dark legend   作:mathto

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「こ、これが本物のジークフリード...。」

ジルがそう言って見た先には、剣と盾を手にし

目をつぶったまま立った状態で凍らされた男の姿があった。

「すごい美青年よね、ジークフリードって。

私、ちょっとファンになりそうだわ。」

メアリーが嬉しそうに言った。

「伝説の人物が目の前にいるなんてすごいですよね。

なんだか拝んでみたい気分ですね。」

マルクも少しテンションが上がっていた。

「やっと見つけた。」

3人の後ろで低い男の声が聞こえた。

ギュッギュッ。

黒いローブを着たその男は雪を踏みしめながらジークフリード

の元へ近づいてくる。

「邪魔だ!」

「きゃっ。」

男はメアリーを手で押し飛ばして、メアリーは地面に倒れた。

「おい、何すんだよ。」

ジルがその様子を見て男に言った。

男は全く気にも留めず氷づけのジークフリードを眺めた。

「今、蘇らせてやる。」

男は口元にうっすら笑みを浮かべると、両手をジークフリードに

向けて前に出した。

「アウドラ ライラ アウドラ ライラ...。」

男が呪文のようなものを唱えだすと手から紫色をした光が

ジークフリードに向かってゆらゆらと伸びだした。

氷の中のジークフリードまで光が届くと、突然氷から水滴が

垂れだしすごい勢いで氷が溶け始めた。そして氷が完全に

溶けきったとき、ジークフリードは体から湯気を立ち上らせ

水滴がぽたぽたと落ちていた。

「さあ、目覚めろジークフリードよ。」

男がそう呼びかけるとジークフリードは目をカッと開いた。

だがジークフリードの目つきは悪く、いかにも悪人という風な

表情をしていて体からは紫色のオーラを発していた。

「殺す、殺す、殺す。」

ジークフリードはそうつぶやくとジルの方を見た。

「え。」

戸惑うジル。

「うおぉぉぉぉお!」

ジークフリードは左手で持っていた盾を背中にしょって

右手の剣を両手で持ち替えジルに襲い掛かってきた。

「ジル、剣を抜いてください。」

マルクがそう叫ぶと、ジルは慌てながら剣を抜いて

ジークフリードの剣を受けた。

ガンッ!

強い衝撃が剣を通してジルの手に伝わる。

 

 

 

「ちょっと待ってください。俺はあなたとやりあう

つもりはないんです。」

ジルはジークフリードに呼びかけたがジルの声は届かず、

ジークフリードの剣に力が入る。

「ぐぅぅぅ...。はっ。」

ジルは重なった剣を一旦はじいて少し体を後ろへ下げた。

ジークフリードは尚もジルに近づき剣を振るう。

カンカン。

ジークフリードの連続した攻撃を受けるジル。

「ふふふ、いいぞ。」

黒ローブの男はジークフリードの様子を見て満足そうな顔をしていた。

ジルとジークフリードの剣は再び重なり、ジークフリードは剣を押そうと

前に出てジルと体がつきそうなほど近づいた。

「俺が、俺が小さいときから憧れてきたジークフリードの強さは

こんなもんじゃない。俺なんかが全然相手にならないくらいに

ずっとずっと強いはずなんだ。こんなのはジークフリードじゃない!」

ジルは涙を流しながらそう叫んだ。

するとジルの声が届いたのかジークフリードは剣を押す力を

ゆっくりと抜き、ジルの剣から離した。そしてその剣を右手で

持って下に向けた。それと同時に目つきは普通になり紫色の

オーラは消えていった。

「俺は一体...。」

ジークフリードはそう言うと状況を理解しようと考えた。

「俺は確かフローズンマンモスの死に際の一撃で氷づけにされて

死んだはず。なのにどうして?おや、君は誰だ?」

目の前にいるジルに尋ねた。

「俺、ジルっていいます。あなたのファンです。ええと、その、あの

あ、何を言えばいいんだろう。」

ジルは緊張して早口でそう言うと頭が真っ白になり次の言葉が出てこなかった。

「ありがとう。俺のファンだなんてうれしいよ。」

ジークフリードはジルに笑顔を見せる。

「それにしてもどうして俺は生きてるんだ?」

ジークフリードは不思議に思った。

「おい、何をしている。お前の目の前にいる人間を早く殺せ。」

黒ローブの男がジークフリードを急かす。

「お前は誰だ?」

ジークフリードは今度は黒ローブの男に尋ねた。

「私の名はバナック。お前を殺人鬼として蘇らせてやった恩人だ。

これからお前は人を殺すことに喜びを感じる剣士となるのだ。」

バナックはジークフリードに答えた。

「なるほど。今のお前の言葉で大体分かったよ。俺が生きている訳が。

そしてお前がどういう奴なのかが。」

ジークフリードはバナックの言葉を聞いて全てを理解した。

「どうやらお前を倒さなければいけないようだな。」

ジークフリードはバナックの方を向いて剣を構え鋭い目つきへと変わった。

「おい。私に逆らったり私を殺したりしたら、お前はまた死ぬ

ことになるんだぞ。それでもいいのか?」

バナックは少し慌てた。

「構わん。元々失った命、惜しくはない。それよりも目の前にいる

悪を倒すことが俺にとっての使命だ。ジルと言ったな、よく見ておけ。

これがジークフリードだ。いくぞっ!」

ジークフリードは体から金色のオーラを発しながらバナックに突撃する。

「く、くそっ。」

バナックは両手を体の前に出しジークフリードの魔法を解こうとする。

「くらえっ、『ギガスラッシュ』!」

ジークフリードの剣はとてつもなく強烈な光を放ちながらバナックを

真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれたバナックの体は一瞬にして灰となった。


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