目を開けると二人の男女の顔が見えた。二人とも笑っていた。どうやら何かめでたいことらしい。身体を起こそうと思ったその時、彼は気づいたのだった。
『俺は、赤子になっている』と。
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その男は、ベビーケージに入れられ看護師達が目の前を行き交うのを見ながら考えた。俺は、あの時親友に全てを曝け出して銃殺されたと。なのになぜ生きているのだろう。それに、なぜ両親が居るのだろうかと。
幾ら神が気まぐれで、自分に何か使命を与えようとして世界を巻き戻したと言っても、自分の両親はアジア系の人間ではなかったはずだ。それに、姉も居ないはずなのだ。
明らかに、別世界に来たと考える他無いのかもしれない。そう思った男は赤子特有の眠気に誘われた。
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3歳になって、言葉がそれなりに喋れるようになったし解することも出来るようになった。自分の名前は織斑一夏、姉は千冬で、弟が
どうやら本当に別世界に来てしまったらしい。そう理解した彼は寝どころで頭を抱えた。名前を見る限り日本人である事は確かだが、ニュースなどを見ても『ファリド』や『ギャラルホルン』という名前を聞かない時点で既に何かは察していた。
だが、彼は諦めなかった。ここに来たということは、何か神が使命を持って遣わせたのだと信じていたから。
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5歳になって、剣道を始めた。6歳上の千冬の指導でだ。初めは構えから、次に打ち方など、あらゆる剣さばきを学んだ。1歳下の春万と一緒にだった。春万は彼以上に剣道の吸収が早かった……というより、彼自身が剣道を拒んでいた。彼の身体が、彼の心が『自分には剣道が全くあっていない』と叫んでいた。
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7歳の時、彼は千冬に『剣道を辞めたい』と述べた。自分には向いていない、吸収の早い春万に集中すべきだと。彼女はこめかみに青筋を立てて激昂した。根性無し、馬鹿、意気地無し、人間の屑……あらゆる言葉を言われた。今まで仲良くしていた幼馴染にも同じようなことを言われ、自分を見放した。
春万は何も言わなかった。ただ、姉である千冬と同じように彼を見放して行った。男は、家族として見られなくなり、ただの奴隷のような扱いを受けた。飯炊き、洗濯、掃除。ありとあらゆる雑用をやらされるが、何かを忘れたりすれば竹刀で身体を叩かれた。身体中至る所にアザができた。
ある日には、道場の木の人形に縛り付けられ、春万の面打ちや胴打ちの相手にさせられることもあった。時には彼女自身が、手本と称して自ら叩くこともあった。情け容赦など無かったのだ。
父と母はもうその頃には居なかった。彼を守ってくれるものは、もう誰もいないと思っていた。
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9歳の時、転校生がやってきた。彼女は中国からやって来たらしく、中国語以外喋る事が出来ず、虐められていた。
そこで彼は手を差し伸べた。言葉を一つ一つ教え、何処かで遊んでいるグループが在ればそこへ自然に入れる様に手助けをした。だが、彼自身が入ってくることは無かった。痣だらけの身体、ボロボロでシミもついた服。そんな彼を入れてくれるような所はもう、無かったのだった。
そんな時だった。ISによって世界のバランスが変わったのは。
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10歳のある日、彼はドイツに来ていた。表向きは、第2回モンド・グロッソ大会決勝に出る千冬の家族として、裏向きは彼女のストレス発散の道具として。もはや人間とは思われては居なかったのだ。唯一、ホテルの人々は彼を人間と見て暖かい料理を出してくれた。『客だから』という理由があるのかもしれないが、その気遣いがささくれた心を癒してくれた。
そのまま彼は外に出た。ドイツという国はいい国だと、そう思ったその時だった。
後ろから何者かに抱きしめられ、口にタオルを当てられた。藻掻こうにもタオルには睡眠導入剤が含まれていたのか、彼を眠りへと容赦なく誘った。
――――――
彼が目覚めると、そこは薄汚い廃ビルの場所だった。目覚めたのを確認すると中年の男が、ボスであろう女に何かを喋っていた。その女は、世界のバランスを破壊したISに乗っていた。
「よぉ、お前はオリムラ・イチカ。それで間違いないな?」
男の声に頷く。彼の頭は不思議と、恐怖を感じていなかった。縛られてはいるが、ここなら暴力も、不当な締め出しも喰らわない。何処か安心感を抱いていたのだった。
「おじさん達、誰?」
「俺たちは……そうだな、悪者だな。捕まったら死んじゃうくらいの」
「おじさん達死んじゃうの?」
「死なないようにこうやってお前を捕まえてるのさ」
「死なない為に……?」
彼は、自らの知能指数をあえて下げた言葉を喋るように心掛けていた。どうやら誘拐されたという事実、そして盗み聞きから彼女達はブリュンヒルデを敗北させようと目論む為に自分を釣り餌にしようと考えているようだった。
「―――――!!???―――――――――!!!!――!!」
「――――――、――――――?」
「―」
彼らは何かを喋っていた。すると、女が近づき自分に拳銃を突き付けた。
「残念。キミの身柄はお姉さんにとって優勝よりも価値の低いもののようね」
「…………」
「何か遺言はある?それだけは聞いてあげる」
女に言われたが故に、彼は考える。ここで死ぬ訳にはいかない。神がなにか使命を託したというのなら、それを完遂しなくてはならないのだ。
「…………私は、死にたくない」
「……そりゃあ、死にたくないでしょうけど、しょうがないじゃない。政府も誰も貴方を救ってくれない」
「ああ、でも貴女なら。貴女たちなら、私を救ってくれる。あんな地獄から、ゴミ溜まりの淵から、私を解放してくれる」
「……どういうことよ」
女は、眉を顰める。後ろでは男が脱出用の車を用意しているようだった。何とかして、彼女たちと共に彼処に乗らなくては。
「ブリュンヒルデは、織斑千冬は私を虐待し続けた。彼女のストレス発散のために」
「……それはまた、凄惨な話ね。だけど、関係ないわ。私は貴方を殺す。それしかないの」
意志を持った瞳を彼女は向ける。だが、彼は怯まなかった。
「だが、私にも意思がある!私はここで死ぬわけにはいかない!奴らは最早どうでもいい、ただ自らの意思で、私は別人として生きたい!」
「…………!」
「無理は承知だ、だがどうしても曲げられないことがある!もしダメならば私を逃がせ。そうすればいずれ優秀なドイツ軍が見つけてくれるだろうが、私はそれを望みはしない!」
「…………じゃあ、どうするって言うのよ!」
女が感情的な言葉を放った。男はもう少しだ、そう思って畳み掛けた。
「私を、貴女たちの仲間に入れてほしい」
「……!?」
「荷物持ちだろうと何だろうと構わない!私を……私を『ブリュンヒルデの弟』ではなく、『織斑一夏』と読んでくれた貴女たちと共に行きたい!」
その言葉を聞くと、女は思案し始めた。丁度その時に男が入ってきた。どうやら車の準備が出来たようだ。もう逃げ時だと思ったのか、彼女は少年に手を差し伸べた。
「……そうね、いらっしゃい。我々亡国機業は、貴方を歓迎するわ」
「…………感謝する」
そう述べて乗り込んだ車の中での彼の目は、最早少年の目からあの時の戦いの、戦士としての目となっていた。
――――――
「ところで、貴方名前はどうするの?織斑一夏って名前で活動したら即刻バレるわよ?」
「分かっているとも。元々織斑一夏なんて名前に執着はない」
「あら、サバサバしてるのね」
少し悩んだ素振りを見せたあと、少年は女に述べた。
「今日から私の名前は、『F』あるいは――――――
『マクギリス・ファリド』だ」
皆様初めまして、ティッシュの人と申します。この度、この作品を読んでいただきありがとうございます。
個人的にマクギリスは報われて欲しかった、そんなキャラだったのとマクギリスの転生が少ないので投稿しました。
感想など、軽いことでも構いませんので是非書いていただけると作者からのアグニカポイントが増えます。