老人は包丁をブンブンと振り回し始めた。
「ちょ、ちょっと、そんなことしたら危ないじゃない。もう~っ!」
メアリーの苛立ちは頂点に達し遂に切れた。
「借りるわよ。」
そう言ってメアリーはジルの剣をパッととった。
そしてジルの剣ですぐに老人の持つ包丁を払い飛ばした。
飛ばされた包丁は床に突き刺さる。
「あ。」
老人は驚き一瞬動きが止まる。
「『あ。』じゃないわよ。一体何考えてんのよ、このくそじじい。」
「く、くそじじい...。」
老人はメアリーの勢いに少しひいている。
「確かにジョンは悪いことをしたわ。でもそんなのどこの犬でも
するような些細なことでしょ。それでモンスター扱いまで
するなんて頭がおかしいんじゃないの!あんた今までの人生
何を学んできたのよ。いい歳こいてしょうもないことに腹立てて
みっともないと思わないの?え、どうなのよ!」
メアリーはすごい勢いで老人に迫る。
「ふん、わしは今までこうして生きてきたんじゃ。小娘に説教
される覚えはないわ。」
老人はそっぽを向いてメアリーの言葉に反発した。
「随分とえらそうな口の利きかたをするじゃない。それは私を
メアリーと知ってのことなんでしょうね。」
「メアリー?それが何なん...、あっ!ま、まさかメアリー姫か。
目をつけられたものは死ぬよりもつらい恐怖を与え続けられるという
あの泣く子も黙るメアリー姫か。」
老人は急にぶるぶると震えだした。
「よく覚えていたわね。そうよ、私はこの国の王女メアリーよ。」
メアリーの目つきが冷淡なものへと変わっていく。
「あ~あ、この犬と仲良くすればいいだけの話なのに拒むなんてね。
どうしてあげようかしら。とりあえずこのことは近所の人たちには
全部言ってあんたが悪いってことを広めてあげるわ。それからあんたは
どこかへ逃げることも出来ずにここで孤立していくのよ。」
「そ、そんなことくらいは屁でもないぞ。」
老人は少し動揺したが、まだ強気を保っていた。
「あら、それで終わりなんて言ってないわよ。ここからが本番よ。
あなたはあらゆる店からも無視され食べ物も手に入れることは出来ない。
かといって死ぬことも許さない。常に監視して自殺を防ぎながら、餓死しない
最小限の食べ物だけを与える。いやがらせを昼も夜も毎日毎日繰り返す。
どうかしら?もしかしてこんなんじゃ生ぬるい?」
「ひ、ひぃぃぃい。申し訳ありません。許してください、メアリー様。
ジョン様とは親しくさせて頂きますのでなにとぞ~。」
メアリーの言葉を聞いて老人は顔が青くなり土下座をして謝りだした。
「分かればいいのよ。これからは気をつけることね。」
メアリーは上から見下して告げた。
そうしてメアリーら3人は老人の家を後にした。
「ふ~、すっきりした。お金にはならなかったけどなかなか
おもしろかったわね。」
メアリーは満足そうな顔をした。
「なあ、メアリー。さっきのじいさんに言った話って単なる
脅しで実際には出来ないことだよな。」
「あら、どうして?」
「今の王族は政治や権力からは遠ざかっていると
聞いてますから。」
「そうね。確かにそういう力はないわ。でも私、意外と人脈とか
あるのよ。貧しい子供たちに食べ物を配ったりお話したりとか
して仲よくなったりとかして。そんな子たちはいろいろと私の言う
こととかよく聞いてくれたりするの。」
メアリーはさらっと言った。
「(なあ、マルク。俺たちとんでもない奴を仲間にしたんじゃねえか?)」
「(かもしれません。)」
ジルとマルクはメアリーに恐怖した。
「さあ、次の仕事探しましょうか。」
メアリーは上機嫌でパーラムに向かった。
その後3人は2つの仕事をこなした。
仕事を通じてメアリーはすっかりジルとマルクの中になじんでいた。
「あなたたちと一緒にいると楽しいわね。」
メアリーは笑顔で言った。
「(おい、マルク。やばいぞ。俺たちのあいつを王宮に帰す計画
がダメになる。)」
「(これはこれでいいんじゃないですか。彼女はよくできますし
仕事が成功してお金が入りましたから。)」
「(それはそうだが、う~ん...。)」
ジルは複雑な気持ちだった。
「(それに彼女、すごい美人ですよ。)」
「(そうだな。あれだけの顔はなかなかいないよな。それに性格も
耐えられないほど悪いってわけでもないか。よし、仲間として
認めるか。)」
「(はい。)」
こうしてジルはメアリーを仲間として受け入れることとした。
メアリーがジルたちの仲間になって1ヵ月が経とうとしていた。
「マルク、そろそろだな。」
「ええ、そうですね。」
マルクの顔つきが真剣になる。
「え、何々?何があるの?」
「マルクの先生に会いに行くんだよ。」
「そう言えば、なんか言ってたね。大事な用があるとかって。」
「はい、先生にどうしても聞かなければいけないことがあるんです。」
「じゃ、行くか。」
マルク達はメンデルに会うため魔道連盟本部へと向かった。