精霊の森の奥へと足を踏み入れたマルクとメアリー。
「な、何これ...。」
メアリーが驚いて見る先には奇妙な形をした大木がそびえ立っていた。
「どう考えてもこれがこの森の元凶って感じですよね。」
「そうなんじゃよ。」
横から老人の声が聞こえた。
「え?」
マルクとメアリーはその声のした方を向いた。
そこには赤ちゃんくらいの大きさの老人が宙に浮いていた。
「誰ですか?」
「わしはこの森を見守る地の精霊ノームじゃよ。残念ながら今は
見てのとおりひどい状況に陥っておるが。」
精霊ノームは少し暗い感じで自己紹介した。
「わぁ、これが精霊!初めて見た。」
メアリーのテンションがあがった。
「あのよろしければどうしてこうなったかを教えて頂けませんか?」
マルクが心配そうに尋ねた。
「実はこの木は偶然に魔界からきたサクションツリーというモンスターでな。
周りの植物から土を通じて栄養分を吸い取って成長するんじゃよ。
魔道連盟の計らいで結界が施されているので今は被害の拡大は
防げているのじゃが、すでにこの森の栄養で成長しきっていて
どうにも倒すことが難しいらしい。それでこの状態というわけじゃよ。」
ノームは困った顔で2人に説明した。
「どうして?こんなの燃やすとか、切り崩しちゃえばいいんじゃない。
私、王室で魔法の勉強させられて火の魔法が少し使えるのよ。
それでこの化け物の木を燃やしてあげる。少し下がってて。」
「え、魔法、あ、分かりました。」
マルクは突然のことに少し驚きながらもメアリーの言葉に従い、
後ろに下がった。同様にノームも後ろに下げさせると、メアリーは
右手を前に出して手のひらを上に向けた。
ボッ。
右手の上に火の玉が現れた。
「いくわよ、『ファイアボール』!」
メアリーは火の玉を投げるようにしてサクションツリーにぶつけた。
「やった?」
火の玉はサクションツリーに命中したが少し煙を残しただけで
まったく焦げつきもしなかった。
「あら、全然効いてないのね。なら今度は本気でやってみましょうか。」
メアリーは両手を前に出した。
「『ファイアウォール』!!」
メアリーが呪文を唱えると、サクションツリーの足元から大きな炎が
立ち上った。
「ふふん、これなら燃えるでしょう。」
メアリーは自慢げに炎に包まれるサクションツリーを見ていた。
炎はしばらく燃え続けていたが、やがて小さくなり消えていった。
サクションツリーは多少黒く炭になっている部分もあったが、
ほぼ無傷なままで変わらずそびえ立っていた。
「うそ、あの炎でもほとんど燃えないなんて...。」
メアリーはショックを受けた。
「お嬢さん、言ったろう、このサクションツリーは成長しきっていると。
じゃから相当強い魔法でも燃えないし、斧などで切り倒すことも出来ない。
それで魔道連盟は手がつけられなかったというわけじゃよ。」
ノームはあきらめたような感じで言った。
「ノーム、このモンスターを倒す方法はもうないんですか?」
マルクが真剣に聞いた。
「...一応あることはある。この世界で最強の火の魔法使いがいる。そいつなら
この成長しきったサクションツリーでさえ燃やせるだろう。ただ、そいつはかなり
気難しいらしい。それで魔道連盟はそいつとの交渉に失敗しておるのじゃ。」
「ねぇ、そいつの名前って?」
メアリーが難しい顔でノームに尋ねた。
「そいつの名は『グレン=ノワール』。世間では”炎魔貴族”とも呼ばれておる。」
「炎魔貴族グレン=ノワール!」
メアリーは驚いてその名を叫んだ。
「メアリー、知っているんですか?」
「ええ、知っているわ。パーティーで見かけたことがあるの。彼は有名な画家であった
祖父の莫大な遺産を受け継いで裕福な暮らしをしているみたい。彼は一見とても
紳士的な男。でもギャンブルなどの勝負をするのがすごい好きでね。彼に頼みごと
をするなら彼に勝負をして勝たなければいけないらしいわ。」
メアリーは暗い表情で言った。
「なら、話は早いのでは?彼と勝負して勝てば解決するんでしょう。」
「ところがそううまくはいかないの。彼は勝負に対してまるで魔人のように
無敵の強さを誇っていてね、今までに勝負を挑んで勝った人はいないという
話よ。そして勝負に負けたものは彼の言うことを何でも聞かなければならない。
もし断れば彼の操る炎で焼き殺されるらしいわ。それが炎魔貴族と呼ばれる
所以よ。」
「は、はは、とんでもない人ですね。」
マルクはメアリーの話を聞いて少し怖くなった。