dark legend   作:mathto

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「お前、ちょっとやりすぎなんだよ。」

メアリーはひっぱたかれた頬を手で押さえながら

黙ってジルの言葉を聞いた。

「ほう、メアリーを本気で怒れるものがおるとはな。

なかなかたいしたものじゃ。ま、もっともメアリーに

簡単に殺されるほどわしもおいぼれてはいないがな。

はっはっは。」

ニムダは大笑いをして言った。

「このじじい。やっぱ殺したほうがいいかも。」

ジルはメアリーを止めたことを少し後悔した。

「ところでお主らはここに何しに来たんじゃ?遊びに

来ただけか?」

ニムダがジルたちに尋ねた。

「あ、そうだ。このジルはね剣士なのよ。それでニムダに

剣術を習いたいってさ。いい?」

メアリーが簡単にニムダに説明した。

「いいよ。」

ニムダは即答した。

「ええ~。そんな簡単にOKしていいんですか。」

マルクがあまりにあっさりといい返事をしたニムダに驚いた。

「なんじゃ?なんかわしが教えるための条件が欲しいのか?」

「マルク、よけいなこと言わないでいいよ。じいさん機嫌が

いいんだから、そのまま話を続けようぜ。」

「わしのところに教えを乞いにくるものは意外といなくてな。

お前のような奴は珍しい。わしも暇じゃし、おもしろそうじゃから

つきあってやろうと思ったのじゃ。」

「へ~、俺ってもしかしてラッキーかな。」

ジルは少し喜んだ。

「もちろんじゃよ。この剣聖ニムダが剣を教えれば必ず

世界でトップクラスの剣士になれることは間違いなしじゃ。」

「でもじいさん、こんなヨボヨボなのに大丈夫か?」

「ジル、いくらなんでもそれは失礼ですよ。」

「はっはっは。ジルは正直な奴じゃな。気にいったよ。

わしはたしかに体力的には随分落ちているじゃろうが

人に教えるのはまた別じゃからな。問題はないよ。」

「そうなんだ。」

「で、いつからやるんじゃ?今からか、明日からか、それとも

もっと先か、わしはいつでも構わんよ。」

「そうだな。今日はゆっくりして明日からでいい?メアリーも

じいさんに久しぶりに会えて積もる話もあるかも

しれないし。」

「分かった。ではそのつもりで気持ちの準備をしておこう。」

その日、メアリーはニムダといろいろ話をしてジルとマルクはのんびりと

一日を過ごした。

 

 

 

次の朝。

「さて、始めようかの。ジル、準備はいいか?」

「もちろん。」

いよいよニムダによるジルの修行が始まる。

「一体、どんなことをするんですかね?」

マルクが横にいるメアリーに尋ねた。

「さあ、私もニムダのことは知ってるけど剣を握ってる

ところを見たことがないから本当に強いのか

も知らないのよね。だからこれからどんなことをする

のか結構興味があるのよ。」

マルクとメアリーはジルとニムダをじっと見ていた。

「で、これから何をすればいいんだ?」

「そうじゃな、まずは心の修行じゃ。」

「こころのしゅぎょう?」

「そう、修行をして心の内にある邪気を打ち払うのじゃ。」

「俺は邪気なんかないけどな、修行ってどうやんの?」

するとニムダは床に座り、足を組んだ。

「こうやってじっとしてるんじゃ。座禅という。

ほれ、お前もやってみい。」

「なんか退屈そうだな。まあやってみるか。」

ジルもニムダに習って座禅を組んだ。

「意外と普通ですよね。剣聖と呼ばれる人の修行だから

もっととんでもない過酷なものかと思っていましたが。」

「そうね。でもこういうことってすごく大切なことだと

思うわ。立派な剣士っていうのはただ剣の腕が強いだけ

ではなれないもの。」

しばらくマルクとメアリーはジルの様子を見ていたが、

「ふぁ~あ。なんか見ててもおもしろくないわね。私たちは

どこか行きましょうか。」

「そうですね。私たちがここにいてもジルの修行の邪魔に

なるだけでしょうしね。」

そういってマルクとメアリーがニムダの家を出ようとしたとき

ジルに異変が起こった。

「あ~、もう我慢できねえ。こんな退屈な修行俺には合わねえよ。」

ジルは組んでいた足を崩した。

「こら。まだ修行は終わっておらんぞ。やり直せ。」

「なあ、じいさん。こんな修行はいいからさ剣を使って

教えてくれよ。いいだろ、そのほうがさ絶対盛り上がるからさ。」

「バカモノッ!今のお前が剣を持って修行するのは10年早いわっ!」

「じゅ、10年。まさかそれまでずっとこの修行ってこと?」

ジルは顔が少し青ざめる。

「その通りじゃ。」

ニムダははっきりと言った。

「やめた。や~めた。こんなかったるいことやってられるかよ。」

ジルは投げ出すように言って立ち上がった。


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