Change yourself,Keep yourself. 作:バーテックスケベ
物語を書くって難しい。
Count 3 出会い
夢を見た。
古い映画のような、セピア色に褪せた夢。
海に面した崖に立ち、その先を見つめる。
ずっと遠く、海の向こうにそびえる壁。
全てが死に絶える外の世界と、命が残った内の世界とを隔てる希望の壁。
その上空、何も無いはずの虚空からそれは出てきた。
仏像の後光を模したようなものを筆頭に、秤のようなもの、鋭い尾をもつもの、六枚の盾をもつものなど、大小様々な数多の異形が現れた。
誰かに呼ばれたのか後ろを振り返る 。
そこには少女が二人。
一人は自身の近くに立っていた。
巫女服のような、どこか神聖さを感じる睡蓮の意匠が施された服に身を包み、同じく睡蓮の意匠の槍を携えていた。この子が呼んだらしい。
もう一人はその奥に倒れ伏していた。
綺麗な黒髪で見覚えのある制服だった。
その右手には少女のものらしきリボンが結ばれていた。
傍に睡蓮の少女が並び立つ。
少女の口が動く。しかし音は聞こえない。
視界が軽く上下に動く。頷いたようだ。
再び壁の上の異形を見つめる。
そこで夢は終わる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カーテンの隙間から差し込む朝日で目がさめる。
重たく感じる体を起こし、腕を伸ばす。
こちらを離そうとしないベットの吸引力からなんとか脱出、立ち上がって欠伸を一つ。
今は春休み、3日後には新学期が始まる。
「ふぁ……はぁ、そろそろ起きる時間を調整しないとなぁ」
住み始めて1年程になるアパートの部屋は、物が少ない。僕は嫌いでは無いのだが、お隣さん(年下)に言わせれば『寂しい』そうだ。
「……スッキリしてて、いいと思うんだけどなぁ」
ポツリと零した言葉は空気にとける。気分を切り替え、机に向かう。ノートを取り出し、先程見た夢の内容を完全に忘れる前に書き記す。1年程続けている習慣だ。
「しっかし律儀にやってるけど、これで何がわかるんだろう?」
夢の内容を記録する。これを提案してきた先生曰く、就寝中に見た夢で自分の過去や精神状態が分かるらしい。正直、今でも半信半疑である。試しに読み返してみるも我ながら訳の分からない夢ばかりだ。特に今日のとか。
「うーん、分からん!さて、朝飯にしようか」
分からないものを考えていてもしょうがない。時刻は午前8時半過ぎ、少し遅めの朝食だ。
記録したノートをしまい、台所へ向かう。
冷蔵庫を開け、中身を確認する。
「卵は大丈夫。あっ、牛乳が最後の一本……帰りに買うか」
残りが少なくなったものをスマホのアプリでメモする。
今日の朝食はソーセージとスクランブルエッグ、トーストとシンプルにいこう。
コンロに火をつけ、フライパンを温める。
ふと、今日の天気が気になりテレビをつける。
『……続きまして、今日の天気です。今日は一日中晴れ、風も穏やかで過ごしやすい日となるでしょう……』
タイミングがバッチリで少し嬉しくなるのは単純な性格のおかげか、今日はいい日になりそうである。
なにせ今日はちょっとばかり脚を伸ばして、お隣の大橋市のイネスに行く予定なのである。
……てことで電車に乗り、大橋市のイネスに到着。中に公民館が入っているらしく大きい。それに、春休みとあって家族連れも多い。
「ほら姉ちゃん、はやくはやく!」
「あ、おい、ちゃんとついて行くから引っ張るなよ!」
現に店内に入ってすぐに小学生ぐらいの男の子と
その子に左手を引っ張られる中学生ぐらいで髪がミディアムショートのお姉さんらしき子と、
その後ろを微笑みながらついていく母親らしき人、
幼稚園児ぐらいの男の子を抱える父親らしき人が右から左へと横切っていった。
一瞬、寂しさが心を過ぎる。
「……なんだろうこの感じ」
釈然としないまま歩き出す。考えたって分からない。気分を切り替え、まずは4階にある本屋に行こう。
〜〜〜〜〜 イネス 4F 〜〜〜〜〜
「おぉ、なかなか広いし、種類も多いな」
やってきた本屋は新しめで、どこにどんな本があるか見やすいレイアウトになっていた。
実は特に目当てもない。こういう大きなデパートなりに来た時は、自然と足は本屋に向かう。僕は割と本が好きみたいだ。
「ん?あれは……」
ふと児童書コーナーの一角、おすすめ本の中のある一冊に目がとまった。
タイトルは『花の勇者とアギトの戦士』
紹介タグに不朽の名作とあり、気になったのでスマホでタイトルを検索してみると、だいぶ以前からあり、幅広い年齢層で人気のファンタジー作品らしい。ちなみに上中下の3巻構成である。
表紙を開き、読んでみる。
ある日、平和な世界に突如として魔王と名乗る存在が現れ、世界中に魔物を送り込んできた。
それに対して人々は抵抗するも微々たるものでしか無く、多くの人と国が滅んだ。
やがては創造神に護られていた王国と、
山々に囲まれた隠れ里や南の海に浮かぶ孤島、
猛烈な寒さの北の大地など、
自然に守られていた諸国を残し、世界のほとんどは魔王の手に堕ちていた。
そんな中、魔王襲来の日から人々の為にと立ち上がり、戦い続ける少女達がいた。
彼女たちは生まれつき身体の何処かに花の形をした痣を持っていた為、『花の勇者』と呼ばれ敬われていた。
王国に5人、
隠れ里、南の孤島、北の大地にそれぞれ1人ずついた。
また王国の教会には創造神の神託を受け取れるシスターがおり、勇者たちをサポートしていた。
それでも人類は日に日に………………
「なぁなぁ、にいちゃん」
「ヴェイ⁉︎えーと、な、何かな?」
思いの外、面白く引き込まれる展開についつい読み込んでしまい、本を見にきた男の子に声を掛けられてしまった。
「その本、『花の勇者とアギトの戦士』だろ⁉︎兄ちゃんもその本好きなのか⁉︎」
「あ、うん。初めて読んだけど面白いよね」
「そうだよな!じゃあさ兄ちゃんはどのキャラが好きなんだ?オレは断然、アギトだな!」
「アギト?」
まだそのキャラが登場するところまで読んでいないが、タイトルにあったアギトの戦士のことだろうか。
「ん?兄ちゃん、アギト知らないのか?ちょっとその本貸してくれるか?」
渋る理由もないので、彼に見やすいように渡す。
「えーっと……あった。はい、このページだよ」
教えられたページにはアギトの外見についての描写と、背にした少女を守るように構えるアギトを正面から描いた挿絵があった。
アギトは全体的に黒を纏い、
中央部に黒い長方形の石がはめ込まれた金色のチェストプレート、
力強く、竜を想起させる仮面、
中央に金色、右側に赤色、左側に青色の宝石のついたベルトを着けていた。
これは男の子なら好きだろ、かっこいい。
「これがアギト……、確かにかっこいいね」
「そうだろ!オレも姉ちゃんもアギト好きなんだ!」
自分の好きなものを理解してもらえたのが嬉しいのか目を輝かせる男の子。
その時、店の外の通路から声がした。
「おーぃ………つぉー……どこだー」
「やべっ、姉ちゃんが探してる。ごめん!兄ちゃん、オレもう行かなきゃ。また会えたらもっと話そうぜ!約束だぞ!」
「あ、あぁ、約束だよ」
「言ったな!絶対だからな!じゃあ、またな!」
そう言って彼は嵐のように去っていった。どうやら気に入られてしまったらしい。終始、彼の勢いに押されてしまった。子供って、すっごくパワフル。
「って、僕もまだまだ子供だけどね」
彼とのやりとりは不思議と懐かしさに満たされて、悪くない気分だった。それにしても、この本……
「うーん、続きが気になるし買っちゃおうかな」
最後の一冊というわけでもないが、出会いがあったら即購入、と心が唆かすので乗ってみることにした。
「あっ!コミック版もあるのか!」
〜〜〜〜〜 イネス 1F フードコート 〜〜〜〜〜
結局、原作とコミック版の両方を買ってしまった。
その後には、ゲームコーナーを物色したり、ガチャガチャコーナーでまたもや心に唆され、カレーネコなるヘンテコなキャラクターを手に入れた……これは友奈にあげよ。個人的にはソバタヌキが欲しかった。
時間的には少し早いが、昼食を食べようとフードコートにやってきた。
しかし、考えることはみんな同じなのか、意外と混んでいた。
だが、1人で来ている身には大して関係ないので気ままにメニューを見る。
やはりうどんが多い。しかし、せっかくの遠出なのだ、そのときの変わり種を食べてみたい。
というわけでもう少し見てみると、あった。旭川醤油ラーメンと沖縄そば。
これは……どちらも心惹かれる素敵ワード。
醤油ラーメンは、トッピングは定番のものだが、うどんに使うつゆとは違う黒の強いスープ。名前から推測するに醤油なのだろうか。食べたことのない見た目にベースは魚介か鶏ガラかなどと未知なる味の想像を掻き立てられる。美味しそう。
反対に、沖縄そばは白めの澄んだスープ。これはおそらく魚介ベースだろう。麺はうどんより少し細いぐらいか。そして何より目を引くのが、分厚く切られた焼豚のような肉と鮮やかなネギの緑と紅生姜の赤がなんとも美しい。美味しそう。
「うーん、迷う……よし、迷ったら運に任せよう」
そう決めて、迷惑にならない場所まで離れてから500円玉を取り出す。
「表なら醤油ラーメン、裏なら沖縄そばで、いざっ!」
出目を決めて弾く。勢いよく真上に飛んだ500円玉はクルクルと高速で回転しながら落ちてくる。それをタイミングよく左の手の甲と右の手のひらで掴む。僕のお昼はどっちだ!
「ズルズル……ぷはぁ、これはこれで当たりだな!」
結果は裏でした。沖縄そば美味しい。
白いスープはあっさりとした塩味で、麺は表面は硬めだが中はうどんの様なもっちりとした独特の食感だった。例の焼豚のような肉はラフテーというらしい。角煮とはまた少し違う味わいだった。紅生姜の辛さとネギのしゃきっとしたアクセントで味と食感が変わるので食べ飽きることもない。
「あのー、すみません」
「あ、はい、なんでしょうか?」
1人食レポで沖縄そばを楽しんでいたら、なぜか男性に声を掛けられた。顔を上げ、その人を見るとどこか既視感を感じる顔だった。
「その、他に席がないので相席させていただきのですが……」
「あぁ、構いませんよ。混んで来ましたからね」
彼の相席の申し出を快く承諾する。元々ここしかなかったとはいえファミリー席を独占するのは心苦しかったし。人助けは日常だ。
「ありがとうございます。おーい、こっちで待っててくれ」
僕の返事に対しお礼を言うと、彼は遠くで席を探していたのであろう家族を呼んだ。
すると見覚えのある顔が一つ。先ほど本屋で嵐のように絡んで来た男の子だ。向こうもこちらに気付いたようで、驚きを表情だけでなく身体も使って表現する。
試しに手を振ってみる。
「あーっ!兄ちゃん!また会ったな!」
「そうだね。だいぶ早い再会だね」
手を振ると男の子は駆け寄って来て、嬉しそうに話す。その様子に彼の家族は驚き固まっている。特に、彼のお姉さんらしき子が1番驚いている。
「あの、息子が何か失礼なことをしませんでしたか?」
驚きから復帰した父親がそう聞いてくる。
「いえいえ、そんなことはありませんでしたよ。ただ、本屋でおすすめの本を教えてくれたんです」
「そうだぜ父ちゃん。オレはめーわくなんてかけてないぜ」
「そうですか、それは良かった」
その後、二言三言交わすと彼の両親はお姉さんに末の弟を預けて注文した料理を取りに行った。
「……すごく今更だけど少年、君の名前はなんていうんだい?」
「え?あれ?言ってなかった?……あっ、そういえば兄ちゃんの名前も知らなかったや」
「だよね。ちなみに僕は
「オレは
そう言って姉弟の名前も教えてくれた。姉弟全員、金偏の字が入っている。変わった名付け方だ。
対面して気付いたが、銀ちゃんは右腕がなかった。驚きを飲み込み、せっかく紹介してもらったので話しかけてみる。
「銀ちゃん、でいいのかな?」
「はい、なんですか?」
「えっと、覚えてなくて悪いんだけど、僕と何処かであったことあるのかな?」
そう、何故か先程から銀ちゃんにすごく見られてる。片腕で器用に金太郎くんをあやしながらこちらを伺うように見てくる。まるで記憶の中の何かと確かめるように。
「不快に感じたのならすみません。……昔の知り合いに似ていたもので、つい」
「知り合いに、似てた?」
「はい、とても」
それっきり黙り込んでしまい、金太郎くんのお守りに専念してしまった。雰囲気が重くなり始める。沈黙に耐えかね鉄男くんに話題を振る。
「そ、そうだ鉄男くん。君のおすすめの本を早速買ったんだ」
「んお?兄ちゃん行動はぇな。で、どうだったんだ?読んでみてどのキャラが良かった?」
ぼーっとしてたからか反応が薄く、なぜか上から目線な返事をする鉄男くん。しかし、反応が返って来たのは嬉しい。
「そうだねぇ、やっぱりアギトは欠かせないね。あと、勇者ならヤマザクラの勇者かな」
「えー、勇者ならヒメユリの勇者だろ」
「おぉん?勇者バトルかな?受けて立つぞ?」
「うへぇ、兄ちゃん大人気ねぇな」
「人聞きの悪いことを言わないでくれよ。僕は少年の心を忘れてないだけさ」
小学生と同レベルで話す中学3年生。確かに大人気ないが、先程よりは幾分か雰囲気が明るくなったので意味はある。
その後、料理を持って戻って来た彼らの両親と入れ替わるように席を立つ。
「それじゃあ僕はそろそろ行くよ。鉄男くん、またね」
「あぁ、兄ちゃん、またな!」
「銀ちゃんも、またね」
「っ!……はい、また」
話しかけられるとは思わなかったのか、驚きながらも返事をしてくれる銀ちゃん。やっぱり良い子じゃないか。
彼らの両親にも一言告げ、その場を立ち去る。
今日は帰ってからのお楽しみがあるからか、足取りは軽い。
帰宅の道中、自転車を倒してしまった人を手伝ったり、お婆さんの荷物を持ってあげたりと道草を食ったにも関わらず、帰りの電車に間に合うミラクル。今日の僕は神樹様に気に入られてるらしい。
朝とったメモの物も忘れずに買い足し帰宅。
お風呂と夕食を済ませて、いざお楽しみタイム!拝読しませう!
結局、僕は日付けが変わる前に寝落ちした。
はじめまして。バーテックスケベです。
園子大先生様の御言葉により描きたい欲が高まったので、前々から考えていたゆゆゆ×アギトを描いた次第です。無かったし。
n番煎じを恐れるくらいなら先駆者になれとも俺の中の俺が言ってました。
オチをつけるのが難しい。難しくない?
今月以内にもう一話は投稿する(鋼の意志)
現段階での書き溜めはありません。頑張る(小並感)