dark legend   作:mathto

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「ばかな、アイスゴーレムが一撃で倒されるだと。しかも人間ごときに。」

水晶から先ほどの戦いを覗いていた氷の女王は驚きを隠せなかった。

「これでは力押しは通じないな。ならば...。」

 

氷の城の中へと入ったジルとマルク。

「どんなボスが待ってるんだろうな。」

ジルはわくわくしていた。

「あまり油断はしない方がいいと思いますが。」

マルクは少し心配していた。

「相変わらず心配性だな。ここまで来たらなんとかなるって。」

2人が進む先には毛むくじゃらな人型の獣の姿があった。

「お、雪とか氷で出来てない奴もいるんだな。」

「これは雪男。どう見ても力で押してくるタイプでしょうね。」

「それならさっき同じタイプのアイスゴーレムを倒したから

こいつも...。」

 

「『倒せるはず』と言うだろうな。」

氷の女王は不敵な笑みを浮かべる。

 

雪男は大きく息を吸い込むとブゥーっとすごい勢いで息を吐いた。

それは氷のブレスとなり2人を攻撃する。

「うわっ、やべぇ。」

「寒くて顔が痛いですね。」

2人は目を開けられず痛いほどの寒さに耐えた。

雪男の氷のブレスはすぐに止んだ。

「今度はこっちから行くぜ。」

ジルは剣を構えようとしたとき、

ピキピキ。

ジルの足元が凍りついた。

「何!」

「わ、わ、私もです。さっきの攻撃のせいですよ、きっと。」

マルクの足元も同様に凍りだしていた。

2人が完全に身動きが取れなくなったところに雪男が巨大な石の棍棒を手にし

近づいてくる。

「ぐ、こうなったら炎の剣で足元の氷を溶かしてやるよ。」

そう言ってジルが炎の剣を見ると、剣も凍りついていた。

「げ、まじかよ。」

「ジル、これはまずいですよ。」

 

「はっはっは、これでこの人間も終わりだな。」

氷の女王は手を口にあて笑った。

 

雪男が間近に迫る。

「(やられる。)」

ジルとマルクは絶体絶命のピンチに目をつぶってしまった。

「(力の使い方を教えてやろう。)」

「誰だ!」

ジルは知らない声に思わず叫んだ。

「ジル、どうしたんですか!?」

マルクは突然のことに驚いた。

「(心を私に委ねろ。)」

「何言ってるんだ!」

「(死にたくなければ言うとおりにしろ。心をからっぽにして何も考えなければいい。)」

「くそっ。」

ジルはこの状況で仕方なく声の言うとおりにした。

 

 

 

ブゥオオオォォォォ!!

ジルの体から黒いオーラが今までになかったほどのすさまじい勢いで

噴き出していた。

「ジ、ジル...。」

マルクはそれ以上声も出なかった。

ジルの目、表情は邪悪そのものといった感じに変わっていた。

それでいて意識を失ってはおらず真っ直ぐに敵である雪男を見つめていた。

「大しておもしろくなさそうだが、まぁいいだろう。」

バキッ!

邪悪なジルは足を固めていた氷を意ともせずに砕いて足を動かす。

雪男はそのことには気にも留めずジルにめがけて棍棒を振り落としてきた。

ブンッ。

棍棒は空回る。

ジルは剣を地に捨て、雪男の懐に飛び込んでいた。

ジルが邪悪な笑みを浮かべた次の瞬間、

グチャリ。

雪男は血まみれの肉片のかけらと化して回りに飛び散った。

ジルの指には雪男の血がベットリと流れている。

これを見たマルクには助かったという安堵感は一切なかった。

それよりも次にやられるのは自分であるという恐怖に覆われていた。

 

「な、何なんだ、これは、一体...。」

ついさっきまで勝利の確信をしていた氷の女王も一変して恐怖した。

「ば、化け物だ。こんな奴に勝てるはずがない...。」

氷の女王の体全体が震えていた。

 

「やはりこの体は馴染まないな。まぁいい、体の目星は大体つけてあるからな。」

シュ~っと黒いオーラが消えていくと、ジルは意識を失いパタンと前に倒れた。

マルクが回復魔法をかけたりして少し休ませていると、いつものジルが意識を

取り戻した。

「終わったんだな...。」

「はい...。」

2人は静かに言葉を交わす。

どちらも状況は理解していた。ジルが危険な賭けに出たことを。

それがかろうじて成功したことを。それはこれからもつきまとうであろうことも。

「よし、行くか。」

ジルは胸に抱える不安を消し去ろうとするかのように元気よく言った。

「そうですね。」

マルクもその気持ちに応えるように控えめながら明るく返事した。

そして2人は女王の間へと辿り着いた。


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