だろうか。いよいよ偽ゴジラの頭部は完全になくなり、胴体部分も大きく焼けただれて損傷していた。溶けもせず焼ける辺り余程質の悪い金属を使っているらしい。
怪獣の残骸が大きく揺らいで、前屈みに倒れようとする。
肩に乗ったまま落ちながら、俺は何かを忘れているような気がしてならなかった。満足感に酔って忘れてはいけないナニカを失念している。そんな胸騒ぎがしてならない。
ふと、重力に身を任せつつも俺は下を見る。
「あ」
眼帯の少女と目が合った。眼帯は取っていて蛇のような右目が覗いている。
そうだ。そもそも俺は彼女を助けるべく走っていたのだ。肝心なことを忘れてしまっていた。
思考している場合じゃない。怪獣の肩を蹴って、地面に向かって飛び込むように跳んだ。
間に合うか!?
今日ほど、自分のマヌケさを呪いたくなった日も、またなかった。