「ん?どうした、みんな。あっ、いってー。さっきまでのダメージが
今頃効いてきたのかな。マルク、回復頼むよ。」
「あ、はい。え~と、『ホワイトウィンド』」
マルクは思い出したように急いでジルを回復させる。
「あれ、なんか傷が完全にはふさがらねぇな。ま、いいか。
もうそんな痛くねぇし。」
ジルは小さな腕の傷口を見ながら言った。
「(あれ、おかしいですね。私の魔法力はまだ残っているのに
回復が完全じゃない。ジルの傷がそれほど深かったのか、
それともやはり...。)」
「ねぇ、ちょっといいかしら。」
メアリーが恐る恐るジルに聞く。
「何?」
「大丈夫なの?」
心配そうに尋ねる。
「傷なら大丈夫だろ。ま、そのうち治るさ。」
ジルは笑顔で答える。
「そうじゃないわよ!さっきのビルドーと戦っていたジル。
普通じゃなかったわよ。」
「そのことか...。」
ジルの顔が真剣な表情に変わる。
「マルクは知っていることだけど俺の中には悪魔のような
ものがいるんだ。そいつのせいで罪もない人々を殺したこと
もある。だが、その悪魔には今の俺にはない強い力があるんだ。
だからビルドーを倒すためにそいつに賭けてみたんだよ。
ニムダのじいさんに修行してもらったおかげでなんとか自分を
失わずに済んだってところかな。」
「しかし、危険なことには変わりないですよ。」
マルクも心配顔でジルに言う。
「なぁに、心配するなって。もっと修行して俺の中の悪魔を
完全に飼いならしてみせるから。それに俺自身が強くなれば
そんな悪魔に頼らなくてもいいようになるかもしれないし。」
ジルはみんなの心配を吹き飛ばそうと無理やり笑顔を作った。
「俺にとっちゃお前が敵じゃなければどうでもいいことだがな。」
ダインが後ろから口を出した。
「そんなことよりニクロムにビルドーを倒したこと報告してこいよ。」
「『してこいよ』ってダインはいかないのか?」
ジルが不思議そうに尋ねた。
「ああ。こいつはお前らの手柄だ。だから報酬は俺の分ももらっといてくれ。
俺はここの後片付けだけすませて、また雇い主をさがすからよ。」
「へぇ、あんたって意外といいやつね。」
メアリーが感心して言った。
「ほら、さっさといけよ。日が暮れちまうぞ。」
ダインはジルたちを急かすように言った。
「はい。ありがとうございます。」
マルクがダインに礼を言うとジルたちはニクロムの元へと向かった。
「行ったようだな。」
床に落ちている自分の剣を拾いながらダインは言った。
「ここはニクロムの名で治安隊に知らせればいいだろう。
ジルは俺が思っていたよりもずっととんでもない
奴なのかもしれないな。あの力を自在に操れるように
なれば世界一の剣士になれるだろう。しかし傭兵の俺も
一人の戦士。このまま力の差を見せつけられたままで
終わるわけにはいかんな。努力なんて言葉は嫌いだが
一度鍛えなおすか。」
ダインは治安隊にビルドーのことを伝えるとどこかへ行ってしまった。
ニクロムの事務所へ戻ってきたジルたち。
「ついさっき政府からビルドーの死体を確認したと連絡が
あった。君らがやったのだろう。感謝する。」
「え、もう連絡が入ってるんですか?早いですね。」
マルクが少し驚いて言った。
「うむ、これで全て片付いたということだ。それでは今回の
報酬を渡そうか。おや、ダインの姿が見えないようだが?」
「ダインは俺たちに報酬を譲ると言っていました。」
ジルがニクロムの疑問に答える。
「そうか。別にこちらとしてはそれで何の問題もない。」
そう言ってニクロムはお金の入った袋をジルたちに渡した。
「やったー!」
報酬を受け取り喜ぶジルたち。
「それともう一つ。これをあげよう。」
ニクロムは一つの指輪を差し出した。
「これは『身代わりの指輪』。身につけているものが戦闘で
死に直面したとき、この指輪が代わりに砕けて命を救ってくれる
というものだ。原理としてはエリクサーを利用して生命力がなくなる
寸前に回復させるというもので、ニクロム商会とヒヨルド博士との
共同研究で作った試作品だ。」
「あいついろんなとこに絡んでやがるな。」
ジルが呟く。
「俺からは以上だ。君たちへの依頼は完了した。君たちは俺の
期待通りの働きを見せてくれた。感謝する。これから俺は
ニクロム不動産の安定した地位の確立に努めることにする。
ビルドーの二の舞にはならないように正当な売買を続けていく
つもりだ。」
「ありがとう、ニクロムさん。」
メアリーはその言葉を聴いて安心した。
「さぁ、行くか。」
ジルの呼びかけにマルクもメアリーも笑顔で頷いた。
そして、ジルたちはニクロムの事務所を後にした。
「ふぅ~、なんかすっきりしたわね。」
「ええ。これでこの国の不動産業界は健全なものに変わって、
もうナンシーさんのような被害者が出なくなるといいですね。」
「ふぁ~あ。なんか今日は疲れたな。早く宿に帰って休もうぜ。」
「そうね。ジルは一番がんばったわよね。よしよし。」
メアリーがジルの頭をなでる。
「なんだよ、これ。子供扱いかよ。」
「ははははは。」
メアリーとマルクが笑い出すとジルも笑顔になった。
3人は宿へと帰り休息をとることにした。