dark legend   作:mathto

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メアリーはジルにヴェロニス帝国について説明した。

「なるほどな、状況が理解できたよ。」

ジルは説明を聞いて納得した。

「それに私、政治には全然関わっていないけど一応サンアルテリア王国

の王族じゃない。よけい難しいと思うのよ。」

「う~ん。......そうだ、いい考えがあるぞ。」

ジルはしばらく考えた後、ある考えが浮かびついた。

「何々?いい考えって?」

メアリーは興味津々でジルに尋ねた。

マルクもジルの説明をじっと待った。

「それはな、.........。」

 

一隻の船がヴェロニス帝国の玄関港サウスポートへとやってきた。

港から船へ渡し橋がかけられると乗客が一人ずつ降りてくる。

乗客が降りた先には2人の兵士らしき男と女が待ち構えていた。

2人は降りてきた乗客を一人ずつ止めて、荷物を探り体を触って

検査をした。検査を通ったものはその先の簡素なゲートをくぐらされ

横にいるもう一人の兵士が異常がないか確認していた。

この3人は帝国の検査官だった。

「お前らの職業は?ここに来た目的は?」

茶色く汚れた大きな布で全身を被ったうす汚れた老人が男の検査官に質問される。

「へぇ、わしらは便所掃除をして飯をくってるもんでさぁ。今まで住んでた

とこで仕事がなくなっちまったんではるばる探しにきたわけだぁ。

帝国さんとこは今、大きく発展していて仕事もたくさんあるつう噂

聞いたけえ。」

老人はゆっくりとした口調で説明した。

「後ろの女はお前の仲間か?」

検察官はすぐ後ろで老人と同じような身なりの若い女に目をやって尋ねた。

「そうですぅ。この子は身寄りがなくてわしが引き取ったんだ。まあ

家族みたいなもんだけえ。」

「その荷物は何だ?」

老人の横には車輪のついた巨大なトランクケースがあった。

「へぇ、これはペットの大ニワトリが入れてあるだ。この子が卵を産んで

ずいぶん助かっとります。」

「調べさせてもらうぞ。」

「へぇ。」

老人の顔から汗が一滴流れ落ちた。検査官はトランクを開けた。

そこにはこれまた大きな袋が入っていた。

「これか?」

検査官が袋を触ろうとしたとき、

「コゲー、コッコッコ。コケー、コッコッコ。」

大きな鳴き声が聞こえると同時に袋が激しく動き出した。

「うわっ!」

検査官は驚いて後ろへ下がった。

「急に動かされてニワトリもびっくりしただな。」

「まあいい。袋を開けるまでもないだろう。よし次に行っていいぞ。」

そう言われて老人と女性はゲートをくぐった。

トランクケースを押して通った老人は何もなかったが、女性が通ると

ビー。

と音が鳴った。

「おい待て。これは魔力のあるものに反応するものだ。お前には強くはないが

魔力があるな。魔法使いか?」

そこにいた検査官が女性に質問する。

「ははぁ、この子はちんさいころから幽霊だとかおかしなもんが

見えるとかで困ってるだ。たぶんそったらことが影響しとるんじゃないかと

思うんじゃが。」

「ふーん、まあいいだろう。魔法使いでなくてもこのくらいの魔力のものは

いなくはないからな。よし、もういっていいぞ。」

こうして老人と女性はようやく町へと進むことを許された。

 

 

 

「ふぅー。」

女性が身を纏っていた布を脱ぎ払った。

「なっ。うまくいっただろ、メアリー。」

ベリッと付け髭を取り払ったジルが元気に話しかけた。

「もう、いいですかぁ?」

トランクケースの中からこもった声が聞こえた。

「悪かったな、マルク。」

そうジルが言うと、急いでトランクケースとその中の袋を開けた。

「ぶはぁぁ。やっと思いっきり空気が吸えます。本当に苦しかった。」

袋の中からマルクが出てきた。

「もう、他にいい方法なかったの。疲れたわよ。」

わざと汚していた顔をタオルで拭きながらメアリーが言った。

「本当に私がにわとりのふりをするなんて意味があったんですか?」

マルクが不満そうに言う。

「まぁまぁ、お2人さん。ほらさ、あんまり目立たないようにしないと

いけないからさ。汚い格好だとあんまり誰も見たくないと思うだろ。

それに俺らが3人で動いているところ見られてもここで2人だと

思わせてたらどこから入ってきたか分からなくなって有利だろうと

思ったんだよ。成功したんだしいいじゃん。」

ジルは軽く言った。

「いいじゃんってね。あんたこれ帝国から出るときもやるわけ?」

メアリーが怒り気味で言った。

「え、そのときはまた考えるさ。さあ早くグレンに会いに行くぞ。」

ジルはその場をうまく誤魔化した。

 

3人はグレンのいる都市、バトラスへ向け歩き出した。

バトラスはかなり内陸にあり、いくつかの町を経てようやく辿りついた。

「疲れましたね。」

マルクが息を切らしながら言った。

「ほんと、もう歩くの嫌。今度からは馬車とか使おうよ。」

「だな。俺もなんか疲れた。」

3人はバトラスの宿で一晩休んでからグレンに会いに行くことにした。


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