dark legend   作:mathto

114 / 279
227,228

ジルはニムダの小屋へとやってきたが、

ドアを前にしてなかなか動けずにいた。

「なんか緊張するな。ふぅ~。」

息を吐いて気持ちを落ち着かせると

トントンとドアをノックした。

「誰じゃ?」

小屋の内側よりニムダの声が聞こえた。

「俺、ジルです。前にも来たんすけど。」

「知らんなぁ。さっさと帰れ。」

ニムダは少し怒り気味で言った。

「俺、修行したいんです。前みたいに弱音吐いて

逃げ出したりしませんから、お願いします!」

ジルは気持ちを込めてニムダに頼んだ。

「ふん、どうだかなぁ。」

とても不機嫌そうにニムダは言いながらもドアを開けた。

「ありがとうございます。」

ジルは大きな声で礼を言った。

「わしはまだ修行させるとはいっとらんぞ。」

ニムダはすぐに椅子に座った。

「どうしたら修行さしてくれるんですか?」

ジルが聞いた。

「どうしたら?そんなものは知らん。自分で考えろ。」

ニムダはそれきり口を閉じた。

「なあ、もういいだろ。修行させろよ、じいさん。」

ニムダは無視した。

「ちぇ、分かったよ。こうなったらとっておきを。」

ジルがそう言ってとりだしたものは女性ものの下着だった。

「な、それはまさか...。」

ニムダが興味深そうに見つめる。

「そう、メアリーがつけてたやつだよ。(本当は町で買った

誰のか知らない使用済みの下着だけどな。)」

「お、おお。それをわしにくれるのか。」

「ま、修行させてくれるっつうんならやってもいいかな。」

ジルは思わせぶりに言った。

「よし、分かった。お前を世界一の剣士にしてやろう。」

「やったー!」

ジルは大喜びでニムダに下着を渡した。

「ふむ。それじゃこの前の続きじゃ。これに耐えれんようでは

いくらわしでもどうしようもないぞ。」

ニムダに言われて、ジルは座禅を組んで目を閉じた。

最初、今までの旅のことをいろいろと感慨深く思い出していた。

しかししだいに何も浮かばなくなり退屈で退屈でしょうがない

といった感じになっていった。とても苦しくなりもうやめてしまおう

と思うようになった。そんな時間がしばらく続く。

その様子をニムダは時々気にしながらもジルから受け取った

下着をじーっと見たり匂いを嗅いでみたり頬ずりしてみたり

うれしそうにしていた。

 

 

 

目をつぶったまま座禅をしているジルはあまりに退屈で

眠たくなってきた。眠気でコクンコクンと首が下向きに

なったが、はっとして首を横にブルンブルンと振った。

「(ダメだ、もう我慢できない。やっぱ無理か。)」

そのときジルはふとジークフリードのことを思い出した。

「(いや、ここで諦めるわけにはいかない。ジークフリードへの

誓いを守るために。)」

ジルは思い直し再び座禅に取り組んだ。

それから何度もくじけそうになったが、やめることはなかった。

「(ほう、今回はちょっと辛抱強いな。だがまだまだ集中力が

なっとらんな。気が散りまくっておるのが見ていてすぐに

分かる。これでは次の段階には進めんな。)」

ニムダはもらった下着はしまってジルの様子を真剣に見ていた。

さらにしばらくすると慣れてきたのか眠気はなくなっていた。

「(あ~、お腹減ったな。)」

ジルは考えることもなくなってきた。

さらに時間が経つと、何も考えなくなっていた。

「(ふむ、最初見たときは元気はあるが、がさつで飽きっぽそうで

とても無理だと内心思っておった。だがこうして見るとなかなか

見所がありそうじゃな。久々に楽しくなりそうかな。)」

「(なんだろう、不思議だ。食い物、金、女、地位、名誉、命、

あらゆるものから遠ざかっているみたいだ。そして心の中は

からっぽのはずなのに落ち着くような感じがする。今までに

なかった気持ちだ。汚い心がきれいになったような気さえする。)」

「よし、終わりじゃ。」

ニムダが手を一回パンと叩き突然大きな声で言った。

ジルは突然のことでビクッとなった。

「え、どうしたんだよ。じじい。」

「第一段階は終了ということじゃよ。」

「第一段階?」

「そうじゃ、これから違う修行を始めるぞ。」

「え、違うこと出来んの。やったー!」

ジルは喜んだ。

「今まで足りなかった集中力がちょっとは身についたようじゃしな。

(それにしても前に来たときとは何か顔つきが変わったというか

心構えが違うようだ。だからこそこんなに早くこの修行をクリアする

ことが出来たのじゃろうが。一体、何があったのか?

しかし、こやつから感じるものはなんじゃ?どう見ても悪意は

見られんのに心の奥底からかすかに邪悪なオーラを感じる。

それもとびきり強いものじゃ。まるで心の中に悪魔を飼っている

かのように。まさかこやつは...。いや、今は考えん方がいいか。)」

「ん?どうかしたか、じいさん。」

「いいや、何でもない。それじゃ次の修行に移るぞ。」

「待ってました。」

ジルはドキドキしながら期待していた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。