3030はマジ事故だから本当に何とかしてくれ。てか、俺が30乗ると味方に30引きやすいって思うの俺だけ?
「な、何よこれ!?」
「逃げないと!」
マクギリスの想定通り、アリーナの観客席はパニック状態に陥っていた。だがそんなことは知らんと言わんばかりに7つの箱がバカン!という音を立てて蓋が空いた。中からはマクギリスも見覚えのあるシルエットが出てきた。
「……グリムゲルデ、だと?」
マクギリスのもう1つの機体、それがグリムゲルデだった。兎の耳のようなアンテナを生やした高機動機だ。それが7体、ご丁寧にライフルとソードを持った状態で現れた。だが、それ以上にマクギリスが気になったのが肩のマークだった。間違えるはずもない、そのマークこそマクギリスが生前使用していたフェンリルの家紋。ほかの機体を見れば、スレイプニルやラタトスクの家紋が刷られていた。スコールら亡国機業がマクギリスの生前を知っているはずがない。恐らく偶然だろう。きっと、自分の部隊であるアリアンロッドから連想したに違いない。
「……不味いな」
だが、それより遥かに問題があった。グリムゲルデは機動戦ならば確実に第三世代と同等或いはそれ以上のスペックを誇る。鈴や春万の機体との相性は最悪だ。攻撃一つ一つに溜めが入るが故に、そこを高機動で狙われては終わりだ。
考えに耽っていると、さらに携帯に反応があった。ちらりと見れば『上にいる』との一言。マクギリスはISを起動させると割れたシールドの隙間を縫って上空へと飛び出る。出た先には見知った顔があった。
「よぉ、F。調子はどうだ?」
「……何故知らせなかった」
「おいおい、折角会ったってのに釣れねぇ奴だなぁ?」
ケラケラと笑ったオータムは急に表情を締めると、任務の時と同じような声音で話し始めた。
「……つったって、私にも分かったもんじゃねえんだがな。まぁ、依頼したのがあの
「……それで、目的は?」
「大方『織斑春万の機体の性能確認』じゃねえのか?……って、こっちもそれは知らされてねぇんだよ。ただあの鉄の棺桶を運べって言われただけだしな」
ふむ……と考え込むとオータムのISに別の人間からのプライベートメッセージが届く。それを見た彼女は、直ぐにそれを閉じるとマクギリスの機体に正面を向けた。
「悪ぃ、もう撤退命令だわ。だから、いっちょ芝居に付き合え」
「……人使いの荒いやつだ」
そんな軽口を呟くと2人の機体は上空で文字通り衝突した。その勢いのまま機体を離した両者は、近接武器を用意するともう一度突撃した。そのやり取りが何度か繰り返されるとオータムはアラクネから適当に射撃を繰り出して撤退した。
マクギリスは、オータムの撤退を見送ると真下の戦闘へと突撃した。その姿は、まるで彗星のようだった。
――――――
「龍砲は効かないし、近接も一撃一撃が重いしどうなってんのよ!」
「あのライフルのせいで近寄りも出来ねぇ!」
マクギリスがオータムと話している間に鈴と春万は追い詰められていった。もうここまでかと鈴が思ったその時だった。上空から、白い悪魔が堕ちてきた。その悪魔は、『グリムカンビ』『ヨルムンガンド』が刷られた機体を上からバエルソードを突き刺して同時に葬り去ると2人にプライベートチャンネルを繋げた。
『無事か?無事なら今のうちにピットに行った方がいい、奴らの相手は余裕がある私がやる』
「でも!」
『SEが3割程度でどうするつもりだ?引いてくれ、頼む』
鈴はその事実を突きつけられると言葉を失った。そして、力なく頷くとそのままピットへと向かった。一方、春万は戦う気が満々のようでさっきのマクギリスの言葉に対しても『ふざけんな、ここで引き下がれるか!』と返している。
「そうやって、カッコつけるつもりだろ!」
『そんなことを言っている暇があるのか?』
「ど、どういうこ……ぐあっ!?」
春万の言葉を遮るようにマクギリスは白式に飛び蹴りをかまして、そのまま反動で『ラタトスク』をX字斬りで葬り去った。春万の白式はアリーナの壁にぶつかると、SEが無くなったのかISは解除され、瓦礫の中で動かなくなった。邪魔が一つ減った、春万の様子を見てその程度にしかマクギリスは思わなかった。
ピットに戻った後、鈴は隠れ見ていたのだがマクギリスの戦い方は我武者羅……いや、確実に相手を潰す以上それは悪魔の所業と言うべきか。とにかく、彼女にとってマクギリスの戦い方はある種の恐怖となると同時に部屋ではあんなに紳士的なのに、戦いではこんなに荒々しくなるのかというギャップも感じていた。そんな彼女の想いも知らずに戦いは終わりへと近づく。
他のグリムゲルデもようやくマクギリスを敵性対象と認識したのか右手に持っているライフルをバエルに撃つが、高機動機であるバエルにライフルの弾は届かない。その勢いのまま、『スレイプニル』にバエルソードを突き刺し動作を停止させる。
「……ガエリオ……」
あの時は悪い事をしたと、今では思っている。いくら自分の野望の為であるとはいえ、彼の信頼する部下を阿頼耶識の犠牲にし彼自身マクギリスという信頼していた親友から裏切られるという散々な目にあわせてしまった。その結果が自分の死だった。因果応報というべきか、マクギリスは自分のやった事からすれば当然だと思っていた。マクギリスに対して怒るのも、自分に対して反旗を翻すのも。
だが、今はそんなことを考えている暇はない。機体に一気に接近すると『フギン・ムギン』に新たなバエルソードを突き刺し起爆させる。その爆風の中に左で掴んでいた『ファフニール』を投げ込めば残すは後一機を残すのみとなる。そのマークは『フェンリル』。奇しくもマクギリスの生前の家であるファリド家の家紋だった。
「……私は、もう過去を振り向かん。さらばだ、イズナリオ!」
『フェンリル』を飾った偽物は、本物によって葬り去られた。
――――――
「……また反省文か」
あの後、マクギリスは無断出撃を千冬に怒られ罰として反省文100枚を渡された。逆に春万にはお咎めなしであり、家族の甘やかしが存分に発揮されたところであった。
「……出すつもりは無いが、そうすると処分に困るな」
シュレッダーにかければバレないだろうか、そんな考えを持っていると自分の部屋に着いたので、鍵でドアを開けると料理のいい香りが漂ってきた。どうしたものかとマクギリスが辺りを見回していると奥から猫柄のエプロンを付けた鈴が炒飯を2つ手に持ってやってきた。
「おかえり、マクギリス。その……さっきはありがとね」
「気にすることでもないだろう、自由に動けるのが俺だけだっただけだ。それで、これは?」
「うーん……お詫びになるか分かんないけど、とりあえず私の手料理食べてもらいたいなって。中華なら自信あるから」
「ほう?ならば、お手並み拝見といこうか」
椅子に座ると炒飯、餃子、酢豚が置かれた。そして鈴はそのまま向かいの椅子に座って、「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。マクギリスも礼儀に習って手を合わせて「いただきます」と呟くと、餃子を一つ頬張った。
「……むぅ、美味いな」
「ほ、ホント?」
「ああ、残念ながら嘘は付けない性格でな。本当に美味いぞ」
「よ、良かったぁ!」
中の餡は肉汁はあまり無い代わりに噛めば噛むほど肉の味がこぼれ出てくるのと同時に皮のもちもちの感触とマッチしていてマクギリスの味覚を刺激する。炒飯に手を付ければ、ジャポニカ米では難しいパラパラの状態が綺麗に出来ていて、ゴマ油の風味が有りつつもそれでいてベタつかず油っこくない丁度いいバランスに作られていた。
最後に酢豚を口に入れると、酸味が一気に口の中に広がった。しかしながら、くどく無くスッと抜けていく爽快感が口の中に残る。
「……いや、本当に美味いな。毎日でも作って貰いたいくらいだ」
「……まままままま、毎日!?さ、流石に無理だけど……1週間に1回くらいはいいわよ?でも、その代わりマクギリスの作った料理も食べさせてよ」
「……俺か?」
「うん、アンタイタリアの貴族なんでしょ?イタリア料理とか食べてみたいし」
「イタリア料理か……流石にピザとかは作れないぞ?」
「そんなこと期待してないわよ、ただスパゲティとか私の知らない味とかないのかなって思っただけ」
「ふむ……ならばカボチャのスパゲティでも作ろうか」
「カボチャ!?絶対美味しくない!」
「そんなことは無いぞ、1度食べてみるといい」
「いーやーだー!絶対美味しくないー!」
2人の食卓は真耶がやって来て、料理をつまみ食いし始めるまで続いた。
――――――
「……あの、マクギリスって子……DNAパターンはどっかで見たことあるんだよねぇ……覚えておこっかな〜。それにしても、想像以上にはーくんが弱すぎるなぁ……ちーちゃんの弟だから機体提供はしたけど、あんな無能じゃどうしようもないよ。ま、とりあえず愛しの妹に渡す機体でも作ろ〜!」
兎耳の少女は楽しそうに呟く。邪悪な思いは、マクギリスの知らないところで蠢き続けていた。
どうも、ティッシュの人です。
ちょっとずつ字数が増えてきて嬉しいところ。ただまあ、低評価貰ってる以上文才はまだまだ未熟ってことなんですかね。精進します。
さて、次回はあの二人が登場しますがマクギリスの洞察力から果たして逃げられるのか。
次回『#11 偽装』お楽しみに!