dark legend   作:mathto

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暗闇の会議室。

三つの人影が月明かりに浮かび上がっていた。

「都市計画は順調なんでしょうな?」

「土地の確保は既に終了している。さらに建設会社にも

準備を進めさせている。」

「ということはビルドー不動産はもう用済みということだな。」

「もう処分のために動かしている。ビルドーには最後の

役目を果たしてもらうだけだな。」

 

一方、ニクロムの書斎にて。

「考えれる全ての裁判への対策はできた。あとは暗殺者への

対策だが...。ジルは用心棒として使うから外すとして、

あと使える人間と言えばあいつくらいか...。」

 

夜が明けると、ニクロムの作戦は開始された。

メアリーとマルクは物件の購入に参加し、ジルはニクロム不動産にて

待機することとなった。

メアリーは渡されたメモに従って、ビルドー不動産の営業所に行き、

指示された物件を買おうとしていた。

「いらっしゃいませ。」

若い男性の店員がさわやかな笑顔でメアリーを出迎えた。

メアリーは慣れていないという感じで店の中を見回す。

「どのようなご用件でしょうか?」

社員教育が行き届いているのか営業所の店員は丁寧な口調でメアリーに

話しかける。

「ええと、チラシに載っていたこの家を買いたいんだけど。」

メアリーは持たされたチラシを店員に見せる。

「ええ!お嬢さんがですか?」

店員はまだ若いメアリーを見て驚く。

「うん。お父さんからお金とか必要な書類は預かってきてるから大丈夫。」

そう言ってお金の入った布風呂敷を広げて見せた。

「ああ。そういうことでしたか。わかりました。面倒な手続き等は

こちらで済ませておきましょう。帰ったらお父さんによろしくお伝えください。」

メアリーは店員のおかげで簡単にしてもらった手続きを済ませ、

領収書等を受け取ると礼をして店を出た。

「ありがとうございました。」

店を出るメアリーにうれしそうな店員の声が聞こえた。

「ま、こんなもんかしらね。さぁ、一旦戻りましょうか。」

メアリーは普段通りの素行に戻した。

「それにしても他人にこんな大金をもたすなんてね。ニクロムってやつも

かなり冒険家よね。だからこそみんなに監視をつけているんだろうけど。」

メアリーは自分を見ている人の気配を感じながらニクロム商会へと戻った。

 

 

 

メアリー同様にマルクや他の雇われた人もビルドー不動産の

物件の購入を円滑に進めていった。1人、1営業所につきひとつの

物件を購入するにとどめ、偽名や偽造書類を使って作戦がばれにくい

ようにと考えられた。

案の定、ビルドー不動産では。

「社長、大変です。ここ数日の売り上げがかつてないほど

上がっています。」

社員がビルドーに興奮しながら報告する。

「何か問題でもあるのか?」

ビルドーの低い声が響く。

「いえ。物件が飛ぶように売れているという状況以外は何も

おかしいことはありません。しかし、その原因が全く分からないのです。

不思議としか言いようがありません。」

「気にするな。我々の会社が人々に受け入れられていると思え。

売り上げが上がっているなら結構なことじゃないか。どんどん

上がるように努力しろ。」

「はい!」

社員は元気よく返事をして社長室を出た。

1人になったビルドーは笑みを浮かべていて、このときはまだ

ニクロムの作戦に気づくことはなかった。

 

「よし。これより第2段階に移る。」

ニクロムは複数のニクロム不動産営業所を開店させて、

ビルドー不動産から買い占めた目玉物件をチラシなどで

大々的に宣伝し、客を呼んだ。

いい物件を安く売るビルドー不動産に対して、ニクロム不動産は特別安い

わけではない一般的な市場価格での販売を行った。しかし物件の質のよさ

から一気に人気が出て瞬く間にビルドー不動産に次ぐ不動産会社へと

名乗り出た。

さすがにこれで気づいたビルドーは怒りを顕にしていた。

「ニクロムめぇ!ふざけた真似をしおって。わが社の物件を自分の

物にして堂々と販売するなど!」

「し、しかし社長。我々のやり方にニクロムが勝てるとは思えません。

今は新しいということで注目されているだけですぐにやつらのシェアは

落ちていくものと思われます。我々には長く続けてきた実績と大切に

してきたいい世間のイメージがあります。それほど心配される必要は

ないかと思われますが...。」

座っているビルドーのそばに立っていた社員がなだめるように言う。

 


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