dark legend   作:mathto

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ジルとマルクの進む先に一軒の小屋があった。

「ジル、あそこに小屋がありますよ。」

「なんか不気味だな。」

「確かにそうですね。モンスターの罠かもしれません。」

「でも気になるからちょっと覗いてみようか?」

「はい、充分注意してですけどね。」

2人は恐る恐る小屋に近づく。

「うわぁー、何だよこの臭い。」

「ものすごく臭いですね。何かが腐ったような感じです。」

あまりの悪臭に2人とも指で鼻をつまむ。

そのため近づくのをやめようかとしたとき、小屋のドアがギィと開いた。

2人は息を飲んでそのドアに釘付けになる。

「おや、これは珍しい。人間じゃありませんか。」

中から現れたのはごく普通の男性だった。

「どうです、少し休んでいかれては?」

2人は悪臭のため近づきたくはなかったが、興味が勝ち

男性の言われたとおり小屋の中で少し休むことにした。

「げっ!」

中に入って驚いた。

椅子に一人のゾンビが座っていたからだった。

人間の女性だが顔や腕の肉がただれていて腐っているのがよく分かる。

ジルは思わず剣を抜く。

その様子に男性は慌てて止めようと間に割ってはいる。

「ちょっと待ってください。彼女は何も危害を加えたりしませんから。」

女性のゾンビも全く攻撃の気配は見せずおとなしく座ったままだった。

ジルは拍子抜けをして剣を鞘に収めた。

2人は男性に勧められて椅子に座るとお茶を出された。

「どうぞ、召し上がってください。」

お茶を飲んでみるがどうにも気まずい微妙な空気が流れる。

そんな空気の中でマルクが口を開く。

「あのぉ、お二人?はどうしてここに?」

「ええ、それは当然気になることですよね。実は彼女は一度死んでしまった

のです。しかしどうしても彼女を生き返らせたい私はその方法を探しました。

必死であらゆる本を読んだり、情報屋に求めたりしましたが一向に見つかり

ません。それでも諦めずにいたところ一人の魔法使いの方に出会いました。

その方のおかげで彼女は生き返ることができ、ここにいられるように

取り計らって下さったというわけなんです。」

男性は穏やかに説明した。

「しかし、彼女は...。」

マルクは言いにくそうにする。

「分かっています。彼女はもう喋ることは出来ず肉体は腐りつつあります。

それでも私は彼女とこうしていられることに幸せを感じています。

それで充分なんです。」

男性は満足そうに言う。

「あなたはそれでいいかもしれません。しかし彼女はこんな姿でこんなところに

いることをかわいそうとは思わないのですか。」

マルクの言葉に熱が入る。

 

 

 

「かわいそう?そんなことを思っていたら一緒にはいられないですよ。彼女だって

私と一緒にいれて幸せと思ってくれているはずです。喋ることは出来なくても動く

ことは出来ます。もし嫌ならここを出て行くとか自殺しようとするでしょう。

彼女はそれをせず、私にお茶を入れてくれることもあるのです。それは私が彼女を

愛しているのと同様に彼女もまた私を愛してくれている証拠です。」

「それはあなたが勝手に思っていることで彼女は仕方なくここにいてる

とは考えられないのですか!?」

マルクと男性は堂々巡りのような会話になってきた。

「おい、マルク。もうやめとけよ。」

ジルは弱くではあるがマルクを止めに入る。

「しかし...。」

「いいから。」

ジルはマルクを引っ張って小屋の戸から出ようとする。

「あ、すいませんでした。何だか嫌な思いさせてしまって。

休ませてもらってどうもありがとうございました。」

ジルは男性に謝罪と礼を言ってマルクと共に小屋から出た。

「どうしてですか?」

マルクは思わず尋ねる。

「マルクの方こそ勝手な意見なんだよ。あの彼女が幸せかどうかなんて

いくら俺たちが考えたって分かりっこねぇんだよ。それにそもそも

これはあの2人の問題だ。俺たちが首を突っ込むようなことじゃない。」

「私はあんなことをするのは絶対に間違っていると思います。

死んだ人を成仏できるように願ってあげるのが本当の愛なんじゃ

ないですか。そして生きている人は死んだ人の分まで一生懸命生きる。

それが正しい生き方というものでしょう。」

「だからそれが勝手だって言ってるんだよ。自分の考えを人に押し付ける

なよ。それが正しいなんてのはマルクが出した結論であって人が全てそう

思っているわけじゃないだろう。マルクは神様にでもなったつもりかよ。」

「そんなつもりはありませんが...。すいません。」

マルクはジルにきつい言葉を言われて小さくなって謝る。

「いや、そんなマルクを責めたいわけじゃないんだけどさ、あの人たちは

そっとしてあげた方がいいと思ってさ。もし間違いだとしたらいつか

気づくと思うし、あの人たちにとって正しいのだとすれば幸せでいられる

んだから。幸せかもしれないものをわざわざ壊すこともないじゃん。」

ジルはマルクに理解してもらおうとやさしく言った。

「確かにそれはそうですよね。私もまだまだ考えが足りないみたいです。

このことについてはまた考え直してみます。」

「うん、それでいいと思うぜ。じゃ行くか。しかし、俺が殺した人を生き返らせる

ときにあの人もいればよかったのにと思ったりもするな。」

「はい。確かにそうも思えますが、人が死ぬのは自然なことでもありますからね。

ジルの場合は特別だったと考えるのがいいかもしれません。」

「う~ん。生と死の話は難しいな。この話は一旦置いておこう。」

「そうですね。」

ジルとマルクは仲直りをして歩き出した。


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